完成と試験
翌日、神像についてはとりあえず、1体ずつ完成したので後は量産体制に持って行く。
「それとは別にリメイク品も作るんだけど…まずはギルドだ」
先にベレッタさんに出来た盾を見てもらわないとね。朝ご飯を食べると、ギルドへと向かった。
「おはようございます」
「おはよう、アスカちゃん。今日は一人?」
「はい。ベレッタさんに用事なんですけど…」
「彼女たちならもうちょっと待てば来ると思うわ。週の半分以上は活動してるから」
やっぱりみんな結構ギルドに顔出してるんだね。私は週に1度ぐらいだから研修中の受付の人とかにはびっくりされるんだよね。しばらく、テーブルについて待っていると、受付の人が言った通り、ベレッタさんたちが来た。
「おはようございます」
「あら、おはようアスカちゃん。依頼を受ける時に一緒になるのって珍しいわね」
「えへへ。実はこの前のやつが完成したので見せに来たんですよ」
「そういえば連絡先とか言わなかったわね。ごめんなさい」
「いいえ。普段来ない時間なんで、ちょっと新鮮でした」
「そういえばこの時間に会ったことないわね。普段はどうしてるの?」
「大体、1の音の後に来てすぐに依頼を取っては行っちゃうんです」
「それで会わないのね。私たちはまちまちだけど、そこまで早くは来ないし、早く来たらご飯を食べてるもの」
「宿では出ないんですか?」
「最近は家を借りたから。自分たちでわざわざ朝から作るのもね。かと言って、開いてる店も少ないし」
まあ、朝ご飯は夕食の残りっていうのが文化みたいだしね。でも、冒険者をしてるならそんなに作り置きも出来ないだろう。
「で、どんなのが出来たんだ?」
「ここじゃ見せられないので西に行ってもいいですか?」
「分かったわ」
私たちは早速街の西へと向かう。ギルドの中だと目立つということもあるけど、一応対魔物用に作ってあるから怪我したらまずいしね。
「という訳でこれがその魔道具です」
私は自分の腕にウィンドガーダーを付けて見せる。
「へ~、バンドで向きなんかを調節できるのね。ありがたいわ、2刀流になってから手首とかの可動域が前より気になるようになったから。手数もそうだけど持ち方とか切りつけ方の多様性が増して、ますます盾が持ちづらいのよ」
そういうベレッタさんの背中には小さいながらも金属製の盾が見える。あんまり使いたくはないけど、2人で重装備の人がいないから、遠距離攻撃を防げるように渋々持っているらしい。私みたいに風で矢をそらしたりも出来ないから、割と使用の機会もあるみたいだ。
「こう見えてこの盾で3代目なのよ」
「やっぱり大きさとか重さですか?」
「そうね。後、初代は壊れちゃって…」
初代の盾は金属と木製を合わせたものだったけど、あえなくオーガの一撃によって破壊されたらしい。その後は金属製にしたんだけど、凹んだり重かったりとその後、買い替えて現在の丸っこい小型の盾になったらしい。
「これでももめたのよ。矢を私が剣で落とせるからある程度小さいのって言ったんだけど、強敵とか範囲攻撃も考えてもう少し大きい方がいいんじゃないかってヒューイが言ってね」
「気持ちはわかります。私のパーティーはみんなそこそこ動きが早いから盾は持ってませんけど、それでも心配ですもん」
ただし、”フロート”はみんな防具がいい。ジャネットさんはもちろんのこと、関節部だけとはいえリュートはハイロックリザードの革、ノヴァも武器の前に防具を揃えたから、滅茶苦茶心配ってことはなかったんだ。
最初にベレッタさんたちに会った時はどっちも革鎧だったからなぁ。しかも、軽鎧タイプのだったし。今でもベレッタさんは腕・胸・腰・足の一部に金属を使ってるけど、一見してまだ革の部分が多いんだよね。守られる側のヒューイさんからしたらそりゃ心配だよ。
「それでどっちにします?」
私はもう一つウィンドガーダーを出して、ベレッタさんに聞いた。
「2つあるの!?それにも驚きなんだけど、何か違うの?」
「今私が付けている方がウィンドカッターを盾状にしたもので、一応刃物の代わりにもなります。こっちの手に持ってる方は、ウィンドバリアを元にしているので、刃物のようには使えませんがより範囲が広く、また、このガーダーの部分自体もちょっと覆えるので、丈夫ですね」
「見た目はほぼ一緒なのにな」
「そうよね。細工がちょっと違うだけで、そんなに異なるの?」
「これはその…同じ細工だと練習にならないからです。違うのは細工じゃなくて、魔道具に込めてる魔法ですね」
「へ~、俺たちは魔道具にはそこまで詳しくないからな。特に製造になるとさっぱりだ」
「そうね。とりあえず、今付けてない方を貸してもらえる?ちょっと使ってみるわ」
「分かりました」
私は手に持っていた方のガーダーをベレッタさんに渡す。
「それで、つけてみたけど何も出ないわね」
「魔力を流して、出ろ!って思わないと出ませんよ。そうじゃないと暴発しちゃいますからね」
「そうよね。じゃあ…出ろ!」
ブン
微量な魔力が流れ、ウィンドガーダーが真の姿を現す。
「わっ!本当に何か出てる」
「慣れないと風の魔力は可視化できませんから、木とかに近づけると分かり易いですよ」
「なるほどね」
ベレッタさんは盾を展開させたまま上下左右の幅を確かめる。
「うう~ん、強度はありそうだけどちょっと広いかな?これだと小剣とかが当たっちゃいそうだわ」
「そうなんですか?でも、ナイフだとそこまで邪魔にならないと思うんですが…」
「あっ、アスカちゃんも2刀流が使える知り合いがいるの?」
「まあ…」
知り合いというかなんというかだけど。
「実は私の2刀流は小剣の制限付きなんだけど、なんと!小剣がどちらの手でも大丈夫なの。要は細身の剣とかやや小ぶりな剣なら左右どちらでも持てるみたいなの。それに、ナイフもね。その所為といったら何なんだけど、長い刀身が左右どちらにも来るから、これでも広く感じちゃうの」
「そうだったんですね。そういうことなら、こっちの方がいいかもしれません。こっちは範囲が狭いですから」
「そうなの?それじゃ試すわね」
魔法を解除してベレッタさんがもう片方のウィンドガーダーを試す。
「こ、こっちはちょっと消費が大きいわね」
「あ~、そっちはウィンドカッターを展開して盾状に無理やりしてるんで…。邪魔にはならないと思いますけど」
「でも広さは良い感じね。さっきウィンドカッターって言っていたけど、切れるの?」
「ちゃんと切れますよ。流石に投げたら魔力供給が切れてダメですけど」
「うん!こっちの方が私には合うみたいね。動きを阻害しないのがいいわ」
「やっぱりそうですか」
「でも、余ったやつはどうするんだ。俺たちそんなの引き取る金はないぞ」
「知り合いに聞いてみて、いらないようなら冒険者ショップの人に売ります。実は、魔道具とか余ったり使い道に困ったやつがあったら引き取るって言われてるんですよね」
「そういえばあの店、最近になって高価なアイテムとか魔道具も置き始めたわね。以前はポーションとか必需品がほとんどだったのに」
「ん~、前から色々置いてましたけどね」
「そう?他の町でも置いてるのが大半だったけど」
そう言われると自信無くしちゃうな。正直、アルバ以外でああいう店に入ることってないんだよね。他の町は立ち寄るだけで、必要なものって冒険に出る前に買っちゃってるし。旅に出る前に他の町の品揃えも見ておこうかな。
「そうそう。忘れるところだったわ。この盾いくら?」
「えっと…金貨2枚かな?いや、3枚?ん~、魔石が金貨1枚で銀の使用量がこれぐらいだから…。あれいくらだろ?」
う~ん、最近はおじさんに値付けのことで色々教えてもらってるけど、やっぱり魔道具は難しいなぁ。平均して材料×2が商品価格になることが多いんだけど、魔道具は有用な効果だと価格は3倍にも4倍にもなることがある。でも、この盾が有用かどうかなんてまだわからないしなぁ。似たようなものがあるとするとウィンドバリアの方だしね~。
「ひょっとしてわからないの?」
「あはは。私、別に商人じゃないので…」
「商人じゃなくても自分の作ったものの価値ぐらいは分からないといけないんじゃない?」
「そういうのはみんなに任せてますから!」
そうはいっても、こうしてたまに魔道具を作るなら相場とかも知っておいてもいいかも。そう思った私はちょっとゲインさんの武器屋に行ってみることにした。
「ゲインさ~ん、居ますか~」
「ん?アスカか。どうしたこんな中途半端な時間に。なんだ、ベレッタたちも一緒か。武器でも探してやるのか?」
「アスカはよく来るのか?武器は余り使わなさそうだが…」
「ところが、結構来るんですよね。私って弓も使うから、鉄の矢とウルフの矢はここで買ってるんですよ」
「そういうこった。何なら定期的に補充する分、お前たちより良く来るぐらいだぞ。まあ、ベレッタは暗器やナイフを良く買うからどっこいか」
「そうだったの。その割には会わないわよね」
「ベレッタは依頼が終わって、在庫が足りなくなるとすぐ来るだろ?アスカは細工屋に行った帰りとかついでだからな。来る時間が違うんだよ。そんで、今日はどうしたんだ?」
「この魔道具を見てもらおうと思って」
私はゲインさんに盾の魔道具を渡す。これでこの魔道具の価値を測れる。