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アスカと限界突破

宿でゆっくりしていると、エレンちゃんがやって来た。


「おねえちゃん、シスターさんだよ」


「は~い」


わざわざうちに来てくれたってことは、ムルムルからの手紙だね。早速受け取りに行こう。


「シスターさん、こんにちわ」


「アスカ様、こんにちは。こちらお持ちいたしました」


「いつもありがとうございます」


「いえ、我らの巫女様の心の安寧にもつながりますし、いつでも仰っていただければ来ますので」


私はシスターさんから手紙を受け取るとお礼を言って、部屋に戻る。


「今度はどこからかな?」


夏にもらった手紙にはもしかしたら隣国まで出張だって言ってたし。結局どこまで行ったのかなぁ。


『元気ですかアスカ?私は結局、バルディック帝国まで行くことになりました。帝国は南側に砂漠地帯があり、毎年持ち回りで巫女が行くことになっており、今年は私が行きました。あそこは降雨の祈祷にも毎年行っています。なんといっても水が大事な気候ですからね。まあ、祈祷が成功しても失敗しても秋前には必ず行って、水不足なら魔法で大量に出すだけですけど。祈祷と言うのは建前で実際は水量保証の契約みたいなものですので』


「へ~、水の巫女だけに水不足の土地に水を恵みに行ってるんだね~。それにしてもムルムルの手紙は丁寧だなぁ」


一応、個人の手紙とはいえ立場ある身だから、検閲されることもあるみたいだからね。変に話し言葉ばっかりじゃ、小言が飛んでくるみたいだし。私からはどんな文章でもいいから楽で助かるよ。


『この手紙を書いている頃は王国に戻っているのですが、地方を回らなくてはならないため、秋は忙しい季節です。冬の間にはそちらに行きますのでどうかよろしくお願いしますね』


「おおっ!ムルムルまた来てくれるんだ。うれしいなぁ。何かお土産を用意しておかないとね」


折角だし、まだ見たことがない多重水晶にしようかな?帝国に行ったって書いてあるし、バラ模様のを1つ用意しよう。後の二種類は…おいおい考えよう。


コンコン


そんなことを考えていると、ドアがノックされた。


「アスカ居るかい?」


「ジャネットさん、どうしました?」


私は珍しい来訪者を招き入れる。ジャネットさんとは仲もいいし、おんなじパーティーだけど実は宿ではほとんど会わない。精々、買い物の待ち合わせで食堂で落ち合ったり、食事時が重なるぐらいだ。わざわざ部屋を訪ねてくるなんてどうしたんだろ?


「ちょっと今日、今から付き合ってくれないかい?」


「今からですか?別にいいですけど…」


「それじゃ、フル装備で街の東まで頼む」


「は、はい」


ほんとにどうしたんだろ?ジャネットさんの雰囲気自体、いつもと違う感じだし。私は直ぐに武器を点検して、防具を身につけて宿を発った。しかも、街の東って言ったけど一緒に行く訳じゃないんだよね。普段なら一緒に行くのにな。


「ほんとにどうしたんだろ?」


気にはなりつつも、急いで街の東まで行く。様子もおかしかったので、アルナたちはお留守番だ。


「き、来ましたけど…」


いつも練習に使っていた広場前へ来ると声をかける。反応自体はあるんだけど、姿が見えない。ほんとにどうしたんだろ?こんなこと初めてだ。


ザッ


「来たかい」


ジャネットさんが姿を現す。その装備は私と一緒の完全武装だ。だけど、黒い刀身の見たことがない剣を持っている。というか抜き身なんだけど。


「じゃあ、始めようかね」


「な、何をですか?」


「訓練だよ。あたしのね」


ジャネットさんの訓練?今まで私やノヴァたちに稽古だってやったことはあったけど、ジャネットさんの訓練だなんて初めてのことだ。


「ど、どうしたんですかいきなり。ジャネットさんが訓練だなんて…」


「いいから始めるよ。その前に」


ジャネットさんが魔力を使ったと思うと辺りに結界が出来る。


「これって、結界の魔道具ですか?」


「ああ、途中で止めに入られても嫌だからね。後、手を抜くんじゃないよ」


「はい」


ちなみに直近の成績は1勝3敗だ。まあ、以前はやられるだけだったからこれでも進歩したんだよ。でも、今日は何だか鬼気迫る感じだし、私も全力で行こう。


「ケノンブレス」


まずは間合いを取れるよう、向かってこれない魔法を打つ。真空を叩きつける魔法だけど、ジャネットさんは回避の方法がある。投擲ナイフの中に、魔法を無効化するような物があり、それで打ち消せるのだ。でも、剣から持ちかえるので間合いが取れるってわけ。


「はあっ!!」


しかし、ジャネットさんが剣を振ると、魔法が消されてしまった。


「な、何で!?ウィンドカッター」


取りあえず、もう一度間合いを取るために魔法を打つ。よく分からないけど、これは不味い。その後も適当に魔法を打ちまくって距離を取る。ただし、魔法無効化のナイフもまだあるのでアースウォールは使わない。


「魔法で出したのと、作ったものは違うからね」


作り出してすぐは、魔力の影響が大きくて、無効化で消されてしまう。時間が経てば自然現象になるのか消えないんだけど。だから、アースウォールは私の視界がなくなるので、諸刃の剣なのだ。


「へぇ、もっとビックリするかと思ったけどねぇ」


「ナイフで見慣れてますから!」


私は話ながら木の上に飛び上がり、矢を放つ。声は下から聞こえるようにしたので、不意を突けるかも。


「はぁっ!」


連続で放ったものの、矢はあっけなく弾かれた。


「でもまだ!」


今度は魔法矢を出して放つ。


「はん!その程度」


矢を弾くことなく、ジャネットさんは投擲という形で、私の攻撃を防ぐ。反撃された私は魔法無効化のナイフを警戒して、弓で弾く。さらに投擲が続くので、一気に無力化を図る。流石にここにはあのナイフは紛れてないだろう。


「ストーム!」


嵐で投擲武器を全て軌道を逸らす。でも、その間にジャネットさんがこっちに来ている。接近戦では勝ち目がないので、迎撃にはいる。


「フレイムブラスト!」


火線が一直線に進み、それをガイドするように大きな炎が突き進む。


「やるねぇ」


再び、ジャネットさんが剣を振るうと、またしても魔法が消されてしまった。


「もう~、何なの!」


仕方がないので弓を構えて一太刀受けると、反動と魔法でくるっと一回転して地面を蹴り前に突き進む。これで、距離は稼いだはずだ。


「後はと…」


私は木の上から降りようとするジャネットさんに矢を射る。ただし、この時に矢を一本同時に空に放つ。


「ふっ、はっ!」


ジャネットさんは矢を弾きながら、どんどんこっちに向かってくる。


「ううっ、何あれ怖い…」


矢の軌道に剣を滑り込ませながら、最小限の動作で迫ってくる。普通の弓兵なら絶望ものだろう。


「これで終わりかねぇ」


「まだです!」


私は空に上げた全ての矢を一気に落とす。さしものジャネットさんでもこれには全力だろう。そこに魔法を放てばあの剣とて防げまい。


「アローシャワー!」


そしてこの間に私は魔法を準備する。使うのは2つの複合魔法だ。矢に注意を向けながらもちらりとこちらを確認するジャネットさん。私が魔法を使う用意があることは確認されただろう。


「ここかっ!」


一瞬タイミングをずらしたりしていたのに、まさかの一閃で矢を弾かれた。だがーーー。


「ヒートブレス」


仮定の域を出ないけれど、あの魔法を消す能力が1属性、もしくは一定範囲だと思って範囲魔法を放つ。ストームは風の影響もあるけれど、本質的には大小のウィンドカッターの集まりだ。仮定が正しければ、これでダメージが行くはず。


「こんなもので!」


しかし、ジャネットさんはこれを避けることなくかかってきた。もちろん、その前に一閃して中央は切断しているが。振りかぶるのに外側に腕が出て、右腕に火が付く。しかし、それすら無視して突っ込んでくる。


「こ、これで!ツインブラスト!」


焦りながらも、貫通力のあるこの魔法で勝負だ。さっきので広範囲の攻撃は完全に無効化できないことが分かっている。後はこの魔法に対応される前に先制出来れば勝てる。


「フォロー」


しかし、ここでジャネットさんが補助魔法を使う。今までは私が使っていて自分では使わなかった補助魔法だ。実際には魔力が違い過ぎて私が掛けた方が効果が高く、ジャネットさんが使う機会がなかったのだ。それをこんな土壇場で使うなんて。


「えいっ!」


「はぁっ!」


ほぼ同時に魔法と剣が交差する。だが、早かったのは剣の方だった。


「いったぁーーー!」


剣は当たる瞬間に横に向けられていたけれど、流石に本気の切り込みは抑えたところで痛かった。


「い、行けた…。行けたんだ!」


代わりに私から一本取ったジャネットさんはうれしそうだ。むぅ~、普段は勝っても負けても『ああ、そうかい』で済ましてたのに…。


「ジャネットさん、痛いです!」


急に連れ去られて、戦った結果がこれだ。流石に強く抗議する。


「あ、ああ、悪かったよ。どうしても確認したいことがあってね」


「ジャネットさんがですか?」


「そうだよ。珍しいかい?」


「多分…」


少なくとも今までそんな感じを受けたことはなかったもんね。とりあえず、勝負も終わりいつもの調子に戻ったジャネットさんに安心した私は、その後、回復魔法をかけて休憩がてら二人で話をした。もちろん、手に持っている黒い刀身の剣にも触れたよ。


「へぇ~。それじゃあ、その剣は王都で買ってきたんですね」


「ああ、魔法を分けることのできる珍しい魔法がかかった魔道具の一種さ」


「分ける…ですか?消すんじゃなくて?」


「ああ、切断しているように見えるのはそこから分断してるからなんだ。ウィンドカッターなんかは収束している風をばらけさすって訳さ」


「はぇ~、変わった魔道具もあるんですね」


「ああ。でも、魔法消去何て高度なものよりは手に入るんだよ」


「ちなみにおいくらでした?」


「金貨130枚」


「ひっ!!」


思わず変な声が出た。ハイロックリザードの皮が1mで金貨30枚だ。それの4倍以上、というか以前ノヴァには良い剣は金貨5枚だって言ってたよね。それの26倍だ。


「魔法消去になると、国宝級だから金貨500枚位かねぇ」


「普段使っていたナイフは?」


「何度か行ったことあるダンジョンのドロップ品さ。あれでも売ればかなりのもんだよ。中級ぐらいまでしか消せないけどね。だから、アスカに負けて初めて使っただろ?」


「そうだったんですか。確かにそのぐらいから使われましたね。でも、あれも高いんですよね。よく買えましたね」


例えドロップ品と言えど、パーティーで行ったなら仕入れ価格以上での買取が基本だ。臨時パーティーならほぼ販売価格だろう。


「あの頃はダンジョンってやつを見に行きたくてね。Dランクダンジョンをソロで行った時にたまたま出たんだよ。あん時はまだBランクになってすぐだったから、しばらく手が震えてたね。まあ、切れ味自体は悪いから使う機会もあんまりないんだけどね」


そんな感じで、ここに来た時と違って穏やかな雰囲気が漂った。






明日はそんなジャネットさんが中心のお話です。彼女がなぜあそこまで勝負にこだわったのか、その一端が垣間見えます。


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― 新着の感想 ―
そろそろ、Aランクの試験を受けるのかなー 魔法使いの壁はいつもそばにいるから、たしかに、力を確かめるのは楽かもしれん
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