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古書は難しいもの

エステルさんたちと別れた私は早速街に繰り出した。


「まずは目的の本を探さないとね。本屋も久しぶりかも」


「おや、アスカいらっしゃい。今日は何の用だい?」


「歴史書なんですけど、庶民的なことが書かれた本ってないですか?」


「また、珍しい本を探してるんだね」


「珍しい本ですか?結構ありそうですけど…」


「本自体高いものだし、貴族の生活が気になる庶民はいても逆はあんまりねぇ」


「そういうことですか。じゃあ、ないんですか?」


「あるにはあるんだが、アスカには早いかもね」


そういっておばあさんは一旦奥に引っ込むと3冊ぐらい本を持ってきた。どれもあまり厚みはないみたいだ。


「これが100年ぐらい前の一般の生活にも関係してる本。これは貴族の生活ぶりを商人が面白がって書いた手記。最後のは200年は前の今はない帝国の本だよ」


「へ~、ってすごく貴重な本じゃないんですか?」


「そりゃまあ、庶民の歴史書なんて感じならその当時の本が一番さね。んで、問題なのが中身だよ。まあ見てみな」


おばあさんが本を1冊目から広げてくれる。…えっ、何この難解な文章は。


「えっと、この本が何か特別な本なのですか?」


「んなわけあるかい。どうしても貴族が使う本みたいなもん以外は重版なんて滅多にないからね。これが当時のものの書き方だよ」


そういえば前世でも一回、昭和の本をお父さんの書斎で見たことあったっけ。変なカタカナ文字や見慣れない漢字で埋まってて、早々に諦めたっけ。あれが数十年前の本だから100年以上前のしかも外国の本だとこんな感じか。普段私たちが使っているのは共通言語だけど、各地方の言語体系もまだ生きてるし、こんな本を書くぐらいだからわざとそういう文字で書かれてるのかも。


「一応これ、最初の2冊は共通文字ですよね?」


「読めるぐらいにはね。ただ、あたしも責任は持てないねぇ。なんせこの時代には生きちゃいなかったしね」


特に最後の帝国の本はまずい。これだけは共通文字じゃなくておそらく帝国文字だ。帝国がなくなった時に帝国領は共通語が広まったみたいで、それだけでも歴史的価値はあるのだけど…。


「流石にこれは読めません…」


私が読めるのはこの世界で使われている言語だ。転生特典でもあるこれは流石に古代文字とかほぼ使われない文字には対応していない。もちろん、帝国文字なんてものは知識にないので、この本を買ったとして翻訳が必要だから辞書片手に読んでいくのか…。


「まあ、買うなら辞書も付けるよ。そこそこの値段だけどね」


こういうのがおばあさんの言う『価値ある本屋の売れないけど価値のある本』かぁ。ラインナップとしては簡単に手に入るものではないけど、難しいなあ。って、この商人の本は私でもほとんど読めないんだけど。視線を他の2冊に向けていると2冊目の商人の手記が解読できなかった。字が汚くないのに何で?


「おや、アスカ気付いたかい。こっちの商人の手記はね、商人として足元をすくわれないように当時の貴族への隠語をたっぷり使っているんだよ。例えばこの蛮族の地っていうのは当時の治安の悪かった地方の領地でのことでね、かなりの知識がないと辞書にも載ってないことばかりだから読み解くのも難しいよ」


「お、おばあさんはよく読めますね。そんな文書」


「まあ、子供の頃に祖父母や知り合いなんかにいくつかは聞いて知ってたからね。知り合いの親の商人なんかに聞いたりもしたかね?おかげで5割ぐらいは分かるよ」


そんなに調べて5割なんだ。絶対に私じゃ読めないな。


「でも、これは歴史学者には売れるかもね」


「こんな本がですか?」


「ああ、手記ってことは商人が商売を抜きにした本音が書いてあるからね。当時のことを知るにはもってこいだよ。ただ、学者以外がこの内容を理解することは困難だろうけどね」


流石に商人の手記はあきらめよう。うまくすれば売れるって話だけど、そんな知り合いもいないし残念だけどこれは無しだね。そうして私が手に取ったのは帝国の本だ。今読むにしては中々時間が取れないけど、旅を始めたら街に滞在する時間は増えるだろうし、きっと長く読める本が良いと思うんだ。そう思ったので帝国の本を買うことにした。


「おや、それにするのかい。金貨1枚と銀貨3枚だよ。もちろん、こっちの辞書は無料だよ」


「まあ珍しい本ですし、それぐらいしょうがないですよね」


「そうそう。物分かりのいい子は好きだよ。ま、仕入れ値はただみたいなもんだけどね」


「こんな貴重な本がですか?」


「30年ぐらい前だったかね。ちょうど帝国のあった大陸に本を探しに行った時に、その地方の貴族が平民になるってんでね。そのお邸のものを買い上げた時のものだよ。当人たちにも読めない本ってんであたしが買い叩いてやったのさ。もちろん、売るときは適正価格だね。本1冊ぐらいどこにでも保管できるしね」


「おばあさん旅に出たことあったんですね」


「当時はまだ親もいたからね。売り物になる本を探してはそこらを回ったりしてね」


「でも旅のお金とか大丈夫でした?」


「そういう時に買った家具や珍しいもんなんかを他の商人に転売してたからね。それで旅費を稼いで、残った金で本の仕入れさ」


あくまで自分は本屋だというおばあさんの旅の話は結構危険だった。乗合馬車が盗賊に襲われたり、安い馬車に客が少ない時は客に絡まれたりとトラブルも多かったみたいだ。


「まあ、あの時はまだ元気だったし、多少は無茶もしたからね」


そういいながらおばあさんは冒険者ギルドのカードを出す。おばあさんって冒険者もやってたんだ。


「旅に出ると金が要るからね。街の移動もタダになるし、小遣い稼ぎも兼ねてね。本を読んでたから薬草なんかはよくとってたね。乗合馬車の休憩中なんかも探したりして懐かしいねぇ」


ステータスを見せてもらうと器用さが200ぐらいで他は100近いものが殆どだった。力と運は40ぐらいだけど、それでも魔力もあるし、結構戦えたのではないだろうか。ランクのところを見るとDランクって書いてあった。


「おばあさんって強かったんですね」


「強いって言うより、このぐらいないと旅なんてさせてもらえないからねぇ。アルバなら王都ぐらいまでは行けるだろうけど、他の国の情報とかもあまりないし、流石に親が止めるよ」


「ちなみに変わった食材とか扱ってる国とかありました?」


「食材ね。まあ、各国特徴はあるけど西の方はちょっと変わってたかね。雰囲気も独特だよ。ただ、行く時は気をつけな。合う合わないが目に見えてわかる土地柄だからね」


「分かりました。そういうところにも注意していってみますね」


思わず旅の情報も手に入れて私はウキウキしながら宿に戻った。


「さてこっちの辞書なんだけど…ちゃんと索引は共通語だよかった~。ここから帝国語だったらどうしようかと思ってたよ。毎日ちょっとずつ学んでいこう」


その日は3時間ほど本を読み進めて、ご飯を食べた。う~ん。やっぱり照り焼きはいいなぁ。これだと醤油とはちみつなんかでできるしね。砂糖が高いからジャムは難しいし。



---

翌日からは再び細工だ。ロビン君にあげたネックレス以外にもポケットに付けたり弓に付けられるようなものを作りたい。


「要は狩りの邪魔にならず、音が鳴らないものなら金属でもいいんだもんね。誰かに貸せるように中央にはウィンドウルフの魔石の小振りなのを。そこに銀でくるんで細工をしてと。狩りが想像できる題材かぁ~。何が良いだろうかな。ハヤブサとか?」


私は試しにハヤブサの横顔をエンブレムのように絵に描いたものを彫っていく。


「おおっ!結構見た目もいい感じかも。身を守ることもできるし、狩人的にも変じゃないよ。お土産もできたし、また神像作りに戻らないとね」


こっちはこっちで来週にはおじさんの店とレディトの両方に納品しないといけない。もうすぐ、納品自体が旅に出て滞るようになるから、頑張んないとね。



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