引き取りと仕入れ
ジャネットさんと一緒に村長さんの家にお邪魔する。
「おや、今回はどうなさいました?」
「えっとですね。実は2日前に草原で魔物を倒しまして、ローグウルフとガンドンなんですが。あっ、皮は今回使う当てがあるのでないんですけど、肉がいるかと思いまして…」
「本当ですか!?それは助かります。うちの村じゃ中々魔物は倒せなくて、肉と言えばこうして来てくれる商人の方が持ってきてくれる干し肉と、その時の冒険者の方が分けてくれるものが頼りでして…」
「それじゃ、買い取ってくれるってことで、どこで出したらいい?」
「以前にも来ていただいた解体場にお願いします。今回は時間もないですし、一度私が買い取って村で後で分配しますよ」
「分かった。それじゃ、向かうか」
私は村長さんと一緒に解体場へと向かう。途中で村長さんが呼んできた前にも解体してくれたお姉さんと合流して現場に着いた。
「さあ、今日は何を出してくれるのかしら?」
「じゃあ、出していきますね~」
まずは簡単にだけど解体しているローグウルフからだ。皮をはいでいるから後は細かい部位の切り分けとかになるだろう。
「あら、今回は肉だけなのね。それにきれいな切り口ね」
「ま、これでも商売道具を使ってるんでね」
ジャネットさんが腰に下げた剣を見せて言う。それにはお姉さんも納得している。
「じゃあ、切り分けたのから横の小屋に運んでいくわね。ちょっと、次は待っててね」
30分ほどで切り終え、保管場所である小屋にどんどん運んでいく。
「お待たせ~。さあ、次お願い」
「次はこいつだよ」
ジャネットさんが今度はガンドンを取り出す。こっちも同様に皮がないので切り分けるだけなんだけど…。
「うっ、ガンドンもあったのね。今持ってきてるこれじゃ時間がかかりそう…」
ガンドンは大きくて肉質もかたいので、結構時間がかかりそうだ。見かねたジャネットさんが提案する。
「じゃあ、代わりにあたしが切ってやるからどうやればいいか言ってくれ」
「いいんですか?それならお願いします」
ジャネットさんが剣を持って、お姉さんの指示通りに切っていく。
「すごいわ!あっという間に切り分けられた」
「ま、普段からやってることだしねぇ。ああ、そうだ。ついでと言っちゃなんだけど、ここ借りてもいいかい?」
「まだあるんですか?」
「ああ、ガーキャットなんだけどここに来る時に倒してね。解体もまだだから使わせてもらおうかと思ってね。帰りにマジックバッグが満杯になるとも限らないしね」
「ええ、いいですよ」
そこで私たちはマジックバッグからガーキャットたちも取り出して並べていく。こっちは血抜きからだし、てきぱきやって行かないとね。
「この肉はどうします?」
「出来れば頂きたいですな。この肉も保存するコツがありまして長期保存できますし、干し肉にすれば冬の間かなり色々使えそうですから」
「分かりました。それじゃあ、皮だけ取っていきますね」
というものの、私は解体できないので簡単なところはジャネットさんが、丁寧さが必要なところはお姉さんがやって行く。
「う~ん。これは今日のうちの夕食にしようかしら?草原の魔物は群れで動く魔物も多くて、中々村では手に入らないのよね」
確かに村単位でオーガ1体とかならともかく4体も出てきたら大変そうだな。罠にかけて群れと分断してようやくってところだろう、それも間違って村に来ないように注意が必要だ。その為に狩りに行く時はマジックバッグに入れて運ぶんだって。血の匂いをたどられないようにということらしい。
「んで、今回は肉だけだけど村長さんいくらだい?」
「そうですな出来れば銀貨5枚ぐらいでと考えておりますが…」
「う~ん、安い気もするけど他の素材もないしそんなもんかねぇ。うちらもバッグが満杯でも困るしそれでいいよ」
「では、戻ったらお支払いします」
解体にもそこそこ時間が経ってしまったので、もう辺りは暗くなってきている。明日は朝から出発だから戻らないと。
「買取ありがとうございました」
「こちらこそ助かりました。こちらがお代です」
村長さんの家で代金を受け取って帰ろうとすると、お姉さんの首元のネックレスが光った。
「それ…」
「ああこれ?今日ここに来た商人さんが持ってきたものなの。宿にある妖精様と似た感じだったから思わず買ったのよ。大事にして娘が生まれたらあげようって思って」
「へぇ~、中々いいデザインじゃないか。なあアスカ?」
「そ、そうですね~」
それは私の作ですとも言えず立ち止まっていると、ドアが開いた。
「いやぁ~、今回も中々でしたよ。あれ?アスカさん」
「御者さん、お店終わりですか?」
「ええ。というかさっきまではシャスさんのところにお邪魔してたんですがね。剣とか鎧の受け取りとかありますしね。今度は魔石が欲しいと言われてしまいましたよ」
「そういや、シャスは一般向けのものも作るようになったのかい?」
「はい。当初は受注を受けてとの話でしたが、色々試したいことがあるそうでその試作をうちが引き取る形ですね。それでもいい値で売れるんですよ。彼女は魔道具の心得もありますから、売れ残ることも無くて助かってますよ」
そう言って、仕入れてきたものを見せてくれる。
「あれ?ここには円月輪がないんですね」
「あれですか?あれはこの村だから使い方が分かりますが、他の冒険者は馴染みがないので扱わないんですよ。武器屋もろくに説明できないものは置けないでしょう?」
「あ~そうかも。でも、買って行った人もいるので補充分くらいはあった方がいいかも」
「ん~、そう言われるとそうですね。一度店長に相談してみます」
「そうそう。アスカさんが持ってきてくれたという、妖精のネックレス売れましたよ。他の人も欲しそうだったので、また作ってもらえませんか?この村は妖精が居ると言われてるらしくて、出来たらちょっとデザインを変えてもらえると嬉しいんですが…」
「えっ、ああそうですね。考えておきます」
そういいながらそろーっと後ろを見る。
「このネックレスってアスカちゃんが作ったの!?」
「ま、まあ一応細工師ですし…」
「ますます大事にするわ。素敵なネックレスを作ってくれてありがとう」
うう~、普段対面での販売もしないし、する時も処分市みたいなものだから恥ずかしいよ~。そのまま、簡単にお礼を言ってそそくさと宿に帰ってきた。ジャネットさんは帰り道ずっと笑顔だ。
「ただいま~」
「あっ、お帰り。アスカちゃんごめんね。お昼帰ってこなかったから置いてたのしかなくて」
「いえ、私も帰ってこなくてすみませんでした」
「もう、夕食が出来るからそのまま待っててもらえる?」
「わかりました」
「うぃ~」
「ただいま~」
待っていると、入り口からノヴァたちの声がした。どうやら今まで手伝っていたようだ。
「おう!アスカ居るじゃん。わりぃけど裏の風呂沸かしてくれ!汗かいちまってさ~」
「それは良いけど、水は?」
「アルナが出せるだろ?」
「へっ?そうなの?」
ピィ
アルナは任せておけと強気だ。確かにレダが使えたけど、アルナも使えたんだ。てっきりミネルの風だけだと思ってたよ。アルナは先に裏手に回って水魔法でお風呂をいっぱいにしてきた。ちょっと見てたけど、水の出は少なくて、すぐにいっぱいになることはなかった。多分使えるといっても生活魔法ぐらいだろう。高めの魔力で補ってようやくって感じだった。
「ノヴァ、先に食事にするでしょ?」
「ああ~、もう出来るならそうするか。リュートもそれでいいか?」
「僕もそれでいいよ」
見るとノヴァだけでなくリュートも汗をかいている。
「リュートはどうしたの?指示するぐらいじゃなかったっけ?」
大体、手伝いといってもリュートなら風魔法で木を切ったり、切り株の根を起こしたりするぐらいだと思うんだけど。
「それが途中からノヴァがあれ運べだの、レンガを組めだの言ってきてさ。流石に僕も魔法をずっと使えるわけじゃないから仕方なくね」
そういうリュートもちょっとしんどそうだ。途中からって言ってるけど、結構最初の方からあれこれ言われてそうだ。同じ孤児院出身だし、ノヴァも遠慮がないからきっといいように使われちゃったんだろうな。まあ、本人もちょっと嬉しそうだし、普段は別々に生活してるから昔を思い出したのかもね。
「あら、2人も帰ってきたのね。それじゃ、一緒に準備するわね」
ベンガルの人たちを呼びに行っていたお姉さんが戻ってきて、急いで厨房に戻る。多分、余熱とかで置いていたのだろう。すぐに戻ってきて、サラダからどんどんテーブルに並べていく。
「おおっ!昨日に引き続いて色んなのがあるな。これがあるからこの依頼は良いんだよ」
こうして私たちは出てきたものから食べていく。
「そういや、アスカだっけ?昼間はえらくガキどもが懐いてたが、何かしたのか?」
「え~と…あの円盤を投げるのが上手いから、ちょっと教えたぐらいですよ」
「は~、そうだったんだ。あれ珍しいよね~。レディトどころか王都でも見たことないよ~」
「小さい村ですから、広まることがなかったんじゃないですか?」
「まあ、そうだろうな」
納得したような感じでリーダーさんもうなづいている。ほっ、よかった~。
「はい、お待たせ。今日のメインはお魚よ」
「やった魚だ!でも、どこから獲ってきたんですか?」
「村の北東と南の方に大きい湖があってね。海に流れてるんだけど、そこは魚も豊富にいるのよ」
「そうだったんですね」
そのまま食事をしていると、ふとリュートがお姉さんに尋ねた。
「そういえば今日は商人さんが店を開いてましたが、お姉さんは何か買ったんですか?」
「ええ。干し肉とかね。この辺、肉は滅多に手に入らないから。それとちょっとこれをね」
そう言ってお姉さんが出したのはリュックもどきだった。
「なんだそれ?変わった袋だな?」
「でしょう?でも、この肩に掛けるところとかしっかりしてて、安定してるの。ものを入れてもずれたり食い込んだりしなくて、ちょっと量は入らないけど、丈夫そうだから買ってみたの。思ったより高かったけど、村じゃそこまでお金も使わないし、いいかなって」
「そうですか~」
う~ん、こういう需要があるとは思わなかったな。男の人向けに容量を大きくして、作りも簡単にしたやつを作ってみよう。その後も村に商人が来た時の話を色々聞かせてもらって楽しい食事だった。リュートたちは食事が終わると私が湯を沸かして、すぐにお風呂に入っていった。
「そろそろ寝るとするか。明日も早いしな」
「そうですね。皆さんおやすみなさい」
「おやすみ~」
「で、今日はその恰好するのかい?」
「まあ、巫女としての務めというか…」
実は今日は毎月祈っている祈りの日なのだ。祭壇を出して巫女衣装で舞いを捧げないといけない。流石に部屋以外では着替えられないから、ジャネットさんには見られちゃうけど。
「巫女アスカは日々の感謝を込め、運命神アラシェルに舞いを捧げます」
流石に鳴り物はまずいのでそれだけ外して舞いを行う。5分ほど舞うと私は祭壇の前に座り祈りをささげる。毎回この時は目を閉じているため、ぽわっと光っている気がするけど、まあ気のせいだろう。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
ピィ
明日は昨日ほどではないけど朝早いから、私たちも早く寝たのだった。