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街巡り

ムルムルにアルバで大人気の燻製屋も案内できたし、一旦食料品はよしとした。次は細工を中心に工芸品の区画だ。といっても、朝市は食料品とかが中心なのでちょっと狭い。こっちの本番は午後からだからね。だけど、村から売りに来てる人や、街を回ってる商人は他のと一緒に出すから掘り出し物が多い時間でもある。


「へぇ~、なるほどね~。確かによく見ると街にいる感じじゃない人もいるわね」


「そういうの見たらわかるんですか?」


「ええ。巫女といっても街中を歩くことも多いからね。村の人との違いはよく分かるのよ。伊達に旅をしてるわけじゃないってことね」


そっか、ムルムルは私より旅に慣れてるんだもんね。何せ、他国から要請を受けて祈りに行くぐらいだし。


「それじゃあ、掘り出し物探しね。最初はあの辺にしましょう」


ムルムルが指さしたのはいかにもなおじさんが座っている店だ。


「あ~、すみません。あそこは普通の村細工の店です。その…言い難いのですが、あの雰囲気で客をつかんでるだけなんです」


「でも、あの服は?質もいいし、ちょっと不思議な感じの服を着てるじゃないの」


「そ、それはそのう…」


私はムルムルの耳元にささやく。


「あれは依頼を受けて私が作ったやつなの。それなりに粗い糸とかを作って」


前世のテレビで見た民族衣装を適当に混ぜ込んだものだ。文化圏すら違うから不思議な感じはするだろう。だが、効果はおろか伝統的なものでさえない。ところが服装が不思議ならちょっと不揃いな細工がそれっぽく見えるらしくて、旅人にはひそかな人気らしい。


「それってさg…」


「ス、ストップ。ストップです!ちゃんと俺が作ったと、他じゃ扱ってないしか言っちゃダメって言ってますから」


だから詐欺ではない。ただ客の方が勝手に勘違いしただけだ。実際あのおじさんも異国の出身だから珍しいというのは嘘ではないしね。ただ、品質は村人が冬に片手間でやる細工を越えるものではないだけで。


「他には何かないのかしら?」


「あの店なんてどうですか?自然石をうまく組み合わせたアクセサリーですよ」


「そういえば、アスカの作品にそういうのはないわね」


「私、ああいうの苦手なんです。○なら○で加工して、決まった模様とかにするのは得意なんですけど、あんまり元の形を加工せずに使うのはどうも出来なくて…」


「意外ね。デザインセンスとかも悪くないと思うのだけど」


「それが、器用さが高いからですかね。こうやっちゃえば良いのにってすぐ考えちゃうんですよ」


「でも、言われた通りいいセンスね。私たちも巫女として自然には敬意を払っているし、いくつか買っていくわ」


「ティタもかう」


「ダメだよ。ティタが欲しいのは食事用でしょ。そっちは別で買ってあげるから」


ムルムルは護衛を連れて店に向かうと、数点買っていった。私は護衛の人の間からグッと指を突き出しておいた。売っているお兄さんも気付いたみたいで返してくれた。実はあのお兄さんも細工仲間なんだよね。この前たまたま卸しに行く日が被って、出会ったのだ。私が日中、渡しに行くのに対して、お兄さんは結構遅い時間に出歩いてその足で向かっていたらしい。


「買ってきたわよ。次はどこがお勧め?」


「うう~ん、この時間となるとこれといったものは無いです。後は午後市ですね。あっちが細工物は本番ですから」


ムルムルが水の巫女ということもあるけど、友達として下手なものは勧められない。さっきのお兄さんの店も私に作れないから勧めたわけだしね。


「じゃあ、また来るとして他の店を見ていきましょう」


それからは青果市場やベルネスなど主要な店を見ていった。流石に冒険者ショップなんかには行かなかったけどね。


「そろそろ、お昼にしましょう。どこかいい場所はないかしら?」


「この辺ならいい店があるのでそこにしましょう」


私が案内したのは以前にも来たエスニック風の料理を扱う店だ。王都にもあるんだろうけど香ばしさはあるものの、この店はスパイスを減らして普段スパイスを多くとらない人にも優しいお店だ。たまに商品を卸しに行った帰りに寄っていたのだ。


「へ~、屋外にも席があって通りの人にも目につきやすいのね」


「雨とかもあってメンテナンスが大変らしいですけどね」


屋根と違ってテーブルとかは直接手が触れたりするから、何でも塗って防水性を高められる訳じゃないからね。


「それじゃあ、入りましょうか」


「いらっしゃいませ!何名様でしょうか…」


いつも受付をしてくれる店員さんがピタッと動きを止めた。まあ、見るからに上等な服に神官騎士がついているのだ。流石にいつも通りの接客とは行かないだろう。


「お姉さん、水の巫女様がお昼を食べたいっていうので連れて来ました」


「ア、アスカちゃん、どうも。こ、こちらへどうぞ」


お姉さんは素早く動くと席をササッと調整して、たちまち護衛の人と私たちの席を作り出してしまった。


「で、連れて来てくれたわけだけど、メニュー見ても全然わからないんだけど…」


「それは考えてなかった。えっと、お姉さん。馴染みがあまりない人でも食べられそうなのと、いつものをお願いします」


「人数分ですか?」


「そうね。護衛もこの後連れ回すし、お願いするわ。でも、彼らも仕事があるから半々で持ってきてもらえるかしら?」


「分かりました。では、後になる方には簡単なスープをお持ちいたします」


ササッと、お姉さんが下がるとまずは後で食事をする護衛の人にスープを持ってきた。それを下げに来るのに合わせて、簡単な料理が運ばれてくる。


「へぇ~、確かにこのスープなら私でも食べられるわ」


「でしょ?ここは慣れていない人のことも考えて、普段から使ってる調味料を混ぜたりして、味も近づけつつ体調にも気を配ってるんだよ」


ちょっと護衛の人とも離れているので、普段の口調に戻しつつ会話を楽しむ。この店のいいところは肉!って感じが薄いことだ。もちろん肉も使ってるんだけど、普通の店だと肉なら1枚どか~んと出てくる。ここは小さく切ったり、薄切りが巻かれたりしているだけで、素材の味というか料理を楽しめるんだよね。


「次はこちらです」


次々に料理が運ばれてくる。そして、そのすべてを食べた私たちはまったりとしていた。横では護衛騎士たちが入れ替わりで食事中だ。


「あなたたちはどうだった?」


「はい。いつも神殿で食べている料理もおいしいですが、こういったものも私は好きです」


「そう、良かったわ。それじゃ、食事が終わったら次に行かないとね。次はどこに行くの?」


「次?うう~ん、後この辺で近いと言ったら細工屋さんかなぁ?」


「そこに行きましょう!」


なぜかテンションの上がったムルムルを連れて、食事を終えた私たちは細工屋に向かったのだった。


「それで何を見るんですか?」


「もちろん細工よ。アスカが作ったのもあるんでしょ?普段見ないものも手に入るしね」


「うう~ん。価格のこともあるし、私が作ったものなら、ムルムルが持ってる以上のものは無いと思うけどなぁ」


「まあまあ、見せなさいよ」


そう言って、店に乗り込むムルムル。最初はおじさんもびっくりしていたけど、すぐに慣れたのかいつも通り、店の奥に引っ込んで我関せずとしたらしい。


「これは?」


「それは最近作ったリメイク品だね。プリファの小さい花を前より精巧に作ったんだよ」


「へ~、これで大銅貨4枚だけど値上げしたの?」


「値上げはしたつもりはないんだけどね。ただ、人気が出てきたから同じ価格では売れないんだって。もちろん前のと同じ価格だよ。精巧にはなったけど、それは私の腕が上がっただけで手間は一緒だしね」


「へ~、ならこれを2つ買おうかしら?それにしても髪飾りが多いのね」


「目立つし、誰でも身につけられるからね。髪につけなくても帽子につけられるし」


「でも、折角なんだからもっとネックレスとかブレスレットも欲しいわね。そういえば指輪はないのかしら?」


「指輪かぁ。あんまり考えたことないかも。もし作るなら魔道具かな?宝石のだと私が作っても意味ないと思うし」


指輪は結構大事なものってされていて、親しい人が送るものになってる。当然、みんな価格も普段より高いのを買うので、庶民でも使い捨ての魔石が使われているものを買うのが普通だ。でもそのせいで、総じて大きいんだよね。魔石が小さいと効果も小さいせいなんだけどね。


「そうかしら?あれって大きいのばかりじゃない?効果がなくても小さいものを作って見たら?私は付けるわよ」


「ムルムルがそういうなら今度作ったやつを送る時に一緒に送るね」


「楽しみにしてるわね」


思いがけず細工アイデアをもらった私と、細工を手にして笑顔のムルムルだった。


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