訓練終了!
オーガバトラーたちに出くわした私たちは、リンネたちを木の上に潜ませて対峙する。
ガァァァァ
威嚇の咆哮とともに一気に5体のオーガが襲ってくる。
「ウィンド!3体はこっちで持つから2体はお願いします!」
「はい!」
風の魔法で3体を吹き飛ばし、残った2体を自分の後ろにやる。1パーティー1体ならオーガバトラーでも大丈夫だろう。こっちにはオーガバトラー1体にウォーオーガ2体だ。だけど、今回バトラーは全員が剣を持っているようで、接近戦ばかりの個体だ。ウォーオーガは格闘系だから元より射程をさほど気にすることもない。
「ウィンドカッター!」
風の刃を生み出して、相手にスキが出来ないか何度か試す。やはりバトラーはものともしないようだけど、ウォーオーガは傷もつくし、注意もそれた。
「今だよ!2人とも!」
わぅ
わふっ
先にソニアが超音波攻撃で、オーガたちの動きを止める。その隙にリンネが切断のスキルで爪を使って、ウォーオーガを1体片付ける。私もエアカッターで首を狙って倒す。しかし、流石にオーガバトラーも負けていない。超音波攻撃から立ち直り、こっちに剣を…って投げてきた。
わふっ
すかさずソニアが反応して風魔法で剣の腹に圧力を加えて弾く。
「ありがと、ソニア。喰らえっ!」
私は顔を狙って矢を射る。片目に当たり、呻きをあげているところを、ソニアが再び超音波で攻撃して最後は口に直接、風魔法を撃ちこんで倒した。
ゴボッ
「うわっ、えぐいなぁ。後ろは?」
振り返って後ろを見ると、ソーズのパーティーに向かったものは半身が凍って、そこを切られていた。ランバーに向かった方は斧が深々と刺さっているけど、まだ倒れてはいないようだ。
「よしっ、とどめ!」
「待って!」
「えっ!」
とどめを刺そうとする人を止める。
ガァァァァァ
オーガは叫び、無理に斧を抜くとそのまま手に持って振り下ろそうとする。しかし、出血がひどく途中で倒れた。
「び、びっくりした…」
「オーガは最後まで反撃しようとするから、無理にとどめを刺しに行っちゃだめ」
私も最初はすっごく驚いたけど、種族的に好戦的で相手を倒すことに全力を向けるんだよね。多少の攻撃は受けてなんぼみたいなところがあるから、オーガ系統は怖いんだ。
「ふぅ、2度も助けられたな。しかし、オーガの上位種がこんなにいるとは…」
「皆さんケガはありませんか?」
「ああ、おかげで助かりました。5体ものオーガ相手では我々のパーティーだけではかなり大変でした」
「魔法剣以外はあまり有効じゃないしね」
「全くです。貴方がそれを持っていてよかったですよ」
「それにしてもアスカ様はすごいですね。3体も同時に相手をされるなんて」
「いえ、リンネとソニアも居ましたし、オーガバトラーも1匹だけですから」
「それでも3対3ですよ。私たちは4対1ですから」
「それに前回の指導員なら危なかったぜ。あいつは戦士だったからな。オーガとは相性が悪い」
「そうですね。私たちと同じCランクでしたが、魔法剣もお持ちではありませんでしたし、かなり苦労したと思います」
「皆さんCランクなんですか?」
「私のパーティーの方は私と魔法剣を持つ彼が」
「俺たちの方は俺と、こいつだ」
そう言って、ランバーの人が指さしたのは最初に分かれた2人組の剣士の人だ。どっちも前衛がCランクなのか。
「あれ?そっちの斥候の人は?」
「彼はDランクですよ。攻撃が得意じゃなくてCランクにはなれていません」
「そうですか。でも、いい動きですし、Cランクでもおかしくないと思うんですけどね」
正直に言えば、一緒にCランク試験を受けたバルズさんよりよっぽど頼りになるんだけどな。
「そう言ってもらえると頑張れます」
「それじゃ、素材だけ取って埋めましょう」
そう思って素材は取ったのだけど…。
「リンネもソニアも本当に食べるの?」
わぅ~
何と、オーガバトラーの肉を食べたいと言ってきたのだ。筋肉質でただでさえ堅いオーガの上位種。本当に食べられるのか怪しいけど、欲しがってることだし何とか魔法で解体して、バッグに入れる。ナイフとかでいけないかなと思ったんだけど、硬くて刃が入らなかった。
「本当に持って帰るんですか?」
「この反応じゃしょうがないです。普通じゃ絶対持って帰りませんけど」
「そうですよね。この硬さでは噛めませんよね」
危機も去ったし、そこからレディトまでの帰りはゆったりとした時間だった。
「それでは街に着きましたし、ギルドまでお願いします」
「はい」
シールさんに連れられて私たちはギルドに着いた。夕方ということもあり流石に人数も多いものの、ここは受付自体が広いのですごく混んでいるという印象はない。
「ちょっと待っててくださいね」
そういうと受付を素通りして、シールさんが奥に行ってしまった。
「あっ、そっちの部屋に入ってくださいね。大人数ですから」
「は~い」
「こっち?」
皆がやや疑問に思いながら奥の部屋に入る。10人いるから別におかしくないと思うけどね。しばらくするとシールさんが男の人を連れてやって来た。
「みんな、今回はご苦労だった。シールの方から報告は簡単に受けたが、中々よい結果だったと聞いている」
「良いかと言われれば微妙ですね。サンドリザードに関してはそうですが、帰りにオーガバトラーと出会いましたし」
「その件も聞いた。災難だったな、あれに襲われればCランクのパーティーと言えど無事で済まないこともある」
「今回は運がよかった。優秀な指導員をつけてもらえたからな」
「わたしも助かりましたよ~。先輩みたいにケガしたくないですし」
「それについても非戦闘員を現地にやるのも今回までだ。ようやく目途が付いた。来週からはCランク以上の試験担当を付けられるようにする」
「ほ、本当ですか!?それなら早くしてくださいよ~」
「私が出向くわけにもいかんし、調整に手間取ったんだ。しかし、職員に被害が出たのでな。急ぎ手配した」
「良かった~。密かにみんなマスターが行けばいいのにって言ってたんですよ」
「…そうか。しかし、私も鑑定持ちだからな」
「ベニーがもう少し使えたらいいんですけどね」
「鑑定持ちだと何かあるんですか?」
「ああ。ギルドの支部には必ず指定された以上の鑑定持ちが一人はいる。冒険者の功績を確実に上げるためだ。レディトぐらいになると事務方のマスターも珍しくはないが、ここに関しては私が鑑定を持っているということが大きい。それでシール、どうして私をここに?」
「報告がてら修了証とかの相談もしたいなって」
「修了証?発行したところで、冒険者がまともに持ち歩くとは思えんが…」
「小さい冊子状にして、サンドリザードとかの魔物の情報を載せたらどうでしょうってアスカ様が…」
私そこまで言ってないと思うんだけど。
「なるほどな。アルバでは初心者向けにガイドブックのようなものを発行していると聞くし、それの中級者向けのものか。今度打ち合わせがあるから1部貰って参考にしよう」
「それじゃ、先に情報をまとめてもらっていいですか。アスカ様お願いします」
「は、はぁ。じゃあまずは特徴から…」
「…なるほど。ここまでの情報を提供してもらえるとは。アルバでも新鋭の冒険者だけのことはある。後で、修了証の部数に応じて振り込んでおこう」
「ありがとうございます」
「その他に何かあれば加えるが、最初はここに居るパーティーにまず配布しよう。一番ここが情報を得ているようだから、修正などがあれば参考に出来る」
「ありがとうございます。俺たちも助かります。今回は素材も取れましたし」
「サンドリザードの皮ですね。今解体師たちの方でなめすやり方を新しくしたそうで、今なら安く成型出来ますよ。アルバの解体師と協力して作ったようです。加工してもでこぼこしていたサンドリザードの革を、滑らかにしてくれるみたいですよ」
「本当か!下に着込んでいるが、鎧にごつごつ当たって気持ち悪かったんだ!」
「私もちょっと動きづらかったのよね」
「今は試験的に安くして、市場に認知されるようになったらそこそこかかると言ってましたから、早めの方がいいですよ」
「なら、すぐ行きましょう。アスカさん、今回ありがとうございました」
「いえ、私も貴重な経験が出来ました」
ソーズとランバーのみんなは革の件が気になるようで出て行った。
「さて、アスカさんは他に何かありますか?」
「アスカ様は素材をお持ちですよ。ベル草みたいなんですけど…」
「それで私を呼んだのか。では、お願いします」
私は採取した15本のベル草を出す。
「では…ほう、これは彼らに帰ってもらっていて正解だった。シールも見てみなさい」
「えっと…わっ!きれいなAランクのベル草ですね。初めてかもしれません」
「違う。これはSランクのベル草だ。普通の鑑定用魔道具では分かりづらいとは思うが」
「これってSランク何ですか!確かにたまに見るAランクとはちょっと違うような…」
「葉に露のような雫が見えるのがSランクの特徴ですよ」
「はぁ~、始めてみました」
「大きく単価が変わるから、覚えておくといい。では買取価格はと…Sが1本にAが9本、Bが5本ですね。こちらの方も素晴らしい。合計は金貨9枚と銀貨8枚になり、それに依頼報酬と討伐報酬で金貨11枚です」
「じゃあ、こっちのカードの方にお願いします」
「すごいです!金貨10枚ですよ!私だったら震えながら受け取っちゃいます」
「あはは、魔道具の材料とか細工の仕入れで同じぐらい払うので…」
「そういえばどこかの商会で細工も売っているそうですね。いやあ、才女ですね」
「ありがとうございます。では、失礼します」
ふぃ~、不慣れな場所で疲れた。リンネたちを迎えに行こう。ギルドとかに連れて入るのはあまりよくないので、ギルドの入り口に置いてきたのだ。彼らも休みたいだろうし、さっさと帰ろう。




