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お手入れと泉

「ふわぁ~、良く寝た~。アルナ起きてる?」


ピィ


エヴァーシ村に泊まった翌日。昨日は朝も早かったし疲れていたみたいで、ベッドに入った後はすぐ寝ていい目覚めだ。


「さてと、食堂に行ってご飯にしよう。確か、置いてあるって言ってたよね」


食堂に着くと、パンがまとめて入っていてその横の小皿にサラダ、大き目のなべにスープが入っていた。


「スープはと…あっ、冷製スープだね。すりおろした野菜が何種類か入ってるみたいだ」


ここまでくると野菜ジュースに近いけど、パンに付けて食べるし汁気は助かる。横にはきちんとアルナ用の野菜も置いてあった。


「いただきま~す」


ピィ


アルナと一緒とは言え、寂しく1人で朝食だ。まあ、シャスさんにお願いしたいこともあるし、出来るだけ早くに会いたいからね。量を見ると先に食べた人は1人いるかどうかぐらいだ。


「ごちそうさまでした」


食事を終えて、早速宿を出てシャスさんの工房に向かう。


「シャスさん起きてるといいなぁ」


行きがけに広場を見ると昨日の御者さんが広場で店の準備をしているのが見えた。まあ、営業も今日だけだし朝早くからになっちゃうよね。雨の日であれば村長さんの家を借りてやるそうだ。


「こんにちわ~、シャスさん居ますか?」


「ああ~、まだ品物引き取りにゃ早いだろ!いつも午後って言ってるだろ~」


文句を言いながら出てきたシャスさんの恰好は大胆だ。短パンと言えばまだましで、足がほぼ出るような下に上はタンクトップ一枚だ。というか、御者さんだったとしてこの格好は大丈夫なんだろうか?


「す、すみませんシャスさん。アスカです、弓を見てもらいに来たんですけど…」


「アスカぁ?あっ、ほんとだわ。ちょっと待ってろ」


シャスさんがどたばたと家の中を歩く音がする。それから3分ほどして…。


「待たせたな!んで、何を見て欲しいんだ?しばらく使ってみてサイズが大きかったか?」


「いえ、そっちは大丈夫ですよ」


というか、シャスさんもジャネットさんと一緒で、仕事の話をする時は鍛冶の恰好なんだ。後、せめてサイズは小さかったかって聞いて欲しかったな。


「ならなんだ?」


「最近、武器の手入れの話になって折角だから弓を見てもらおうかと。街の鍛冶屋さんじゃ出来ないって言われまして」


「まあな。あれは俺の傑作だし、その辺の鍛冶屋には無理だ。任せときな、新品同様にしてやるよ!ついでに防具も寄越しな」


普通の鍛冶屋に出来ないということが琴線に触れたのか、シャスさんはすごく満足した顔で弓と防具を取って奥に行こうとする。


「あっ、あの!今日中に出来ますか?」


「俺を誰だと思ってるんだ。それぐらい簡単だよ。出来たら宿に持ってくよ」


「お願いします」


シャスさんに装備を預けて、とりあえず目的の一つは達成した。後はもう一つだ。


「さあ、アルナも行くよ。シルフィード様に会うのは久しぶりだよね」


ピィ


そう、私のもう一つの目的はシルフィード様に会うことだった。前に来た時は特に神聖視されていなかったけど、あれからどうなったかが気になっていたのだ。農道を進んで泉に向かうために左折する。この道も前と違って人が通りやすいように整備されたみたいだ。


「こんにちわ~、シルフィード様いらっしゃいますか?」


「ん~、誰かと思えばアスカか。やけに来るのが早いわね。何かあったの?」


「いえ、あれからどうなったかと思いまして。村に寄ることになったので来てみたんです」


「そうなの。真面目ねぇ。あれから何人かで村人が来て、ちょっとだけ気を張って見たら『なんだか御利益がある気がする!』って言い出してね。きちんと道を整備して、定期的に集まるみたいよ」


「へぇ~、やっぱり精霊様ってすごいんですね!」


「そう?でも、宿にあるとかいう像のお陰よ。精霊なんて珍しいから、精々村人に思いつくのは妖精ぐらいでね。その像みたいなのが泉にいるから不思議な気がするんじゃないかって。だから、私の姿は見えないけど何かがいるって思いの力が働いたみたいね」


「そうだったんですね」


よかった~、妖精像を作っておいて。もしみんなにも見えるようになったら、シルフィード様を模した像だからきちんと見えるかもね。


「まあ、この高位精霊である私を妖精程度と見間違うのはいただけないけど、それだけ希少な存在で思いもよらなかったってことは仕方ないわよね。大目に見てやって、今後集まった時には適当に力を配っておくわ」


「力を配る?加護みたいな感じですか?」


「加護と比べたら大したことないけどね。ちょっとレアなスキルとかを授けられたりするのよ。もっとも、私の影響力を受けられる範囲にいないと駄目だから、村から長く離れると消えちゃうけどね。そんなことより折角来たんだから休んでいきなさい。ここは過ごしやすいわよ」


「じゃあ、お言葉に甘えて…」


泉の近くの木に腰掛けようと思ったら、シルフィード様が魔力を使って木を変形させて根元が座椅子のようになった。


「ほら、これでゆったりできるわよ。おチビちゃんはこっちね」


アルナにも小さい枝を出して止まり木を作ってくれる。私たちはこの泉一帯の木々に囲まれてゆったりとした時間を過ごした。


「…う~ん。あれ?」


目を覚ますと辺りは陽光が差し込んでいたが、光の方向が真逆だ。今は15時ぐらいだろうか?


「良く寝てたわね。実は疲れてたんじゃない?」


「そうかもしれません。ありがとうございます」


ピィ


アルナも元気に飛び回る。私も立ち上がってちょっと動いてみたけど、いつもより体が軽く感じる。


「なんだか体が軽いです」


「当たり前よ!精霊のひざ元で何にもないなんてことがあるわけないでしょ。熱と風で環境を整え、光と空間で不要な雑音を消し疲れが取れるようにできてるのよ」


ピィ


すごいとアルナも感心している。


「そこまでしてもらってすいません」


「いいわよ。アスカは名づけの親でもあるし、こういうことすると信仰が集まりやすいって私、知ってるんだからね」


急に俗っぽい話になってきたな。でも、ここじゃ信仰心がそのまま力になるみたいだし、この村だけでも信仰を得るのは重要なんだろうな。改めてお礼を言って宿に帰る。ちょっとお腹もすいてきたしね。


「ただいま~」


といっても、お姉さんはいないみたいだ。多分畑か田んぼにでも出ているのだろう。そう思って部屋に戻った。


「おや、お帰り。アスカが帰ってこないからそこに簡単だけど昼があるよ」


ジャネットさんに言われた通り、机の上を見るとサラダなど簡単だけどお昼が置いてあった。


「やった~!じゃあ早速、アルナも一緒に食べよ」


ピィ


用意された食事は夕食を考えてか量は少なめだけど、美味しかった。


「そうだアスカ」


「何ですか?」


「この前狩ったやつらの肉だけど、村長に話をしに行くよ」


「そうでしたね。忘れてました。そういえばリュートたち知りません?」


「暇だから家作りの手伝いをするってさ。いくら暇とはいえ頑張るねぇ。ま、ノヴァが乗り気でリュートは監督みたいなもんだけどね」


うう~ん、当座の資金を稼げるように紹介した大工の仕事だったけど、ノヴァには向いていたようだ。まさか、折角の休日まで頑張るなんて。食事も終え、ジャネットさんと一緒に村長さんの家に向かう。


「おっ!師匠~、こいつら結構うまいんだぜ~」


広場近くを通りかかると、フリスビーで遊んでいた子どもたちが声をかけてくる。ううっ、子どもに言われるのは恥ずかしいなぁ。


「ん?何だ師匠って?」


子どもたちが上手いと言っていたのはベンガルのみんなだった。暇だから珍しい遊びに手を出したのだろう。


「あはは…なんでもありませんよ」


「師匠はさ~、このフリスビーとかを作…モガガ」


「ははは、なになに?久しぶりに私が投げてるところ見たいの?じゃあ、ちょっとあっち行こうね~」


広場の端に男の子を連れていくと、他人がいる時に師匠と言わないように念を押す。


「分かったよ。そうそう、俺最近エンゲツリンなら一番うまくなったんだぜ!」


確かこの子は力を過剰に入れてた子だな。調整が上手く行くようになったんだ。


「おめでとう。でも、危なくないの?」


「うん。俺らはまだ子どもだから木で出来たやつ使ってるんだぜ。でも、ちゃんと同じぐらいの重さになるように厚みもあって端には布を巻いてるんだ。だからちょっと安定性悪いけどな」


最悪当たってもケガしにくいように対策はとられているらしい。一度見て欲しいというので、みんなにはちょっと離れてもらって見学する。


ヒュー


綺麗に真っすぐエンゲツリンもどきが飛んで行く。へ~、言うだけあって結構うまいかも。


「どうだ?すごいだろ!」


「うん。ちょっと最初ぶれたけど後は安定してたね」


「そうか?じゃあ、師匠もやってみてくれよ」


「私が?まあ、ちょっとだけね。用事があるから」


私はエンゲツリンを受け取ると、とりあえず1投目を投げる。


「ありゃ、思ったより真っ直ぐ飛ぶんだね」


というかフリスビーの投げ方だったな。本来は外側は刃になってるからこれじゃダメだ。私は円の内側に手を入れて内側を持って、体の後ろにそらしてから突き出す時に手を放す。


「わっ!すげえ!しかも早い」


1投目の感覚を頼りに投げた2投目は投げた高さのまま一直線に真っ直ぐ進んでいった。


「って危ない!」


受け取るために前にいた子もびっくりしている。私はとっさにその子の正面に風の魔法を展開して当たらないようにする。


バン


壁に当たる音とともにエンゲツリンは勢いを失って地面に落ちる。


「ごめんごめん。ちょっと、早かったかな?」


「ううん。やっぱり、師匠はすごいです。ずっと練習してる私たちが考えつかないやり方を知ってるなんて」


そういえば、この投げ方はやったことなかったな。いつもは胸の所まで腕を引いた投げ方しか見せたことなかったし。後、みんなして師匠言わないで欲しい。ほら、ベンガルの人たちもなんだ今の見たいな目でこっちみてるし。


「アスカ、用事があるだろ。早く行くよ!」


「あっ、はい」


見かねたジャネットさんが追及をかわすために話しかけてくれたので、私はそれに乗ってそそくさと広場を後にした。




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