おるすばん
「はぁ~エレンちゃんたちも行っちゃったし暇だな~」
やろうと思っていた井戸周りの作業も終わっちゃったし。
「そういえば、昨日ジャネットさんたちに教えてもらって、カードでMPの残りも見れるんだっけ」
ちらっと裏側を見てみる。
MP: 120/260
あ~やっぱり結構使っちゃってるなぁ。バルドーさんから絵は預かってるけど、これじゃあ中途半端なものになりそう。
「おとなしく冊子でも見ながら過ごそうかな。でも、何かしたいし…小さいのなら何か作れないかなぁ」
ガチャガチャ
悪いなあと思いつつ戸棚とかを開ける。ふと食器類が目に入った。この世界の食器は主に木製だ。落としても割れないし丈夫で洗いやすいという事もあるんだろうけど、ところどころ欠けているものも目に付いた。その横にはちょっと大きな薪がある。
「これぐらいなら怒られないよね」
思い至った私は部屋から魔道具を持ってくる。ただ、魔力消費も考えて今回はワンピースに着替えない。
「まずは何を作ろっかな~」
とりあえずコップは大きいのが多いので、スープの器かな?持ち手の部分とかもきちんとできそうだし。
「そうと決まれば、まずは分割して~。次にくり抜き」
薪を3等分して中を綺麗にくり抜く。そして見本のカップを見ながら大体の形に削る。ここまでできたら魔道具の出番はおしまい。細工のスキル上げにもちょうどなので普通の道具で地道に削っていく。こうすれば時間も使えるしスキルも上がるしで一石二鳥だ。
「ふんふ~ん」
「おお、アスカちゃん。何してんだ?」
「あっ、引き払いですね。ちょっとカップを作ってるんです。ちょっと傷んでるのを見つけて…」
「へぇ~、店員かと思ったらそんなことまでしてるんだ」
「今日は店番だけで暇ですから。いつもはシーツの洗濯とか忙しいんで、暇な時ならではですね」
「働き者だな。俺が冒険者で一山当てたらきっと雇いに来るよ」
「期待してますよ」
「それじゃ、カードで!」
冒険者の男の人がカードで滞在費を支払っていく。あの人は王都とこの街を往復しているみたいで、2週間ぐらいに1度来る人らしい。
「今度会った時は名前ぐらい聞いとこう」
それ以降は仕事らしい仕事もないので私は一心不乱に器を作っていた。スープの器は作り終えてしまったので、次はジュース用の器を作ることにした。ここの食堂ではサイズはひとつなので、同じサイズになるように工夫して5個を切り出す。
「ん~、なんか柄が欲しいかな。ちょっと、その辺の花でも見よう」
ちらりと窓のところから外を見る。野草だと思うけどかわいい花が咲いている。ああいうのをちりばめたら同じ木の器でも楽しみが増えるよね。
「よ~し。1輪しか咲いてないけど、ちょっと水増しして4つぐらい重なってるのがいいかな?」
同じものを作っていて飽きてきた私は早速柄を彫り始めた。こうやって自分で物を作ってると、量産品ってすごいんだなぁと思う。私なら絶対途中で飽きちゃうよ。
ほりほり
ほりほり
「今で4つ目だ~。残り一つ頑張ろう!」
ただいま~
おや?何か玄関で声がしたみたいだ。
「おねえちゃ~ん、帰ったよ~」
「ただいま」
「あっ、エレンちゃん。ミーシャさんもお帰りなさい」
「うわっ!カウンターが木くずだらけじゃん。どうしたの?」
「ごめんなさい。何もすることなかったから器を作ってたの。もうすぐ全部終わるから待っててね」
「う、うん?」
最後の一つも慣れてきたせいか数分で終わった。ジュース用のコップは取っ手もないので楽でいい。
「できた~!」
「お疲れおねえちゃん」
「へぇ~、見ていたけど手も早いし、柄もついているのね」
「はい、同じのを作ってると飽きちゃって。外に咲いてた花をモチーフにしたんです。あっ!すぐ片付けますね」
「ゆっくりでいいわよ。それで、どこかに売る当てでもあるの?」
「いいえ?ちょっと店の食器が痛んでるのが気になって暇だったから作っちゃいました。あと、ごめんなさい。ちょっとだけそこの薪を使っちゃいました」
「それは構わないけど…本当だわ。滅多に割れたりしないと思って油断していたわね」
ミーシャさんが一つ一つ器を確かめている。いくつかの食器はテーブルに置いているからそれらは交換するのだろう。私はとりあえず出た木くずを集めてごみ箱に捨てる。削ったカスなんかは風の魔法でくるんで飛び散らないように注意する。こういうところはほんとに便利だ。
「ミーシャさん。私の作った器使えます?」
「いいの?」
「はい。暇つぶしですし、宿の木を使っちゃいましたから」
「じゃあ。ありがたくいただくわね。あら、スープのカップは持ち手もしっかりしているのね。こういうのはちょっとだけ高いからありがたいわ」
「そういえば、ライギルさんはどうしたんですか?一人だけいないですけど」
「主人は今必死にお勉強中よ。明日からもすこし抜ける時間ができるかもしれないわね」
「それって…」
「ちゃんと話し合っておいしいパンが作れるようにしてもらったわ。勿論条件付きだけど」
「それじゃあ、次からはあのパンが食べられるんですか?」
「そうと言いたいけれど、材料費なんかの関係もあるし、今のパンとあそこのお店の中間ぐらいかしら。そこは主人次第だけど」
「それでもうれしいです。こっちのパンは硬くてどうしても馴染めないんですよね」
「アスカちゃんはグルメよね。旅に出たらおいしいものの話一杯聞かせてね。うちのメニューにするから!」
「はい!きっといっぱい食べて帰ってきます。まだまだ先ですけど」
「おねえちゃ~ん。この細工って他の器もできる?」
「できるけど内側はダメだよ。削れて食べにくいと思うから」
「じゃあ、今度お花とか買ってくるからまた彫ってよ。きっと、女の人も来やすくなると思うんだ~」
「言われてみたら、かわいい器がいっぱいあったら来たくなるかも。時間のある時にやってみるから花とか買ってきたら教えてね。板に彫って取っておくから」
「すぐに作らないの?」
「忙しいかもしれないし、そうしておけば何時でも作れるようになるから」
「そっか~、にしてもこんな短時間で作っちゃうなんて流石!」
「褒めても今日はこれ以上は無理だよ。そういえばミーシャさん。頼んでいた木材の方は?」
「明日の昼にでも持ってきてもらうことにしたわ。話をしたら宿屋が何をするんだと首をかしげていたけど」
「ありがとうございます。明日の昼過ぎにでもやりますね」
「うちはうれしいけどアスカちゃんは冒険者でしょう。そっちはいいの?」
「そうですね。10日に2回は行こうと思ってるので次はちょっと先になります」
「なんだかおねえちゃんを見てると冒険者ってのんびりしてるんだなって思うよ。他のお客さんとかはもっと出入り激しいし」
「私はあんまり討伐依頼とか受けたいと思わないし、採取でもそこそこ収入が入るから。でも、マジックバッグは欲しいから、そのうち一気に受けるかも」
「あれって使ったことないけど便利なんだってね。うらやましいなぁ~」
「でも、いらないものを入れないようにしないと。私は解体とかできないから、魔物を倒しても埋めるか無理にでも持って帰るしかないから」
「確かに。おねえちゃんがオークを抱えるなんて想像しただけでもおかしいよ」
「そんなことないよ。いつかそれぐらい持てるようになるからね!」
「じゃあ、いつかその姿を見せてよね」
「も、もちろん!」
勢いに任せてエレンちゃんと変な約束をしてしまったけど、一体どのくらいの力があると持ち上げられるかな?100ぐらいならジャネットさんの半分ちょっとだし、なんとかいけるかも…。
「ほらエレン。いつまでもアスカちゃんを立たせちゃダメでしょう。今日は私が見ておくからアスカちゃんはもう休んでいいわ」
「本当ですか?じゃあ、お願いします。あっ、今日の夕飯どうしよう…」
「言ってなかったかしら?ちゃんと夕飯は用意しているわ。といっても、温めるだけのスープと簡単に味付けした肉だけど」
「それだけあれば十分です。じゃあ、また時間になったら来ます」
私はエレンちゃんたちと別れて部屋に戻る。今までずっと誰かと一緒にいたけど、今日の店番の時とかはちょっと寂しかったな。一人旅は楽しそうだけど、誰かと一緒もいいかも。そんなことを考えながら休む。その日の夕食も簡単なものといっていたけど、しっかり味がついていておいしかった。でも、パン作りに夢中なのか時間になってもライギルさんは帰ってきていなかった。これは明日の昼の仕込みが大変そうだ。
「さて、今日もお祈りとステータスの確認をしないと。意識しないとすぐに忘れちゃうからね。そうだ!ミニキャラのアラシェルちゃんをしまいっぱなしだった。リアル等身と横に並べて装備は…巫女セットかな?後は最後にガラスをかぶせて埃除けっと!」
(アラシェル様、今日も無事過ごせました。明日もいい1日でありますように)
「後はステータスだね」
名前:アスカ
年齢:13歳
職業:冒険者
HP:70
MP:129/265(1265)
力:17
体力:27
早さ:30
器用さ:74
魔力:93(303)
運:50
スキル:魔力操作、火魔法LV2、風魔法LV3、薬学LV2、細工LV1、魔道具使用LV1、(隠ぺい)
器用さも魔力と一緒に順調に伸びてる。でも、やっぱりもうちょっとそれ以外のステータスの伸びが欲しいよね。
「地道にシーツ洗いとかもしてるんだけどなぁ。もうちょっと頑張ろうかな。せっかく弓も教えてもらったし、ちゃんと撃てるようにならなきゃだしね」
こうして今日も1日が終わりました。新世界生活まだまだ頑張ります。
ここで1章は終了です。といっても、なんとなく区切りが良かったり話数多くなってきたなと思った時に区切ってます。よろしければ、2章からもお付き合いください。