認定式の後
認定式が思ったより早く終わり、私は着替えて礼拝堂に戻った。そこでは色んな人たちが話をしている。アルゼイン建築のシュタッドさんはドーマン商会の会長さんとコールドボックスの話を、ジャネットさんも来ていた人と話をしている。よく見るとフィーナちゃんやジェーンさんも来てくれている様だ。
「みんな店とか用事があるのに来てくれてうれしいな」
「おや、アスカさんですね」
「司教様、今回は来ていただいてありがとうございます」
「いえ、これもシェルレーネ教の役目ですからね。しかし、驚きましたよ。認定式であのような光が差す出来事があるのは珍しいですので」
「そうなんですか?」
「以前に観測されたのは相当前ですね。私も初めてですよ」
この司教さんは年齢も50歳ぐらいだし、その人が初めてって言うのはさっきのはすごいことなんだな。
「司教様、次のご予定が…」
「分かりました。では私はこれで失礼いたします。良き日々が送られるよう祈っております」
「ありがとうございました」
司教様と別れて、来ている人と合流する。
「お姉さん、かっこよかったですよ」
「フィクス君、君までどうして?」
「宿で信仰している神様って聞いて。エレンと一緒に来たんだ」
「わたしは宿の代表だよ。流石にこの時間からお父さんは呼べないからね」
「ありがとうエレンちゃん。そうだ、新しいアラシェル様の像はどう?」
「すごいよ!さすがおねえちゃんって感じだね。ここからでも輝いて見えるし」
「え~、そう?うれしいなぁ」
ほんとにちょっぴり輝いてるんだけどね。加護が強いのか何か分からないけど、祈るとちょっぴり光るんだよあの像。変な噂になったりしないよね?
「でもこういっては何ですけど、アラシェル様の像の方が中央にある像よりいい出来だと思いますよ」
「え~そう?うれしいな」
頑張って作った甲斐があったというものだ。それから来てもらった人に挨拶を済ませ、一旦私たちは宿に戻って、お昼までくつろぐことにした。
「おっ、アスカ戻ったか」
「あれ?ノヴァどうしたのここで」
「いや、俺は行けないけどどうなったか気になったから来てみたんだよ」
「無事に終わったよ。これからは教会に行くとアラシェル様の像も横に置いてあるからね」
「そっか、よかったな。それはそうとさ、前から気になってたんだけど聖霊ってシェルレーネ教に認定してもらうんだろ?」
「そうだよ」
「それっていない神様も祭れるってことなのか?」
「失礼な。アラシェル様はちゃんといらっしゃいます!」
「そうじゃなくてさ、例えば俺がこういう神様がいるって言ったら登録してくれるもんなのかなって」
「それわたしも気になるかも。だって、登録制なら結構な神様がいるよね」
「あ~、そのことか。多分そういう場合もあると思うよ。でも、何でもかんでも登録してくれるわけじゃなくて、村1つで信仰を持ってるとか、数十年の実績があるとかじゃないとだめだよ。それぐらいなら信仰によって本当に生まれたりするんだって」
「生まれたりって、作りだせるもんなの?」
「例えば私が夢である神様に会うでしょ。で、その神様を祭った信仰を作るの。でも、夢の話で実際にその神様がいなかったとしても、信仰が集まれば形を持った何かが生まれるんだって」
「何かってどういうこと?」
「いきなり神様が生まれるなんてことはまずないんだって。よくて妖精とかみたい。そこから信仰の篤さや人数によって、どんどん昇格していくらしいよ」
「流石に代表だけあって詳しいねアスカ」
「そうでしょリュート。って言いたいところだけど、全部このパンフレットに載ってるの」
「パンフレット?」
「そう。聖霊登録した人には特別なやつが、そうでない人で信仰を持ちたい人には色んな神様の説明が載ったこれがもらえるんだよ。そこに載ってるの」
「そんなの教会にあったっけか?」
「普段は神殿にしか置いてないよ。ムルムルが届けてくれたんだ」
「でもシェルレーネ教の人もよくそんなことが分かるね」
「何でも情報提供者はシェルレーネ様みたい。神託ついでに教えてもらったのとかを代々まとめてるんだって」
「そりゃ信ぴょう性が高いね」
「ジャネットさん!もういいんですか?」
「ああ、話は終わったよ。にしても神を作るねぇ。途方もない努力だろうね」
「そうですね。この本にも妖精から始まるし、それでなくても最初は全く加護も何もないから、信仰する利点もなく、教義を守らせるために存在するって断言されてるしね」
「ほんとだね。ここにも注意書きで『神の座にまでなれるぐらいに信仰を集められるのは勇者か英雄ぐらいです。そうでないのであれば、他の聖霊を祭ることをお勧めします』って書いてあるよ」
「勇者って魔王を倒すって言われてる人でしょ?そんな人がいて信仰してるならまあ、ありなのかな?」
「でもよ、それ以外で英雄ってなんだ?」
「小国とかで大国の侵略から守ったりした人じゃないの?でも、そんな人以外で出来ないって相当ね」
「妖精の加護についても書いてある。妖精の加護は常時得られるものではありません。気まぐれな為、いかに信仰心を持っていようとも、得られない場合がありますので注意してください。だって」
「何それ。加護が日替わりなの?」
「というよりその瞬間毎って書いてあるね」
「残ってる宗教にも理由があるんだよ。きちんと見守ってくれてるから残ってるんだろうね」
「実際に書いてある聖霊のリストもある程度の規模のものばかりだしね。アラシェル教は出来たばかりっていうのもあるけど、少ない方だって」
「そりゃ今はアルバとレディトぐらいだもんねぇ。いや、グラントリルにも行ってるんだっけ?」
「はい。バルドーさんを通じて何度か送ってますから」
今回みたいに石材を運ぶ帰りの便に乗せてもらって何度かアラシェル様の像とグリディア様の像を送っている。もちろん、向こうではグリディア様が人気だから数は少ないけど、それでも毎回持って行った分は売れているようだ。ちなみにバルドーさんのお嫁さんのジェシーさんも信者だ。
前にどうしてグリディア様じゃないんですか?って手紙を送ったら、『バルドーが信仰して変に才能に目覚めたから、街に寄り付かず旅に出た』って返信があった。結婚までかなり長いというか、この世界で30過ぎてからの結婚だし、不満が積もり積もったんだろうなぁ。
それならば帰るきっかけにもなった私が信仰している神様ならと思ってくれたのだ。手紙にはバルドーさんが故郷に帰ったのも私が細工をしているのを見て、懐かしくなったからって書いてあった。
「でも、あっちはグリディア様の信仰が盛んだし、難しいと思うけどなぁ」
「そう考えたらアラシェル教の広まってるところって、他の神様の影響が強いところだね。キチンと個性を出していかないとね」
「それなら、おねえちゃんが今日来てた衣装を広めるのはどう?」
「絶対にそれだけはダメ!」
巫女コスプレいくない。ああいうのは神聖できちんとした生地で、しっかりと心をもって着るから意味があるのだ。
『ねぇ、この衣装どぅ?神秘的でかわいくなぃ?』
そんなよこしまな思いで着られたら駄目だ。
「あれは一種の正装だから絶対に広めないよ。着てもらうのもラーナちゃんとか一部にだけだからね。もちろん、生地はライズとかリーヌの毛を使って手染めだよ。それ以外は認めないからね!」
「おおっ、アスカが巫女らしい反応を見せたね」
「ほんとほんと。そうしてるとまるで本物の巫女様みたいだよ。おねえちゃん」
「そ、そんなことナイヨー」
いやいや、代表という立場だけでも大げさなのに巫女です!なんていっちゃまずいのだ。空間使いにもまだ、それを司る神様が誕生したことが広まっていないのに、今巫女騒ぎになるのはまずい。ここはごまかさないとね。
「そ、それより、みんな喉乾かないかな~」
「ちょ、ちょっと乾きましたね」
話を聞くことに集中していたフィクス君が乗ってきた。ほう?しゃべりもしてないのに私を気遣うとは感心感心。
「あっ、これまた変なこと考えてる」
そんなエレンちゃんのつぶやきも聞こえず、私は話がそらせたと満足していた。