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村と狩人と

「もうちょっとかな~。まだかな~」


「あとちょっとですね。今ぐらいだと半生というか結構火の通りが難しいから、もう少し焼いた方がいいです」


「そうなんだ。近くに湖があるだけあって詳しいね」


「それもなんですけど、川魚とかは火の通りが悪いと後で大変なんです」


そっか。確かに鮎の刺身とかあんまり聞かないし、そういうのって大体は海の魚だよね。


「ちょっと表面が焦げてきてるから火、弱めるね」


「本当に自在に変えられるんですね。村でも簡単な魔法を使う人はいますが、そんなに大きい火は使えませんし、でっかい火がすぐに消えるイメージでした」


「それは攻撃系の魔法だね。私が今使ってるのは生活魔法だよ。魔力が高いから火を大きくしてるの。こっちだと出し続けててもMPの消費が少ないし、便利なんだよ。薪もいらないしね」


「確かに。野営の練習も一応はするんですけど、薪の準備が意外に大変なんですよね。森だと湿気た木が多くて、火をつけるのも大変で…」


「分かる分かる。私もパーティーの人と一緒にやったことがあるけど、あれ大変だよね。直ぐに私魔法使っちゃったよ」


「乾燥した木が見つかりにくいのもですけど、次に入れたやつに火が移らなくてつけ直したりもしましたよ。今は近くに置いておいて、水分を飛ばして使ってます」


「ほんとに大変なんだね。私はそのお試しで1回やったのと、冒険者ランクがCランクになる時の試験で試しただけだったから」


「そうなんですね。あっ、そろそろこっち側は大丈夫なんで、裏返してもらえます?」


「は~い」


それから6分ほど魚が焼き上がるまでロビン君とおしゃべりしながら魚を焼いた。


「アスカちゃん、火の方は大丈夫…あら、ロビンがついてたのね」


「うん。姉さんの代わりだよ。もうちょっとで焼けるから」


「それならお父さんも呼んでくるわね。入ったところにお皿を置いておくから、焼けた順番に乗せていって」


「分かったよ」


「えらいねロビン君。狩りの帰りなのに家事の手伝いもするんだ」


「家事って言ってもお皿の準備とかだけだよ。解体ならできるけど、焼き加減とかはそんなにこだわりもないし、見た目で大体判断してるだけ」


さっきから話をしていて、あまりにも丁寧なので弓に関する時以外はフランクに話してもらうことにした。私もかねてからの同年代の友達ができたみたいでうれしい。


「それでもすごいと思うよ。私もずっと宿に泊まってるけどそれでも、焼き加減とか覚えてないし」


「でも、アスカの方は料理人の人が作ってるんでしょ?焼き加減って言っても料理ごとに違うから難しいんじゃない?」


「分かる?それなのにノヴァったら、食い気ばっかりで一々細かいところまで見てないんだろ!なんていうんだよ」


「あの宿の料理は美味しいからね。アスカの気持ちも分かるよ」


「もう~、ロビン君まで」


「ごめん。そろそろ魚も焼けたからお皿取ってくるね」


「は~い」


ロビン君が持ってきたお皿にどんどん魚を乗せていく。乗せ終わって家に入ると、すでにお父さんのデレクさんも畑から帰ってきていた。


「あれ?扉のところにはいなかったのに…」


「アスカ、お客さんじゃないんだから勝手口からだよ」


「そっか」


私は納得して魚をテーブルに乗せる。もちろん、2人で5匹も運べないので先日のように魔法でポンと置くだけだ。


「おや、アスカちゃん久しぶり。今日はゆっくりしてくれよ」


「はい。デレクさんもお疲れさまです」


「疲れるっていっても毎日のことだから慣れてるがな。それより、また何でこの村に?」


「ロビン君がちょっとは狩りが慣れてきたから見せたいって言うので来ました。ロビン君、ちゃんと家族に言ってなかったの?」


「あ~うん。日にちを決めてなかったから、料理とか用意しても無駄になっちゃうでしょ?」


「そういえばそっか。もし、今度来る時があったらそうするね」


「もしっていつ来てくれてもいいのよ?」


「私、6月には旅に出るのでしばらくこの辺には居ないんですよ」


「そうなの?寂しいわね。さすがに弟を連れていっていいとはいえないわね」


「それは無茶だよ姉さん。狩人も限られてるし、うちの台所事情もまた悪くなっちゃうよ」


狩りに行けない家もちょっとは獲物をもらえるけど、それは微々たる量なのだ。1頭ぐらい仕留めても300gぐらい。せっかくの肉も家族5人ぐらいいれば1人60gだ。狩人を輩出するのは村の家にとっては死活問題なのである。


「そうだな。ロビンの腕のおかげで最近は分けるほどもらえてるしな」


「へぇ~、前に聞いた時も結構腕が良いって言ってたけど、ほんとだったんだね」


「アスカひどいね。信じてなかったの?」


「信じてはいたけど、前に来た時は狩りっていうのもまだだったでしょ?腕が良くても生き物相手だと勝手が違うからね」


「そうだな。俺もそこは驚いたよ。いくら修練所で百発百中っていっても、動く的に当たるかは別物だしな」


「父さんも昔はそうだったの?」


「あ~、いや…」


「この人はケガをしてから罠を習い始めたのよ。そんなことあるわけないじゃない」


「パネトーネ。あんまりこういうのは…」


「いいじゃないのあなた。周りに村の人はいないんだから。アスカちゃん、この人の言う通り結構的に当たって自信を持った新人が、中々獲物を仕留められなくて伸び悩んだり、スランプになるのは多いのよ。ロビンはそんなことなかったけれど」


「そうですよね。私も魔物相手に矢を射るのは緊張しました。いつもは宿の裏で練習してましたけど、それでも的の中心を外してましたし…」


「的の中心をね。アスカちゃんって結構、弓長いの?」


「冒険者になってからですから、2年ぐらいですね。友人が得意だったので構えだけは知ってましたけど」


「それならすごいんじゃないか。やっぱり実践だよな」


「もう、あなたの言う通りにしてたら、みんなけがしますよ」


「そうか?いい考えだと思うんだけどなあ」


「獲物が選べたらですよ。ウルフだって数がいたら新人には難しいんでしょ?」


「そりゃそうだが、それぐらいは慣れてもらわんとなぁ」


楽しい食事の時間だったが、村にはいくつか問題もあるようで、ちょっと話をするとその話題になってしまう。やっぱり、生活がかかってるだけあってみんなの関心ごとみたいだ。


「それにしても、この魚うまいな。パネトーネは俺と一緒に畑を見ていたから、ヘレンが釣ってきたのか?」


「お父さん、私が宿にいたの知ってるでしょ?アスカちゃんよ」


「そうだったのか!すまないな。息子の弓を見てもらうだけじゃなくて、こんな土産まで」


「いいえ、獲ったと言っても魔法を使いましたし、それにアルナも手伝ってくれましたから」


「アルナ?今日は一人で来たんじゃ…」


「この子ですよ」


さっきから小さい魚を食べているアルナに目を向ける。普段は元気なアルナだけど、余所行きモードだととたんにおとなしくなるあたり、小鳥の本能なのだろうか。


「へぇ~、小さい鳥なのに魚を獲れるなんて賢いな」


ピィ


当り前だというように羽根を広げるアルナ。もう、調子いいんだから。


「小さくても魔物ですからね。それに、魔力も親より高いんですよ」


「へぇ~、それはすごいわね。こんなに小さいのに」


ヘレンさんはアルナに興味が出たみたいで、食事が終わると頻繁に相手になっている。アルナも慣れてきたのかさっきよりは好意的だ。


「はぁ~、食った食った。やっぱり新鮮だからか今日のは旨かったな」


「あらあら、それはごめんなさいね。実はかけてある調味料もアスカちゃんのものなのよ」


「アスカの宿のやつ?」


「うん。いつも宿で使ってるやつだよ。野営の時とかにも使えるように常備してるんだ。冒険者ショップにも置いてあるから、次に街に来た時にでも買えば?」


「そうだね。かけるだけでこれだけおいしいんなら、皆にも勧めておくよ」


「うん。他にも肉料理にも合うし、色々試してみてね。でも、今日のは醤油もちょっとだけ使ってあるから難しいけどね」


「醤油?何それ?」


「西の国で使われてる調味料なんだけど、色んな料理に合うし美味しいんだよ。ちょっと高いけど…」


「高いってどのくらいかしら?」


「一瓶で銀貨1枚です」


「ぎ、銀貨1枚。それは宿では出せないわね」


「うちでも余裕はないわね。もうちょっと安くなったらロビンが買ってくれるかしら?」


「う~ん。とりあえず毛皮が売れないとだめだね。あれでも1つで大銅貨4枚ぐらいだし」


やっぱり思っていた通り、まだまだ輸入調味料であるお醤油はお高いのだった。ベルネスのいい服がそれ位だったっけ。ドルドとかなら冬用コート1枚分のものかぁ。やっぱり輸入を進めてもらって安くしてもらわないとね。それか最悪は西の国に住もうかなとひそかに思うアスカだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] >「それもなんですけど、川魚とかは火の通りが悪いと後で大変なんです」 >そっか。確かに鮎の刺身とかあんまり聞かないし、そういうのって大体は海の魚だよね。  ちゃうねん。  海でもアニサキス…
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