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お風呂の下準備

「そんじゃあ、またなアスカ!」


「アスカさん、また店に来てください」


「はい!ジャネットさんもフィアルさんもまた会いましょう!」


ぶんぶんと手を振ってギルドの前で二人と別れる。私はというとこのオーク肉の塊を早く宿に持って行かないと傷んでしまう。


タタタッ


宿に着くと何やら張り紙がしてある。


「何々…明日は臨時の休業日です。泊まり・食事の方は別の宿へ」


そこには違う宿の場所が描かれている。食堂もあるみたいだ。


「そっか、明日が店に行く日だっけ。結局休みにしたんだねライギルさん」


張り紙をもう一度見て私は宿に入った。


「ただいま~」


「おかえりアスカちゃん。どうだった?」


「ミーシャさんこれお土産です」


「あら、オークの肉ね。血抜きもしてあるけど手際が良いのね」


「フィアルさんっていう明日みんなが行く店の店長さんがしてくれたんです。お土産にって」


「おう、アスカ。大丈夫だったか?おっ、いい肉だな」


「はい、明日お店に行った時にお礼言っといてもらえますか」


「ああ。そういえばパンの話はどうだった?」


「前向きに考えますって。多分明日話してくれると思いますよ」


「そうか…なら、ちょっと遅めに行くか。料理屋だから混雑してる時に来てもらっても悪いしな」


さすがはライギルさんだ。そういうところはしっかりしてる。


「あっ、おねえちゃんおかえり~。心配してたんだよ!」


「ただいまエレンちゃん。後でライギルさんにお肉焼いてもらおうね」


「お肉!どこどこ」


「これよ。エレンったら恥ずかしい」


「うわ~、脂も乗ってるいいとこだね。久しぶりだ~」


エレンちゃんも大喜びだし、今回の討伐依頼は大成功かな?でも、あんまり戦いたくないし、そんなに受けたくもないなぁ。いったん、自分の部屋に戻って荷物を整理する。減ったものは矢が少しだな。でも、魔法矢のことも聞けたし、おじさんの店に行って風の魔石を売ってもらおう。


「おねえちゃ~ん、ご飯だよ」


そうしているとエレンちゃんが夕食を知らせてくれた。今日はオーク肉のステーキだから呼びに来てくれたんだね。片付けを一旦止めて食堂に降りる。よく見ると他の人の皿にも少しずつ乗っている様だ。


「おねえちゃん。はいどうぞ」


「ありがとうエレンちゃん」


初めて自分で取った獲物の味はと…。ん~おいしい~。


「柔らかい…」


「そうそう、あの部分は結構柔らかくてオークでも高いとこなんだよ。さあて私も食べよっと」


エレンちゃんも自分の分を持ってきて一緒のテーブルで食べる。エレンちゃんも一口食べるととても満足そうだ。


「いや~、こいつを食べられるなんて今日はいい日だ。エレンこいつは誰の土産だ?」


「アスカおねえちゃんだよ」


「何だって!アスカちゃんほんとに冒険者だったのか…」


「失礼ですよおじさん。まあ、今日はジャネットさんたちと3人でパーティー組みましたから」


「そういっても、ジャネットがきちんと分けるぐらいだから、ちゃんと頑張ったんだろう?」


「自分なりにですけどね」


「最初はみんなそうだ。謙遜するな、ありがとな」


そういって常連のおじさんたちにも褒められる。う~ん、こういうのは駆け出しならではの嬉し恥しだ。食事も終わって部屋に戻る。明日は朝から閉店中のことを打ち合わせするからミーシャさんたちと話し合いだ。他にも色々とこの際、話したいこともあるからいい機会かもしれない。私は増えてきた服を見ながらそう思うのだった。


「さて、日課のお祈りをして寝よっと」


明日もいい日でありますように…。



「ん~、朝だぁ」


昨日は初めての討伐依頼でちょっと疲れたかなと思ったけど、思ったより元気だ。食堂に降りて打ち合わせしないと。


「おはようございます」


「おはよう。アスカちゃん」


「おはよ~おねえちゃん」


今日もいつも通りエレンちゃんが朝食を持ってきてくれる。もしかしたらこのパンとももうすぐお別れかぁそう思うと感慨も…わかないな。早く変わって欲しい。そして今日のスープはちょっとだけ贅沢だった。昨日のオーク肉の端肉が入っていていつもより味わい深い。そんな朝食を終えて今日の本題へ。


「それで私はどうしてたらいいんですか?」


「それだけど、宿に泊まっている人には昨日話をして、シーツは明日替えることにしたからゆっくりできるの。泊まっている人が出ていく時に受付だけしてもらえると助かるわ。席を外す時は受付にこの魔道具を置いてくれればいいわ」


そういうとミーシャさんは丸いボタンみたいなのを出す。


「これは対になっていて受付で押すともう一つを持っている人に教えてくれるの」


便利な魔道具だな~。呼び鈴代わりになりそう。そうそう、相談したいことがあったんだった。


「分かりました。じゃあ、ちょっと離れたりするかもしれませんけど店番しておきます」


「悪いなアスカ」


「いえ、それと前々から相談してたことですけど…」


「風呂のことか?一応、井戸の周りを囲えるぐらいの木材は買ってるから、まずはそこからだな。ちょっと奥のところも手入れして何とかやってみるよ」


「ほんとですか!じゃ、じゃあ、今日中に囲っときます。このぐらいとかありますか?」


「ああ、一応はこういうイメージって言うのは。あと木材は奥に置いてあるから」


「分かりました!必ず今日中にやっときます。あ、あと部屋のことでも相談があるんですけど…」


「部屋のこと?どこか痛んでるとか?」


「いや、そういうのはないんですけど、私みたいに長期滞在してると服とか増えて、干したり置くとこに困るんです。それでそういうものを置ける小さい箱や、洗濯物が干せるこう…棒みたいなのを部屋につけられないかなって」


「う~ん、実際に見てみないとイメージしにくいわね。そうだわ!アスカちゃんの部屋を一回思った通りにしてもらっていいかしら。それで、他の部屋にも使えそうだったら採用するわ」


「いいんですか?勝手に模様替えしちゃって」


「聞いてる限りだと、ものを置くのと棒を足すぐらいだろう。最悪撤去するにしてもそれぐらいなら大丈夫だ。一度思う通りにやってみるといい。必要な木材は今日の帰りにでも持ってくる」


「ありがとうございます。それじゃあ、今日と明日でパパっとやっちゃいますね!」


「そんなに頑張ってやらなくても大丈夫よ」


「へ~きです。私、細工のスキルもあるからスキルLV上げにもいいですし、採用したら私に絶対やらせてくださいね」


「ええ、それじゃあできるのを楽しみにしているわね」


「任せてください」


私は胸を張ってこたえる。そうと決まれば井戸の方はさっさとやらなくちゃね。


「こらこらアスカ。まだ予定の話が途中だ。それに昼飯の話もしてないだろ?」


「あっそうでした。お昼はどうすればいいですか?」


「そこの器に入れてるから好きな時間で食べてくれ。飲み物も置いてるから大丈夫だ」


「ほんとだ、うれし~」


「まあ、ひとまずは俺たちもいるから今のうちに井戸の方やってみるか?」


「はい!ぜひに」


早速、私は井戸の方にライギルさんと向かうのだった。


「とりあえず、材料はここだ。それで完成イメージなんだが…」


「あっ、ちょっと待っててください。いいこと思いつきました」


私は部屋に戻って急いでワンピースと魔道具を持ってもう一度中庭へと来た。


「着替えてきてどうしたんだ?」


「この格好だとパパっと作業も進むと思うので」


「そうか。考えているのは井戸をぐるっと囲うと他の時に使えなくなるから、表から来れるスペースを開けておいて、このぐらいの距離を囲って向こうに風呂ができる感じだ」


「結構、離れるんですね」


「ああ。奥の方ならわざわざ行かないといけないし、向こう側は塀が高くてこっちまで入って来るのは難しいからな」


「じゃあ、木材は切っちゃいますね」


私は集中すると木材をスパパッと魔道具を使い切っていく。土台部分と床部分、そして壁の部分に分ける。後はくさびのようにはめ込んでいけば大丈夫かな?


「…相変わらずすごいな」


「そうですか?比較する人がいないんでよくわからないです」


「俺もよく知らないが、こんなに簡単にできるものではないと思う」


あれよあれよと切った板を風の魔法でふわふわと浮かせて一気に組み立てていく。勝手口からは屋根の部分を除いて井戸のところまで壁を作り、そこからまっすぐに奥まで壁が伸びていく。勿論、水が流れて腐りにくくするために杭の部分とは違い板は地面から離している。切った板も火と風の魔法で乾燥を十分にしているので木材としても問題ない。


「こりゃすごいな。このまま大工に就職できそうだぞ」


「それだと世界を回れなくなっちゃいますよ。そうだ!乾燥とかも考えて上は開けてるんですけどどうします?」


「ガラスは高いからな。とりあえずはそのままで」


それじゃあ一旦作業は終了という事で食堂に戻ってくる。


「おねえちゃん早いね。どう、できそう?」


「終わったよ」


「へ?」


「見てきて。ちゃんと壁できてるから」


ダダダッっとエレンちゃんが外に出ていく。そして、同じように戻ってくる。


「まさか、今のちょっとの時間でやっちゃったの?ちゃんと見られてないよね?」


「多分大丈夫だよ。こんな時間から休みの宿には誰も来ないでしょ」


「気を付けてよ~。またこんな説明しづらいことして」


「どうしたのエレン?」


「お母さんも見てくれば分かるよ」


そういうとエレンちゃんはミーシャさんをぐいぐいと外に連れ出す。


「アスカちゃん。仕事が早いのはいいことだけど、早すぎると不審がられるからほどほどにね」


「すみません…」


「でも、そんなにお風呂に入りたいのおねえちゃん」


「入りたい…入りたいの…。だけど、街にあるのは大人数で入るでしょ?さすがにちょっと恥ずかしいの」


「飢えてるんだね。もうちょっと我慢したらきっと許可が出るよ」


「本当?エレンちゃん嘘つかない?」


「だ、大丈夫…だよね?」


「ああ、近いうちにな」


そんなこんなで時間になったので私はお留守番だ。エレンちゃんたち一家はみんなでお昼を食べに出かけた。



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― 新着の感想 ―
そりゃ~元日本人で女の子だもの、お風呂は絶対に欲しい設備だよね… 毎日とは言わずとも、せめて3日に一度くらいは入りたいよ。
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