お帰りとようこそ
ご飯を食べられるところがないので、仕方なく保存食に手を伸ばす私たち。残念ながら今日は大部屋しか空いていなかったので、4人で食事だ。食堂も汚れると手間なので部屋で食べることになったのだ。
「はぁ~。結局、昼と一緒の食事かよ」
「しょうがないよ。この時間に店を開けてもらうのも大変なんだから」
リュートは宿で働いていたから、こういうのには理解がある。逆にノヴァは急ぎの仕事とかだと、途中で休憩を取って夜中まですることもあるから、ご飯出してくれよと嘆いている。
「ベッドで寝られるんだから贅沢言うなって言いたいけど、ちょっと味に変化が欲しいね。リュート交換しないかい?」
「良いんですか?これ干し肉ですよ」
「リュートが漬けたやつだろ?それなら、大丈夫だよ。ほら」
ジャネットさんとリュートが夕食を交換している。私のバッグにはドライフルーツの他にも干し肉やら数種類持っている。流石にこの程度の行程では飽きないので、そのまま食べている。
「アルナにはこの薬草の入ったやつが…あれ?」
「それは朝方、アスカがシャディッシュにあげちゃっただろ?」
「そうだった。うう~ん、他の無いかなぁ…」
ガサゴソとマジックバッグの中身を開けていくけど、アルナの食べられそうなものが出てこない。代わりに出てきたものと言えば、細工に使った金属の残りが出て来たり、ある程度まとまった木片が出てくるぐらいだ。
「アスカ、部屋はきれいだけどマジックバッグの中身は汚いね」
「し、失礼な…。これは最近作った細工の残りだよ。多分」
「ほら、分かんねぇんじゃん。で、何探してるんだ?」
「アルナのご飯になるような物がないかなって」
「あ~、それならあたしが持ってるよ。といっても乾燥してるちょっとしたものだけどね」
そう言ってジャネットさんが出してくれたのはドッグフードみたいな塊だった。
「乾燥してるからちゃんと水分取りなよ」
「ありがとうございますジャネットさん」
「まあ、たまたま安くて買ってたやつだからね」
これで私も安心して食べられるよ。食事を終え、遅い時間だったのでその日はそのまま眠ったのだった。そして夜が明けてー。
「さて、今日はアルバに帰る日だけど何か用事のあるやつは居るかい?」
「別にないぜ」
「僕もです」
「私も」
「なら、依頼の完了報告だけして帰るかね」
昨日の依頼報告は商会から朝一に行われているはずなので、そのままギルドに向かう。
「え~と、依頼料は半額の銀貨5枚ですね。どうなさいますか?」
「銀貨1枚だけパーティーへ。残りの4枚はそのままもらいます」
「分かりました。これで依頼完了です」
ギルドを出て、解体場に向かう。帰りにマジックバッグに入れたグラドンセのためだ。
「おう、今日は何の用だ?」
「グラドンセの買取なんですけど…」
「ほほう。あいつは普段肉食の魔物にやられて状態が悪いからな。期待してるぞ!」
そして私たちはそれぞれが仕留めたものをだす。
「おおっ!こっちの嬢ちゃんのは良いぞ!そっちの剣士のもぎりぎり敷物に出来るな」
「俺たちのは?」
「敷物は無理だがある程度の大きさは確保できる。まあまあだな。それぞれ、銀貨8枚に銀貨7枚に銀貨5枚だ」
「お肉って切り分けてもらえますか?」
「ん?ああいいぞ。いいとこならひと塊、大銅貨8枚。それじゃなきゃ大銅貨5枚だ」
それじゃあと私は良い身を選んで、貰おうかな?
「ありがとうございました」
「いや、こんな状態のいいもんならいつでも歓迎するぞ」
解体場のおじさんと別れてアルバへ帰る道を歩く。
「アスカ、あの皮は取らなかったな」
「うん。あんまり暖かそうじゃないし、バッグとかなら前に買っておいたガンドンのとかサンドリザードのがまだ余ってるし」
「あいつら大きいからねぇ」
でも、ガンドンの革は服の内側にするには重いし、布か安い革を仕入れないとね。いつも通り、遠出して帰ってくる時は疲れているので街道を通って帰る。お陰で魔物にも出会わず、すんなりアルバに到着した。
「アスカさんたちですね。お帰りなさい」
「ただいまです。あ、これ結構取れたのでお土産です」
私は200gぐらいを包んだグラドンセの肉を衛兵さんに渡す。
「ありがとうございます。さっ、どうぞ」
久しぶりのアルバだ。私たちはそれぞれ帰ってきたことを伝えるために門を通って別れる。ジャネットさんは熊の内臓をジェーンさんに届けに行き、リュートは孤児院に、ノヴァは大工の女将さんたちに会いに行った。
「さて、私も宿に戻らないとね。行こうアルナ!」
ピィ
宿に向かっているとすれ違う人たちにこっちを見られる。女の子とかは私を指さした後で、細工を指してるからきっと友達に私の細工だよと言っているのだろう。男の人はよくわからないけど、私の知ってる人の知り合いなのかも?
「ただいま~」
「あっ、おねえちゃんおかえり~。早い時間なんだね」
「うん。レディトで用事もなかったからすぐに帰って来ちゃった。それと、これ食べてね」
「いつもありがとう。これはなあに?」
「私もよく知らないんだけどグラドンセっていう魔物のだよ」
「へ~、わたしも聞いたことないかも。おとうさ~ん!」
私も知らないということでエレンちゃんはライギルさんに何か聞きに行った。多分、あの調子だとこの辺じゃ珍しい食材なので、話が長くなるだろうから私は自分の部屋に戻る。ちなみにリンネたちは孤児院の子たちを送って行っているみたいでいなかった。
「ただいま~」
チィ
チッ
帰ってくるなり、バササッとミネルたちが迎えてくれる。うれしい~と思っていたのだけど、すぐに2羽ともアルナを連れて巣に入ってしまった。
「あっ、そういえばアルナって勝手についてきちゃったんだっけ?」
「おかえりなさい」
「ティタ、ただいま。何かあった?」
「だいじょうぶ。ディースやミディとすごしてた」
「ミディちゃんと?」
ディースさんは分かるけど、ミディちゃんとティタってどんなことしてたんだろ?
「ねぇ、3人で何してたの?」
「せんとうくんれん」
「へっ?」
思いもよらないことだったので声も裏返ってしまった。
「えっと、三人で訓練したの?」
「うん。みんなでみずまほうをつかう、くんれんした」
そっか、全員水魔法が一番得意だから練習したんだね。ディースさんもかなりの実力の魔法使いだったし、ミディちゃんにはいい相手だったと思う。ティタとも魔力が近いから刺激にもなっただろうしね。
「そっか、充実してたみたいでよかったよ」
その日はそのままゆっくりした。もちろん夕食にはグラドンセのお肉が出たよ。癖があるかなって思ってたけど、臭みもないし、上等なお肉だった。ただ、ライギルさんは骨がないって残念そうだったけどね。私が持って帰ってきたのはいいところだったから、そういうのもきれいにしてくれてたから。リュートやノヴァなら持ってるかもって言ったら、嬉しそうに明日訊ねてみるって言っていた。
「はふ~、久しぶりのお風呂だ~」
結局、ノヴァとリュートが先に入っちゃってエヴァーシ村では入れなかったし、やっぱり久しぶりのお風呂は心が洗われるよ。満足して私はお風呂に上がってぐっすり眠った。
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「よし!これで完成っと」
帰ってきたらまたしばらくの間は細工だ。その前にすぐに売れてしまったリュックもどきとエヴァーシ村に納品する妖精のネックレスの新しいのを作らないとね。
「そういえば、シャスさんにも新作を作らないといけないんだった。鍛冶をしているからネックレスとかブローチは邪魔だろうし、何かいいものないかなぁ」
色々と考えた結果、身につけるものは何らかの作業で邪魔になりそうという結論になった。それならばと、新しい妖精像を作ることにした。
「といっても、あの湖のところの景色以外には思いつかないんだよね~。そうだ!この前出会ったシャディッシュたちを一緒に描いてみよう!」
そうと決まれば早速、紙を出して描いていく。ベースとなるのは前に作った妖精像。そこから自然になるように角度を変えた絵を描いて、右と左にシャディッシュを描く。これなら、鍛冶場に置いていても見えるし、邪魔にはならないだろう。
「妖精さんというか精霊様もかなり神聖な存在らしいし、ここは銀一択だよね」
私は銀を取り出すと、描いた絵を元に形を整えていく。ある程度削ったら後はワンピースの出番だ。
「装着、そして準備完了!行くぞ~」
こうして膨大なMPを消費して細工を完成させていく。この服と魔道具を勧めてくれた服屋のお姉さんと、細工屋のおじさんに感謝だよ。私の力だけじゃ絶対無理だったね。
コンコン
「おねえちゃん起きてる~」
「どうしたの~」
あれから頑張って、妖精像を完成させて眺めていると、エレンちゃんから呼ばれた。
「早くごはん~」
「分かった。すぐいくね~」
食堂に下りると、お客さんはいなかった。
「あれ?まだ早い時間なの?誰もいないけど」
「なにバカなこと言ってるの。もう店じまいだよ。早く食べてね」
「へ?」
見ると、お昼にはいたはずのエステルさんの姿がない。もう帰っちゃったってこと?
「ほら、お手紙も来てたのにおねえちゃんが反応しないから預かっておいたよ」
「どうも…」
まだよくわかってない私は手紙を受け取りながら状況を確認する。とりあえずごはんを食べて部屋に戻る。手紙を開いてみるとムルムルからだった。
「何々もうすぐそっちに行けそうだから、よろしくね!だって。えっと、日にちはいつ頃かなぁ」
予定日を確認すると3日後だった。
「わっ、急いで準備しないと!えっと、誰が来るのかな?」
もう一度手紙を読むとなんと今回は特別にラネーが来られるんだって!いっぱいおいしいもの食べさせてあげないと。