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皮の調達

ギルドの先輩方への誤解を解いてしばらく。今日は久しぶりに冒険に出発する日だ。


「さあ、がんばるぞ~。ってことなんだけど、ノヴァから話があるんだって?」


「そうなんだ。僕もちゃんとは聞いてないんだけど、依頼についてお願いがあるんだって」


「へぇ~、ノヴァからなんて珍しいこともあるもんだねぇ」


ジャネットさんの言う通り、ノヴァは依頼について言及することはまずない。ああ見えて、ジャネットさんや私の強さに敬意を払っていて、依頼を自分で持ってくることはないのだ。もちろんお金のない頃は色々言ってたけどね。


「わりぃ、ちょっと遅くなった!」


「まあ、時間には間に合ってるよ」


「それで、依頼の話って何なの?」


「ちょっと隅っこでもいいか?」


「もちろんだよ。その方がいい」


私たちは隅のテーブルを陣取って、こそこそと話をする。


「そんで、依頼の話なんだけどよ。孤児院のことなんだ」


「孤児院?来年は冒険者志望のやつでもいるのかい?」


「ちげーよ。来年はみんな街の店に行く予定だ。ただ、もうすぐ本格的な冬だろ?実は去年割と寒い日があって、結構みんな風邪ひいちまったんだよ。コートも久しぶりに出したやつが、穴だらけでさ。それで今年はそんなことがないように、毛布でもいいし代わりのコートでもいいから用意してやりたくてな」


「それで、ウルフなんかの皮を取りに行きたいって?」


「おおっ、ジャネット!わかってくれるか?」


「分かるけどねぇ。店で買っちゃだめなのかい?その方が早いし、物もちゃんとしてると思うんだけどね」


「そこまで分かったら分かれよ!そこは『兄ちゃんすげ~』って言って欲しいだろ?」


「途中までいい話だと思って聞いてたのに、肝心の部分はそこなの!?」


ちょっと褒めてあげようとしたらこれなんだから。


「でも、皮は僕らでも用意できるけど、服なんてどうするの?僕もエステルだってちょっと穴を縫うぐらいが限界だよ?」


「リュート、バカだなぁ。何のためにうちにアスカがいると思ってるんだ?」


いや、私もみんなのためだったら服とか作るのもやぶさかではないけど、別に便利屋じゃないよ。たま~にノヴァは私を便利屋扱いするからね。


「ノヴァ、アスカだって細工とか仕事があるんだよ。みんなの分なんて手が回らないよ」


もしも~し、リュートさんや。ちょっとぐらいならいけるよ!みたいな感想もどうなのですか。まあ実際に2、3着ぐらいなら手間も知れてるけど、みんなの分となると既製品の方が安いんだよね。いくら材料持ち込みとはいえ、頼むとなるとオーダーメイド扱いだ。それならギルドに素材を売って、既製品を揃える方が安くつく。


「はぁ、あんたらねぇ。もうちょっとまともな計画を立てなよ」


流石ジャネットさん、2人の無茶をよくわかってる。


「でも、そっちの方が安いだろ?」


「いいかい。服なんて手間のかかるものをいちいち作る時間がアスカにあるわけないじゃないか」


「うんうん」


「まあ、布団ぐらいならブリンクベアーの皮とかで作れるだろうけどね」


「うん?」


ええっ、熊の皮とか敷くならともかく、掛け布団には向いてないんだけど…。服にはまずもって体格が合わないから向いてないし。コートぐらいなら大人用としては使えるかもしれないけど、どうなんだろう?


「とりあえず、そんな簡単な話じゃないからせめて数着だけにしよう?それに原料も獲ってくるんじゃなくて買おうよ」


「…分かったよ。じゃあせめて、敷物ぐらいは作るか。俺でも皮なら何とか出来ると思うしな」


そういえば、親方のところでそういうのもやってるって聞いたことある。という訳で今回の私たちの依頼はまずレディトまでの依頼をこなして、レディト東の草原で毛皮を入手することになった。こんなアバウトな計画になっちゃっていいのかなぁ。


「んで、サンドリザードの調査・討伐依頼か…」


「レディトで一泊するとして、相変わらず護衛はありませんからね」


「フィアルのとこも出してないし、仕方ないか。行くぞアスカ、アルナ」


ピィ


アルナ?アルナがどこにいるの?きょろきょろと首を左右にふっても姿が見えない。


「何やってんだアスカ?行くぞ」


「えっ、うん。アルナが居るの?」


「アスカ、いるも何も頭に乗せてるじゃない。どうしたの?」


リュートに言われるままに、頭に手を伸ばすとむにゅっと柔らかい感触がある。


「ア、アルナ、着いてきちゃったの…」


ピィ!


驚いた?と頭から肩に乗るアルナ。最近ちょっと大人しくなったと思ったら、この機会を狙っていたのか。


「家に帰しても着いてきちゃうだろうし、大人しくしてるんだよ」


分かったと嬉しそうに周りを飛ぶアルナ。ほんとに元気な子だ。


「岩場かぁ~、最近落ち着いてるからあんまり依頼もでないんだよね」


「そうだね。僕らも依頼を見に行くけど、調査が週に2、3回。討伐もたまにだもんね」


「このままずっと落ち着いてくれりゃあいいんだけどねぇ」


「そうだな。街に被害が出るのはごめんだぜ」


普段の生活以外にも、大工として色んな所にお邪魔してるノヴァが、私たちの中では街のことを一番気にかけている。


「そんで、この辺の薬草とか取るんだろ?」


「そうだね。調査と言っても、巡回の延長みたいなものだしのんびり行こう」


前と違って指定ルートも手前になったし、居たかだけで良いのだ。代わりに依頼料も安いんだけどね。なので、安全なこの辺りの薬草を失敬しながら進んでいく。たとえ魔物が出ても、オーガが3体前後まで、岩場に進めばそれがサンドリザードになる。サンドリザードはもう少し数が多いけど、対処には慣れているので問題ない。


「ん~、こっちはオーガも少ないよなぁ」


「まあ、サンドリザードが相手だと、とどめを刺す前に地中に逃げられちまうしね」


オーガもろくな武器は持っていないので、基本は叩きつけたり棒での打撃が中心だ。一撃で頭を落とせないなら、外皮がそれなりに硬いサンドリザードには逃げられるので、こっちにはあまり勢力を伸ばさないのだろう。


「ふぅ~、ようやく岩場だね。アスカ、魔物はどう?」


「ん~、今のところは反応なしだね。まあ元々この辺は少なかったし、しょうがないよ」


「でも、最近じゃこっちにも弱いのが多く出現してるようだよ」


「そうなんですか?」


「ああ、弱いってことから恐らくティタがいた時には近寄らなかった奴らだろう。いまだに強いやつらはこっちへはあまり来ないよ」


サンドリザードたちは一気に数を減らしたので、他の冒険者たちにも弱い個体、強い個体というのが認識されるようになった。以前は堅実に巣で育ってから外に出ていたので、冒険者にとってはやや倒しやすくなった。まあ、弱いサンドリザードの皮は安いんだけどね。だって、皮がやわらかいから防具に向いてないんだもん。


「はぁ~、結局回り道した割にはサンドリザードの弱いのが3匹に、普通のが2匹か。もうちょっと欲しかったぜ」


とはノヴァの言。報酬4等分なんだから、自分たちで肉を買っちゃうと、儲けがほとんど出ないのだ。サンドリザードの肉もおいしいんだけど、オーク程の量が取れないからね。弱いやつも肉質はやや柔らかい程度で、以前に領主様に献上したものほどの値も付かない。あそこまで若いのは珍しいのだ。


「まあ、依頼は達成したわけだし、持ち出しで宿に泊まらずに済むんだから愚痴んなさんな」


「そうそう。ほら、ノヴァお待ちかねのご飯だよ」


レディトに着くと、いつものマスターの店で食事を取る。今日はそこでちょっとした出し物をした。まあ、各テーブルにアルナが飛んで行って愛想を振りまいただけだけどね。純血種じゃないけど、見た目はほとんどヴィルン鳥だし、お客さんからしたら幸運の鳥に出会えただけで運気が上がると思われてるらしい。


「ごちそうさまでした!」


「こちらこそ、ありがとうございます」


マスターさんに見送ってもらって宿に戻る。


「ほら、アルナ。こっちで一緒に寝よ?」


こんなこともあろうかとというか、いつかこんな日が来ちゃうんじゃないかなぁと思って作っておいた、簡易巣箱を出す。開いている穴から入って下にはふわふわのクッションが、横には外から開けられる小窓が付いている。一応、寝るまでは寂しくないようにこうして顔が見れるようにしているのだ。


ピィ


10分ほどは巣箱を確かめたり、私とお話をしてた(私が話しかけるだけだった)けど、眠くなったみたいでその後は直ぐに眠ってしまった。


「おやすみアルナ。それにしてもミネルたち心配してないといいけどなぁ…」


パタンと小窓を閉めると明日に備えて私も眠ったのだった。



---


その頃、アルバでは。ヴィルン鳥とサンダーバードの母親同士が話をしていた。


「はぁ~、またうちの子ったらアスカについて行っちゃって。エミールは大人しいのにどうしてああなのかしら?」


「確かにエミールちゃんは大人しいですものね。うちのリースと同じで」


「そうなんです!あのバカ娘にもリースちゃんのような、おしとやかさが欲しいです」


「ですが、周辺にも同族は余り生息しておられないようですし、後々のことを考えるとよかったのでは?」


「それはそうですけど…はぁ、私が小さい時はもっと大人しかったのにどうしてかしら?」


思い出してみても崖の上で大人しく、草を食んでいたような覚えしかない。後は背の高い木の上を飛んだぐらいだ。人間にだってアスカが来た時以外は見つからないようにしていたというのに。


「その内、アスカの旅に付いて行くんじゃないかしら?」


「おや?ミネルさんは付いて行かないのですか?」


「ええ。残念ですが、エミールもおりますし外で生き抜けるほど強くはありませんので。それに主人はここを気に入っておりますので、別れなくてはいけませんもの」


「それはお辛いですわね。私も主人やリースを置いてはいけませんわ」


「ハーティさんもですか?あちらの一家の方もそうおっしゃられてましたし、サンダーバードたちは家族思いなんですのね」


「まあ、レディト東の山間にしか住んでおりませんので。同族も家族も大切なんですよ」


「それが一番ですわね。そう言えば聞きました?街の北東のバーナン鳥の奥さん…」


「ええ。もうすぐ3度目の子育てなんですってね」


「うらやましいわねぇ~」


このように愚痴と世間話をする鳥たちだった。(鳥語です)


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