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研修

シュタッドさんに小屋を運んでもらって穴をあけ終わると、鐘の音が鳴り響く。


「わわっ!10時の鐘だ。行かないと」


「どうした?」


「今日はジュールさんと約束してたんです。すみません、冒険者ギルドに行ってきます!」


「おう!」


そういいながらギルドに向かって走っていると、後ろからシュタッドさんが付いて来ている。


「ど、どうしたんですか?」


「いや、家にはアスカのところに行ってくるって言ってあるから、特にすることが無くてな。ノヴァのやつは友人も連れて来ないし、付いてくぞ」


「はぁ…」


おっと、今はそれよりジュールさんのところに行かないと!


「こういう時にホバーが使えるといいんだけどなぁ」


流石に街中でホバーは危ないので使えない。それに今はブーツじゃなくて、普通の靴だしね。ギルドに着くと急いでジュールさんのもとに向かう。


「すみません、遅れました!」


「ああ、今日は暇だからいいぞ。別に書類仕事もあるし」


「書類仕事があるのに暇なんですか?」


「まあ、提出期限はかなり先だからな。で、何でお前までいるんだシュタッド。とうとう、家を追い出されたか?」


「そんなわけないでしょう。付き添いです」


「まあ、今日の内容ならいいか。下の訓練所に行くぞ」


「はい」


早速、私たちはギルドの訓練所に向かう。訓練所ではすでに2人の冒険者たちが訓練を行っていた。


「おっ、やってるな。アスカが来たから説明する。お前たちも中断しろ」


「はい」


そう言って訓練をやめたのはヒューイさんとベレッタさんだった。


「お2人ともお久しぶりですね」


「ええ、アスカちゃんも久しぶり」


「どうして2人もいるんですか?」


「今日はCランクとDランクの講習をしようと思ってな。ちょうどベレッタはCランク間近で、ヒューイもDランク昇格を控えていたからな」


「今日はよろしくね。アスカちゃん」


「アスカ、よろしくな」


「こちらこそ」


「まあ、おまけもいるが気にするな。こいつは役に立たん」


「ジュールさんひどいですね」


「当たり前だ。戦闘経験がないだけでステータスが高いお前は基準にならん」


まあ、シュタッドさんはステータス的には立派にCランクだもんね。実際はDランクだけど。


「あっ、シュタッドさんもこんにちは。今日はどうしたんですか?」


「アスカの手伝いをしにな。これが終われば手伝うんだ」


「ベレッタさんとお知り合いなんですか?」


「ああ、街に来てすぐのころはうちでも仕事をしていたな。護衛でもたまに一緒だったり」


「あの時は助かりました。オークを抑えてもらって」


「いや、後衛を守るのは前衛の仕事だしな。今じゃ、技で倒せるぞ!」


「それはすごいですね…」


ベレッタさんもちょっと引いてる。多分、その時にオークと殴り合ったんだろうなぁ。


「まあ、オークでよかったぜ。流石にオーガだと皮膚が固くてな」


そういう問題かな?普通に言って体格の差だと思うんだけど…。でも、怪力で力が1.3倍って言ってたし、300近いなら何とかなるのだろうか?


「それじゃ、講習を始めるぞ。まずアスカにはDランクになるやつとCランクになるやつの平均的な強さを知ってもらう。という訳でまずはヒューイだ。魔法をアスカに使ってみろ」


「は、はい。行くぞ」


「どうぞ」


マジックバッグから杖を出して構える。当然、いつもの杖は持ってきていないので、今日は昔使っていた方の杖だ。


「アクアスプラッシュ!」


ん、このぐらいの収束率なら特に問題ないな。


「ウィンド」


ヒューイさんの使った水魔法を風魔法で霧散させる。


「まあ、ヒューイの魔法は回復寄りだから、これよりもう少し威力が高いのが、Dランク昇格者の基準の魔法の威力だ。後は属性差だけだな」


「えっ、でもミディちゃんは…」


「お前やミシディア嬢は例外だ。あんな実力でDランク試験を受ける奴はまずいない。だから、さっきのような魔法をかわすか抑えつつ、相手の実力を出すようにするんだ。今の動きはダメだな。あれじゃヒューイが攻撃する機会がなくなっちまう」


「じゃあ、どうすればいいんでしょうか?」


「せめて避けるか、軌道を変えるぐらいだ。そうすれば、次の動きに移れてまだ戦闘が続けられる。さっきのだと、もう攻撃手段がないだろヒューイ」


「はい…。あれが全力で。元々攻撃魔法自体苦手なので、連続で撃つならアクアボールぐらいしか」


「だが、あれを避けられれば、アクアボールなり短剣なりで戦えるわけだ」


「一応ですが…。短剣もLV1なので」


「まあ、Dランクならそんなもんだろ。という訳だ。攻撃をかき消す、っていうのは試験官としては不適当だということは分かったか?」


「はい。なるべく、動きが途切れないようにするんですね」


「そうだ。Dランク昇格ということは余り武器にも精通していないし、攻撃パターンも少ない。だからこそ一度攻撃が途切れてしまうと、動きが止まってしまう冒険者も多い。次の動きに移れるように動いてやる必要があるんだ」


「なるほど!」


「Cランクのやつが試験官なら大抵は防げるから、特に注意が必要だ。人によるがあまりにも戦力の差を見せてしまうと自信喪失してしまうからな。まだまだ未熟なだけで見どころがあるやつも、伸び悩む一因になりうる。そこの調整が大事だ」


「見分ける方法とかありますか?」


「見分けるか…特に意識したことはないが、最初に攻撃を避けた時に当然だという表情をしたやつはまあまあ伸びるかな。感覚のところも強いが、それでも向かってくる気概は必要だな。じゃあ、次はベレッタだがアスカは弓を使ってくれ」


「はい」


弓は何時もマジックバッグに入っているので、取り出して構える。


「じゃあ、アスカちゃん。お願いね」


「こっちこそよろしくお願いします」


「始めっ!」


ジュールさんの開始の合図とともにベレッタさんが向かってくる。早い…けど、ジャネットさんと比べるとまだまだだ。攻撃をさっと避けて弓を…。


「わっ!」


剣を振った後すぐにナイフが飛んで来る。手数が多くて、弓を使えない。


「どうかしら?」


「なら!ウィンド」


風をナイフを投げる左手に向けて放つ。これでナイフが飛んでこなくなったので、弓を構える。


「一旦そこまで!」


「えっ!?」


急な中断にびっくりしてしまったが、合図があったので戦闘を中断する。


「ふぅ、流石ね。アスカちゃんは」


「いえ、ベレッタさんの動きにもびっくりしましたよ」


「そうだろう。期待の新人だからな。で、アスカ。なんで最初に避けたんだ?もっと後ろに下がることも出来ただろう?」


「でも、さっき避けた方がいいって…」


「それはDランクの話だ。アスカは動きを見て分かったと思うが、Cランクを受けようと思うやつは自分の戦い方がある。突進するだけがDランクだとすれば、Cランクになろうとするやつはその先を持っているんだ。そんな奴にわざわざ有利な状況を作ってやる必要はない。むしろ、この辺りになればどうやってその有利な状況を作り出せるか。その方が重要だ」


「でも、それだと実力を発揮する前に試験が終わっちゃいませんか?」


「それでいいんだよ。これから、強い魔物と戦おうってやつが、常に自分の有利な状況でないと戦えないんじゃ、そいつの為にもならん。相手を崩していかに自分のペースに持ち込めるか、その引き出しを見せるのが重要なんだ。そいう時にどうしても汎用性が低いやつのために試験官指名制度があるんだ」


「そういう目的だったんですね。なら、さっきはどうすればよかったんでしょう?」


「弓を使えとは言ったが、当然相手も弓一本だとは思っていない。魔法を使って牽制から入ってもいいし、振り回してもいいぞ」


「振り回す?」


「ああ、ベレッタたちは試験を見てないんだったな。その弓は剣の代わりにもなる優れものだぞ。上下をよく見てみろ」


「ほんとだわ。剣のように鋭い…」


「リュートと戦う時はそれで一気に距離をつめてたからな」


「リュートは災難ね。こんな戦い方をされたら」


「そうだ。魔法使いに近接で負けた挙句に、魔法を喰らうんだ。同じパーティーでなけりゃ立ち上がれんだろうな。それじゃ、戦闘再開だ。ああ、ナイフは回収した分は使うなよ。戦場ではそんなこと出来ないからな」


「これ、訓練ですよ」


「だからだ。訓練と言って、本数を誤魔化したら本番で数が足りなくなるだろ?訓練の時は足りたのに…。それじゃあ困るんだよ」


「そうですね。じゃあ、ヒューイ持っていて」


「別に使わなきゃいいだろ?」


「重さも変わるのよ」


何だかこのやり取りを見ているとベレッタさんの方が私より、ランクが上みたいな感じだ。


「それじゃ、もう一度…始めっ!」


再び、戦いが始まる。今度は私もベレッタさんも戦い方がある程度わかっているので、私は直ぐに弓を使うために距離を稼ぐ。2射、3射、連続矢と体勢を崩すために矢を放つが、ことごとくをベレッタさんに弾かれる。ノヴァやリュートと違って、剣も小ぶりなためかすぐに態勢を変えては弾かれてしまう。連続矢も隙を狙ったのにナイフとの2刀流ですぐに対応されてしまった。というか、何だか嫌な予感が…。


「あら、初めて持ってみたけど、中々使いやすいわね」


「むぅ、ウィンドカッター!」


今度は風の刃を使って体勢を崩せないか試みる。今度は意図的に2刀の構えを取ったベレッタさんが全ての刃を叩き落す。


「これは物理じゃダメかな。エンチャント」


私は矢に火をまとわせて足元に矢を射る。地面に突き刺さったとたんに火が燃え広がり注意をそっちに向ける。


「な、なに!?」


「今だっ!」


風魔法で加速した私は一気に距離をつめて剣を弾く。さらにウィンドカッターで攻撃して、相手がナイフを左右に持っていても対応出来ないようにする。


「そこまで!」


「ふぅ、やっぱりアスカちゃんは強いわね」


「いや、ベレッタもよかったぞ。手の内が見えていてあれだけ距離を取られたのに対応できていたからな。ポイントの関係ですぐに昇格は無理だが、実技試験は免除にしといてやる」


「ありがとうございます」


戦闘訓練とも、講習とも取れる戦いを終えて、少し訓練場で私たちは休むことにした。




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