依頼受諾
研修という名の戦闘訓練を終えた私たちは、訓練場でちょっと休んでいた。
「見事な戦いだったぞベレッタ。だが、もうちょっと装備は整えた方がいい。ヒューイがあれじゃ魔法攻撃は皆無だろう?魔法剣の一本でも持ってなきゃ、この先辛いぞ?」
「私、ほとんど魔力が無くて…」
「そうか…。なら、もう一人魔法使いを入れるか何か考えた方がいい。2人パーティーは個人の役割が大きい。お前がオーガに不意を突かれでもしたら、対処出来ないだろう?」
「そうなんですけど…」
ちらりヒューイさんを見るベレッタさん。そういえば、DランクとCランクの昇格試験ってことは、丸々1ランク差があるんだ。私と会った時は2人ともEランクだったのに…。
「だから、誰か入ってもらおうっていっただろ?」
「だけど…」
「あっ、いや、無理にとは言わん。そ、そうだ!アスカ!なんか、魔法がほとんど使えないような奴でも使える魔道具がないか?」
2人の会話で何かに気付いたのかジュールさんがこっちに振ってきた。
「えっと、ど、どうでしょうか?風か火の魔法素養があれば専用の魔石で何とかなるかも…」
エレンちゃんが水の素養があって、基準より低い魔力で魔道具を動かせたこともあるし、純度が高めの魔石なら何とかなるかも。
「それなら一応私は風の素養はあるけど…」
「なら話は早いな。冒険者ショップにグリーンスライムの質の良いのが入ったと連絡をもらってるから、行ってみろ」
「講習は良いんですか?」
「ああ、この紙にまとめておいたから後は読めばわかるだろう。大事なのは戦闘訓練でどういった戦い方が求められるかだからな。さぁ~書類仕事だ。あっ、ベレッタはカードを更新しておけよ!」
書類仕事の期限はまだ先だって自分から言っていたのに、ジュールさんはさっさと資料を私に渡すと戻っていってしまった。
「何だったんだろ?ジュールさん」
「さあ、でもいい情報をもらえたし、早速行ってみましょう」
「おっと、その前にカードを更新して来いよ」
「そうね」
先にギルドを出て待っていると、カードを更新してきたベレッタさんが手を震わしながら出てきた。
「ど、どうしたんだ!?」
「うわ、うわさが…」
「は?」
「こ、これ」
それだけ言って、カードをベレッタさんが見せてきた。スキル欄には剣術LV3、格闘術LV1、投擲LV4、2刀流(小剣類)LV2、直感となっていた。というか投擲のLVの方が剣術より高かったんだ。通りで、狙いも早さも高いと思ったよ。
「ん?ベレッタ何時から2刀流になったんだ?」
「さっき…」
「は?いやいや、ついさっきとか訳が分かんないぞ。だって、LV2だろ?」
「受付の人に聞いたら、LV2ぐらいまでは素養が高いとすぐに上がることもあるって…。噂は本当だったんだわ」
「噂?あのスキルが芽生えるってやつか?あんなの都合のいい、言い訳だって言ってただろ?」
「で、でも、あれだけの連続攻撃でないとナイフとか左手に握らなかったし…」
「まあ、剣自体も軽いから普段から片手で振ることも多かったけど、もっぱら投擲をするためだったしな」
「ヒューイにいきなり『双剣士とかどうですか?』って勧められた私の気持ちがわかる?」
「いや、そもそもCランクに成れそうにない俺に言われても…」
「アスカちゃん!」
「は、はい!」
「これは絶対に秘密にするから!噂が真実でもね!」
ええ…。受付の人も素養があったからLV2になったって言ってたし、私関係ないと思うんだけどな。その内、どこかで付いたと思うし。また、勘違いが進まないうちにどこかで話しをしとかないとね。
「アスカが困ってるだろ。ほら、店に行くぞ」
「あっ、シュタッドさん。ごめんなさい、ひとりで舞い上がっちゃって」
「いや、俺もノヴァに格闘術を教えてもらって、スキルが付いた時は騒いだからな」
こうして、色々ありながらも私たちは冒険者ショップに着いたのだった。
「いらっしゃいませ…あら、アスカちゃん。それにシュタッドさんも。どうしたの珍しい組み合わせね」
ショップのお姉さんだ。どうやら、シュタッドさんと私が一緒という認識はあるようだけど、ヒューイさんたちとは別だと思っているみたいだ。
「今日は魔石を捜しに来たんですけど…」
「魔石?どんなのが必要なの?」
「えっと、オークメイジとグリーンスライムのを。グリーンスライムのは出来るだけ高品質のでお願いします」
「珍しいわね。グリーンスライムの高品質なものなんて。ちょうど2つ程あるけど、何を作るの?」
「盾のようなものです」
「そう?よくわからないけど頑張ってね。もし、余るようならここに卸してもらっていいから。ああ、それとこれ」
そう言ってお姉さんが渡してくれたのはベル草やシェルオークの葉などだった。
「こんな貴重なものをどうして?」
「アスカちゃん、ハイロックリザードとの戦いで貴重なポーションを使ったんですってね。でも、あの薬は高くてギルドの補償では足りないでしょ。せめてものお詫びとして、材料を渡そうってなったのよ。ただね、材料も貴重だから今日まで集まらなくて。このベル草もレディトのギルドから回してもらったのよ」
「あ、ありがとうございます」
でも、多分このベル草って私が取ったやつだよね。加工が済んでいて形は変わってるけど、時期的に一致するし。それなら、自分で持ってたらよかったなぁ。
「これからもよろしくね。魔石の方はオークメイジが金貨7枚で、グリーンスライムは金貨2枚よ」
「分かりました、カードで。でも、グリーンスライムの魔石も高くなりましたね。前は純度が良くても金貨1枚ぐらいでしたよ」
「アスカちゃんの作った魔道具のお陰ね。質の良いのは繰り返し使えるとあって、どんどん値上がりしてるの。普通のは安定してきたんだけどね」
「でも、ちょっとグリーンスライムには同情します。急に狩られるようになっちゃって」
「そうね。でも、あいつら毒性のものもいるから実は助かってるの。今までは儲けが少ないからって、見過ごされて旅人が重症になることもあったんだけど、最近はそこそこ討伐されるから治安もよくなったのよ」
「へ~、でも、どうして前は無視されてたんですか?」
「儲けにならないっていうのもあるけど、毒性の強いのは酸で剣を錆びさせたりしてたのよ。魔法に余裕のあるパーティーならいいけどそうでないところはあまり相手にしなかったの。面倒だけど足が遅いから放っておかれたのね。今じゃ、銀貨2枚で対処法ブックなるものが出ているらしいわ。酸に強い装備をして戦えばそれなりに安定して狩れるから人気なんですって」
そうだったんだ。でも、生息地はここからじゃ遠いから私には関係ないかな。でも、スライム系に対して有効なら、今後のことも考えてちょっと欲しいかも。
「アスカちゃん買い物終わった?」
「ベレッタさん。こっちは大丈夫ですよ」
「私もこれを買って帰るから、一緒に宿に行ってもいい?」
「いいですけど、用事があるのでゆっくりできませんよ?」
「それでいいわ。いつもお世話になってたし、たまには手伝うわよ」
「あら、2人とも知り合いなの?」
「はい。薬草採取をしている時に出会ったんです。それ以来の付き合いですね」
「そうだったの。これからもよろしくね、ベレッタさん」
「は、はぁ」
怪訝な顔をしながらもベレッタさんも会計を済ます。ここでの用事も済んだので私たちは宿に戻った。
店舗にて
「店長、今度はベレッタさんですか?また、安くしちゃって。アスカちゃんは良いんですか?」
「もちろん重要よ。でも、アスカちゃんはもう半年ぐらいで旅に出るっていうし、新しい宣伝塔を作らないとね」
「確かに、ハイロックリザードの一件以来、アスカちゃん御用達のうわさで人が今までより来るようになりましたけど、あの人はまだDランクですよ」
「羊は羊、熊は熊よ」
「何ですかいきなり」
「群れって言うのは実力が近いものが集まるでしょう?アスカちゃんが懇意にしているのよ。きっと何かあると思うの」
「そんなにうまく行きますかね。ジュールさんも最速Aランクになったのにこの街のギルドマスターだし、ディースさんも魔法使いから魔物使いになった変わり者ですよ。そっちじゃないですか?」
「それでもあの人たちの実力は変わらないわよ」
「まあ、店長の店ですし、責任だけ取ってもらえれば私は別にいいですけど」
「そんなこと言ってると、売り上げ増の給与アップはなしにするわよ」
「そ、それは卑怯ですよ!折角頑張って愛想振りまいてるんですから」
「あなたね。客商売なのに頑張って愛想振りまくなんて恥ずかしくないの?基本でしょ?」
「だって、貧乏冒険者から金持ち冒険者まで来るんですよ。来る前に分かるならちゃんとしますよ」
「あなたねぇ。金持ちならだれでもいい訳?」
「それは一番は腕が良くて顔が良くてお金持ちな人ですけど、二つぐらい満たしていれば考えますよ」
「ぐらいってあなた…」
「でも、前に来た剣士の人は良かったなぁ。ちらっとカードを見たんですけど、若くてAランクでしたよ!」
「いつそんなものを見たの?」
「ちゃんと受け取るときにですよ。知りません?カードで決済する瞬間、たま~にちらっと見えるんですよ。一瞬ですけどね」
「その熱心さを仕事にも分けてくれないかしら?」
「やだなぁ。それで給料変わります?」
「あなたにわざわざ会計を頼む冒険者たちが哀れだわ」
「ああいうのはダメですね。私に疲労しかくれませんから。ほんとに気に入られたいなら、商品を探すふりをして話しかけてくれる人ですね。いい休憩になるんですよ」
「そんなこと言ってるとその内、刺されるわよ」
「その時は誰か助けてくれますって」
はぁ、これがなければ次期店長とか別の店の店長に推薦できるんだけど…心配だわ。