宿への帰還とお願い事
探索依頼を無事?終えた私たちはアルバへと戻ってきた。
「ん~、久しぶりの街の空気だ~」
「んなこと言って、普段から街に出ないだろ」
「だからこそ、懐かしいんですよ」
「そんなもんかねぇ。あたしも結構いるけど、そんな感じはあんまりないけどね」
「でも、ちょっと日が暮れるのは早くなったかな。これからどうするの?」
もう季節は秋から冬になりかけだ。日暮れも早くなってきていて、まだ夕方前だけど薄暗くなり始めている。
「まずはフィーナちゃんの所かな。明日からの相棒も紹介しないとね」
「そういや、普段はリンネを連れていってるんだったね。そりゃ先の方がいい」
私たちは一旦別れる。というのも私はフィーナちゃんのところに行きたいんだけど、サンダーバードたちも居るので、先にジャネットさんに宿に行ってもらい、とりあえず飼いたいという話をお願いしているんだ。早めに相談しとかないと、宿も夕食の時間になると余裕がなくなっちゃうからね。
「それじゃ、2人ともまたね!」
「うん」
「ああ、頑張れよ!」
「ありがと」
皆と一旦分かれて、フィーナちゃんたちの新居へと向かう。
カラン
「こんにちわ~、誰かいますか?」
「ん?どなたですか」
ドアを開けて出てきたのは見たことない女の人だ。あれっ?ここってフィーナちゃんの家だよね。もう一度、場所を確認する。確かにこの場所で合ってるな。
「あの…フィーナちゃんいますか?」
「フィーナ、あの子の知り合いね。ちょっと待っててね」
ぱたぱたと一度家に戻る女の人。ちょっとして、フィーナちゃんがやって来た。
「アスカ、待たせちゃった?」
「う、うん。それは良いんだけどあの女の人は?ここはフィーナちゃんの家で合ってるんだよね?」
「そういえば説明してなかったっけ。まあ、中に入って」
中に入れてもらうと、ちょっとだけど家具がある。前はタンスだけって言ってたのに、ちょっといびつだけどテーブルとかもあるな。
「ほら、そこに座って」
「うん。ありがと。それでさっきの人は?」
「一緒にスラムに住んでた人なんだけど、家を借りるって聞いてついて来たんだ。ほら、あたいもそうだったけど家がないと身元が保証できないって仕事断られるでしょ?それで住みたいって言われて。部屋も余ってるし、折角だからおっさん…おじさんとかも呼んで、今は5人で暮らしてるんだよ」
「5人ってこの家、2部屋しかないよね。大丈夫なの?」
「さっきの人とあたいと弟で1部屋、お…じさんともう一人の兄ちゃんがいて合計5人で暮らしてるの」
「おじさんって、スラムの偉い人なんでしょ?連れて来ても大丈夫なの?」
「うん。別に責任者って訳でもないし、体も壊してるから。あっちじゃ心配でさ。でも、向こうにも顔は出すって言ってた。だけど、今後は教会とかも顔を出すらしいから、そんなにいかなくてもいいかもって」
そうなんだ。ムルムル達の頑張りでこの街のスラムもよくなってるんだ。この街のスラムは規模が小さいし、無くなるといいな。ちなみにちょっと気になったんだけど、フィーナちゃんの口調が変わっている。聞けば、ノヴァがお世話になってる女将さんに、年頃の子が男言葉なんてよくない!と強制的に変えさせられたらしい。でも、男ばっかりの職場だから、まだ前の口調が出るんだって。
「それで家具とかも増えてたんだね」
「まあね。でも、お手製だからボロボロだけど。ああ、タンスありがとね。ありがたく使わせてもらってる」
「どういたしまして」
「それで、どうして今日はあたいのところに来たの?」
「そうだった!ちょっとね、紹介したい子がいるんだ」
「ん?別にいいけど、誰もいないよ?」
「あ~、ちょっと外で待ってるから出てもらっていいかな?」
「それじゃ出るよ」
席を立って、外に出てもらう。
わぅ
「おおっ!リンネ元気だったか?あれ、その子は?」
「紹介するね。この子がリンネのお嫁さんとして来てくれたソニアって子だよ。一緒に行動することもあるからよろしくね」
「無事に見つかったのか。よろしくな、ソニア」
わふっ
リンネが懐いているのを見てソニアもためらわずにフィーナちゃんに飛び込む。
「おおっ!メスだけあってちょっとふっくらしてる。毛並みはこっちの方が短いみたいだし、触り心地良いなぁ」
どうやらフィーナちゃんは私が見ていないところで、リンネをもふっていたらしい。ウルフソムリエに成れるんじゃないだろうか。
「ねえちゃん、どうした…わっ!なんだ」
フィーナちゃんが外に居るので奥から弟君も出てきたみたいだ。前に見た時より髪も整っていて普通の街の人に見える。
「こんにちわ。新しくリンネと一緒に住むことになったソニアだよ。よろしくね」
「う、うん…よろしく」
やっぱり子どもには大きいからちょっと怖いみたいだな。外に待たせていてよかった。ついでに今後は会うこともあるだろうからと、家にいた人にも紹介した。女の人は最初かなり怯えていたけど、フィーナちゃんたちが普通に触れ合っているのを見て最後には何とか触れるようになっていた。まあ、いくら魔物使いの私がいるとはいえ、肉食の魔物だし怖いよね。
「それじゃ、今度からよろしくね」
「おう!またな、ソニア」
わふっ
リンネが懐いているお陰か、ソニアも好意的だしよかったよかった。ほっと後ろで安堵のため息をつくと、次の目的地に向かう。まだまだ、行くところがあるのだ。
「ディースさんいますか~」
「はいはい。アスカちゃん久しぶり」
「こんにちわ!ちょっとお願いしたいことがあるんですけど…」
「あら珍しいわね。アスカちゃんからお願いだなんて」
とりあえず家に上げてもらって、話を始める。私のしたかった話はもちろんサンダーバードのことだ。従魔にはできないだろうけど、この街に住むのならディースさんにお願いと、街の人に受け入れてもらう案を出して欲しいのだ。かわいい姿だけど、魔物であることには変わりないからね。
「なるほど、あのサンダーバードをね…。ねぇ、その子たちって1家だけでも従魔に出来ないかしら?」
「出来なくはないと思いますけど、少なくても3羽でMPが450ぐらい必要ですよ?」
「ええ、もちろん分かってるわ。でも、アスカちゃんは魔物の研究者がどうやったら有名になったり、生活できるようになるか知ってる?」
「うう~ん。強い魔物とか珍しい魔物の研究発表とかですか?」
「そうなの。研究者を目指すのは難しくないんだけど、食べていくのが大変なの。そこで、サンダーバードよ。彼らは確かに戦闘力はないかもしれないけど、レディト東の草原にある山脈にしか住んでいないから、臆病な性格もあって研究も進んでいないのよ。その研究成果があれば、研究者としても生活ができるぐらいになるかもしれないの」
「そうなんですね。なら、明日にでも宿に来て話してもらってもいいですか?ただ、何もないところに住んでいたので好奇心が強いみたいなんです。そこだけはよろしくお願いします」
「分かったわ。そうそう、魔物言語の方だけど、簡単な挨拶ぐらいは分かったわ。詳しくはここに書いてあるからまた読んでおいてね。ただ、種族によって発声方法が違うのに言葉としては分かったり、依然不明なところもあるから、絶対に通じるわけじゃないことだけは覚えておいてね」
「分かりました。ありがとうございます。これも発表するんですか?」
「う~ん。そうしたいのはやまやまだけど、しばらく先ね。一見、違う言葉に思えても彼らには通じていたりと、まだわからないことも多いし、何よりどうやって会話が出来ているかの説明がね…」
「そこですか…確かにそれは難しい問題ですね」
魔物言語で話が通じているかはティタがいるからわかることだ。でも、そうしたらティタ自体が研究対象にされちゃうだろうし、私も多分自由に動きにくくなるだろう。せめて、旅をした後だったら考えてもいいけど。
「でしょう?やっぱり、これを発表するにはどうしても協力がいるんだけど、それは無理なんでしょ」
「すみませんが…」
「そういうことだから、アスカちゃんの気が変わるか、他のあてが出来た時に発表するわ。それもあって、サンダーバードの件は私にもうれしい知らせなの。それに私も見たことがないから気になるわ」
「きっと気に入ると思いますよ。かわいいですし」
「期待しておくわね。それじゃあ、明日ね」
「はい」
ディースさんとも別れて、今度はギルドへと向かう。今日は大忙しだ。
「すみませ~ん。ジュールさんお願いしたいんですけど…」
「ああ、ア…えっと、いつも通り二階にいるから訪ねてみて」
「はい。ありがとうございます」
何か一瞬私を見つけた時の反応がおかしかったけど、とりあえずはジュールさんに話をしないとね。
コンコン
「なんだ!今忙し…」
「アスカです。相談があって来ました」
「お、おお、よく来てくれた。入ってくれ!」
「忙しいんじゃなかったんですか?」
「いや、お前にも関係あるから入ってくれ」
よくわからないけど、私にも関係するなら入った方がいいかな?そう思って部屋に入る。
「久しぶりだなアスカ。調子はどうだ?」
「バッチリです!まあ、受けた依頼はあまりよくなかったですけど…」
「探索依頼はやっぱり失敗だったか」
「分かります?」
「まあ、俺も探索依頼は数件受けたが、道中の魔物を片付けて何とか元を取ったぐらいだからな。ポンと一件受けて利益を出されたんじゃ、立場がないぜ」
ここにもあの男の人と同じような人が…。冒険者の人はなんだかんだ言って探索依頼で苦い思いをしたんだな。