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レディトからアルバへ

ベンガルのみんな曰く、たまに訪れるボーナスことグラドンセの群れとの邂逅を終え、私たちは再びレディトへと向かっていた。


「それでは、この辺で一度休みましょうか」


「そうだな。だが、まだこの辺は魔物に遭うことも多い。気を抜かないようにな」


「はい」


行きとは違って、こっちの方が危ないので食事は次の休憩に取ることにした。御者さんは馬の面倒を、みんなは各々休憩を取っている。私も木に寄り掛かって適当に風景を眺めていた。


ピィピィ


「ん?アルナどうしたの?」


その辺を飛び回っていたアルナが私のところに来て何かを訴えかけている。草原の奥の方に顔を向けてるみたいだけど…。


「ま、いっか」


私は魔力を使って、そっちの方角を探知してみる。ん?何か大きい反応があるな。私は横で座っているジャネットさんに声をかけた。


「ジャネットさん、あっちに大きい反応があります」


「あっち?ブリンクベアーか」


「多分」


するとジャネットさんが剣をカシャカシャと2回出して納める。一応決めている緊急時のサインだ。


「なんだ!?」


「奥の方、よく見てみな。あっ、視線だけだよ」


「ん?景色が…ブリンクベアーか!」


「そういうこった。御者と馬にはこっちに来るよう伝えてくれ」


「分かった。おい、行くぞ」


「あ~、あいつか~」


ベンガルの3人は御者さんに何か尋ねるふりをして、場所を変わる。御者さんも落ち着いて馬を先にこっちにやって、それを追いかけるようについて来た。


「おお、助かりました。あいつらは見えないんで、冒険者だけでなく馬や人も襲われてるんです」


「アルナのお陰ですよ」


「流石は幸運を呼ぶ鳥ですな。ありがたや」


多分、野生の生き物だったら割と分かるみたいだけどね。匂いか周りの変化に鋭いから。どんどん近づいてくるブリンクベアー、みんなはそれと最適な間合いを測っている。馬車から10mぐらいに差し掛かった時、ベンガルのみんなが動いた。


「行くぞ!」


「アースグレイブ!」


短杖を構えて、土魔法を発動させると他の2人が躍りかかった。ブリンクベアーは魔法をかわそうとするけど、2撃3撃と連続で魔法が放たれる。


グワァー


アースグレイブは魔物に命中しなかったが、ブリンクベアーの後ろと斜め前に出来て、相手の動きを阻害する。そこへ2人が剣を持って一気に迫る。


「くらえっ!」


リーダーの人がいるであろう位置に切りかかる。しかし、それにはブリンクベアーも反応して反撃を行う。それを見越していたかのように、リーダーの人が避けて反対側に回っていた人が横腹を刺す。


アオォォー


痛みにたまらず魔法を解いたブリンクベアーの姿があらわになる。こうなるとブリンクベアーはオーガとあまり変わらない。筋肉質な体に強い力があるだけの魔物だ。再びリーダーさんが切りかかり、ブリンクベアーの首を落とす。


「ふぅ~、相変わらず緊張するな」


「そうだな。うちは重戦士とか重装備の奴がいないから当たったら大ごとだからな」


そういえばベンガルもフロートと一緒で、鎧は主なところが金属で、他は革を使っている。あの力と爪は脅威だろう。


「で、どうする?獲るか」


「やめとこう。こんなのの素材で臭いがついたらたまらん。それに素材も最近余り気味で値下がりしてるって話だしな」


「なら埋めるよ~」


ボコッ


魔法で穴を作り出すとブリンクベアーをそこに入れて埋める。もう一度、辺りに魔物がいないことを確認して急いで出発だ。魔物ごとに縄張りはあるものの、獲物を襲っておこぼれをもらおうとする魔物もいる。そういうのに絡まれないように休憩も切り上げだ。


「はう~、折角の休憩が…」


「仕方ないよ。それよりアルナ、ありがとな。助かったよ」


ピィ


休憩時間飛び回っていたアルナは、満足したという感じで私の肩に乗る。移動中は襲われる危険があるから飛び回れないんだよね。


「そうだ、さっきは助かった。うちのやつも察知は得意なんだが、位置を把握するのには時間がかかるんだ」


歩きながらお礼を言われたので、アルナのお陰ですよと返す。


「それも含めてお前さんの実力だ。こいつは気配察知は出来るが、目視だ。そういうカンみたいなもんで分かるのがいなくてな」


「地面の音とかで判断できないんですか?」


「地面の音?」


「はい。こう土魔法をアースグレイブみたいに突き出さずにぶわーって辺りに広げるんです。そしたら歩く音とかが振動でわかりますから、その大きさで相手のサイズとか位置が分かるんです」


私はそんなこと出来ないけどね。確かユスティウスさんがそうやって探知してた気がする。この人も同じCランクなんだからきっとできると思うんだ。


「へ~、そうやって探知できるんだ~。ちょっとやって見よ~」


「あっ、まて!」


リーダーさんが止める間もなく、斥候役の人が私の言った通りに魔法を試す。


ボコッボコボコッ


「あれ~?地面が盛り上がっちゃったよ~」


「そりゃそうだろ。アスカの話を聞いた時点で、お前はアースグレイブを連想してるんだ。その状態で地面に魔力を送り込んだら、槍が出ないだけになるのは分かっただろう。もっと魔物がいないところで練習しろ」


お兄さんは魔法剣士って言ってたけど、割と魔力があるのか、結構広い範囲で土がぼこぼこしてしまった。多分見た感じ、リュートより魔力はありそうだ。でも、良かったここが草原で。誰にも怒られないしね。


「わかった。はあ~、折角新しい技術が身に付くと思ったのに~」


「そういうのは護衛中にやるな。特にこんな草原じゃな」


「そうだぞ。俺たちにとっては魔物は儲けになるが、御者の旦那からしたら危険な存在なんだ」


「はいよ~」


納得したように言ったが、気付かれないようにその後ちょっと使っていたみたいだ。魔力の流れが感じられるからわかっちゃうんだよね。たまに地面が盛り上がってるし。


ピィ


その度にアルナが風の魔法で押し固めていた。いつの間にかアルナも自分から風の魔力をぶつけるんじゃなくて、離れたところの空気をぶつけられるようになっていたみたいだ。これも釣りのお陰かな?


「はぁ~、やっぱり帰りは面倒だぜ!」


「まあ、このぐらいなら普通だな」


結局、あれから次の休憩場所までは魔物に出会わなかったものの、夕暮れ時になると再びローグウルフとブリンクベアーに出くわした。


「でも、お前らのお陰で怪我無くいけてよかったぜ。ブリンクベアーも2匹となると、ケガとかも割としてたからな」


「今度からはもっと楽になりますよ。そっちのお兄さんが探知できるようになってるでしょうから」


「そうだな。だが、あいつらは小賢しいからな。離れて2匹いると注意がそれやすくてかなわん」


ブリンクベアーに再び出会った時に、2匹目の動きに気づかないベンガルのみんなのフォローで、私とアルナがウィンドカッターを使って迎撃したのだ。


「これまでも危ないこととかあったんですか?」


「ああ、幸い腕が飛んだりはしなかったが、半分ぐらい裂かれたことはある。どうしても関節近くは金属を使えんからな」


そんな話をしていると、商会に着いた。


「皆さん。今回は護衛ありがとうございました。商会員としてお礼申し上げます。ぜひ、またの護衛依頼の受諾をよろしくお願いします」


「はい!」


「こっちこそ、毎回取ってもらって助かってる。またよろしくな!」


「はい。ベンガルの皆さんにはこれまでの働きもありますし、こちらを1枚お渡ししておきます」


「これは?」


「商会優待カードです。これをお持ちいただいて、入り口で見せていただければ特別価格でご提供しますよ」


「そうか、そりゃありがたいな。だが、あいにくと俺たちは飾りっ気がなくてな。ま、いい女でも見つけたら来るようにするよ」


「お待ちしております。一部ですが、魔道具もありますのでいつ来ていただいてもいいですよ」


「そうなのか?あんたんとこは飾り物が中心だって聞いてたが」


「ええ。最近は良い方を見つけましてね。そういったものも一部扱っているんです」


「なら、今度寄らせてもらうぜ」


「是非に」


こうして、久しぶりの合同依頼は完了し、ベンガルのみんなとも別れる。


「今回は色々助かったぜ。素人集団かと思いきや練度も高いし、また組もうぜ」


「うちは王都には行かないから、全員そろうのはまたエヴァーシ村に行く時だけだけどね」


「そりゃ、残念だ。それじゃあな」


「今度会ったら、またお願いします」


今日は時間も遅く、もう夜なので依頼完了は明日になる。私たちは急いで宿を取った。


「ふぅ~、いつもの宿が空いていてよかったよ」


「受付もぎりぎりでしたしね。お陰でご飯はなしでしたけど」


明かり一つにしても魔力や燃料を使うので、夜遅くまで空いている店はほとんどないのだ。店の方もたかだか数人のために料理を作ってくれるわけもない。


「しょうがないね。また、保存食に頼るか」


「外に出て、火の魔法を使いましょうか?」


冒険者ショップとライギルさんが頑張って作った、ドライ食品がある。試供品という形で私もいくつか貰っているので、お湯さえできればちょっとはましになるのだが…。


「やめときな。下手に宿の前で火なんて使ったら放火犯に間違われるよ」


「それは嫌です」


「嫌というか、ろくに調べもせずに犯罪者扱いされるかもね」


「怖いこと言わないでくださいよ」


「まあ、アスカみたいなのの宿命ってやつさ。そのまま犯罪者にしちまえば、放火は一発で犯罪奴隷行きだ。自分で買うなり、闇市で売るなり相当な儲けになるからね。美人で自分で稼げる奴隷なんてめったにいないしね」


「そ、そういうのってやっぱりあるんですか?」


「まあ、何十年かに1人ぐらいはね」


「ほっ、それならまあ安全ですね」


「捕まるやつが…だけどね」


「ひぇ」


大人しく保存食にしておこう。そうしてやっぱり王都には近づかないように改めて思うアスカだった。



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