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エヴァーシ村での再会

森にガーキャットらしき反応を見つけた私たちは、ベンガルに馬車を任せ森の方へと歩みを進める。


「アスカ、反応はどっちからだい?」


「今だと前方に4頭ぐらいですね。端に避けたりしてるのはいません」


「そりゃあいい。変に動かれたら護衛も大変だからね」


「なら、先に攻撃しちゃいますか?分かれたら面倒ですし」


「ああ、その手で行こう」


「じゃあ、リュートもよろしくね!」


「分かったよ。ウィンドカッター!」


私とリュートでウィンドカッターを使って先手を取る。


ヒュン


バキ


「あっ、リュートだめだよ。木を切っちゃ」


「ごめん。うまくコントロール出来なくて」


まあ、木は切りやすく並んでたりもしないし、全部避けるのは難しいか。そのまま進んだ風の刃はガーキャットに向かう。


ガォン!


風の流れが変わったのに気づいたガーキャットたちは、すぐに散開してこっちに向かう。ただ、居場所がばれているのは分かっているようで、変に回り込む個体はいないようだ。こっちはジャネットさんとリュートが左右前方。私が中央やや後ろで、ノヴァがフォローに行けるようにその後ろだ。


「そろそろ森を抜けてくるよ。気を抜くな!」


「はい!」


ガーキャットたちは左右に分かれてこっちを攻撃してきた。私はリュートに寄った2体の内、中央に近い方へと魔法を放つ。


「くらえ!ストーム」


手のひらから嵐を作り出し、1頭を包み込むとそのまま木を巻き込むようにして、さらに嵐の方向を空へと向ける。


「体は余り傷つけたくないからっと。エアカッター」


私は上空にガーキャットが上がったところで魔法を解除して、そこに風の刃を1本叩き込む。この辺りには魔法が得意な魔物は少ないし、経験上これで行けるはずだ。


ザシュ


目論見通り、1頭を倒し残りに目をやる。


「リュートが1対1で、ジャネットさんの方は…ノヴァが加勢に行ったから大丈夫だ」


攻撃するにしても守るにしても近接で手数の多いノヴァなら心配ない。それよりは大勢を決めるためにリュートの元に私は向かう。


「リュート、行くよ!」


「分かった」


私が声をかけるとリュートは直ぐに相手との距離を取る。本来の槍の間合いに合わせたのだ。距離をつめようとするガーキャットに私は魔法と弓をお見舞いする。


「ウィンド、いけっ!」


風魔法で相手を怯ませ、そこに足めがけて矢を放つ。ドスッと矢が命中してそこにリュートが魔槍を突き出して仕留める。


「後は向こうだけだよ」


「うん。すぐ行こう」


ジャネットさんが1頭を倒し、手数で勝るノヴァが足止めをしている間にさらにジャネットさんが切りかかる。


「はっ!」


こうして戦闘を終えた私たちはふぅと一息ついて、魔物を回収する。のんびり解体をする時間もないので、そのままマジックバッグに収めた。


「なんだ、お前らやるじゃないか!」


「当たり前だぜ!」


「この前のパーティーよりよほど頼りになるよ」


結局、行きで出くわしたのはこの時だけで、比較的安全にエヴァーシ村に着いたのだった。


「日暮れに間に合うどころか、まだ余裕があるな。こんだけ順調なのも珍しいぜ」


「そうですね。もっと襲ってくるかと思いましたけど…」


「ま、その方がうちら商会の人間は楽でいいですがね」


「俺たちは持って帰るものがなくて困るがな。依頼料も金貨1枚とはいえ分ければ銀貨5枚だ。明日は販売日だから出発できんし、丸3日がかりでの儲けにしちゃ少なすぎる」


まあ、3日泊まって食事すれば、銀貨1枚以上かかるしそれだけじゃあね。


「とりあえずは宿だね。お姉さ~ん、部屋っていくらありますか?」


「うちは4部屋あるわよ」


「じゃあ、2部屋お願いします」


ちなみに、商会のおじさんは村長の家だ。この村にわざわざ商品を届けてくれるお礼代わりとのことだ。


「こっちは1部屋でいい。ベッドはいつも通りあるよな?」


「はい。うちは大部屋2つにペアの部屋が2つだけですから」


「にしても、毎回来るたびに家が良くなっていくな。この村は」


「ええ、そちらのアスカさんたちのお陰ですよ。木材と良いレンガの作り方を教えてもらいました」


「そんな~、それを言うならノヴァにですよ。私は1軒しか関わってませんし」


「お前ら、家建てたのか?」


「まあ、成り行きで」


「成り行きで建てられるもんなのか…」


呆れるどころか何したらそうなるんだみたいな視線を浴びながら、私たちは部屋に入って荷物を置く。もちろん、私はジャネットさんとだ。


「飯までゆっくりするかい?」


「そうですね。朝早くから疲れましたし。あっ、アルナのご飯もお願いしないと!いこっ」


ピィ


私はアルナを連れてお姉さんのところに向かって、ご飯を作ってもらえるようにお願いした。


「アスカちゃん、食事出来たわよ」


「は~い」


順番にご飯が呼ばれたので、早速食堂に向かう。私たちが一番先に声をかけられたみたいで、どんどん人が集まってくる。


「さあどうぞ」


今日のご飯は干し肉?を戻したスープで具に野菜が、後はサラダに簡単なパンというものだった。


「相変わらず、パンかてぇなぁ」


「ノヴァ、アスカみたいなこと言っちゃだめだよ」


リュート、その言い方はどうかと思うよ。ベンガルの人たちも私の方をちらっと見て、それぐらいは言いそうだって顔してるし。


「そういえば、アスカちゃんってパンには厳しいわよね。どうしてなの?」


「アスカはアルバの方じゃ、やわらかいパンを食べてるからね。スープに付けないと食えないパンが苦手なんだよ」


「ほう、アルバにはそんな店があるのか。俺たちはこっち側と王都方面にしか行かないから知らなかったぞ」


「それは損してますよ!一度、アルバに行った方がいいですよ」


「そ、そうか」


「でも、王都方面と草原だけなんてそういうパーティーって多いんですか?」


「まあ、草原に行くってのはあんまりいないかもな。でも王都方面のみってやつは結構いるぜ。今でこそアルバ方面もそこそこ実力がいるからそれなりに受ける奴はいるが、前まではお遊びみたいなもんよ。レディト方面からしばらく何もなけりゃ、ゴブリンかオークだ。儲けはともかくそんなんじゃ腕がなまっちまう」


「そうだよね~。Cランクまで来たなら、アルバ方面を受けるなら港町から王都まで。その距離を護衛して初めて認められるって感じだったね~」


「そうそう。そうでないなら王都ーレディト間を往復するって感じだったからな。まあ、草原の依頼は気分転換みたいなもんだ。王都に行くのも護衛ならルートは同じ。出てくる敵も大体一緒になっちまうから、たまには野営の危険さとか、気の抜けない状態に身を置くってのが主なんだよ。冒険者として特定の魔物に特化したってのは、良くも悪くも幅を狭めちまうからな」


「へ~、立派な考えです。僕も見習いたいですよ」


「だが、お前らも変わりもんだよな。その歳でその腕なんだから、もっと威張り散らしてもいいだろうに」


「ははは、僕らには目標というか壁がいますから」


「そういうのがあるうちはまだ伸びるだろうよ。俺たちゃ安定期に入ってるからな。もう27、8の奴らばっかりだし、そろそろ引退が見えてくるころだ。まあ、あと4年やるかどうかだな」


「なんだよ。まだ4年後って言っても30ちょっとじゃんか」


「坊主の言う通りだ。だが、ちょっと腕が落ちてくるころだな。技術は上がっても力は下がる。前のような感覚でやれないってのは思ってるより大変なんだぜ。その辺りから実は死ぬ奴らも増えてくるんだよ」


「なんでだ?」


「最後に一仕事、気の済むまでやりたい。今までと同じように依頼を受けて失敗する。そういうのが増えてくるんだよ。坊主は早いっていうがな、別に冒険者は死ぬまでやる必要はないんだ。元手はあるんだから適当に生きるなり、商売するなり色々と方法はある。Bランクに上がりたい気持ちはあるが、無理してやばい依頼を受けるよりはってな」


「その気持ち私も分かります。今は世界中を見て回りたいですけど、将来はどこかの町に住んでゆっくりしたいんですよ」


「そうか。だが、普通は世界中を回りたいって思わないけどな」


「そうですか?」


「言葉は割と通じるが、それでも危険な場所が分からんし、魔物も様々だ。いくら経験豊富な冒険者といっても、どれにも相性がいいなんてことはない。身の程を知るのが冒険者だからな」


「こらこら、若者の夢をくじくようなこと言いなさんなよ」


「そうだな、悪かったよ。飾り気のないこの宿もあんな像を飾るくらいだ。そういう、大きな夢を見る奴がいるのもいいことだな」


そうやって何気なく指さした先には私の作った精霊の像が飾られている。名義上は妖精だけどね。


「あれはアスカちゃんに作ってもらったんですよ。細工が得意だって聞いたので村おこしの一環に作ってもらったんですよ」


「アスカ、お前家だけじゃなくて細工も作るのか?」


「いや、家を作るのはイレギュラーですよ。細工は普段から作ってますけど」


「そういえば、冒険者の女どもがそんな名前の細工師が良いのを作るって騒いでたね~」


「まあ副業にそういうこともしてる奴はいるが、精々生活費の足しだ。大体、本業がおろそかになるからな」


「アスカは週の半分は細工してるから本業は逆かもな」


「そ、そんなことないと思うけど…」


最後の方は声が小さくなってしまったけど、そこまでじゃないよ。ちゃんと冒険者って意識はあるし。


「それじゃ、お前ら普段週に何度依頼受けに行ってるんだ?」


「週一ぐらいですね。僕らは個人でも受けたりしてますけど」


「そんなんでよくやっていけてるな」


「ま、腕が良いのがあたしらの特徴でね。確実に無駄なくやりゃあそれでもやって行けるもんさ」


「拘束時間が短くて自由時間が多いってのはうらやましいな。逆にうちは週に3日は受けんといかんからな。しかし、どうしてそんなに間を空けるようになったんだ?」


「どうしてだっけ?」


「ほら、オーガとかが出るようになってDランク以下のパーティーに行動制限が入ったでしょ。そこでジュールさんにあんまり頻繁に行ったら足元をすくわれるぞって、注意受けたからじゃない?」


「でも、それってまだリュートたちがDランクになる前だったよね?」


「そうだぜ」


「えっ!?じゃあ、それからずっとそのままできてたの?」


「まあ、問題はなかったしね。僕らも空いた時間で自分たちだけで行ったり、他のパーティーと臨時で組んで依頼を受けたりと良い経験も出来たし」


「俺なんか最近もだけど、大工の仕事が忙しい時も調整しやすくて助かったしな」


「あたしは最初の頃は『なんだ結局は独り身に返り咲いたか?』なんて言われたけどね」


おおぅ。ジャネットさん、ごめんなさい。


「そりゃ災難だったな。おっと、もうかなり時間が経っちまったな。悪いが体調を崩したくないんで、そろそろ休ませてもらうぞ」


「また、帰りもよろしくお願いしますね」


「そりゃ、こっちのセリフだ。じゃあな」


その言葉を皮切りにみんなが部屋に戻っていく。私たちも部屋に戻って寝る準備だ。


「さっ、アルナはこっちだよ。おやすみ~」


ピィ


「アスカは明日どっか行くのかい?」


「はい。まずはシャスさんのところですけど、それ以外にもちょっと…」


「そっか。じゃあ、別行動だね」


「ごめんなさい」


「いいや、おやすみ」


「おやすみなさい」



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