遺跡の手前で
夕食もおいしかったし、ゆっくり眠ろう。今日は見張りもないしね。そうして寝ていたのだが…。
「アスカ!起きろ!」
「な、なに!?」
急に起こされてびっくりした。どうしたんだろ?
「魔物だ!早く来な」
「は、はい」
慌てて杖を持って、外に出る。辺りは真っ暗だけど、見張り用の明かりでおぼろげに姿が見える。ガーキャット達のようだ。
「視界が悪い。アスカなんとかできるか?」
「分かりました。眩しくなるのでちょっと光に気を付けてください!」
「分かった。みんな聞いたね!」
「はい」
「おう!」
まずは魔法で明かりを灯す前に牽制だ。
「ウィンドブレイズ!」
辺りに風の弾丸を打ち込んで、近づけないようにして再び相手が態勢を整えたところで私は魔法を使った。こうすることでこっちに視線を集める狙いだ。
「くらえ!フラッシュ!そしてライト」
まずは相手の目をつぶすためにフラッシュで特大の光量をぶつける。その後はみんなのためにライトで辺りを照らす。
「だ、大丈夫ですか?」
「ああ、何とかね。向こうは?」
「光にやられてくらくらしてるみたいです」
「よし、行くぞ!」
まだ相手との距離もうまくつかめないガーキャット達に襲いかかる。私は1体に狙いを定めて、ウィンドカッターで倒す。みんなもそれぞれに相手をして、4体いたと思われるガーキャットの最後の1体は、リンネとティタによって倒された。
「ふぅ。終わったね」
「ああ、アスカ。さっきの魔法は?」
「役に立たないって言われた光の魔石ですよ。どうですか、すごいでしょう?」
「まあね。でも、その恰好は何だい?」
「へっ!?」
「本当だ。アスカ、変わった格好してるね」
ええっと思って自分の姿を見る。
「しまった。ついお祈りを済ませたまま寝ちゃった。す、すぐに着替えてくるね」
急いでテントに戻って着替える。あんまりあの姿を見られたくないのもあるけど、しわになっちゃうからね。
「お待たせ」
「お待たせって。アスカもう寝ないのか?まだ、3時ぐらいだぞ」
そういえば襲撃で起きただけで、まだ夜だったっけ。
「じゃあ、お休み」
「はいよ」
皆からの追及はかわしたし、私も寝よう。再びテントに戻って毛布をかぶり眠る。しかし、即夜襲なんてついてないなぁ。
「アスカ~、起きな」
「はぅ~、もうすこし…」
「アスカ、おきる」
「ぐぇっ」
ティ、ティタ乗っかられると重たい…。仕方なくのそのそと起きると、すでにテーブルには食事の用意がされていた。
「おはよう、アスカ」
「おはよ~。今日は何?」
「昨日使った肉の骨を煮込んだスープだよ。具は野菜だけど」
確かにリュートの言う通り、スープの中は野菜がたっぷりだ。肉と言えば恐らく骨からそぎ落としたものと思われる小さい塊があるだけだ。でも、スープの方に良い出汁が出てるし、お肉も柔らくて好きなんだよね。よそってもらってパンと一緒に食べる。
「ん~、美味し~」
「本当だね。こうしてると出先だなんて思えないね」
「リュートこのスープの下味どうやってるんだ?」
「こっちの瓶に入ってる素と、岩塩だよ」
「そのスープの素って売れないのか?こういうのだったら、うちの奴らも喜びそうなんだけどな」
「う~ん。一部はライギルさんに教えてもらったものを使ってるからね。どうだろ?」
「今度話してみたらどうだい?別に金の当てはいくらあっても困らないよ」
「これ、売れますかね?」
「リュートは何で売れないと思うの?」
「いや、だって冒険者がわざわざこんな瓶を買ってまで、料理するかなって」
「リュート。こういうのが欲しいのは多分店の人とか普段から料理を作ってる人だと思うよ。これを混ぜて簡単な下味で済むなら、後は切って煮込むだけだし、助かると思うな」
「そっか、僕は冒険の時に使ってるけど、普段から使えるのか」
「逆に普段から使えるから、いつの間にか世界中で使われるかもしれないよ」
「流石にそれはないと思うけど…」
「ちなみにこの瓶でどれぐらい使えるんだい?」
「う~ん、大鍋なら2回分。日持ちは1か月ってところですかね」
「結構持つね。ますますいいんじゃないかい」
「しっかし、アスカの細工に続いて、リュートも調味料でデビューかよ。俺もなんか考えないとな~」
「ノヴァなら大工が出来るじゃない」
「出来るったって、依頼が無けりゃダメだろ。アスカたちのは自分で作って後は売るだけじゃん。そういうのが欲しいんだよ」
「それじゃ、家具とかは?見たことあるけど、結構高いからそれなりの物を作ったら売れると思うんだけどな」
「家具かぁ~。親方に相談したら何とかなるかな?」
「何で相談がいるの?」
別に家具は家具屋さんだし関係なくない?
「あっ、アスカ今どこが関係してるんだって思っただろ?」
「えっ、分かった?」
「ああ。まあ家を作る時はレンガ造りだろうと色々木を使うだろ?」
「まあ、そうだよね」
「それで、柱とか色んなものに使える状態のは良いんだけどよ、中には短く切ったり薄く板を作っちゃったやつとかもあるんだよ。それも余るとこがな」
「それは家作ったらそうなるよね」
「そういう時に余った木を使って、材料費の分を一部格安にして家具を作ってるんだよ。だから、新築の家とかだとみんな家具は後回しで、家の残りでどれだけ作れるかを見るんだよ。だから、その俺が家具を作っちゃうとなぁ。同じぐらいの品質のが並ぶんだけど、値段じゃ勝てないし、何か工夫がないとなぁ」
「なるほどね。そんなことまでやってたんだね」
「あんたら、そんなこと言ってるけどまさか旅の途中でタンスとか作らないだろうね。どうやって持ち運びとかするんだい?」
「えっ、あっ、そうか」
「宿から苦情が来て開けたら、あんたがタンスを組み立ててるなんてやめてくれよ」
「そっか。よく考えたら木の買い付けって旅してると難しいよな。付き合いのある業者とかだと他の所のやつが買うのも難しいしな。それに木の確保もうちは半分やってるし。レンガも最近作れる奴がいるんで自前でやるか業者に任せるか話し合ってるんだよな」
「レンガかぁ~。ちょっと懐かしいなぁ」
エヴァーシ村で作ったレンガを思い出す。この前行った時も新しく家が出来てたし、いいものが出来てるといいな。
「まあ、副業を考えることは良いことだよ。死ぬまで冒険者って訳にも行かないし」
「ジャネットはなんか考えてんのか?」
「あたしはひとまずAランクになることが目標だから何にも。まあ、Aランクで数年活動すりゃ、別に副業なんてなくても、引退してやって行けると思うけどね」
「そうですよね。僕は魔槍ぐらいは置いておくかもしれないですけど、ジャネットさんはいっぱい剣持ってますもんね」
「あたしも全部は売らないよ。気に入ったやつは置いておくと思うしね。この鎧とか」
「でも、その鎧ってハイロックリザードの皮を使ったやつだろ?売れば高いんじゃないか?」
「高いって言っても、専用のサイズだし買い叩かれるだろうね。それなら、自分で使うか娘にでもやるよ」
「子どもが冒険者になってもいいんですか?」
「どうしてもなりたいならね。アスカみたいなかわいい子なら絶対反対するけど」
「そんなこと言って、ジャネットさんの子どもならきっと美人ですよ」
「アスカに言われてもねぇ」
その後は食事の片づけをしてテントを片付けて出発だ。出発前にちらりとテントの側を見ると骨の欠片が落ちていた。何だと思っていると、スープを作る時に使った骨をリンネが欲しそうにしていたのであげたとのこと。別にそれ以外を欲しがらなかったので、朝ご飯はそれになったらしい。
「ノヴァありがと」
食事を終えて、テントを片付けるのにノヴァに手伝ってもらった。
「別にこれぐらいいいぜ。大体、アスカは力もろくにないのに重たいのを買い過ぎなんだよ」
「でも、長く使える方がいいでしょ?」
「まあ、そうだけどな」
「それに、冬は暖かいし夏だって一定以上は温度が上がらないんだよ。まあ、下がらないけど」
その1点と重いことを除けば、欠点の無いテントなのだ。テントも仕舞って、今日の移動が始まる。
「このまま、山脈を通って進むよ」
「はい!」
見晴らしもいいし、このまま進んでいけば今日の昼過ぎには恐らく遺跡に到着するはずだ。手前の山と違って次からは草の背も低い。魔物が居るかの確認も簡単だけど、こっちもかなり目立っちゃうな。昨日も魔物が襲ってきたし、今日は何もないといいけど…。
わぅ!
「そんなわけにはいかないよね…」
一声リンネが鳴いたと思うと、即座に前に出て爪を振るう。
バッ
鮮血が辺りに飛び散る。どうやらブリンクベアーがいるみたいだ。それでもリンネは直ぐに奥に向かっていく。
「みんな!少なくとも2体はいる!」
「分かった!まず僕はこっちを」
「じゃ、あたしは奥に行く」
「アスカ、中間に行くぞ!」
「うん」
ノヴァが2刀を構えて私を誘導する。特に奥のは傷がないから位置が分かりづらい。
ギィン
「ちっ!うりゃ!」
ノヴァが剣を交差させて攻撃を防ぐ。そして、相手が離れた瞬間に左手のナイフを投げて手傷を負わせる。
「へん。これでどうだ!」
「よしっ!」
そのまま、位置を捕らえたジャネットさんが腕を切り落とす。ブリンクベアーはろくに素材がないから遠慮しなくて済むのでありがたい。私も魔法を唱える。狙いはリュートが戦っている相手だ。
「下がって!」
「了解!」
リュートが引いたところに魔法を撃ちこむ。
「ウィンドブレイズ」
やや大きめの弾丸を作り出して、一気に当てる。位置を正確にはつかめないけど、傷のお陰で大体は把握できる。ちょうど撃った球の半分ぐらいがブリンクベアーに命中する。体の半分が穴だらけになって、ブリンクベアーは倒れた。
「ん、これで終わりかな?」
「そうみたいだね。リンネも大人しくしてるし」
もう終わったと言わんばかりに、リンネはくつろいでいる。
「それにしても、ほんとに山側には多いんだね」
「リンネがいて助かったね。こいつらの匂いは分かりやすいから、ウルフ系は基本襲われないんだよ」
「だけど、獲れるのは牙だけだもんな。これって何とかナイフに使えるか?
「まあ、ナイフって言っても、そこそこのものだね。軽いけど戦闘用となるとちょっと微妙だね。Dランクまでならある程度使えるだろうけどね」
「後内臓ですよね」
「ああ。全く、滅多に手に入らないから全部くれ何て了承するんじゃなかったよ」
ぶちぶち言いながらもジャネットさんが内臓を取っていく。