ディースのパーティー
声をかけただけで、放置していたホルンさんが受付で怒っているのが確認できる。
「そろそろ、登録させてもらっていいかしら?」
「は、はい。お願いします」
「ハン、怒られてやがる」
「あら、どんなに空いていても私の所には来ないのに、どんなに混んでいてもライラの受付に並ぶベルンさんじゃない。何か御用で?」
「なっ、それは…」
「彼女なら今日は非番よ。聞かれなくてよかったわね」
へぇ~、ベルンさんってライラさんが好きなんだ。というかばらしちゃって大丈夫かな?それぐらい、無視して話をしていたことに怒ってるんだろうけど。
「わ、悪かったよ」
「じゃあ、従魔登録ね。悪いけど、登録の時は1羽ずつお願いね。契約と違って、個別にしか出来ないのよ。それぞれステータスが違うから」
「はい。わかりました」
ディースさんが1羽ずつサンダーバードを抱えて、登録していく。登録の時に名前が必要とのことだったので、お父さんがノーデン、お母さんがハーティ、子どもがリーラという名前になった。ちなみに魔力は順番に301・302・206だった。MPも大人は1000近くあるようで、ホルンさんもこれには驚いていた。というか魔力値が高すぎて判定されたランクがBランクになっていた。
「ステータス上はリンネたちより上になるのね」
力と体力以外が高いのも理由のようだ。器用さも高く、踊るのが影響しているのかもしれない。ちなみに魔物のランク決めは総合値で判断されるためにこういうことが起きるらしい。ちなみに光魔法のLVは大人でも2止まりだった。
「たかが、LV2であの魔法が出来るなんてね。秘密が増えたわね」
私たちの予想では最低でもLV4はあると思っていたのだ。これがLV2で使えるとなると、魔力が必要とはいえ低LVの属性魔法LVでも、人数さえいれば上級魔法が使えるということだ。あまりよろしくない使い方をされる可能性もあり、しばらくは秘密にしておこうということになった。
「君たちは不思議だらけだね」
リィ?
何々と駆け寄って来るサンダーバードたち。ああほら、宿への帰り道でまた目立ってるから。無事に登録も終え、次は催し物の相談だ。
「何とか登録できたけど、後は催しものね」
「そうですね。どんなのが良いかなぁ…」
中々考えても浮かんでこないので、ちょっとだけ気になったことを聞いてみる。
「ギルドで会った人たちと仲良かったみたいですけど、長い付き合いだったんですか?」
「ええ。私がまだDランクだったころからの付き合いね」
「へぇ~、ディースさんがDランクの頃ですか…」
「ええ。1人で旅をしている時にふらりと立ち寄った街でパーティーを組んだの。相手もメンバーを探していてね」
「じゃあ、その時に出会ったんですか?」
「まあね。それは別のパーティーだったけど、たまたま討伐依頼中に出会ったの。そしたら、その日のうちにギルドで声をかけられたって訳」
「それで、そのパーティーに移ったんですか?」
「ええ、リーダー同士の話し合いでね。次の日に急に言われてびっくりしたんだから」
「そんなのってあるんですか?」
「まあ、私も彼らに興味があったし、まあいいかって。でもベルンったらひどいのよ。入って早々『お前はこっちにいるべきだ!』っていうんだもの、腹が立ってその日は直ぐに宿でふて寝してたのよ」
「まあ、いきなり入れられて第一声がそれじゃあ仕方ないですよね」
「でしょう?でも、その夜マナに説明してもらったの。当時、すでに私は魔力が230ぐらいあったんだけど、パーティーのみんなは1つか2つぐらいパラメータが100を超えたあたりで、バランスが悪かったの。オークとかですらみんなが時間を稼ぐ間に私がとどめを刺していたのよ。みんなも倒せただろうけど、無意識に私に頼っていたのね」
「それはちょっと…」
オークはDランクの魔物で、こういっては何だけど普通に倒せてしまう魔物だ。もちろん、巨体だから一撃には気を付けないといけないけど、動きも遅いから難しい相手じゃない。それに手こずってたって…。
「そういう個人で持っているパーティーって、手に負えなくなったら即壊滅なんてことが多いらしいの。しかも、死ぬのは決まって一番強いメンバーなの」
「どうしてですか?普通は弱い人からじゃ…」
「普段から頼られてるから、どうしても自分がって危険に飛び込みやすくなるんですって。それで、死亡率が高くなるのよ。だから、ベルンは心配して私の居たパーティーに話をしたって訳」
「それを説明してくれないと勘違いしちゃいますよね」
「そうなの。ベルンはいつも言葉が足りないのよ。そういう時はいつもマナが何とか場を持たせてくれたの。私たちは彼女には頭が上がらないのよ」
へぇ~、マナさんってすごい人なんだな。
「じゃあ、ベルンさんは一番頭が上がりませんね」
「ところが、一番マナに感謝しないといけないのはリュクスなのよ」
「リュクスさん?」
「ええ、私に話しかけていた魔法剣士の彼よ」
「ええっ!?あの人落ち着いてましたけど…」
「今でこそああだけど、出会った時は大変だったんだから。瀕死のオーク相手に後方と左右にファイアウォールを出して『これで逃げられまい!』とか、オーガにわざと一撃貰って『やるな!だが俺は負けん!』とか言ってたのよ。あれで腕が悪かったら、すぐにでも死んでいたでしょうね」
うわぁ、あの人って中二病患者だったのか。人は見かけによらないんだなぁ。アスカの中でリュクスの株はダダ下がりだった。
「でも、マナさんに感謝しないといけないっていうのは?」
「私もベルンも呆れて放っておいたんだけど、マナだけが彼の戦い方を評価して、あれは消費が高いだのさっきの技は隙が多いだのと、アドバイスしていたのよ。後は無駄な魔法を使うからMP切れにならないようにマジックポーションを差し入れたりしてね」
「す、すごいですね」
正直、私でも見捨てていたかも。多少、魔法を無駄遣いするのはともかく、自分からわざと傷を受けた人を癒したくはないかな。
「ええ、でもあの時の彼女もちょっとおかしかったわね。『リュクスは私が見てないといけないの』なんて、あなたは彼のお母さんかってのよ」
違う、ディースさん。それ駄メンズが好きなダメな女性です。私の中のマナさん株がどんどん下がってしまう。
「もちろん今は違うわよ。リュクスもあの時のことは絶対話題に出さないし、マナもあんな感じになることはないわよ」
「ほっ」
「でもね。私たちは本当にマナに感謝してるのよ。彼女が居なかったら私たちはまだCランクでしょうね」
「そんなにマナさんはすごいんですか?」
いや、今までの話も十分すごいと思うけどね。
「ええ。私たちが旅先で食中りになれば食べ物の知識を付け、宿や依頼先の地方の知識がなければ、事前に仕入れて依頼もマナが全部受けていたの。彼女はレンジャーで戦力の見極めが絶妙でね」
そう嬉しそうに言うディースさんだが、それってちょっと、いやかなり問題では?マナさんがいないと何もできないって聞こえるんだけど…。
「それって、マナさんがいないと大変じゃないですか?」
「ええ。彼女が用事で一緒に行けない時に隣街まで行ったのよ。もちろん、ここからもっと離れたところの都市よ。だけどね、その時の私たちの宿決めは門から一番近いところで、食事はいい匂いがしたところだったのよ。すごいでしょ?」
「ま、まあ、普通ではないですね。ディースさんはその前はどうしてたんですか?」
「その前もパーティーだったから、リーダーたちに付いて行ってたの。その前は…知り合いと旅をしていたんだけど、相手は私より年上だったからそういえば任せてたわね」
「ちなみに今の家は?」
「マナに紹介してもらったのよ。知り合いの不動産屋さんがいるからって」
リュクスさん、マナさんに続いて、ディースさん株もダダ下がりだ。この人たちは本当にBランク冒険者なのだろうか?私よりひどいと思うんだけど。私はこの世界に来てまだ1年半ほどだけど、この人たちはずっと生活してるんだもんね。
「じゃあ、本当に縁の下の力持ちだったんですね」
「そうよ。マナが色々と手配している間に私たちは魔導書を読んだり、剣の稽古が出来たんだから。おかげで彼女はまだCランクで私たちはBランク。ちょっと申し訳ないけどね」
話を聞く限りだと、マナさんのライフワークっぽいし大丈夫じゃないかな?
「でも、その分スキルはすごいのよ彼女。ほとんどLV2だけど、罠設置と罠解除が統合された罠スキルや調理・解体・調合・薬学とか色々なものを持ってるもの。前にレディトのギルドマスター…あっ、今の人じゃなくて先代ね。ジュールさんと一緒で元冒険者だったんだけど、その人に『お前たちは金貨10枚稼ぐが、翌日には5枚にする。マナは金貨5枚あれば10枚にする』って言われたのよ」
私は心の中でその人に拍手と賛辞を贈った。だって、門から一番近い宿って安全性とか経済性とか全部無視した考えだもん。小さい街とかなら利便性が良いかもしれないけど、大きい街だと安宿だったりするし、もし高級宿だったら
それこそ一泊で銀貨何枚だ。
「それぐらいマナさんが大事だって言いたかったんでしょうね」
「そうなんだけど、それを聞いたギルドの冒険者に『CランクにおんぶにだっこのBランク』なんて噂を広められて、いまだにレディトに行くとその話を知ってる人がいるのよ。失礼よね」
「それはせ…世知辛いですね」
危ない危ない。もうちょっとで正当な評価と言いそうになっちゃった。それより、ディースさんへの信頼度がどんどん下がって行っちゃうんだけど、人は見かけによらないんだなぁ。多分、本人としては友人がこんなにすごい!って話がしたいんだろうけど。今まで、魔石やティタのことですごくお世話になっていたけど、彼女の専門分野だったからなんだと変に納得したのだった。
「それで催し物はどうしましょうか?」
「う~ん、思いつくとしたら踊りかしら?この子たちも好きそうだし」
リィ
確かにそうかもしれない。一旦出し物は踊りで行こうと決め、ひとまず私はこの子たちの家づくりもあるので、一旦別れて、ノヴァの元に向かった。