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ムルムルのお土産

「う~、疲れた~」


私はムルムルが来るというので予定していた細工を一気に進めた。どうやって?もちろんマジックポーションがぶ飲みの強行軍だ。お陰で1日でエヴァーシ村に納品する分を作って、残りの一日で1週間分の在庫を作り上げたのだ。


「金銭的にも体力的にも結構使っちゃったな」


マジックポーション自体、銀貨が必要なものだしそれを使って細工をするんだから、今回の儲けはかなり少ないだろう。


「でも、久しぶりに会えるんだしチャンスは逃さないようにしないとね」


ぎりぎり空いた時間で、リュックもどきではなくポーチも作った。肩から掛けられるちょっと小さめのものだ。


「ガンドンやサンドリザードの革でも見た目いいやつを選んだから気に入ってくれると嬉しいな」


今は、いつ来てもいいように孤児院の子たちの服や布団を作っているところだ。ローグウルフのものはちょっとダボッとした感じのコートに。他のものや傷があるものはつないだりして布団にしている。ちゃんと布も買ってきて肌触りにも注意したから気に入ってくれるといいなぁ。


「おねえちゃ~ん。シスターさん来たよ~」


「は~い」


私は手を止めて急いで準備をする。今日は冒険者じゃなくてちゃんと街行きの恰好だ。


「そうそう、ポーチも忘れないようにしてと。ほら、ミネルたちも行くよ。エミールやアルナは初めて会うけどお父さんの兄妹なんだからちゃんとしてね」


ピィ


ピッ


ミネルもラネーが来るという話をしてからそわそわしている。まあ、しばらく一緒に住んでたし、妹みたいに思ってるのかもね。


「お待たせしました!」


「いいえ。ムルムル様が教会でお待ちです。参りましょう」


「はい!」


宿を出て、教会の裏手から入る。この扉を使うのも久しぶりだな~。最初に依頼を受けた時以来かもね。


「そういえばどうして今回はこっちからなんですか?」


「こういうのはよくないと思うのですが、神殿にお住いのバーナン鳥のラネー様がいらしているので、他の方を刺激しないようにですわ」


「そ、そうなんですね」


そっか、考えてみればシェルレーネ教の総本山ともいえる神殿に住んでいるラネーってえらいんだね。隠し扉から入って、奥の間に通される。


「ムルムル様、アスカ様をお連れ致しました」


「入ってもらって」


「はい」


護衛の方に通してもらって部屋に入る。今回の人は見たことのない人だけど、真面目そうな人たちだ。


「失礼いたします」


「ええ。お久しぶりですわね、アスカ。他の者たちは下がりなさい。私はこの者と話があります」


「はっ!何かあれば我々をお呼びください!」


「もちろんよ」


扉が閉まってムルムルがはぁ~とため息をつく。


「おお~折角のムルムルの巫女さんモードが…」


「あなた、また変なもの食べたの?相変わらず巫女に変な印象持ってるわよね」


「そ、そんなことはないと思うよ」


「まあいいわ。それよりラネー!折角来たのだから遊んでいいわよ」


ムルムルがそういうと部屋の奥にいたラネーがこっちに飛んできた。


「わっ、ラネー。大きくなったね」


飛んできたラネーはここを離れた時より一回り大きくなっていた。久しぶりの故郷にすっごくうれしそうだ。


「ほら見てラネー!レダとミネルの子どもも連れてきたんだよ」


私は飛んできたラネーにアルナとエミールを紹介する。


ピィ


ピッ


チュン


「ラネーは初めてだよね?遊んであげてね」


任せて!というようにラネーは子どもたちへと向かう。


「そういえば、こっちにも子どもがいるんだったわね」


「えっ、ラネーも子ども産んだの?」


「ええ。ただ、流石に子どもを連れてくる許可は出なかったわ。神殿に住み着いたバーナン鳥の初めての子どもだもの。もう、右に左に大騒ぎだったのよ。一時はパレードを開こうって話もあったんだけど、流石に子どもたちの負担になるって思ったからやめさせたけどね」


「その方がいいよ。うちもミネルの出産の時は命がけだったんだから」


「そういえばラネーも体力がかなり落ちてたわね。普段世話をしているカレンがかなり慌ててたもの」


「でも、何事も無くてよかったよ」


「ええ、全くだわ。そうそう今日はね、とってもいいお土産を持ってきたのよ!」


そういうムルムルの顔はとってもいい笑顔だ。一体なんだろう?


「それはね…これよっ!」


ババンッ!とムルムルが出してきたのは一枚のカードだ。中央には水色の雫のような模様と右下にはシェルレーネ教の名前、左下にはナンバーが刻まれている。


「何それ?ファンクラブの会員証?」


「ふぁんくらぶってなに?」


私にはそうとしか見えなかったので言ってしまったけど、まあそんなわけないよね。


「気にしないで。それでそのカードが何なの?」


「えっ?アスカ本当に知らないの?神像いっぱい作ってるのに?」


「そりゃあ、神像は依頼もあるし私も好きで作ってる部分もあるけど、それだけだもん」


「そっか、なら説明してあげるわ。これはシェルレーネ教刻印使用許可証よこの中央に刻まれているのが、シェルレーネ教を表す刻印なの。そして、この許可証を持つものは水に関するものと、シェルレーネ様の神像に限り、自分のサインの横にこの刻印を刻むことが出来るわ」


「名前はすごそうだけど、何の意味があるの?」


「細工とかにねこの刻印を刻むと、その作品はシェルレーネ教公認になるの。信者とか一般商人でも信心深い人には飛ぶようにかつ、高く売れるのよ。アスカは神像は高くしちゃいけないのは知ってるわよね?」


「うん。多くの人に信仰を与える妨げにならないようにだよね」


「ええその通りよ。でも、これがあれば本来の細工の価値にさらにシェルレーネ教公認というプラスを持った値段で取引できるのよ。いわば、これからアスカがこの刻印を使用すれば、その時点で教会からの指名依頼を受けたようなものね」


「ふ~ん、そんなにすごいカードなんだ。でもいらないよ」


「ええっ!?何でよ!」


「さっきムルムルに言った通り、私もアラシェル様の巫女として多くの人に知ってもらいたいと思ってるの。もし、同じように刻印を入れたものを高く売っちゃったら、多く人に広まらないばかりか貧しい人は自分で彫った像しか拝めなくなっちゃうよ。折角、神様がいるんだからそれぐらいは手軽に手に入れられるようにしたいの」


「そ、そう。そうよね…アスカならそうよね」


「あ、あの、気持ちはうれしいんだよ!とってもね。それだけのものなんだし、許可とか大変だったと思うし!でも、それで悲しむ人が出るなら、私は必要ないよ」


しょんぼりとしたムルムルを慌てて励ましながら、やんわりと受け取りを拒否する。


「分かった!でも、このカードは持っておきなさい!刻印をするかは当人次第だから、アスカが刻印を入れないのは自由よ。このカードの裏面にはアスカの名前が彫ってあるし、左下のナンバーも固有のものよ。もし何か困ったことになっても、教会が身分を保証するし世界中のシェルレーネ教徒がアスカの味方になってくれるわ!」


「いいの?そんなすごいもの貰っちゃって」


「もちろんよ!アスカは私の親友だし、巫女という立場もあるでしょう?絶対何かの役に立つから大事に取っておきなさい」


「うん。ムルムルがそういうなら」


でも、ムルムルの言う通りなら世界中のシェルレーネ教徒が動くって、とんでもないことだよね。うかつに出したりしないようにしないとね。


「うう~ん、でもそうすると困ったわね。今回の目玉のお土産がそのカードだったんだけど、結局そんなにうれしいものでもなかったみたいだし」


「ううん。私はラネーとムルムルに会えるだけでうれしいよ。昨日とかも頑張ってマジックポーションをがぶ飲みして仕事を片付けたんだから!」


「はっ?何やってるのよアスカ。あれは自分のMPが消耗した時に緊急用に服用するのよ。まさか、癖になってるんじゃあ…」


「そ、そんなことないってば!普段は期限切れが近いものを飲んでるぐらいだよ。細工をするのにどうしても魔道具を使うから、昨日はしょうがなかったんだよ」


「ならいいけど、普段から使わないようにしなさいよ」


「うん、もちろん」


ほっ、その前の日も何本も飲み散らかしたって言わなくてよかった。徹夜明けじゃないけど、こういうのって言いたくなっちゃうんだよね。


「そうそう、それでお土産の話だったわよね。まあ、ダメだったものは仕方ないし、私が買うお土産がありそうなところってどこかある?」


「誰に買うの?」


「もちろん、テルン様にカレンでしょ。それにエスリンにもね」


「エスリンさんって、フィアルさんのところでパン作りを学んだ人だっけ?」


「そうよ。最近は普通のパンだけじゃなくて、色んな具を挟んだりメニューも増えてきたのよ」


「そっか。料理人ならエスリンさんはハンドクリームかな?」


「でもあれって、きちんとしまっておかないとすぐに乾いちゃうでしょ?」


「それなら最近街で良いのが売られてるよ。油とかある程度の材料が混ざったものをバラで売ってるんだ。そのまま運んで、家で必要な量が作れるの。元の方は何度も開け閉めしないから、結構持つんだって。料理が出来る人なら計量とかも得意だろうしいいと思うよ」


「流石はアスカね。貴方も普段使っているの?」


「普通の方をね。一々混ぜたりするのに厨房借りたりするの面倒だし」


その代わり、ちょっとお高いけどね。


「他には何かない?」


「ええと、テルン様とかカレン様の好きなものは何なの?」


「テルン様は普段からしっかりなさってるし、何かな?ちょっと私も思いつかないわ。カレンは…ラネーがらみ?」


「ラネー?」


チュン


自分の名前が呼ばれたので、ラネーが返事をしてこっちに来る。


「あっ、ごめん。別に呼んだわけじゃないんだ。一応聞いてみるけど、カレン様って優しい?」


チュン


当たり前よ!とラネーがてしてしと翼をほほに当ててくる。この子がこれだけ懐いてるんだし、何かいいものを捜してあげよう。



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