ガーダーの完成とリメイク
ガーダーの試作品を一所懸命作っていた私だったが、ふとバンドの大きさに気が付いた。
「ベレッタさんはそんなにがちがちした体型じゃないし、もっとバンドは小さくてもいいかな?」
今のバンドの長さはというと、ジュールさんでも巻けるぐらいだ。正直、2m近いジュールさんに合わせる必要はないというか、今回のターゲットはベレッタさんのような細身の人のための盾なんだからこんなに長くなくていい気がする。
「うん。半分ぐらいの長さでいいよね。後は魔石をはめる台は固定できるようにして。爪も2重にしてと…。あっ、誰か改良してくれるかもしれないし、魔石は取り外せるようにしよう」
ふと思いついて、魔石は平たい銀の台に固定してそれを上から本体に差し込む形にした。さらに金具で固定してずれないようにする。こうすればもっといい魔石とかをはめ込んだりも出来るだろう。長く使って欲しいし、その人に合った魔石を込められる方が便利だもんね。
バンドも出来たし、銀のところに簡単な細工を施せば…。
「完成~。ウィンドガーダーの試作が出来た~。後は実際に魔法を込めて動くかの動作試験だね。台の部分と正面の部分にも魔法をかけて風が上下左右に出て、手元と外側には広がらないようにしてと」
おじさんのところで買い増したスクロールを使って、まずは土台とその反対側に魔法を込める。ここは広がらないようにするためだけなので、簡単だ。そしていよいよ魔石に付与をする。でも、込める魔法がね。ウインドバリアなら包み込んじゃうし、そういうのはダメだ。悩みに悩んだ挙句、ウィンドカッターを何とか展開させる方向に決めた。これなら元々、4面への展開で済むし効率的だと思ったんだ。
「それじゃ…いよいよ試作品起動!」
ブゥン
おおっ!予想通りというか理想的な形に出た!ウィンドカッターが、ちょっと半月形になってるけど、きちんと上下左右に刃が展開している。試しに木の小さい塊をそこに落としてみる。
カン
思いっきり弾いた。そして盾のように展開している部分に縦に当てると…。
スパッ
まあ、ここはウィンドカッターだから切れるよね。盾としても、刃物としても使える便利な盾が完成した。
「後はサイズとか使い勝手を微調整してと…。一瞬だけ張れても仕方ないし、そこそこ長い間出せる物じゃないとね」
盾の面積も大事だ。両手武器ならともかく2刀流を使うベレッタさんなら、出来るだけ小回りの利くサイズにしないといけない。何度かの調整を経て、問題ないサイズに作り上げた。
よ~っし、これで大丈夫!なはず。後は本人がどう思うかだしね。第一号が出来たところで結構いい時間になっていた。新しく魔道具をそれも細かい調整を入れたやつなんて久しぶりだったしね。後はMPの回復もかねてリメイク商品の絵を描く事に時間を使おう。
「うう~ん。描いたぁ~」
それから、プリファのリメイク版やアラシェル様のリメイク像など色々と描いてしまった。筆の進みがいいからあんまり時間が経ってないと思うけど大丈夫だったかな?
「こんばんわ。もう、ご飯食べられる?」
「あっ、おねえちゃんもういいの?」
「うん?」
「それじゃ、ご飯食べよ」
何だか変な返事だなぁと思って壁の暫定時計を見ると、20時を回っている。ひょっとして…。
「エレンちゃん。今何時ぐらい?」
「多分、20時30分ぐらいかな。おねえちゃん声かけても反応ないんだもん」
久しぶりにやってしまったようだ。最近は気を付けていて、そんなことにはならないと思っていたのに。
「それより早く食べないと、冷めちゃうよ」
「は~い」
まあ、待っててもらえたみたいだし、大人しくご飯を食べ始める。こうしていつもより少し遅い食事を終えた私は、明日からの細工に備えて眠ったのだった。
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チュン
「うん…」
レダの鳴き声で目が覚める。ふわぁ~、よく寝た。今日も頑張らなくちゃ。
「まずは午前中にウィンドガーダーをもう一個作って、午後はポーションを作らないとね。どこかのタイミングでベレッタさんに完成した魔道具も見せないといけないけど、午前中の方がいいよね」
依頼をいつ頃終えるのかは分からないし、それなら朝の依頼を受ける時が一番出会いやすいだろう。という訳で、今日は丸1日細工に使えるというものだ。まあ、そう言いつつ午後はポーション作りなんだけど…。
「とりあえずご飯食べてパワー充電からだね」
下に降りて朝食を取って部屋に戻る。ミネルたちの食事といえば、最近は街の人にも結構もらうみたいで、あまり下にも降りてこない。その代わり、その分はサンダーバードたちに余すことなく配られている。
「よく出来てるよね~。さ、仕事仕事」
私は昨日と同様に材料を出して魔道具の製作に取り掛かる。こっちに込める魔法はウィンドバリアだ。昨日はどうかと思ったけど、守れる範囲を考えたら有用だと思いなおしたのだ。これを半球型に発動させて中心部もやや覆うようにする。そして後は横への展開が主になるように調節して魔法を込める。こっちは刃のように鋭くない代わりに、形を作るのが簡単かつ、範囲が広い。その分、腕の動きにも気を付けないといけないのだけど、守るという点においては悪くない造りだ。
「どっちになるか楽しみだなぁ」
どっちになっても、私としては問題ないし、戦い方によって盾が大きい方がいいか小さい方がいいかも変わってくるだろう。とりあえず今は試作品を作るのみだ。こうして午前中の時間で私は再び盾の魔道具を完成させた。
「いよいよ午後からはポーションづくりだね。各種ビーカーとかの準備は出来たし、後は混ぜていくだけだ」
ごくりと喉が鳴る。いくら特異調合があると言っても、材料費を考えたら緊張してしまう。
「えっと、まずはシェルオークの葉をそれからベル草じゃなかった。こっちが先か。続いてベル草を入れて後はこっちのも入れて…」
慎重に混ぜていってポーションを作る。今作っているのはMP多重回復薬だ。失われたMPを回復することはもちろんのこと、しばらくの間もMPが回復し続けるという逸品だ。これは魔法使いにとっては非常にありがたいものなので、とりあえずこれを作る。他の薬品も有用なんだけど、魔法を全く使わないパーティーというのはまずないので、これから作ることにしたんだ。
「えっと、ここに魔力を込めるんだよね。ちゃんと込めないとね」
材料を混ぜたビーカーに魔力を注ぎ込む。出来るだけ大量の魔力を注入してと…。
「うう~ん。これぐらい青くなったらいいかな?前のより気持ち青いし大丈夫だろう。ほんのちょっとだけ舐めてみてと」
その後ステータスを確認するときちんと効果があった。
「よしっ!後は瓶詰めするだけだね。この分量だと4本がやっとかぁ。相変わらずあんまり作れないなぁ」
これでもMPを600は使っているのだ。正直、これ以上使うとMPの残量が危ないので午前中に魔道具を作っていなくても、6本ぐらいが限界かぁ。材料の希少性もだけど、必要な魔力量も多くて大変だ。とりあえず慎重にやったものの、まだ時間は15時ぐらい。
時間が余ったので、細工を始める。とは言え、MPには余裕はないので、木製のものが主になる。銅製のもちょっと作れるけど、一番楽なのはやっぱり木だよね。神像も金属ばかりじゃ中々買ってもらえないことにも気づいたし、この機会に新しい神像を三種類作っちゃおうかな?
「そうと決まれば、オーク材を出してと…」
昨日描いたばかりの絵を元に作っていく。今回はアラシェル様もシェルレーネ様もグリディア様も作る。そしてなんと!3つの台座を合わせると一つの細工になるという工夫もしている。まあ、この大陸だとシェルレーネ様が人気だけど、他の神様たちも一緒に祭ってくれるって人のためにね。
「そうと決まれば頑張らないとね。アラシェル様は湖面のものを元にしてるから、水辺をきれいに描いてと…。服装も出来るだけラフに近づける。そして、後ろの木々もある程度作り込んで。グリディア様は小屋を付けるし、シェルレーネ様もティーセット用にテーブルと椅子を付けるから、デザインも考えなきゃ」
全体的なデザインは完成しているものの、カップやテーブルなど細かいものまでは詳細には原画には描いていない。こういう部分はその時々で作っているのだ。まるっきり同じなのもあれだし、作っててもつまんないからね。
「さて、進めていこうかな。久しぶりの新作だし、気合いいれないと!」
細工道具を取り出し、それぞれを削っていく。途中で合わせたときにおかしくないかを確認するのも忘れない。
「ん~、もうちょっと手前かな。こっちも寄せてきてと。このテーブルはちょっと大きいかな?カップを並べるだけならもう少し小さくてもいい気がする」
何度か試してみて最適だと思える大きさに調整していく。手間はかかるけど、こういうところから違和感に繋がるので、手を抜けないのだ。
「ましてや神像だしね」
神像は売価は安く、質は高くが要求される細工だ。儲けにはあまりならないけど、アラシェル様のことを広めるためにも手は抜けない。もちろん他の神様もだけど。
「さあ、縁取りは出来たかな?後はこれを少しずつ形にして行くだけだ」
巫女としても信者としても恥ずかしくないものを作らないとね。