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昇格試験官

ワインツ村から帰ってきて数日。予定と違って全く進まなかった細工を追われるようにした私は、朝から冒険者の恰好に身を包んでいた。


「はぁ~、とうとう今日は試験官としてギルドに行かないとね」


ピィ


「ダメだよアルナ。今日は遊びに行くんじゃないからね。ほら、リーヌやライズのところに行っておいで」


よほどワインツ村に出かけたことがうれしかったのかあれ以来、外に行こうとするたびにアルナは付いて行こうとする。仕方ないので、やや伸び気味の草の生えているライズの家に行くように促す。


「エミールは農作業を手伝ってるっていうのに、どうしてこうなったんだろうね」


ヘレンさんの農作業を興味深げに見ていたエミールは、アルバに帰って来てから飛び立っては街の外れにある畑で水やりの手伝いをしている。街の人からは感謝されてそれはうれしいんだけど、私が従魔たちに街の人の手伝いをして欲しいと言ったことになっていて心苦しいのだ。


「確かにエミールたちは従魔じゃないし、こう言わないと手伝えないってことは分かるけど、おじいちゃんたちからは女神の使いとか言われちゃうし」


エミールの見た目がほぼ、バーナン鳥という事も関連している。ただでさえ国中で信仰されているシェルレーネ教の崇める鳥なのだ。それが自分たちのために力を貸してくれるというので、信心深いおじいちゃんたちからは私がそういう風に見えるらしい。


「事実から言えばアラシェル様の巫女なんで、全然違うんだけどね。おっと、そろそろ行かないと!」


私は弓がマジックバッグに入っていることを確認すると、宿を出てギルドに向かった。


「こんにちわ~」


「あら、こんにちは。アスカちゃん今日だっけ?」


「はい。今日はよろしくお願いします」


「それはこっちのセリフよ。ごめんなさいね結局、かなりの数になってしまって…」


そう、私の昇格試験の試験官は日程を遅らせたため、早く昇格したい冒険者が手前の日に流れて、負担が軽減できると思っていたのだけど、ほとんどの人がそのまま日にちをずらさなかったのだ。


「えっと、今日の試験対象者は何人ですか?」


「今日は…15人ね。午前中に5人。午後から10人の予定よ。もし、体調が悪くなったりしたら言ってね。予定をずらさせるから」


「分かりました。それじゃあ、ジュールさんと打ち合わせに行きますね」


「マスターは2階の自室にいるからよろしくね」


「は~い」


勝手知ったるとまではいかないが、そこそこ訪れるギルドマスターの部屋に向かう。


「ジュールさん来ました」


「おう、アスカ。待ってたぞ、すまんなぁ。まさかここまでみんな残るとは思わなくてな」


「私もびっくりしてます。DランクとEランクだと結構扱いが違いますし、みんな早く昇格したいものだと思ってました」


私がDランクになった時はそこまでではなかったが、アルバ周辺の魔物が強くなった昨今では、このランク差が如実に表れるようになった。まず、Eランクパーティーでは街の東には行けない。これはオーガが街の近くに出現してから流石に危険だと判断されたためだ。Eランクでもオーガを倒せる人はいるが、個別に審査するわけにもいかず、まとめてEランクパーティーは依頼を受けることができないのだ。だから、パーティーにEランク以下の人間がいること自体、かなりのマイナスになってしまった。


「そうだな。だが、以前のように高ランクの冒険者を雇って、パーティーランクを不正に上げることができなくなり、東側の魔物が強くなった今、実力も求められるようになった。ただDランクであるという事は無意味だな。だから、パーティーメンバーもDランクになったという事より、その時にどれだけの経験を持っているかを重視し始めたんだろう」


「でも、どんな試験官でも結局、実力は出さないんだから変わらなくないですか?」


「そこはお前の手腕に期待してるんだろう。前にもある程度の力だけでやれと言ったが、今回の奴らにはきちんと言い含めている。最初に相手の武器を見せるから、アスカ自身がこれぐらいできて欲しいという基準で構わないといってあるからな」


「えっ!加減はいらないんですか?」


「いらないというのは違う。ただ、自分がDランクの魔法使いであれ、レンジャーであれ、同僚がどのぐらいの実力を持っていて欲しいか。それを基準として戦って欲しい」


「それって結構あいまいじゃないですか?」


「まあそうなるな。結果としてアスカが求めるものが大きい場合は相手は何もできないだろう。だが、気にするな。それもきちんと向こうには伝えているから、結果に文句を言うやつはいない。確かにギルドとしてDランクならこれぐらいという基準も大事だ。だが、アルバはこの数か月でかなり周辺の魔物が強くなった。この街のギルドマスターとしてはギルドの基準より、この街で生活するDランクが求められる実際の能力。これを重視していきたいということだ。もちろんアスカ以外の試験官にもこれは通達してある」


「そんなことしちゃっていいんですか?試験にいっぱい落ちちゃったりしません?」


「これぐらいなら他の街のギルドでもやっていることだ。同じCランクでも、土地ごとに有利な属性や武器が変わるからな。それを承知で冒険者はその武器を使う訳だ。そこは理解してもらわんとな」


そうは言われたものの、Dランク冒険者にあって欲しい強さかぁ。剣術とかのLVでいったら、3は欲しいかな?2でもいいけど、複数の武器が使える人だけかな。弓ならロビン君ぐらいかちょっと下くらいだろうか?色々頭の中で自分が欲しいと思う能力を出していく。


「午前中の奴らはまあまあだが、午後からのは結構基準ギリギリのもいるから試験中は注意してくれ」


「えっと、何にですか?」


「行動にだな。対人戦自体になれていないし、よくも悪くも加減ってのがわからん連中だと思ってくれ」


「分かりました、その時になったら注意します」


「よし!それじゃ、訓練所に向かうか。実はもう待機させてるんだ」


「えっ!待たせてるんですか?」


「当たり前だろ。アスカは忙しい身なんだし制度内であるとはいえ、無茶を言ってるのは向こうなんだからな」


そういうとジュールさんはゆっくり立ち上がって、下に降りる。私もついて行き、訓練所に向かうと確かにそこには6人の冒険者たちが真剣な面持ちで訓練をしていた。


「おう!今から試験を開始するぞ。ん?一人多いな」


「私は本番前の練習相手です」


「そうか。悪いが試験だから出ていてくれ」


「はい」


男性が一人出て行くと、ジュールさんが試験の説明を始める。


「前もって聞いていると思うが、無理にここにいるアスカに試験官を頼んでいる。あまりに無様な戦いをするようなら容赦なく試験は落とす!それをよく覚えておけ」


「「はいっ!」」


元気のいい返事とともに冒険者たちが奥に一列に並ぶ。


「じゃあ、こっちで指名するぞ。最初はバクザだ」


「バクザです。武器は槍です。お願いします!」


「アスカです。よろしく」


槍かぁ~。そういえば最近、リュートに会ってないなぁ。もう、宿の手伝いには来ないし冒険も最近は一緒に行ってないしな。そんなことを考えながら位置に着く。大体槍ならこれぐらいが範囲外だろう。


「始めっ!」


ジュールさんの掛け声とともに試験開始だ。まず、有効射程は私の予想通りだったみたいだ。リュートの槍よりは長いものの伸びたりしないので、リーチは見た通りだ。相手は槍を体を使って隠すようにしてるけど、正直持ち手の位置とかから大体わかる。弓を構えると、とりあえず相手の頭を通り過ぎるように撃ってみる。


「わっ!」


「そんなに大げさに避けなくても…」


りんご一つ分ぐらいは上を通過したんだから牽制だってわかると思うのに。続いて左足をかすめるように射る。だけど、構えが槍を隠すことに重点を置いているためか、足をうまく動かせずそのまま左足をかすめて矢が通り過ぎた。


「くっ!避けられない」


「うん。まあ、その構えなら無理だと思います。私は槍の範囲を掴んでますからそういう相手にはその構えは意味ないですよ」


「でも、槍を教えてくれた人がこうすればリーチを掴めず相手が戦いづらいと…」


「多分それって、盗賊とか魔物相手だけだと思いますよ。槍とやりなれている人は、大体持ち手の位置とかで距離感が分かりますから。ん~と確かこんな感じです。友人の構えなんで窮屈かもしれないですけど」


この人は結構長身だから、リュートの構えじゃ、やや窮屈かもしれないけど、他に構えを知らない私はやや半身且つ、槍が縦横に動かせる構えを取らせる。


「これは…槍が動かしやすい!」


「はい。相手が槍を使えたり、槍相手になれている時は思い切って自分がやり易い構えの方がいいですよ。一番慣れてる得物が使い易い方が自信もありますよね?」


「確かにそうですね。ありがとうございます」


いいえ~と話をしていると、後ろからジュールさんのゴホンという咳が聞こえた。


「あのな、今は試験中だぞ。別に講習に来てるんじゃないんだが…」


「はっ…そうでした。再開します!」


再び距離を取り向き合う私達。それから3射ほど矢のスピードを落として放ってみたけど、見事に相手は槍で矢を弾いていた。どうやら目が良いようで、矢の動きも見えるみたいだ。


「次行きますよ」


「はい!」


ヒュン


今度は真面目に矢を放つ。それも見事に槍で防いで見せた。


「なら!」


今度は撃つタイミングを早めてみる。最初の矢は弾いたものの、次の矢は右肩に命中した。動きや眼は矢を捕らえていたのだけど、残念ながら槍で細かい動作をするだけの技量がないみたいだ。


「うぐっ!」


「だ、大丈夫ですか?」


「す、すまない。防げると思って放ってくれたのに…」


「いえ、私も早くし過ぎました。ウォームヒール」


すぐに矢を抜き取ると魔法で傷を癒す。


「バグザ、鍛えるところが分かったか?」


「はい。槍を扱うりょ力もそうですが、槍をもっと手足のように扱う練習が必要です」


「そうだな。それと、最悪は槍を投げられるようにしろ。ナイフでも持って槍を投げる振りでもできれば牽制にはなる。アスカみたいに近寄らせてくれない相手に無力だと、戦えんぞ」


「はい!これからも精進します」


結果に関してはその場で発表ではなく、午前中の全員が終わってから後で集まって発表するということで、これで1人目の試験は終了となった。



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