受注と買い足し
リンさんたちと別れた私たちは、まずギルドに向かう。と言っても依頼の達成報告じゃない。依頼は終わったけど、追加報酬の件もあるので、2度手間になるからだ。ではなぜ?といえばもちろん、今回の旅の目的である遺跡探索の依頼を受けに行くのだ。
「あら~、お久しぶりです。ご依頼ですか?」
「はい。草原の遺跡探索をお願いします」
「ほう?あんたが遺跡探索をね」
依頼を受けようと思ったら、近くの冒険者に声を掛けられた。
「そうですけど…どうしたんですか?」
「いやぁ、俺のところは廃村になったところの調査を受けてるんだ。その依頼を受けそうなやつが居るってんでね。どうだ、競争してみないか?」
「競争ですか?」
「ああ。遺跡と村。場所は違うが同じような時代のものだ。どっちが良いもんを見つけられるか競争だ」
「ヴォ―ド。またそんなこと言って、パーティーを困らせてんのかい?」
「ジャネット!久しぶりだな。お前もこっちに?」
「何言ってんだい?あたしがパーティーに入ってもう大分経つだろ?」
「噂には聞いてるが、Bランクになったんだろ?ここで一つ新しいパーティーはどうだ?」
「将来性を考えればお断りだね。それにこっちの方が性に合ってるんでね。あんたこそ、その依頼はみんなと相談して受けたのかい?」
「いや、興味がわいたからな。それにリーダーってのは仲間の息抜きにたまには変わった依頼を受けることも必要だ」
「知らないよ。草原の野営で文句を言われても」
「ジャネットさんお知り合いですか?」
「ああ。何度かパーティーを組んだことがあるヴォ―ドってやつだ。6人パーティーを組んでる奴さ」
「6人ですか。結構多いんですね」
「まあ、前は8人ぐらいいた時もある。パーティーって言っても出入りがあるんでな。腕のいいやつ、見込みがありそうなやつは大歓迎だ」
「そんなこと言って、2人も減ったってことはダメだったんだろ?」
「Cランクが見えてきたんで、職業を確認したら重戦士とレンジャーだった。レンジャーはもういるし、重戦士の移動速度じゃうちには必要ないからな」
「アスカ、あんたは他のパーティーを知らないだろうけど、大体のところはこうだからね。メンバーの入れ替えがないところは少ない。たとえ引退が無くてもね」
「でも、折角知り合ったのにもったいないですね」
「お嬢ちゃんは変わってるな。知り合いだろうが何だろうが、足手まといになることが見えてるんだ。しょうがないだろう?」
「教えてあげたりしないんですか?」
「冒険者がか?あいつらも冒険者なら自分で鍛えて当然だ。上がってこれないならそれまでってことだ。で、競争はどうする?」
「あたしは別に構わないよ。アスカは?」
「う~ん。私も別にいいですけど、どうやって勝敗を決めるんですか?魔物の素材とかもありますし」
「そいつは含めないな。あくまで現地で入手したやつだけだ。魔物なんて倒そうと思えばうじゃうじゃいる。それじゃ競争にならない」
「分かりました。なら、遺跡と村で発見したものだけですね」
「アスカ良いの、受けちゃって」
「うん。だって、それぞれ何を見つけたか分かるでしょ?珍しいものが見れるかもしれないし…」
まあ、村の方は私たちが探索しているからよほどのことがない限り出てこないと思うけどね。
「話が分かるやつだな。じゃあ、ベットだ。それぞれが金貨1枚ずつ。俺たちの取り分はこれだけだ。周りのやつはどっちかにかけていいぞ!一口銀貨1枚、勝った方が受け取りだ」
「ヴォ―ド!どっちも無しでもいいのか?」
「おう!しかし、性格の悪いやつだな」
「探索依頼何てそんなもんだ。お前にも俺たちの悲しみを味わってもらうぜ!」
どうやら、どっちも無しといった人は探索依頼で何も見つけられなかったことがあるらしい。他人に見つけられるのは嫌なんだろうな。
「でも、かけ事なんてしていいんですか?」
「別に争ってるわけじゃないし、ギルドとしてはこれで依頼に身が入るんだ。安いもんだろ?」
「でも程々にしてくださいね~。結果が良くなくて争ったりはダメですよ~」
「わかってるぜ。だけど、ジャネット。お前らのパーティー、ほんとに大丈夫か?見たところガキどもばっかじゃないか?」
「Cランクパーティーに随分な言い草だね。あんたこそ、ケガして帰ってくるんじゃないよ」
「おいおい、そんななりばかりでCランクかよ。ジャネットがBランクでDランクは何人だ?」
「高ランクの待機は禁止されただろ?残念ながらあたし以外も全員Cランクだよ」
ジャネットさんの言葉でギルド内が一気にざわつく。まあ、私もアルバで色んな冒険者を見たけど、確かにノヴァたちぐらいの人がCランクなんて滅多にいないもんね。
「そっちのちびもか?」
「ちびって…」
「うちのリーダーになんてこと言うんだい。この中じゃ、期待の新星だよ」
「ジャネットがリーダーじゃないのか?」
「なんであたしがリーダーなんだよ。向いてないだろ?」
「だが、一番ランクも高いし経験も豊富だろ?」
「アドバイスぐらいはするがね。それなら別にランクが高いやつじゃなくって務まるだろ?」
「高ランクのやつが低ランクをまとめる。分かり易くていいと思うがな」
「そういうところがあんたとは合わないんだよ。賭けのこと忘れんなよ」
「分かった。期限は…悪いがうちは遠くなるんでな。1週間後でどうだ?」
「大丈夫です。それぐらいなら予定内です」
元々、10日の予定で組んでたからね。
「それじゃ、お互い頑張ろう」
ヴォ―ドさんと握手をして別れる。ちなみに周りの冒険者の賭けは私たちの方が圧倒的に少ない。同じCランクのパーティーと言っても、こっちはあまり知られていないし、向こうは2年以上Cランクとしてこのレディトで活動しているためだ。ギルドを出て、宿に向かいながら話す。
「本当によかったんですかジャネットさん。僕らあっちで探索してますよ」
「リュート。勝ちは拾うもんじゃない。あっちが仕掛けてきた勝負だよ?情報量の差ってやつさ」
「とりあえずは金貨1枚の使い道だな」
「ノヴァの言う通りだ。なににしようかね」
「いしほしい」
「ティタ、ようやく喋ってくれたね」
「うん。まちはひといっぱい。あまりしゃべらない、ディースとやくそく」
そっか、それで最近街中じゃ話しかけてこなかったんだ。まあ、話してるところを見られたら困るのは確かだけど。ティタはアイアンゴーレムってことになってるけど、それでも小さいゴーレム自体珍しいので、結構目立つ。レディトだと街中では置物みたいに微動だにしないのだ。
「でも、それなら袋に入ってる?」
「あたま、でてもいい?」
「それぐらいならいいよ」
正直、肩に人形を乗せた冒険者と思われるのはちょっと恥ずかしいからね。
「アスカ、どっち行ってんだい?」
「えっ、宿ですけど?」
「今回はリンネがいるんだよ。こっちの宿じゃないと」
「そういえばそうでした。食事も考えないとですね」
屋台の料理は味が濃すぎるし、従魔用の食事を出す店もあるけど、高いんだよね。私は別に構わないんだけど、あんまりおいしくないみたいで、普段ライギルさんの食事を取ってるリンネが嫌がるのだ。
「従魔用の宿も取ったし、明日の準備だね。何か買い忘れはないかい?」
「買い忘れですか?う~ん、ポーションとかもあるし…あっ!」
そういえばマジックポーションをミディちゃんに使ったっきりだな。買いに行こう。
元々がマジックバッグ用の予備みたいなものだけど、いつ必要になるかもわからないし、こういう時に買っておかないとね。
「じゃ、1時間後に飯で。店は当てがあるから」
「分かりました」
ジャネットさんはレディトにいたこともあるし、ここはお任せしよう。ポーションのほかにも交易中継都市ならではの保存食を買い求めた私は1時間後にみんなと合流した。みんなと言っても、リンネも居たしリュートも一緒だったけどね。でも、リュートは散々だった。
「まさか、女性と間違われるなんてね…」
「おかしかったよね。最初は必死に私を守ろうとしていたんでしょ?」
「そりゃ、アスカが声を掛けられるのは当たり前だしね。でも、まさか背の高い女性が好みだったなんて…」
「最近は間違われることもなかったのにね」
「面白そうな話だね。飯を食べながら聞かせてもらうよ」
「やめてくださいよ!」
ジャネットさんに案内されたのは見た感じ、ぼろ…古風な建物だ。店は結構大きいけど、何だか穴とかも開いてるし。
「邪魔するよ」
「おおっ!久しぶりじゃないか。うわさは聞いてるぞ」
「いいうわさ何だろうね?」
「自分の胸に手を当ててみればわかるだろう」
「なら、いいうわさだね。飯は?」
「後ちょっとだ。あっちのテーブルに座ってな」
「はいよ。んじゃ、そっちに座ろうかね」
ジャネットさんに促されてテーブルに着く。そして運ばれてきた料理はと言うと、大皿だった。それも70センチぐらいで中央にでんと肉があって、周りに野菜やその他のおかずが乗ったでっかい1枚プレートだ。
「リンネの分は?」
「そのままでも大丈夫だよ。この肉もこっちのソースをかけて食べるから、そんなに味は濃くないしね」
「そうなんですね。リンネ、食べられる?」
わぅ!
どうやら匂い的には合格のようだ。尻尾を振ってねだってくる。
「はいはい、ちょっと待っててね。今切り分けるから」
まずはリンネ用に私は切り分ける。大体、塊3つぐらいでいいかな?野菜とかもきちんと横においてやる。リンネの分が終わったら私の分だ。
「ん~、美味しい。ソースがおいしいですね。それに香草ですか?いい香りがします」
「だろ?店の感じがこんなんだから避けてたんだけど、前はよく来ててさ」
「はん!俺だって建て替えれるならやりたいけどよ。店を閉めてまでやりたくないだけだ!」
「補修ぐらいしたらどうだい?」
「それこそ、全体に関わっちまうぜ」
「別にブロックごとに作ればいいんじゃないですか?こう…4等分とかして」
「アスカお得意の小部屋製法だな。うちで取り入れて助かってるぜ」
「なんだそりゃ?」
「建物をブロックごとに分けて、その部分ごとに作るんです。ちょっと空き地は必要ですけど、区画ごとに入れ替える形になるので、短時間で新しくできますよ」
「ほう?それなら店も新しくできるかもな。坊主、お前の所の大工なら出来るのか?」
「うん?まあな」
「よしっ!仕事の依頼だ。いつ頃からかかれる?」
「今確か受けてる仕事は2つだから、3週間後ぐらいかな?」
「なら、それでいいから頼んどいてくれ。金ならあるんだ」
思わぬところで、大工のおじさんの仕事が舞い込んだのだった。