屋根作り
ディースさんと別れた私はノヴァの家にお邪魔する。もちろん、宿の屋根の改装の件だ。
「こんにちわ~」
「ん?何の用だ?」
「ノヴァ居ますか?」
「ああ、あいつに用事か。今は木材の調達に出てるよ。すぐに戻ると思うがな」
「そうなんですね。じゃあ、待たせてもらいます」
私は玄関そばで待たせてもらう。中まで入っちゃうと、気付けないかもしれないからね。
「何だ、約束してないのか?しょうがないなノヴァの奴…」
「いえ、私が用があってきただけですから」
「そうか?まあ、茶でも出してやるよ。おいっ!飲み物くれ!」
「いくつ~?」
「2つだ」
「は~い」
元気に返事をすると奥からやって来たのはフィーナちゃんだった。ありがたく、お茶をもらう。
「ん?アスカか。何か用なの?」
「うん。ノヴァにだけどね」
「そっか、あっ!あのタンスについてる丸い奴、使っていいかって親方が」
「へっ?」
「何か簡単に開くようにしてるだろあたいのタンス。それ真似したいんだって。ちゃんと登録もするからって」
「別に良いけど…。大したことじゃないよ?」
「ほぅ、あんたがあれを作ったのか?あれは色々応用も利くし、うちで出来れば押さえたいんだが…」
「はぁ、まあ、特に問題ありませんけど」
「じゃあ今度、話しとくよ!」
そう言って嬉しそうに駆けていく男性。
「ところであの人誰?」
「何、アスカ知らないの?親方の息子だよ」
「へぇ~、初めて見たかも」
「何度かここに来てるんでしょ?」
「うん。でも、ノヴァに会いに来るか、親方さんと会うだけだったから」
「相変わらずアスカ、引きこもってるの?」
「そんなことないよ。最近は割りとレディトとかにも行ってるし」
「アルバの街はどうしたの」
「あっ!そうだ、新しい服買わないと。サイズが合わなくなってきたんだった」
「そうでもしないと出掛けないんだ」
「服は大事だよ。体に合ってないとしんどいし」
「着れれば良いでしょ?」
「だ、ダメだよ。そうだ!フィーナちゃんも一緒に行こう!」
「ちなみにどこで買うの?」
「ベルネスだよ?」
「あそこって高いとこでしょ?いいよ、ドルドで買うから」
「1着ぐらい、いいの持ってた方が良いって!」
「わかった、わかったから引っ張らないで。伸びるでしょ」
「ごめん」
パッと手を離すと、フィーナちゃんの体がふわっと浮く。
ガシッ
「何やってんだお前ら?」
「「ノヴァ!」」
姿勢を崩したフィーナちゃんを受け止めたのはノヴァだった。当然だけど、いつもと違い短パンの下に薄手のズボンに半袖だ。手袋はしてるけど。
「アスカもいるのかよ。どうしたんだ?」
フィーナちゃんをストンと横において話を振ってくる。
「えっとね。ちょっと手伝って欲しいことがあって…」
「良いぜ!」
「まだ、内容話してないけどいいの?」
「おう!アスカを手伝えるなんてそうそうないからな。逆は結構あるけどな!」
「ノヴァも頼ってばっかりなの?」
「ちげーよ。頼られることがないだけだ」
「ダメじゃん」
「いいか!俺は出来ない時は無理っていうぞ。アスカは言う前にやり終わるんだよ。大体お前だってリンネに頼ってるだろ?」
「リンネ…そういえば言うの忘れてた」
「ん?フィーナちゃん何?」
「ソニアが新しく来たでしょ?強さって聞いたっけ」
「そういえば言ってなかったね。強さはリンネと同じぐらい。ただ、力とかはちょっと弱くて、風の魔法が使えるんだ。大きな違いはそれぐらいかな?」
「そうなんだ。ありがとねアスカ」
「ううん。私も言いそびれてたし。でも、どうして気になったの?」
「ギルドでいつもホルンさんに見てもらってるけど、たまにいないときもあるの。そういう時に依頼を受ける場合に説明出来たらいいかなって」
「そっか。そういえばリンネがいる時だけ、上のランクの依頼が受けられるんだっけ?」
「そ。だから、リンネじゃないって言われないようにと思って」
「んで用事は?」
「そうそう、サンダーバードたちの小屋を作るのに場所がないから、宿の屋上を改装しようと思ってるんだ。だけど、設計が合ってるか雨漏りしないか心配でさ…」
「そっちかよ…まあいいや。いいぜ、兄貴たちに言ってくるからちょっとだけ待ってろ」
そういうとすぐにノヴァは作業場に向かって行った。それから数分後に戻ってきた。
「許可貰って来たぞ。じゃ、行くか。持って行くもんは何かあるか?」
「今日は見てもらうだけの予定だね」
「そんじゃ行くか」
「飯までには戻って来なよ」
「はいよー」
私とノヴァは宿へと向かう。
「それじゃ、裏に回って」
「はいよ。アスカは?」
「設計図持って来る」
「分かった」
部屋に戻った私は直ぐに設計図を持って庭に行く。
「おおっ!思ったより重いんだなお前ら」
「何してるの?」
「暇そうにしてたら寄ってきたんだよ」
う~ん、ノヴァたちにはもう慣れたってことかな?リュートもここに来たら囲まれちゃったりするんだろうか?
「それより、屋根に行こう」
「おう!ってどうやってだ?」
「へ?そりゃ飛んででしょ」
「アスカは俺が飛べないこと知ってるだろ?」
「はい、フライ。これで飛べるよ」
「うわっ!あのさ、普通に飛んだことないから無理だぞ」
「簡単だよ。こうやって跳んだら、後は飛ぶだけだから」
手本を見せてみる。これは補助魔法だから他人でも使いやすいと思う。
「アスカってバカだよな」
「いきなり失礼だね。ノヴァ」
「いや、それって自分で魔法使ってるから出来るんだよ。俺はリュートと違って風の魔法も使えないのは知ってるだろ」
「そっか、みんな大変だね。じゃあ、私がやるね」
もう一度、ノヴァにフライをかけて、ウィンドで気流を調節して飛ばす。これなら本人が出来なくても飛べるだろう。
「ちょ、わっ!ほんとに飛んだ」
「そうだよ。ほら、屋根の上だよ」
「…はぁ。で、設計図は?」
「これ」
私はノヴァに設計図を渡す。
「ふ~ん、確かにこれぐらい平たきゃこんぐらいでも行けるか。水は…水路というか溝にするんだな。あっ、この傾きだと逆流するぞ。もうちょっと角度付けないとな。それと管を置くのは良いけど、これだと中が見えなくて汚れが分かんないぞ。交換とかどうするんだ?」
「えっ、それは大体で…」
「だから、その大体が分かんないだろ?どのぐらい持つか分かるのか?」
「え~っと、わかんない」
「なら上を半月型にしよう。ここの汚れ具合で判断して交換する。掃除はディースさんにでも頼むか」
「まあ、飼い主だけどどうしてディースさんなの?」
「あの人、水の魔法使いだろ?洗浄とか出来るだろうし。こういうのはメンテが大事だからな。少しでもきれいにしてれば長く持つ」
「ふんふん。他には何か気付いたところある?」
「この屋根小さくするけど、結構風の影響受けるぞ?今のだと上から差す形になってるけど、留め具が必要だ」
「そんなにアルバって風強くないよ?」
「ば~か、台風の時とかあるだろ?そういう、一番大変な時に合わせて考えないと駄目だ。後は…屋根板を一回外すから、下の部屋に人を入れないようにしないとな。雨降ったら大変だし」
「そっか、大体何日ぐらいで出来る?」
「それだけどよ。前にレディトの酒場のおっさんから依頼受けただろ?」
「そういえば…」
「あれにかからないといけないから、木材はあるけど人がいないんだよ。今の仕事場が片付いたらすぐに行かないといけないんだ」
何でも、ノヴァはレディトにいる間に先に手紙をアルバに送って、親方さんと話をしていたらしい。帰る前の日には返事も来ていて、酒場のおじさんにも伝えたから、もう手配も済んじゃってるんだって。
「うう~ん、小屋とかもお願いしたかったんだけど、それじゃあ結構時間かかっちゃうね」
「多分、ひと月近くかかると思うぞ」
「そんなに!?」
「あの酒場広かったし、一気に店閉めてって訳でもないし、結構かかるんじゃないか」
「ノヴァは?」
「俺も一応行くんだよ。ただ、どっちかっていうと木材とかを運ぶ間の護衛だけどな。俺がやったら結構護衛の費用も浮くからな」
「そっか、ちゃんと親孝行してるんだね」
「親孝行…まあ、そういうことにしておくか」
最悪、ノヴァにいてもらってって考えていたけど、無理かぁ。
「兄貴に頼んでみようか?」
「兄貴って親方さんの息子の?」
「そうそう。こっちにも責任者はいないといけないから、多分兄貴は暇すると思うんだよな。木材とかも大体、加工は終わってて仕事らしい仕事もないし、後は来るか分からない依頼の当番みたいなもんだからな」
やっぱり、地元の街だから依頼を常に受けられる状態にしておかないといけないということらしい。流石に新築とかは無理だけど、修繕とか相談とかにきちんと乗れる人ということで、ひとりで複数こなせる次期棟梁の息子さんが残るらしい。
「でも、そしたら店番は誰がやるの?」
「おばさんがやってくれるだろ。兄貴は依頼で出てるっていえば済むし。何かあったら宿に伝言頼めばいいしな」
「それなら頼もうかな」
「じゃあ、この設計図で大体作るってことでいいな。そんじゃな」
設計図を私に返してノヴァはぴょんと跳んで屋根から降りた。
「設計図は?」
「そんぐらいなら頭に入ってる」
ノヴァって意外にもハイスペックなのだろうか?確かに設計図って言っても私が描いただけなんだけど。
「ここには長さとか太さとかも書いてあるんだけどなぁ」
「明日にはこっちに来るように言っておくからな!」
「う、うん!」
とんとん拍子に話は進んで、数日後には何とか小屋の目途も立ちそうだ。