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番外編 ジャネットとフィアル

 あたしが冒険者になってからもうずいぶん経つ。初めの頃はゴブリンだオークだと低級の魔物と戦う度に怪我をしていた。その度にみんなにポーションだってただじゃないと怒られていたっけ。アッシュだって人のこと言えないじゃないかってケンカも良くしたもんだ。


「もう、結構経つけどあれ以来ろくにパーティーも組んじゃいないねぇ」


 そろそろ、もう忘れるべきなんだ。あの時、デルンとアッシュの判断は間違ってたし、それを止めきれなかったのが運のツキだった。他のパーティからも誘いだってある。腰を落ち着けないことにはランクも上がらないし、それじゃあアッシュにも申し訳が立たない。

 『俺たちはきっとAランクになれる』それがあいつの口癖だった。そしてあの頃のあたしたちは馬鹿だなぁと思いながらも、届かない訳ではないと思っていた。


「今から考えりゃ、難しい目標だね」


 今日、アスカと一緒にパーティーを組んだ。フィアルの奴とは久しぶりでもすぐに呼吸は合わせられる。昔から一緒に依頼を受けてたんだからね。間が空いたからって連携が取れないなんて、冒険者の恥さ。だけど、アスカと一緒に戦った時に自分たちの見識の狭さを思い知った。


「結構色々なパーティーと組んでたんだけどねぇ……」


 なんせ、次を見つけたかったし、あたしぐらい早くて剣に長けたCランクの冒険者が少ないのも大きい。そうやって組んだ魔法使いたちも、もちろん強かった。後方からの援護だけでなく、魔法で盾を作るなど頭を使う仕事だと思った。それでも、風魔法であんな使い方をする奴はいなかった。魔物の死体を埋めるのに風魔法で穴を掘るなんて聞いたこともない。


「あれが魔力操作っていうレアスキルか。あんなのがEランクなんて詐欺だよ全く……」


「おや、こんなところでどうしました?」


「フィアル⁉ お前こそ店はどうしたんだ。こんなしけた酒場に……」


「今日のことが気になってしまって。そういう時はいつも酒場で話し合ってましたからね」


「なあ、あいつをどう思った?」


 せっかくだしフィアルにもアスカの評価を聞いてみる。


「ランクの話ですか?」


「両方だ」


「ギルドからしたら前途有望な存在でしょうね。下手に商売っ気もなく、他の新人をいびることもない」


「戦いの方は?」


「……正直まだ分かりませんね。あれだけステータスが偏った人も周りには居ないですし。ただ、経験はありませんが発想力はあるので期待はできますね。一つ気になるのはあなたの剣にかけた魔法ですね」


「あれな、まだ刀身の色が戻らないんだよ。まだまだ手放す訳じゃないけど、あれもいい剣だし理由が分からなくてちょっと困ってるんだ」


「変ですね。一時付与ならすぐに戻るはずです。後日、改めて調べた方がいいですよ」


「やれやれ、変なのを拾っちまったよ」


「でも、今日は少し懐かしかったです。見つからないように緊張感を持って敵の隙を突く。以前はもっと当たり前だったんですが」


「あたしはずっとだからね。よくわからない感覚だよ。だけど、手の内を見せて戦うって感覚は確かに久し振りだ。何て言うのかね、パーティーとして戦ったって思ったね」


「あれからも組んでいるのでは?」


「所詮は臨時だよ。使えるのは? 剣! そんなもんだ。どれだけ腕がいいかなんてのも詮索はなし。ただ依頼の内容を確認して終われば金を分けて解散。あれがパーティーって言うんならそうなんだろうね」


「ジャネットはまだ冒険者を続けるんですか?」


「逆にあんたは戻らないのかい? 今日はずいぶんやる気だったじゃないか?」


「それは勘弁して下さいよ。店を空けるのも大変ですし、今日も肉を持ち帰ったら『休みの度に仕入れられます?』ですよ。とてもじゃないですが片手間では無理ですね。本当に今回は気になっただけですよ」


「そうかい。あたしはね、未だに心のどっかで信じてるんだ。アッシュの口癖をね。たとえもう、パーティーがないとしても、あたし一人のランクだけでもきっとAランクに到達できるって。そうしたらあいつの墓へ行って言ってやるんだ。あんたはほら吹きじゃないってね」


「でも、あれからの半年間。そんなに伸びていないんでしょう?」


「痛いところを突くね。まあ、でもなんとか行ける気がするよ。あんな風に普通とは違うやつがいて、そいつですら頑張ってるんだ。あたしなんかが止まってる暇はないってね。だからといって適当なパーティーに入る気もないから当分はひとりだけどね」


「先には誰か決まった相手がいるのですか?」


「それは後の楽しみに取っておいてくれよ。そっちの方が元冒険者としては楽しいだろう?」


「一線を退いたから教えてもらうって言うのはダメですかね?」


「そりゃ卑怯ってもんさ。あんただって商売のうまいところだけを教えないだろう?」


「そう言われると返す言葉がありませんね。では、その時を楽しみにしておきましょう」


「あっ、でも期待すんなよ。断られることだってあるんだからな!」


 フィアルに啖呵を切って、あたしは店を後にする。誘って来るようなやつじゃない。その時に誘われるようにしないとな。


「それには強くならなきゃな。よ~し、気合入れるぞ!」



「やれやれ、この町で落ち着くかと思えば逆に元気になるとは……マスター、会計をお願いします」


 スッとマスターから金額を提示される。しかし、その金額は明らかに私が頼んだ額より多い。


「マスタ―、私は酒が一杯ですよ。これは高すぎでは?」


 マスターは静かに横の席を指さす。そこには適度に飲み食いされた空の皿が置かれている。ジャネットが注文した物だろう。思い返せば確かにジャネットは支払いをしていなかった。


「あんただって飲食店の店長だろう。つらさは分かるよな?」


「ぐっ。ジャネット、相変わらず汚いですね」


 こうしてある夜は更けていった。



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