小屋の外観と内装
休憩も終えて、再び作業に戻る私たち。と言っても、屋根もつけたし、後は内装なんかを整えるだけだ。
「風が強くなって屋根が飛んでもつまらんから先に接合だけ済ませる」
「分かりました。風よ!」
私は風魔法でシュタッドさんを飛ばすと、接合部分をぐるりと回って接着していく。
「うわ~、早いですね。流石次期棟梁!」
「そんなこと言うが、普段は長梯子を使ったりして、少しずつ塗ってるんだぞ。こんなに早くできるんなら誰か知り合いでも仕上げの時は連れてくるかな」
「それならリュートも出来ると思いますよ」
「リュート?ああ、ノヴァと一緒の孤児院で育ったやつか。暇なら今度から連れてくるようにノヴァに言っとくぜ」
こうして後日私はリュートから『アスカじゃあるまいし、動いてる人を空中に固定するなんて無理だよ』と怒られてしまった。どうやら浮かすことは魔法で出来るけど、同じ高さに固定するということが難しいらしい。私は魔力操作を最初から持っていたので、自分と同じ属性の人がどこまでできるかっていうのがあんまりわかんないんだよね。
「内装はどうします?」
「ん~、寝室が2つだろ。リビングじみたのが1つ。その他予備みたいなのが1つだが明かりだよなぁ」
明かり自体はライトの魔法が使えるので、問題ないと言えば問題ないんだけど、上側の部屋はかなり暗い。まあ、夜寝る時とかは良いだろうけど、朝とか真っ暗すぎるだろうし採光窓を付けたいんだけどな。
「でも、窓を付けると明るすぎますよね」
「そうだな。流石に高い建物も周辺にないし夏場はかなり夜明けが明るいだろうな」
とはいえ日常の清掃で人が入る時とか、ちょっと動く時に常にライトを使わせるのもあれだし、どうにかしたいんだよね。
「カーテンとかどうですか?」
「あいつらが開けるのか?すぐにボロボロにするぞ?」
ああ確かに。悪戯好きだし好奇心も旺盛だから、絶対レールで遊んだりしてカーテンの部材自体を壊しちゃいそうだ。
「それじゃどうしましょう。中から開けられないようにします?」
「その方がいいかもしれんな。人と一緒に暮らすのだから、どの時間帯に活動してもいいという訳じゃない。開いたら動いていいという形にしよう」
院長先生にも了承をもらい、採光窓を作りひっかき棒のようなもので板をはめ込むようにした。もちろん簡単な屋根も作り雨の日でも大丈夫な作りだ。朝、孤児院が朝ご飯を作っている間に開けてもらい、すぐに朝食を出す。その後は夜まで自由時間。大まかにはこんな感じだ。
「んじゃ、内装をやって行くか。リビングは止まり木や簡単な遊び道具を置いて、寝室はどうする?」
「中央に穴をあけてそこから少しくぼませて円状に板を張ったらどうでしょう?上にはクッションを置けばいいですし」
「ふむ。それなら問題ないだろう。だが、換気の問題もあるから一部には穴も空けるようにしよう」
内装も決まっていき、どんどん作業も進む。必要な大きさに私が切って、それをシュタッドさんがはめ込んだり、固定させる。
「何というか複雑だな」
「どうしました?」
「いや。アスカとこうして組むのは2度目だろう?」
「そうですね」
1度目は宿の改修作業の時だ。
「だが、はっきり言ってしまえばうちの奴らと組むより作業の進みが早い」
「ま、まあ、魔法を使ってますし」
「今までは俺も便利だとは思っていたが、自分のスキルでは量を運べるぐらいだった。しかし、こうも素人のアスカと一緒で作業が進むとな」
「細工をしてるのも大きいと思いますよ」
「それはそうだが、それでも細工は細かくて小屋などの材料は大きい。求められるものも違うだろう。今までは貴族の道楽で魔法使いを囲っていると思っていたが、アスカぐらい使える奴が居るならそうしたい気持ちもわかる」
「分かっちゃいますか」
「ああ。一日でこれなら年間を考えればかなりの差だからな。気を付けろよ」
「…はい」
やっぱり、貴族様には関わり合いにならない方がいいようだ。改めて王都に近づかないように決めたアスカだった。
「お2人とも、今日はそこまでにしたらどうでしょうか?」
夕焼けが近づくころに院長先生にそう言われた。
「だが、もうほとんど終わってしまった。後はサンダーバードたちが実際に暮らしてみて、孤児院の方でも気づいたところを直すという形だな」
「まあ!?もう完成したのですか!流石はアルゼイン建築の次期棟梁ね。今後ともお願いします」
「任せてくれ」
「今後とも?」
「ああ、アスカちゃんは知らなかったかしら。この孤児院もアルゼイン建築の先代棟梁が作ってくれたのよ。それから何年か毎に補修もしてもらっていてね。こちらからは大したことも出来ずに申し訳ないわ」
「そうだったんですね」
「まあ、孤児院があること自体、街としていいことではないからな。協力するのは当たり前だ」
アルバは治安がいいこともあって、こういう福祉とかにも意識が向いている。元々スラムの規模自体が小さい街ということでそういう取り組みへの意識も高いんだって。確かにレディトとかは裏通り丸々みたいな感じもあるしね。
「それより時間があったら子どもたちの相手をしてあげてくれないかしら。今日は庭へは邪魔になるから余り出せていなくて、元気が有り余ってるのよ」
「そういえば、こっちにほとんど来ませんでしたね。じゃあ、ご飯までの間ですけど」
私とシュタッドさんはご飯までの2時間近くを子どもたちと遊んだのだった。意外なのはシュタッドさんが子供の面倒を見るのがうまかったことだ。何でも、店の方で働いている人の子供たちの面倒を見ていたこともあって慣れているんだって。
託児所なんてものがない代わりに、働いている組織の中である程度年長の子に面倒を見てもらうそうだ。職業も世襲のところもあるから、連携も取りやすくなって良いんだって。
「それじゃ、今日はありがとうございました」
「こちらこそ、あまりおもてなしできませんでしたが…」
「じゃあ、俺もこれで。またなんかあったらいって下さい」
「分かりました」
「アスカねぇ。リンネもまたな」
「うん。ばいばい」
私は子どもたちを送ってきたリンネと一緒に宿に帰る。たまに遅い時間に帰って来てると思ったら、子どもたちと遊んでたんだね。
「リンネ、みんなの面倒を見てて偉いよ」
わぅ
まあなと返事をするリンネ。調子が良いんだから。でも、ソニアもだけど治安維持にも貢献しているらしくて、街からも最近は見回りの仕事として依頼が来るらしい。街の人からしたら大人しいウルフで、知らない人からしたら誰かの従魔という感じで変な行動を制限できるらしい。子どもたちが何かに巻き込まれてもすぐに駆け付けるから、街の人も安心できるんだって。
「この調子で頑張ったらサンダーバードたちも受け入れてもらえるかもね」
もしかしたら数年後にはヴェセルスシープたちも安全に街を歩けるようになるかもね。私はアルバの未来図を想像しながら宿に帰った。
「さあ、ここからは細工だ。ご飯も食べたしあと2時間は出来るね」
来週は3人でワインツ村へと向かう。その間も道具は持って行くけど、それほどできないと思うからここでちょっとずつでも作っておかないとね。最近はあんまり次の作品が浮かばなかったし、リメイク中心だけど新作が浮かんでる間に作らないと。おじさんも言ってたけど、スランプが来ると大変らしいからね。
「商会でも言われたけど、これまできちんと納期を守っている人は珍しいって言われてるし、続けられる間は続けたいしね」
いつかは途切れるとしても、今はまだまだ頑張れるんだからどんどん作らないと。魔法で結界を張りカツーンと小さな音を響かせながら私は作品作りにいそしんだ。