表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
366/492

アスカ指導員

「この辺が目的地周辺ですね。では、ここからは注意点を伝えます。まずはギルドから。ひとつ、戦闘に関しては指導員は補助に勤め、出来る限り手を出さないこと。これはアスカ様もそうですが、高ランクの冒険者を当てにしないということです」


「私たちだけってことか…」


「ふたつ、戦闘はパーティーごとに行い、不用意な行動は慎むこと。相手のパーティーの動きを観察するのは構いませんが、下手な手出しや嫌がらせなどは禁止です」


「まあ、当然だな」


「みっつ、負傷等に関しては冒険者側で持つこと」


「これも当然だわな」


「最後に、この訓練依頼で手に入れた素材は各自のものですが、ギルドはこの依頼のために指導員には報酬を、また討伐依頼も数を抑えています。無制限に受けられる訳でもありませんし、必ず成果を持ち帰ってください。以上です。何か質問は?」


「いや、十分だ」


「こっちも大丈夫だ」


「では次にアスカ様より、サンドリザードへの対処についてです。注意点があればお願いします」


「ちゅ、注意点ですか?」


い、いきなりだなぁ。せめて準備の時間が欲しかったよ。


「まずはですね。サンドリザードは地中を移動します。これは皆さん知ってますよね?」


「あ、ああ、一応は」


「聞いただけなら…」


どうやらサンドリザードと戦ったことのない人もいるみたいだ。


「では、注意してください。地中を移動している時は音も気配もあまり感じられません。出来れば見張りは2人立ててください」


「は、はい」


「今日のところは私が探知とソニアとリンネ…2体のウルフが手伝ってくれるので、警戒が必要になったら言いますね」


「匂いに強いウルフがいれば安心ね」


「あっ、後ですね。地中を移動してくる間は音で分かりますが、臭いは消えますから。レンジャー志望の人で匂い系のスキルがある人は特に注意してください」


これは昔、フィアルさんに教えてもらったんだよね。知り合いのレンジャーでケガをした人がいるって。


「そ、そうなのか…俺、それで探そうとしてたぜ」


「あとは、注意ではないですが外皮が固い分、内側はそこまで強くありません。口や傷がある時はそこを集中して狙ってください。それと、地中から来る時は固まらないようにしてください。避ける先がなくなりますから。こんなところでいいですか?」


「はい。ありがとうございます。皆さんも先程聞いたことを生かして戦ってください。では、先にランバーの皆さんが戦闘を行いますので、ソーズの方たちは下がってください。アスカ様は補助が出来るところで待機を」


「分かりました。そうだ!お姉さんは戦闘が出来ないので、両側にリンネとソニアをつけますね。2人とも頼んだよ」


わぅ


わふっ


リンネたちはお姉さんの両脇を固めるように座る。どちらかでも十分だと思うけど、安心させるにもちょうどいいだろう。


「さ、触ってもいい?この子たち普通のウルフじゃないんでしょう?私まだ見たことがないの」


ソーズの女剣士風の人が言うので、リンネたちに確認する。


「あんまり、触らなければ大丈夫みたいです。でも、カーム印の干し肉があると喜びます」


「カーム印?あの硬いやつか!」


「はい。残念なことにあれぐらい硬いのが好みで…」


「俺、余ってるわ」


「ちょうだい!」


リンネとソニアは思いがけないおやつにご機嫌だ。


「おい!俺たちはもう始めていいのか?」


「あ、すみません。準備が出来たらお願いします」


「なら、行くぞ!お前ら」


「「おお~!」」


「あっ、ソーズの皆さんはあまり騒がないようにしてくださいね。居場所がばれると地中から攻撃される危険性が上がりますから」


「は、はい。ですが、なぜ今になって?」


「普段行く時はみんな知ってますから。ああやって、大声出して進むことないんです」


討伐に行くときは情報集めが最初だもんね。出るのが分かってるなら、下調べは大事だし。


「それは、そうですね」


こうして私がやや後ろについて、ランバーが先へと進んでいく。探知の方はと…おや?早速、奥の方に5体ぐらいいるな。ランバーの装備はと…ああ~先頭のリーダーさんは重戦士か。あれだけじゃらじゃら付いてると、気付かれちゃうな。地中に潜ったら教えてあげよう。


「どうだ?」


「いませんね。先に進みましょう」


どうやら、斥候役の人も木の上とかを進むんじゃなくて、徒歩で探している様だ。でも、多分重戦士さんが動いてるからよく聞こえないんじゃないかな?


しばらく進んだところで、サンドリザード側に反応が見られた。どうやら気づいたようだ。


「皆さん。サンドリザードが気づいて地中に潜りました。対応してください」


「お、おう。おいっ!場所は?」


「私では分かりません…」


「チッ!一先ず左右に分かれる」


重戦士の指示で2人と3人に分かれる。だけど、3人の方は斥候役と魔法使いとポーターという、素材の運搬を主にする人と後衛よりの人だ。ちゃんと地中からの攻撃を防げるかな?サンドリザードはと…近くにいる2人の方を狙ってるみたいだ。言いたいけど、訓練でもあるしここは出方を見てみよう。


「さて、どこから来やがる…」


5人で辺りを警戒するものの、相手も5体。それぞれの地中の進む音で正確な位置が分かりにくい。


「ダメだ!何体かいるせいで位置が分からん」


「近いのは?」


「2体か?すぐそこだ!」


「俺の方か?なら!」


前方に盾を構えて待ち構えるリーダー風の重戦士。読み通りすぐ手前からサンドリザードが1体攻撃を仕掛けてくる。


ギャオォ


「はん!その程度」


力には自信があるらしく、サンドリザードの攻撃を弾き飛ばす。だけど、奴らの狙いは…。


「う、後ろだ!」


「なにっ!」


続いてもう1体が後ろから当たる。流石の鎧の守りで致命傷はないものの、一時的に戦闘不能になった。


「くっ!」


慌てて他のメンバーが現れたサンドリザードに向く。これはまずいかも…。


「待って!ウィンド」


先に出てきたサンドリザードを弾き飛ばして、一旦警戒を解かせる。


「なっ!」


「まだ3体います!音に集中して!」


「は、はい!」


3体の内、2体はこの3人を狙っている。その中間地点にもう1体だ。サンドリザードは速攻をする時と、波状攻撃をする時に分かれる。人数が多いと波状攻撃を取ることが多い。


「下だ!来た」


「アクアボール!」


地中から出てきたところを、魔法が使えるメンバーが攻撃する。うまく顔に当たったので、こいつはかなり楽だろう。


「次は横だ!避けて」


シャァァ


出てきたリザードの攻撃を避けると、ポーターの子が何かを投げる。それは目に当たり、この個体とも戦いやすくなった。後ろのメンバーは結構連携が出来るみたいだ。波状攻撃が失敗したと思った最後の1体も地中から出てくる。戦況を確認したかったみたいだ。


「反撃だ!お前らはそのまま3体を足止め。こっちで数を減らす!」


「「了解!」」


起き上がった重戦士の指示のもと、メンバーは新たに動く。ポーター風の子は木を背にして最後尾に、斥候と魔法を使う人はやや前にでて並んでいる。重戦士と剣士風の人はそれぞれの獲物を構えてサンドリザードに切りかかった。


「でりゃぁぁ!」


重戦士が恐らくオーガアクスと思われる斧を振るう。実際にオーガが持っているというものではなく、オーガの力があって初めて持てるという触れ込みの重量級の武器だ。多分私じゃ持てないな。その重量武器が固いサンドリザードの外皮ごと断ち切る。剣士の方は私のアドバイスを生かして、うまく口から剣を差し込んで倒したみたいだ。


「アクア」


その間にも後衛の3人は頑張って時間を稼いでいる。


「そうそう、足元を狙って足場を悪くするの!」


「は、はいっ!」


あっ、ついアドバイスしちゃった。これはハイロックリザード戦でフィアルさんがやってたんだよね。こうすれば踏ん張りがきかないので、そこそこ重量のある魔物には有効なのだ。その後は前衛の2人が戻ってきて各個撃破して終了だ。


「お疲れさまでした。ただいまの評価はBですね。ただ、被弾時の対応とアスカ様のアドバイスもありましたので、注意を怠らないようにしてください」


「おいおい、Aじゃないのかよ」


「正直に申し上げまして、アスカ様が後続を知らせたところではC評価でした。あのまま戦っていた場合は死傷に繋がりましたので。その後の戦いでは問題ありませんでしたので、B評価です」


「ちっ!あれぐらいなら何もなくても…」


「そうですか?途中から動きが良くなったのは総数が分かったからでしょう。相手の戦力が見えるのとそうでないのとは雲泥の差ですからね」


「わぁーったよ。Bでいいぜ!ほら、素材を回収するぞ」


重戦士の人が大きいナイフを出したので、ついあっと声をあげてしまった。


「まだなんかあんのか?」


「いやぁ折角、肉も皮も使えるのでもうちょっと丁寧に取ってもらえたらなって…。皮も口元からなら結構楽に出来ますし」


「おっ、ほんとだな。これならナイフと言わず剣で一気にやれそうだ」


「あっ、尻尾は半分にしないでくださいね」


「どうして?」


「その…そのままサイズを絞ったりして腕周りに使えるんです。武器屋の人に聞きました」


「そうだったのか…。しかし、そんなに情報をくれていいのか?こちらは助かるが…」


「えっ!これってそういうのを教えるんじゃないんですか?」


「アスカ様。これはあくまで戦闘訓練ですので、戦いに関して補助と注意のみです。裁量に関しても冒険者に任せられますから、受ける知識も偏るんですよね」


「そうだったんですね。なら、修了証という形で小さい冊子を有料で配っては?そこに注意点とかをまとめて、一定以上の知識が必ず身に付くようにするんです。それなら、底上げになると思うんですけど…」


「それは良い考えですね。アルバのギルドマスターと話をしてもらって詰めてみます。それにしてもアスカ様は詳しいんですね」


「まあ、サンドリザードは割と倒しましたし、ハイロックリザードに比べれば断然楽ですよ!」


「は、ハイロックリザードって…」


「あんなん相手じゃ命がいくつあっても足りないぜ」


「確かに外皮は堅いし、まともに効く魔法もありませんでしたね」


「戦ったことがあるのか?」


「まあ、一回だけですけど…」


その瞬間、ピタリと時間が止まったようにみんなの動きが止まったのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ