異世界2日目
あれから三時間ほど寝た私は夕食を取るため食堂へ向かった。あいにく食堂は混雑していたので、エレンちゃんとは話せなかったけどね。夕食はパンとスープと野菜。そして、冒険者の人が持ち帰ったお土産のオーク肉がちょっと出た。
「初日からお肉が食べられるなんて、冒険者の方ありがとう」
私は冒険者と女神様に感謝して夕食を頂く。そのあとは部屋に戻ってもう少しゆっくりするつもりだったけど、成長期なのか子どもなのか眠くなったので、そのままベッドインしてしまった。そういえばこのローブ以外持ってないし、冒険する時以外のお洋服もちょっと買いたいな。そう思いながら私は転生初日を終えた。
「ふわぁ~、おはようございます」
誰もいないけど一応挨拶をして起きる。昨日は早めに寝たおかげか結構早い時間のようだ。簡単に身なりを整えて食堂に降りてみる。
「おはようアスカさん。昨日はよく眠れた?」
「おはようエレンちゃん。気持ちよく寝れたよ。シーツもきれいだったしね」
「ありがとう、わたしのお仕事なんだ。二日に一回替えるから明日出かけるなら声掛けお願いします。寝てるなら札でもいいよ」
「わかった。朝食って食べられる?」
「うちは銅貨三枚です。もう食べますか?」
「できたらお願い。はい」
私はエレンちゃんに銅貨三枚を渡すと、テーブルで待つ。しばらくすると朝食が運ばれてきた。パンとスープとちょっとお野菜。全体的に昨日の夜のメニューのあまりかな?量も少なめで、あんまり食べない私にはちょうどかも。
「いただきま~す」
昨日と同じ味かなと思ったけど、ちょっと薄めにしてあるかな? 朝から濃い味は苦手だから助かる。まだ、早い時間だからかエレンちゃんも暇なようで声をかけてきた。
「今日はもう出かけるの?」
「うん、とりあえず依頼を受けてみようかなって。服も買いたいんだけどこの時間だと空いてないよね?」
「そうだね~、大体の店は十時ぐらいかな。二の音の時刻からだね」
「そういえば。○○の音ってどうやってわかるの?」
ふと疑問に思った。お寝坊さんはどうしたらよいのだろう?
「鐘の回数だね。二の音の時は二回。六の音の時は六回なるから。後は昨日も言ったけど中央広場に行けば正確な時間が分かる時計があるよ」
「へえ~、エレンちゃんってものしりだね」
「町の人はみんな知ってるよ。でも、確かにたまに来る村の人とかはみんな驚くね」
「そうなんだ。エレンちゃんみたいなしっかりした子のいる宿を紹介してくれたギルドのお姉さんには感謝しなくちゃ。いい宿を紹介してもらえてよかったよ」
「今後ともよろしくお願いします」
そういって笑いあったあと、食事を終えた私は一旦部屋に戻り、装備を整えてから部屋を出る。
「一応その前にMPがちゃんと回復しているか見ておこう。ステータス!」
名前:アスカ
年齢:13歳
職業:Fランク冒険者
HP:40
MP:200(1200)
力:5
体力:12
早さ:20
器用さ:24
魔力:70(280)
運:50
スキル:魔力操作、火魔法LV2、風魔法LV2、薬学LV2、(隠ぺい)
良かった、ちゃんと回復してる。ん? 何かスキルが増えてる。
薬学LV2:基本的な薬草の見分けがつく。また、通常は初級程度のポーションの作成が可能。
「これは昨日の謎記憶を思い出したからかな? 取ってる草の種類が何か分かっただけでLV2なんだ」
一応、十三歳まで何年か採取をしてる設定だからだろうか? ありがたく頂戴しておこう。念のために冒険者カードのスキル欄も確認してみた。あれ? こっちには表示されないな。更新とか必要なんだろうか? ギルドで依頼を受ける時に聞いてみよう。
「そうと決まればギルドへ向けて出発」
いってきま~すとエレンちゃんに声をかけて一路、冒険者ギルドへ。ギルドに近いこともこの宿のいいところだ。裏路地も通らなくていいし、町自体の治安もいい。幸先のいい二日目のスタートを私は切った。
カランカラン
冒険者ギルドのドアを開けて依頼票の並んでいる奥へと向かう。途中、カウンターをのぞくと昨日のお姉さんがいた。依頼を決めたら後で相談に行こう。
「え~と……採取、採取」
採取の依頼を探す。順に見ていくとメジャーな薬草であるリラ草の採取依頼が見つかった。横にはルーン草やその他の採取依頼もある。これって一緒に受けられるんだろうか? 後で聞いてみよう。今日はお試しに受けるので、リラ草だけ取ってカウンターへ。ちょうど昨日のお姉さんのところが空いていたので、そこへ並んで順番を待った。
「おはよう、アスカさん。今日は早速依頼を受けに来たのね?」
「はい、えっと……」
「ああ、昨日は名前も言わずにごめんなさい。私はホルンよ」
「ホルンさんですね。こちらこそ色々親切にしてもらったのに名前も聞かないで……」
「じゃあ、お互い様ね。それで依頼は決まったの?」
「はい。最初なのでリラ草の採取を受けてみます。ちなみに薬草の採取依頼はまとめて受けられますか?」
「大丈夫よ。でも、それぞれ期限が違うことが多いから、まとめて受けてうっかり期限切れにならないように。後、採取の依頼は誰でもできるものが多いけれど、ポーションが無い時に魔物に襲われると命に関わることもあるから注意してね」
なるほど。確かに薬草だから群生地から採ってくるだけだけど、群生場所はそれぞれ別だよね。そして、魔物に注意かぁ。まだ遭ったことはないけど、怖いんだろうな。
「分かりました。でも、初めてなのでどこで何が採れるか判らないんです。後、採ったのが何の薬草かも」
「Eランクまでなら最悪、こっちで鑑定する時にその場で依頼を受けたことにできるわ。……Dランク以降は流石に自分で見分けて、先に依頼票を取ってきてね」
「いいんですか?」
「薬草の採取は常時依頼していることが多いから特別なの。戦わない人がそれで来てくれなくなっても困るしね」
ホルンさんはこそっと、孤児院の子たちもそうしないと働けないからと教えてくれた。やっぱりこの世界にも孤児院とかあるんだな。スラムも小さいけどちらっと見かけたし、あんまり危険なところには近づかないようにしないと。
「それと依頼には本数がおおまかに書いてあるけれど、採ってきてもらった薬草の買取価格はランク付けの関係で毎回変わってしまうから気を付けてね」
「結構違いますか?」
「ランクはCからSまでだけど、Bランクなら中級ポーションの材料にもなるし、Aランクからは上級ポーションの材料に使えるから全く違うわね。と言っても最終的には薬師の腕次第なのだけど」
ホルンさんが言うにはリラ草はCランクなら束で銅貨五枚だけど、Aランクは一本大銅貨一枚になるらしい。これは採取時に気をつけないと。
「そういえば昨日は冊子ありがとうございました。村でも薬草を採っていたんですが、種類とか詳しくなかったんで助かりました」
「あら、アスカさんは道具屋か何かの娘だったの?」
「母が薬師だったんですが、よく説明も聞かずに採っていたので……」
「もう一度だけ昨日の水晶に触ってもらえる?」
「はい」
ホルンさんに言われた通り私は水晶に触れる。
「やっぱり。あなた、薬学のスキルがついているわね。きっと、薬草だとは知っていたけど種類や効果が分からないからスキルとして出なかったのね。調合はできる?」
「簡単なのだったら多分。したことはないですけど」
「なら、薬草をここで売ってもらってもいいけれど、お金が貯まってきたら自分でポーションを作って商人ギルドや商店に売ることもできるわよ」
「ここではなくてですか?」
「冒険者ギルドだと個人製作の物品取引はあまりできないから、効果がいいものでも買取価格は安くなるわ。そうなったら、商人ギルドに行くといいわよ。作れるようになったら案内してあげる」
「それなら、また今度お願いします。あっ、スキルって身に付くとこのカードに出たりしますか?」
「依頼達成時のついでで構わないけれど、カードの記載は受付で更新しないと変わらないわ。今日みたいにパッとつくこともあるから依頼を達成した後に見る癖をつけるといいわよ。早速預かるわね」
私はカードを渡すとホルンさんがカードを読み取り機に通す。
「はい。これでカードの情報が更新されたわよ」
受け取ったカードを首に下げて私は裏のボタンに触れる。するとスキルのところには確かに朝にはなかった薬学LV2が表示されている。と、ここで疑問が浮かぶ。ひょっとして『ステータス!』で見ることができるのって私だけなのだろうか?
「ホルンさん。じゃあ、スキルとかステータスの変化はここに来ないと見られませんか?」
「基本的にはそうね。ただ、鑑定というスキルを持っている人は見ることができるわ。ただ、視線を向けて集中しないと見られないからすぐに分かるし、声もかけずにされたら怒っていいわよ。個人情報は冒険者にとって大事ですからね。アスカちゃんは小さいし、登録したてだから見せてもらっているけど、今後は私も確認を取って見るから」
「わかりました。ありがとうございます」
やっぱり『ステータス!』は私だけのものみたい。女神様は気の利いたサービスのつもりなんだろうけど、何気ないチートをつけてくれたようだ。
「他に質問とかはない?」
そう言われたのでせっかくだからランクごとの目安の能力があるか聞いてみる。私の元々の280という魔力がどのくらいなのか知っておきたいし。
「じゃあ、大体このランクの人だったら魔力はこのぐらいって分かりますか? 私、魔法使いしか適性がないと思うので……」
さすがにこのステータスの偏り方で他の職業は難しいだろう。
「そうねぇ。Dランクなら100~150までね。それ以降は単純なステータスより、経験によるところも多いから微妙ね」
「じゃあ、その倍の300ぐらいだと参考でいいんでどのくらいですか?」
「300だと……魔法使い系ならBランクの上の方からAランクぐらいまでかしら? と言っても魔力が200ぐらいでも複数属性使えるAランクの人もいるし、一概には言えないけれど」
なるほど。じゃあ、私の280という魔力は結構高いのか。隠蔽していてよかった。
「あ、でも気を付けてね。最初に測った時に100あった人でも最終的に120で止まる人もいるし、みんながみんな伸びる訳じゃないから」
「分かりました。ありがとうございました」
早熟型とかあるんだなこの世界も。逆にそういう人ほど大変そうだ。苦戦するようになってから戦い方を考えなくちゃいけないだろうし。他には聞くこともないしそろそろ行かないと。
「それじゃあ、行ってきますね。ホルンさん」
「ええ。マジックバッグ借りるなら忘れないようにね」
「あっ!」
私は昨日言われた通りマジックバッグをレンタルする。レンタル料はランクが低いから大銅貨三枚だ。これで二メートル四方のものが入るんだからお安いと思う。特に私みたいな力のない人には。
「それじゃあ、いってきま~す」
ホルンさんに手を振ってギルドを出て、いざ初めての冒険へ。