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リメイク祭りの始まり

じーっと何を細工のカタログから外そうかと見ていたら、ふと思った。


「最初の頃のやつって、絵に対して実物との差が大きい気がする…」


仕方ないことではあるんだけど、最初の方に作った時は器用さも100前後。今はその数値も300を超え、作品の質自体も上がっている。もちろん、新たに作る時は見本の絵を見て作ってはいるんだけど、こういう形だったなって思いながら作るから、実際はクオリティが低くなっていたかもしれない。


「これは、いらないものはやめるとともに新たに描き起こして、きちんと作り直さなくては!」


店に卸しているというプライドもあるし、最悪は微妙な作品が世に残り続ける可能性もある。以前の会心の出来!というものでも今はコンスタントに作れるぐらいのものなのだ。


「ふむむむ…」


最初から人気のあるプリファは1輪の物を廃番にして、2輪の物を基本にする。代わりに前よりはるかに早く作れるので、値段を少しだけ落として何とか以前からのユーザーにも応えられるものにする。


「前は2輪をそわすようにしてたけど、もう少し絡ませる感じにしよう。前回そうしなかったのはまだまだ腕が未熟だったからだしね」


絵を描く場合もこの時は自分に作れそうなデザインと考えて作っていたから、今だともう少しこうしたいとかを加えられるのだ。自分の腕が上がったということでもあるけど、こう考えると初期のやつは全部見直した方がいいかもね。


「うう~ん。これも直せそうかな?こっちは…人気もあるしヘタにいじらないようにしよう」


どんなに細かいデザインでも、人が求めるものでないといけないしね。お魚シリーズとかはその最たるもので、作るのにはそこまで技術はいらないけど、売り上げとしては安定している。


「ちょっと冗談交じりにリアルシリーズを作ってみようかな?」


実際に売る用じゃなくて、見本としてこういう感じのも作れますよという感じで作ってみるのもいいかもしれない。そうと決まれば…。


「ライギルさ~ん」


私は食堂へと向かっていった。


「おっ、アスカ。もう食事に来たのか?」


「食事?いっけない!もうこんな時間なんだ」


細工を眺めたりしてたし、結構時間が経っていたみたいだ。でも、今はちょっとだけやりたいことがあるのでと。


「ライギルさん。お魚余ってます?」


「余ってるというか夜の分があるが?」


「ちょっと見せてもらってもいいですか?」


「それは構わんが…料理もしないのに何に使うんだ?」


「ちょっと気になるので」


それだけ言うと私は部屋からペンと紙を持ってきて、コールドボックスから魚を取り出し、絵を描いていく。


「絵なんか描いて何に使うんだ?」


「細工物です。今までお魚のやつは崩した感じのやつしか無くて、ちゃんとしたのがなかったですから」


「ああ、細工に使うのか。しかし、そんなに本物そっくりに描いて売れるのか?」


「どうでしょう?でも、売れなくても花とかだけじゃなくて、こういう生き物とかも作れるって紹介できますからそっちの面の方が大きいですね」


「なるほどな。料理にバリエーションがあるから俺もたまに作る料理みたいなもんだな」


「やっぱり、ライギルさんもそういうことあるんですね」


「ああ。似たような料理ばっかじゃすぐに飽きられちまうし、多くの食材・調理法を利用するからこそ客にも自信を持てるところもあるからな。まあ、アスカが同じようなことをするなんてな」


「私もなんだかんだ言って、もう1年ぐらい作ってますからね」


「そうだな。アスカの細工を付けてる奴もよく宿に来てるし、アラシェル様の像もそこそこ売れてるらしいぞ」


「ほんとですか!?うれしいです」


「まあ、シェルレーネ様の像の方が売り上げは良いがな。だが、神像が月に2つも3つも売れてるとこの前の商人会議でも上がっていたぞ」


「頑張って作ってますからね。ん、これで良しと」


「描き終わったか?なら、飯にしたらどうだ?」


「そうですね。午後からはシュタッドさんも来ますし、早めに済ませときます」


「それなら、カウンター横に座っておけ。すぐに出せるぞ」


「良いんですか?」


「もちろんだ。アスカに出すなら誰も文句は言わんさ」


私は早速、空いていた席に座って待つ。2分ほどで食事が運ばれてきた。


「はい、おねえちゃんお待たせ。今日は午後から出かけるんだって?頑張ってね」


「うん。頑張ると言っても主に私じゃなくてシュタッドさんだけどね」


「シュタッドさんが?」


「そうだよ。宿の小屋というか住処は完成したけど、肝心の孤児院の小屋はまだだからね。院長先生とも相談して大きさとかから考えないといけないし」


「ふ~ん。おねえちゃんって街の相談役みたい」


「やめてよエレンちゃん。私まだ14歳だよ」


「でも、なんかそんな感じするよ」


「気のせいだと思うけどなぁ…」


そんな話をしながらご飯を食べ始める。残念ながらエレンちゃんはまだまだお客さんが居るので、一緒に食事とはならなかった。ちらりと奥の方を見ると、孤児院から来た子たちも頑張って働いてるみたいだ。ちょうどエレンちゃんと同い年ぐらいの子たちばっかりだから、仲良くやれてるみたい。これまでは孤児院を出た子たちは保証人がいないからろくに働けなかったけど、こうやってその前から働いていれば、きっと誰かの目に留まると思う。


「それじゃ、私は部屋に戻ってるからシュタッドさんが来たら教えてね」


「は~い」


食事を終えて部屋に戻る。さっき描いた魚の絵も加わったし、とりあえずリメイクしたいと思うものを抜き出す。


「大体こんぐらいかな?」


私は5つ程と新しいデザインを机の上に置く。これと後はベレッタさんが使う魔道具を作ればしばらくの間のノルマも達成できる。


「そういえば、ポーションの材料ももらったんだった。あっちにも取り掛からないとなぁ。強敵との戦いにはあった方がいいし、それでなくともこの街の在庫もないしね。」


う~ん。こう考えると色々やることがあるなぁ。優先順位を付けて作っていかないと。


「まずはベレッタさん用の盾だね。2つ作るつもりだし、ちょっと個性を持たせてどちらが良いか使ってもらって気に入った方を渡そうかな。その後にポーションかな?そんなに簡単に素材も傷まないけど、在庫としてあった方がいいってこともあるしね~。それが終わり次第、新しい細工のというかリメイク品の製作かな?こう考えると結構予定つまってるなぁ。なんだかんだアルバの観光もほとんどしてないし、どこかでお休み取ろうかな…」


去年、街中をふらっと歩いてから今年はまだ、そんなに歩いていない気がする。これは由々しき事態だ。私の目的である世界中を冒険という壮大な目標を掲げる中で、お膝元?のアルバさえろくに歩いていないなんて。


「そうはいっても目の前の問題を片付けないとだし、まあそのうち時間も出来るでしょ」


そんな訳で、デザインを選定していると、エレンちゃんからシュタッドさんが来たと連絡があった。


「はいは~い。すぐに行くよ」


普通に街行きの恰好をした私はそのまま部屋を出て行く。今日持って行くものは特にない。院長先生とも話をして、小屋の大きさやどこに置くとかの相談になるからね。


「アスカ、待ったか?」


「いいえ。私は私で色々やることがありますから」


「そういや忙しいんだったな。ノヴァがいつも言ってたぞ。冒険に行くにも日がないんだってな」


「そこまでじゃありませんよ。行こうと思ったらこっちはお休みできるので」


「それだと、休みに出来るが仕事はあるって聞こえるんだが…。うらやましいぜ、うちでもたまに何もない日があるってのによ」


「そうなんですか?シュタッドさんのところって腕がいいってみんな言ってますけど…」


「まあ、そこは否定しないがな。材料の調達の関係でな。釘とか肝心な繋ぎに使う部材の規格が店で異なるんだよ。わざと変えているところもあるぐらいでな。そうなっちまうといくら腕がいいと言っても、そのたびに新しい金型を作って部品を作る。何て手間のかかることをしないといかん。しかも、普段使わないサイズのものを使うとミスの原因にもなるんでな」


「同じ大きさのものを作らないんですか?」


「そういう話もちらほらあるんだが、やはり自分の得意なサイズとかもあってな。どれに合わせるかって話もあるし、たとえ同じサイズの物を作ったとしてもみんながそれを使う理由がないとな。まあ、俺の代のうちにアルバだけでも統一したいもんだがな」


そういうシュタッドさんの目にはやる気が満ち溢れている。きっとうまくいくのではないか。そう私は思った。


「それじゃ、まずは小屋の採寸からですね。第1号になるかもしれませんよ」


「大きく出たなアスカ。すぐに出かけられるか?」


「ちょっと待ってくださいね。サンダーバードたちを連れて来ますから」


「あいつらを連れていくのか?」


「はい。自分たちの住処になりますし、早めにみんなに馴れていた方がいいと思って」


私は庭からサンダーバードたちを連れて孤児院へと向かう。みんな待ちくたびれていたみたいで、庭に行くと文字通り飛んできた。そこそこのサイズがあるため、飛ぶのはそこまで得意でないのによほどうれしかったのだろう。これは小屋も半端なものを作るわけにはいかないな。



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