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番外編 ジャネットのゆううつ

 ジャネットは王都へ来ていた。アスカがワインツ村に行くので、しばらくフロートとしての活動を行わないからだった。


「はぁ~」


「何辛気臭いため息ついてるのジャネット?」


「ああ、マディーナさんか。それにベイリスさんも」


「久しぶりだな。マディーナではないがどうしたんだ?」


「いや、ちょっとね……」


「こんな王都有数の酒場でため息なんて無粋よ。話してみなさい」


「話すって言っても、こっちのことだしねぇ」


 そう言って、剣を少し持ち上げる。


「それなら、ベイの担当ね。先輩として何かアドバイスしてあげなさいよ」


「そう言われても事情が分からないだろ?」


 じっと先輩冒険者の二人に見られるのは気まずい。


「はぁ~、分かったよ。言うよ、剣とアスカのことで悩んでるんだ」


「あの子がどうしたの? 喧嘩でもした?」


「いや、喧嘩とかはしてないね」


「なら何よ。あの子なら足手まといにはならないはずよ」


「まあ、そりゃそうなんだけど、その逆というかなんというか……」


「アスカのことは置いておいて剣のことというのは?」


 あんまり人に言いたくはなかったけど、誰かに聞いてほしくもあったので、話すことにした。


「単純に伸び悩んでるんだ。まあ、前も詰まったことはあるからそっちは仕方ないとは思ってるんだけどね。どうにも、剣術LVが5になって数か月経っても伸びてない気がしてね」


「あら、ジャネットって剣術LV5なの? すごいじゃない!」


「ありがとう、マディーナさん。でも、ベイリスさんは6はあるんだろ? 前に戦った時に差を感じたからな」


「気づいていたのか」


「まあ、あんだけ剣を合わせてりゃ想像つくよ」


 あの時のベイリスさん本当に強かったからなぁ。


「そうか。しかし、伸び悩んでいるなら明日でも剣を合わせてみるか? 俺は暇だぞ」


「本当かい⁉ 頼むよ。最近アスカと戦ってると限界を感じちまうんだ」


「そういえば、アスカのことで悩んでるって言ってたわね。そんなに強いの?」


「ああ。最近じゃ三勝する間に一敗してる」


「あの子の武器って確か……」


「魔法と弓だよ」


「それはまた……そっちが悩みのメインか?」


「ああ。二人も知っての通り、魔法使いや弓使いは一対一に近づくにつれ不利になる。魔法使いは詠唱や近接戦で、弓使いは限られたエリアでの戦いで、機動力を十分に生かせないからだ」


 だから、本来ランクも条件もあたしの方が断然有利だから負けるはずがない。はずなんだけどねぇ……。


「まあ、模擬戦なら戦える範囲も限られるしね」


「アスカはいわば近接に特化した弱点もちなんだよ。弓でも投擲でも魔法でも遠距離なら複数の武器で戦える分有利だ。だけど、近接になるとどちらもの弱点が露呈して、まず相手に勝てないんだよ。それが、最初は五回に一回、ちょっと前からは四回に一回は負けるようになってね。流石にまぐれというには難しくなってきたんだ」


「あの子、発想力や応用力に長けてたものね」


「それでも、魔法使いが近接主体の模擬戦で勝つのは難しいだろう? マディーナだってBランク以降は俺に一勝も出来てないだろ」


「ムカつくけどベイの言う通りね。アスカってそんなに強いの? 確かに、魔法に限ればかなりのものだと思ったけど……」


「ああ、弓はかなりの腕で魔法矢・連撃と厄介だし、そこに魔法を折り混ぜて来てね。正直、回避しながら何とか性格を読んで攻略するので精一杯さ。他人ならもう少し戦績は落ちるだろうね」


「それは俺も分かるな。マディーナは魔法のコントロールに絶対の自信を持っている。というかかなり意識しているからな。俺と戦う時には万が一にもコントロールミスが起きないような魔法しか使わないから、負けることはなくなったな」


「ちょっ、ベイ! そんな話初耳なんだけど!」


「言えば、俺と戦う時に癖をなくすだろう? 別に他人と戦う時や魔物との戦いの時には出ない癖だから放っている。指摘すると勝つのが難しいからな。だが、ジャネットの危惧は分かった。前衛は後衛の気遣いを肌で感じる。だからこそ、それを突くことが出来る模擬戦で負けること自体が不安なんだな?」


「ああ。このまま続けば、いつか勝てなくなるんじゃないかってね。他のパーティーメンバーもあたしが鍛えてやって腕を上げたって自負はある。でも、アスカに関していや、前衛との戦い方を教えたぐらいだ。このままじゃ自力で負けるんじゃないかって思うようになっちまってね……」



 だから、最近は剣を手にする時も緊張するようになってきた。自分にはその資格があるだろうかって。


「うう~ん。あの子がねぇ。一見、戦闘には向きそうにない性格だけど、確かにちょっと我を忘れるところもありそうだったわね」


「そうなんだよ。戦いが苦手そうな雰囲気だけど、割り切っちまえば恐ろしく容赦がない。冒険者に向いてると思うよ」


「でも、それであなたが限界を感じるってどうなの? 色々鍛錬もしてるんでしょう?」


「あたしもAランクを目指してるから、鍛錬は欠かさないさ。でも、どうしてもあの魔法や矢の攻撃を防げる自信が持てなくてね。たまに手ごたえを感じる時はあるんだけどね……」


「ふむ……。大体分かった気がする」


「本当なのベイ!」


「ああ。明日剣を交えてみたら、ジャネットにも分かると思う」


「そうかい。なら頼むよベイリスさん。何とか王都から戻る前にコツでもいいから掴みたくてさ」


「でも、あなたぐらいの冒険者がそこまで入れ込むなんてね。そんなにアスカが大事なの?」


「まあ、仲間だし妹みたいなもんでもあるからね」


「その思いがあれば大丈夫だろう。明日、昼過ぎにギルドで待つ」


「よろしくな!」


 ベイリスさんと握手をして酒場を出る。こんなチャンスは滅多にない。こんなところで酒なんか飲んでる場合じゃないね。そして次の日……。


「そこまで! 中々やるじゃない、ジャネット。流石私が見込んだだけはあるわ」


「どうも。三戦三敗だけどね」


「そう言っても、AランクとBランクなんだ。これぐらいの差しかないのはすごいことだ。それに剣筋も前より良くなってる。でも、自分じゃそこまでの強さを感じられないんだろ?」


「ああ、どうしても最近は強くなったって自信がつかないね」


「その理由は恐らく単純だ。ジャネットは俺を目標やライバルと捉えている。だが、アスカのことは超えなければならない壁だと捉えているんだ」


「アスカが壁?」


「そうだ。どんなに剣の腕が上がろうと、アスカにきちんと勝てないうちはまだまだ未熟だ。そう心の中で思っているんだろう。彼女に勝てなければ、どんなに剣の腕が上がろうと剣術LVは上がらんだろうな。スキルというのは言い換えれば自信の表れだ。無意識であろうとここまではできる! その意識が数字になったものだと俺は思っている。だから、アスカに勝てると思えるようにならないと、伸びを実感することもそれが数値に表れることもないだろう」


「そんなに切羽詰まってたとはね」


「まあ、あなたがそこまで弱気になってるんだもの。普通ならあそこで相談には応じてないわよ」


 マディーナさんに言われ、昨日の夜のことを思い出す。確かにあれはあたしらしくはなかったね。勝手に自分で自分を追い込んでたのか。


「そうかもね。だけど、どうすれば勝てるんだい? アスカが全力で向かってきて、確実に勝てるなんて思えないんだけど……」


「いいものがある」


 そう言ってベイリスさんがある場所に連れていってくれた。


「ここは有名な工房だね」


「ああ。今、ここにはある金属が運ばれている。それを使えばきっと勝てる」


「ほ、本当かい? でも、どこからそんな情報が?」


「以前から気になっていて調べていたんだ。俺は急ぎではないから手に入るのならと思ってな。旦那、居るか?」


「おおっ! ベイリスか。例の物がようやく手に入ったぞ」


「それなんだが、買いたいという奴がいてな」


「うちは、払いが良ければそれで構わんがいいのか?」


「ああ」


「それで、そいつはどこだ?」


「あたしだよ」


「お前は?」


「ジャネットっていうBランク冒険者さ」


「ふむ。剣を見せてみろ」


 言われるがまま、愛剣を渡す。


「ほう? 手入れは悪くないな」


「まあ、商売道具だしね」


「で、金はあるのか?」


「いくらだい?」


「金貨百三十枚だ」


「いっ⁉ そんなにするのかい! どんな名剣だい物は」


「なんだ、ベイリスから聞いていないのか?」


「ああ。あたしに必要な武器だっていうからね」


「こいつはまだ金属のままだが、魔法がかかっていてな。効果は魔法を分けるというものだ」


「分ける? 変わった効果だね」


 魔法を分ける効果って言われても聞いたことがない効果だ。使い方も全く思いつかない。


「ああ、だが優秀だぞ。範囲魔法は切断できるし、単体魔法なら拡散させて消し去ることが出来る。いわば、魔力消去だな。実際には違う効果だが」


「そんなすごい剣を! 良いのかいベイリスさん」


 そんなすごい効果の剣を手に入れる機会なんてそうそうない。ハイロックリザードの皮もそうだけど、金があれば何とかなるってものでもないんだ。


「良いの良いの。そんな仲間殺しの武器を持とうなんてベイには早いわよ。ベイは私を刺そうっての?」


「違う。高位の魔物の魔法が厄介だからだ」


「まあ、そういうことにしておいてあげるけど。そういうわけだからジャネットは遠慮なんていらないわよ。こそこそそんな武器を探してる輩にはね」


「……悪いねベイリスさん。ありがたくこの機会をもらうよ」


「ほう? お前、金貨百三十枚も払えるのか?」


「手持ちのやつを整理すればね。もし足りなかったとしてもすぐに用立てるよ」


「分かった。なら剣を作ろう。とはいってもこいつは量が限られてるから、お前さんの関わるところは持ち手ぐらいだがな。一応、長さは聞いといてやる」


「じゃあ、このぐらいで頼むよ」


「三日はかかるから、それぐらい経ったら来い」


「持ち手は?」


「それぐらい、当日に作ってやる。まずは刀身だ」


「はいよ」


 剣を作ってもらったあたしは完成次第、お礼を言ってすぐにアルバへ戻る。そして、剣が手に馴染んだのを確認してからアスカに勝負を挑んだ。これで勝てればまだあたしは伸びる。でも、ここまでやって無理ならもう打ち止めだ。一緒に旅には出るけど、戦い方は周りのフォロー中心に切り替えよう。ここまでやって勝てないならもう伸びはないだろうしね。



「ねえ、ジャネットの手前ああ言ったけど、本当にあれ譲っちゃってよかったの? 探して一年経つでしょ?」


「俺はまだ今度があるからな。ジャネットはあのままじゃ冒険者自体辞めかねないぞ。それに……」


「それに?」


「王都に名のある剣士は多いが皆高齢なんだ。数年後には手合わせを頼む相手にも不足しそうでな」


「なぁ~んだ。結局、自分のためなのね」


「俺も冒険者だからな」


 この鍛錬マニアが! と彼の鍛錬に付き合うために各地の有用な情報を密かに集めるマディーナと、旅好きのマディーナが危険に遭わないように腕を磨き続けるベイリスだった。



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