薬と細工、時々魔道具
冒険者ショップから帰ると早速、私は買ってきた薬草を加工し始めた。
「一旦、乾燥が必要だしもう少し手順が単純化すればなぁ。まあ、それを考えるのにも時間がかかるし、しょうがないか」
別に自分が作るだけだし、数日前からちょっとずつ準備すれば出来るのでそこまでこだわってはいない。2日かければ完成するし、分割しても3日あれば大丈夫だ。
「それにどっちかというと保存の方が難しいんだよね。乾燥剤とか売ってないし、作り過ぎてもダメだからなぁ~」
最近思うのはその辺にありふれていたものがいかに便利だったかということと、それを知っていても作れないということだ。今まではそういうものだって納得してたけど、薬品類を作るようになってから不便なんだなって思うようになった。
「今日はここまででいいかな?後の工程はちょっと時間かかるし、このまま放置しておこう」
私は休憩を取ることにして裏庭に出て行く。ちなみに私が裏庭に出る時は鳥に注意の看板を出して出るようになった。
「ほら、もうちょっと待ってね」
リィ
ピィ
あれからアルナの音速追いかけとサンダーバードの光速逃げのせいで、私が裏庭に行くのが危険になったのだ。
「あのスピードでぶつかったら危ないよね」
サンダーバードたちは光のレールの上を動くから、衝撃とかがどうなってるのかわからないけど、少なくともアルナは風を使ってるから危険なんだよね。アルナも諦めればいいのにまだ納得できないようだ。慰めのつもりで、ミネルが同じ歳の時はもっと魔力低かったよと言ったのが良くなかったのだろうか?
ピィ!
しかし、アルナもやるものでサンダーバードたちが移動する時は先に必ず光のレールが現れる。その光がどこに出るかを勘で探り当ててフェイントをかけているのだ。この点については音速ということが役に立っているようで、途中僅かながらコースが変更可能だ。
「それに狭い裏庭でやってるし、光速の利点が生かせないよね」
本来、もっと速さに差があるはずだけど移動距離が短いから食いついているのだ。
「そんなことばっかりしてないで、たまには日向ぼっこでもしようよ~」
私がそういうと、ピタリとみんなの動きが止まってこっちに来る。サンダーバードたちは私の両脇にアルナはその内のお気に入りの鳥の頭に乗って日向ぼっこの開始だ。
「なんだかんだで仲は良いんだよね君たち」
リィ
ピィ
当たり前だというように返事をして、そのままじっとする。意外なことに普段活動的なアルナも、日向ぼっこは好きらしくエネルギーの切れたゼンマイ人形みたいにぴたりと動きを止める。最初はびっくりしたっけな。活発なアルナが急に動きを止めるから、ミネルもびっくりしてたっけ。そんな一日を終え、今日は薬を完成させる日だ。
「さて、まずは乾燥させた薬草を粉状に挽いてと…次にちょっと水分を足してもろもろと混ぜて、圧力をかけて固めたら、温めたはちみつをかけてくるんと!出来た!」
後は横に避けて風魔法で冷まして、宿のコールドボックスを借りて冷やし固めたらOKだ。まあ、待ち時間が出来るからその間は細工をして過ごそう。
「えっと、リストにあるのはと…」
先日、来てくれたドーマン商会とおじさんの細工店からの発注書を見る。どっちも認定式の後だからかアラシェル様の神像の製作依頼が多いかな?
「ドーマン商会が銀の女神像が3体、銅が7体、木製が15体か。えっ、多すぎない?」
今まで一回で渡したのは5体が最高だ。これでも新しい種類のものが出来た時で追加分との同時入荷だったのにその三倍だよ。
「おじさんの店より場所狭いのに大丈夫なのかな?」
もちろん店の面積自体は広いのだけど、おじさんの店より扱ってる品も多いし、契約している細工師も多い。この度はコールドボックスも売るということだし、スペースちゃんとあるのかなぁ。ディスプレイもガラスケースのようなものが主体だから、見栄えも考えると置ける商品数は少ないから苦労すると思うんだけどな。
「それでおじさんの方はどうだろ?えっ!?こっちも銀が1体、銅が10体に木製が20体。おじさんもさばききれるのかな。まあでも、おじさんの店の裏は工房だからスペースはあるよね」
きっと、しばらくの間の在庫を確保するためだろうな。でも、一括での納品は難しいから分けてもらわないとね。
「あれ?メモが挟まってる。認定式記念に銅でいいから新作を作って欲しいか。確かにそれは良い考えかも。巫女服をアレンジしつつ全体的に豪華にして作っちゃおうかな」
そうと決まれば早速、イラストを描かないとね。在庫として各種2体ぐらい既存の神像はある。だから、ちょっとだけ余裕があるので、今日は絵に集中しよう。早速、銀のワンピースを着て絵を描き始める。まずは巫女服を作る時のイラストを出して紙に移す。そこから、アレンジ案を描いた紙を重ねては吟味する。
「うう~ん。もうちょっと色味を減らさないと派手過ぎだよね。でも、頭の飾りの銀は外したくないなぁ。記念モデルだし、全部の材料にここだけ銀使っちゃおうかな」
どうしてもやりたかったので頭の飾りは銀で作ることにした。イラストが完成したら早速、原型制作だ。
ピィ
「どうしたのアルナ?」
作ろうと思った矢先にアルナが飛び回るので何事かと考える。その内に部屋を出て行くとエレンちゃんを連れてきた。
「おねえちゃん!あれほど、お昼は取るようにって言ったでしょ!」
「ええ!?今何時なの?」
「15時前だよ早く来て!」
「は、はい」
最近エレンちゃんからミーシャさん並みの女将の貫録を感じる。私の方がお姉さんなんだけどな~。そんなこと言ってる場合じゃない。すぐに降りないと、あの状態のミーシャさんはおっかなかったしね。なので、下に降りて食事を取る。ちょうど孤児院の子たちが帰る時間と一緒になったので、挨拶をして見送ろうと声をかけた。
「あっ!魔法使いのおねえちゃんだ」
「今日はごはんにいなかったけどどうしたの?」
「今からなんだ。ちょっと忙しくて。みんなは今から帰るんでしょ。お疲れ様」
「うん。帰ったらリンネやソニアと一緒に遊ぶんだよ」
「そうなんだ。よく遊ぶの?」
「そうだよ。サンダーバードたちは大人しいからあんまりあそんでくれないんだ~」
子どもたちの話を聞いていると、サンダーバードたちは日の半分ぐらいは小屋でのんびりとしてるらしい。そんな話をしていると、食事をエレンちゃんが持ってきてくれたので、みんなと別れて食事を取る。
「ふぅ~、お腹もいっぱいになったしちょっと気分転換でもしようかな?確か、冒険者ショップの方からもウィンドシールドの発注が来てたっけ。盾形2つに剣型1つで、急ぎが盾型かぁ」
剣型というのも通称で、盾状に広がる部分が刃のようになっているのだ。ただ、強度自体はやや弱く盾形の方が攻撃を防ぐのには向いている。魔石も発注書と一緒についてるぐらいだから、急いだ方が良いんだろうな。私は早速、簡単な飾りを入れると、同梱されていたウィンドウルフの魔石をセットする台を作る。
「魔石が手前側過ぎても盾状に広がると危険だし、外過ぎてもそこが壊れやすくなって難しいんだよね~」
結局、細工師としての技能を生かす場所がなくて大体のもののデザインは似通ってしまう。まあ、その分量産品って感じがして、冒険者受けはいいんだけどね。高位の冒険者ならともかくCランク位までの冒険者はどっちかというとそういうみんなが買ってそうなものとか、持ってるものの方が安心するからね。
「オリジナリティーとか言っても、いちいち鑑定しないと価値が分からないっていうのも大きいしね。その点、誰かが使っているものは分かり易いし、思ったより人気みたいだ。ただ、魔石の値段がね~」
ウィンドウルフの魔石も安い時は金貨2枚位でも入手できたのに、前から納品してるテント用バリアとかで高くなってしまった。材料費の高騰を値上げだと思われないといいんだけどな。
「魔石の値段なんて、所属してる地方の買取価格ぐらいしか分かんないだろうし、ちょっと心配だな」
ウィンドウルフの生息地はもっと東だからなぁ。この辺の冒険者だと人気が出て、売れるから値上げしたと勘違いしないといいんだけど。そんな一抹の不安を抱えつつも、とりあえずその日は盾状の魔道具を2つ作ったのだった。