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お祭りと出し物

ヘレンさんと料理をして、いよいよ残りはメインの肉を焼く工程だ。スープなんかはもう出来上がっていて、これが出来れば完成なのだ。


「肉ね~、熱管理が面倒でいつもちょっと焦げちゃうのよね」


確かに薪が主な燃料だから結構火の調節は難しい。フィアルさんもスープとかは薪中心だけど、最近は炭を使って肉はじっくり焼いている。


「ちょっと任せてもらってもいいですか?」


「構わないけど、アスカちゃん焼くの得意なの?」


「得意というか、まあ見ててください」


私は薪がもったいないので水で一旦火を消してしまう。そして、薪をどけたら端に石を置いて下に空間を作ってフライパンを置いて鉄のふたをする。ふたといっても、本当に鉄にとっての形が付いているだけの鉄の塊のようなものだ。


「ファイア」


そこに上下に火が行き渡るように、強すぎない程度の火を魔法で作る。


「これなら火力は一定ですから、様子を見ながら焼いていきましょう」


「すごいわアスカちゃん。これなら肉も焦げないわね」


「魚もこれならうまく焼けちゃいますよ。代わりに炭を使っても大丈夫ですけど」


「炭?」


「窯みたいなところで空気をあまり送らないようにして燃やすとできるんです。真っ黒なやつなんですけど、一気に燃えませんし火力の調節しやすいですよ」


「そうなの?今度作ってみようかしら」


「でも、家の中ではやらないでくださいね。すっごく煙出ますから」


そんなことを話していると肉の焼ける音とにおいが漂って来た。


「そろそろよさそうね。お皿に入れて運びましょうか」


綺麗に焼けたオークのステーキを運ぶ。


「さあ、みんな出来たわよ。明日のお祭りの前祝ね」


「よし、それじゃあ食べるとするか。そういえば、村長の家の前に立派なボアが2頭もいたが、あれはアスカさんたちが?」


「そうよお父さん。ふわりとアスカちゃんが浮かせて持って帰ってきたのよ。明日のお祭りは大賑わいね」


「さすが、先生だね。弓もうまいし」


「さあ、話してないで冷めないうちに食べましょう」


にぎやかな食事とおいしいステーキのお陰で食事中は話も弾んだ。


「今日はオークも出てきましたけど、よく出るんですか?」


「いや、オークが出るなんて珍しいぞ。ゴブリンはたまに見かけるが。ゴブリンは本当に面倒な相手だ」


「そうなのお父さん。オークの方が強いって聞いたけど」


「それはそうだが、オークはまだこうやって肉を食べられるからな。ゴブリンは可食部がないし、森の中だと狙いにくくてな。かと言って逃がせば、家畜や村人が襲われるだろう?」


「まあ、冒険者の俺たちも同じような理由であいつらは嫌いだな。逃げるわけにはいかないが倒したからと言って何かあるわけでもないからな」


「魔物と言えば、前にこの村に来た時にトロールと遭ったんですが、トロールは見たことあります?」


「ト、トロールだと!?そんなのがいるのか…」


「父さんトロールって?」


「ロビンは聞いたことがないのか。トロールというのは我が家の天敵ともいえる存在だ。再生力が高く、矢の一撃程度ではすぐに傷が塞がってしまう。力も強いし、村の狩人総出で倒す魔物だ」


「そ、そんなのがいるの!?先生は大丈夫だったの?」


「私はまあ、魔法も使えたからね。ただ普通に剣を振ってもすぐに再生しちゃうし、傷が治ること前提で向かってくるから、罠にはかけ易いかも」


「じゃあ、僕の矢じゃ倒せませんか?」


「う~ん、どうだろうね。仲間が切った傷口から心臓とか頭を狙えられれば何とかなるかも?でも、とっさのことになると思うし難しいかも」


「そういえば息子の弓の腕はいかがですか?昨日見た限りだと悪くはないと思うのですが…」


「そうですね。腕はいいと思います。でも、正面以外だとまだちょっとムラがありますね。それさえなくなれば大丈夫だと思いますよ。ただ…」


「ただ?」


「弓と矢の供給に不安がありますね。最初に使っていた弓もですけど、矢もどこかのタイミングで街から仕入れるか、誰か弓や矢を専門に作る人を養成した方がいいと思います。自分の腕が未熟なのか、矢が悪いのか今のままだと判らないですから」


「なるほど…。私から村長の方にも働きかけてみます。これまではケガで引退した身、自分の代わりに狩りをしてもらっているので口を挟まずにいましたが、このままの状態が続けば村全体が危険になります。弓と矢に関しては当てがありますので」


「手先が器用な人がいるのね」


「ええ。ただ、以前ずっと作っていた方が亡くなってからは、狩りに行くものが自分で作るということが当たり前になっていたので、すんなりいくか怪しいですが」


「なら、アスカを使ったらどうだ?」


「私ですか?でも、見た目こんなですし言っても説得力が…」


「それを逆に使うんだよ。アスカが細工が得意だってのはまだばれてないだろ?この前の家具作りだって、魔法を使って何とかしてるって思われてるだろうしな。だから、アスカが弓がうまいだけで、器用でない演技をすればいいと思うんだ」


「なるほど。どんなに弓がうまくても、矢が作れないことをアピールすれば、村の人にもある程度専門性が必要だと印象付けられるわね」


「でも、弓の腕なんてどうやって見せればいいんでしょう?流石に祭りで使う魔物に部外者が弓を射るのは…」


「うう~ん。そう言われるとそうか…。ベレッタ何か浮かばないか?」


「そう言われてもね。狩人と一緒に森には…無理よね」


「ええ。彼らも彼らなりに村を守っている自負がありますから。正直、今回の魔物の件も若い連中ではなく、ベテランが出て行くという話もあったんです。結局、今のメンツでは2日の間に確実に祭りに使える魔物を捕らえられるかというのと、村の防衛の面で見送られましたが…」


「うう~ん。先生と練習で使ってた的を当てる出し物は?」


「射的ってこと?でも、そんな出し物して大丈夫?本物の弓を出すことになるけど…」


「それは大丈夫です。祭りといっても村だけですし、狩猟や栽培に感謝をする祭りですから」


「なら、それにしようか。悪いけどデレクさんが余興としてアスカに話を振るようにしてくれ。流石に自分たちからやり出して、実力を見せるってのはまずいだろ」


「そうですね。当日は任せてください」


「でも、アスカちゃんには感謝よね。ベッドも机も作ってもらっちゃって」


「ほんとはもうちょっと飾りとかあるとよかったんですけどね。接着剤もほとんどなかったので、組み合わせて作ってるのでちょっと心配ですし」


「接着剤なしでどうしたんですか?」


「えっと、木の形を加工してかみ合わせたり、差し込んだりして作ってます」


「そんな方法があったんですか。この村では大量の接着剤と少量の釘で作ることが多く、いつも接着剤は不足気味でしてね」


「そうそう。弓とか矢とかにも使ってるし、大変なんだよ」


「へ~、大変そうですね。匂いとか」


「まあ、慣れてますからね」


ふわぁ~とロビン君があくびをする。


「あら、もうこんな時間なのね。あなた、明日は夜の見廻りでしょう。もう寝ましょうか」


「ああ。貴重な話をありがとう。それでは」


美味しい食事もあって話も進んだ。私たちも警備はなくなったとはいえ、本番に向けて体調を整える意味も込めて寝ることにした。


「ミネル、おやすみ」


チッ



---

翌日は昨日と同じく、ロビン君の指導をするはずだったんだけど…。


「雨だね」


「雨降ってますね。多分明日には止むと思いますけど、どうします?」


「普段は雨が降ってる時ってどうしてるの?」


「基本は家にいますね。弓を引く練習とかです」


「実際に射ったりはしないの?」


「場所がないですし、矢を取りに行く時に濡れちゃいますから」


「射場でもあればいいんだけどね。そういうのはないんだ」


「射場ですか?練習用の的を置くところはありますけど、専用の施設はないです」


「それじゃあ、今日の練習はお休みだね」


流石にずぶぬれになって練習は出来ないし、私たちは家でのんびりと過ごした。明日はお祭りの当日で、今日もきちんと指導したかったけど、天気だけはどうしようもないからね。


「へ~、それじゃあ、先生は去年までほとんど弓を触ったことなかったんですね」


「そうだよ。友達に持たせてもらったことはあったけど、その頃は力も弱かったし使えるようになったのは最近なんだ」


「すごい上達速度ですね」


「まあ、器用さも高いしね。向いてたんだと思うよ。それに、弓といっても引くのに力がいるものは無理だしね」


「確かに貰った弓も引きやすかったです。どこで買ったんですか?」


「いやぁ、買ってはないんだよね。見てもらったら、結構いい弓だとは聞いたけど」


流石にゴブリンが持ってるのをそのまま使いましたとは言えないよね。


「今度、街に来るんでしょ?その時にきちんと矢を買っていきなよ」


「はい。来年には狩人の仲間入りですから、いっぱい要りますしね」


「それまでにはデレクさんの言ってた人が作れるようになるといいんだけどね」


「そうですね。僕の矢も出来は全然ですし、早く実現して欲しいです」


「矢と言えば気になってたんだけど、どうやって作ってるの?」


「僕の場合は矢の本体を作ってから矢じりを付けて最後に羽を付けてますね」


「みんな作り方が違うの?」


「多分。それぞれやり易いやり方がありますから」


「う~ん。その矢とかを作る人が決まったら、それに合わせた方がいいかも。多分、ばらつきが出来ちゃうと思う」


「先生はどうやって作ってるんですか?」


「私?あんまりというか参考にならないと思う…」


「一度見せてくださいよ。作れるんですよね?」


「うう~ん。ちょっと待ってね」


私は必要なものを用意してもらって、矢を作る。


「まずは木をここに置きます。この小さい方に合うように削ります。そして、矢じりと羽を付けて、はい完成」


「…えっと、勝手に削れたように見えたんですけど」


「魔道具使ってるからね。いつも、この村に飾り矢を納めてる人に習ったんだけど、その人にも誰の見本にもならないって言われちゃった」


「もしかして飾り矢も?」


「大体は。でも、ちゃんと染めるのは自分でやったよ。塗料も自作だし」


「えっ!?あの塗料、先生の自作何ですか?」


「うん。その辺の薬草とか使ってね」


「教えてもらってもいいですか?」


「いいけどどうして?」


「弓とかにも塗料を塗ったりして安定性を増す方法があるんですけど、それに使いたいんです」


「いいよ。じゃあ、今日はそれにしよっか」


今使っている弓は使い易いけど、やっぱり個人用じゃないから、自分に合うようにしたいんだって。ロビン君は真面目だなぁ。



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― 新着の感想 ―
ロビン君は真面目でいい生徒だね~ アスカの魔道具を使った矢の作成部分以外は、きっちりとアスカの技術を吸収してそう。 将来的にはロビン君がその名の通り「英雄ロビン・フット」みたいに弓の名手となって、村…
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