試験結果は?
試験が終わった翌日、細工をしてのんびり過ごしていた私だったのだが…。
コンコン
「は~い」
何だろう?食事の時間ってことでもないし。
「おねえちゃん。リュートさんたち来てるよ」
「リュートたちが?どうしたんだろ?」
とりあえず、待たせてもいけないので簡単に片づけてから下に降りる。
「アスカ遅いぞ~」
「えっ、何か約束してたっけ?」
「こら、試験結果を報告するって言ってあっただろ?2人とも落ちてたらパーティーランクはDのまま。1人でも受かってたらCランクになるんだよ」
そういえば、そんな話もしてたっけ?てっきり報告は次に集まるときって思ってたから、よく聞いてなかったな。
「で、2人とも結果は?」
ジャネットさんが尋ねると、2人ともカードを前に突き出す。
「リュートが魔槍士。まあ、これは普通だね。ノヴァはと…。ん?双剣士」
「どうだ!ジャネットだって成れないだろ」
「いやまあ、そうだけどさ。あんた二刀流なんて持ってたっけ?」
「試験で身に付いたんだよ。アスカのお陰だぜ。ほら!」
確かにノヴァのスキル欄に二刀流の文字が見える。だけど、後ろのナイフって何だろ。
「はぁ、そういうことかい。きちんと職を選ぶ時に説明は聞いたんだろうね?」
「おう、何でも珍しいってライラさんが言ってたぜ」
「ノヴァはそれ以外の説明聞いてないでしょ。ライラさんの説明も途中で流してたし…」
「それなら、ちょっと外に行くか。きっちり、説明してやるよ」
「別にいいぜ。他にも見せたいものもあるからな!」
「へぇ、楽しみにしておくよ」
ひょっとしてエンチャントのことかな?私は出来るようになったけど、ノヴァはあれから練習とかしたんだろうか?とりあえず私たちは街の東に出て空き地まで歩く。
「んじゃ、早速見せてもらおうかね。そうだ!ノヴァは剣1本しか持ってないし、こいつを貸してやるよ」
ひょいっとジャネットさんが剣を一本取り出して、ノヴァに投げる。
「よっと。じゃあ、見せてやるぜ!」
ジャネットさんは正眼に構えると、ちょっと力を抜いた構えだ。大丈夫かなあんな構えで。
「おりゃあぁーー!」
ノヴァは剣を二刀流で襲いかかる。だが…。
「わっ、っとと…」
剣を振るときに動きがおかしかったみたいで、ろくに振れなかった。しかも利き手だったのに。
「やっぱりね。次は自分のナイフでやって見な」
「お、おう!」
気を取り直してノヴァはナイフに持ち替えて、再び攻撃する。今度はジャネットさんもきちんとした構えだ。
キン
キキィン
金属音が響く。確かに、試験の時と同じような動きだ。無駄はあるけど、中々の連続攻撃だろう。
「どうなってんだ?今度はちゃんと動けたぞ」
「あんた自分のスキル欄ぐらいちゃんと見なよ。あんたの二刀流はナイフ限定。剣とナイフもしくはナイフとナイフぐらいしか出来ないよ」
「へっ!?これってナイフだとうまくなるってことじゃないのか?」
「ちゃんとライラさんから説明聞いときなよ。そいつは二刀目はナイフでなければいけないという制限だよ。かなり極めたやつだけがかっこ無しの二刀流になるんだ」
「じゃあ、ひょっとして外れなのか?」
「外れとは言わないね。適性がないとスキルとして出てこない訳だしね。ただ、剣とナイフじゃリーチがね…。受け止めるにはいいけど、攻める時にはかなり肉薄しないと難しいね。だけど、パーティーとかで考えたら悪くはないよ。あんたが流すだけでも、後ろからリュートもアスカも攻撃できるわけだし。運が良けりゃ、剣とかも使えるようになるかもしれないしね」
「そうか!なら頑張ってやるぜ!」
ちなみに、ノヴァはナイフとナイフでは発動しなかったので、今は二刀流の組み合わせは剣とナイフ限定のようだ。
「そういや、アスカのお陰で身に付いたって言ってたけど。どういうことなんだい?」
「俺たちの試験官がアスカだったんだよ。近くから弓を連続で撃たれて、どうしようもないって時にたまたまナイフを左手で振ったってわけ」
「ふ~ん。アスカが近距離で矢をねぇ…」
「ち、近いって言ってもこのぐらいですよ。目の前とかじゃないです」
「いや、そりゃそうだろ。しかしよく構えられたね」
「始めの合図のすぐ後でしたから。たぶん、ノヴァは私が下がると思ってるだろうなって」
「そうそう。どこに下がるか見て攻めようと思ったのにさ」
「アスカもやるねぇ。相手の心理を突いて行動するなんて」
「えへへ。普段の訓練の賜物ですよ」
「そうそう。そこで俺も新しい魔法を身につけたんだぜ!」
「ノヴァが魔法?珍しいこともあるもんだ」
「見てろよ…。ファイア!エンチャント!あれ?」
ノヴァが火を出してエンチャントを唱えるが、効果は見られない。やっぱりあの後きちんと使えるか確認してなかったんだね。
「エンチャントか。まあ、あんたぐらいの魔力なら、ギリギリ使えるだろうね。火の魔剣の代わりにはなるか」
「そうだろ?これで、魔剣一本分節約だぜ!」
なるほど、そういう意図で覚えようとしたのか。多分魔導書が金貨1枚ちょっとで、魔剣だと金貨6枚以上するからそっちにしたんだな。私が付与したのは短剣だし。
「もう一回!エンチャント!」
再びノヴァが魔法を使う。今度は成功はしたものの、明らかにファイアの火の勢いより少ない量しか付与されていない。
「アスカ、見本見せてやりな」
「は、はい。ファイアボール…エンチャント」
私はジャネットさんの剣にエンチャントを行う。剣の刀身は燃え盛り、きちんと成功している様だ。
「ほら、お手本を見てただろ?もう一回」
「くそっ!なんでアスカはもう身につけてるんだよ!俺の方が先に使ったのに」
「そういえば、どうしてジャネットさんは私が使えるって知ってたんですか?」
「何となく。目の前でノヴァが得意げに使ったら、アスカだったら、悔しくてすぐにまねしようと思うだろうと思ってね」
「あはは…」
当たっているだけに何も言い返せない。それから、何度かノヴァは失敗しながらも最後はマジックポーションまで使ってコツをつかんだみたいだった。
「そういえばリュートは練習しないの?」
「あ、うん。まあね」
「リュートは失敗するのが怖いのか?まあ、結構難しいからな~」
さっきまで自分が手こずってたらこれだ。
「いや、リュートは別にいいんじゃないかい?」
あれ?ジャネットさんのことだから、戦力増強になるとかいうと思ったのに、どうしたんだろ?
「そ、そうですね。僕はまた今度でいいです」
「なんだよ。時間あるから、見てやるって。やって見ろよ」
しつこくノヴァが言うので、結局リュートもエンチャントの練習をすることになってしまった。でも、あんまり乗り気じゃないみたいなんだけど、どうしてだろ?
「はあ、しょうがない。行くよ、エアカッター…エンチャント!」
風の刃を作り出し、即座に槍の穂先にエンチャントを試みるリュート。あれ?一回で出来てる!?
「なっ!?リュート一回で成功させたのか?俺が何度もやったのに…」
「いや、リュートのことだろうから、試験の後にこれは使えると思って、本も買って練習したんだろ?」
「分かりますか?」
「そんなことだろうと思ったよ。やけに歯切れが悪かったしね」
「なんだよ!折角、俺が最初に成功したのに。なら、今度はとっておきのエンチャントを見せてやるぜ!」
「とっておき?」
「おう!相手の魔法をエンチャントできるんだぜ!」
「へぇ、本当かいアスカ?」
「は、はい。試験中に私のファイアボールをノヴァがエンチャントして…」
「そうそう。という訳で、アスカ。やってくれよ!」
「い、いいの?失敗したら怪我しちゃうよ?」
「大丈夫だって。エンチャントなら使えるようになったし」
「そ、そう?」
とはいうものの、ちょっと心配だから狙いはずらしておこう。威力も調節して…。
「ファイアボール」
「エンチャント!って、うわっ!」
「はぁ…。やれやれ」
外しておいてよかった~。
「ほら、アスカ。手本」
「えっ!?私だと自分で使うので成功しますけど…」
「リュートがいるだろ?2人でやるんだよ」
「そっか、それなら出来ますね。リュートお願い」
「だ、大丈夫?」
「多分ね」
「じゃあ行くよ。ウィンド!」
リュートの魔法に合わせて私も使う。
「エンチャント」
矢にエンチャントをして放つ。すると、矢が放たれた後にドンという音がした。どうやら、ウィンドの風圧を矢が通った後にぶつける様だ。
「なんでだ?あの時は確かに…」
「まあ、これで他人の魔法をエンチャントできるってのは分かったよ。で、ノヴァの時の状況は?」
改めて、どうしてノヴァが出来たかを検証する。ノヴァがもう一度詳しく説明して、リュートが補足しながらジャネットさんに伝える。
「ふむ。アスカ、その時の火球はどのぐらいの大きさだったんだい?」
「3つ同時に作りましたし、隙を作るだけのつもりだったので結構小さいし、威力もファイア以下でしたね」
そう言いながら、あの時作ったのと同じぐらいの火球を作り出す。
「念のため、もうちょっと威力を低くして、撃って見てくれるかい?」
「分かりました。ほいっ」
もう一度威力の無い火球を作り出すと、ノヴァに向かって放る。
「エンチャント!で、出来たぁ~」
今度はノヴァも出来たみたいだ。でも、なんでだろう?
「う~ん、まさかねぇ。アスカ!今度はリュートに向かって当たらないように、風の魔法を使って見な」
「は、はい」
言われた通りエアカッターをリュートに放つ。もちろん当たらないように気を付けて。
「エンチャント。あれ?僕は失敗だ」
「今度はアスカ。剣貸してやるから、2人から魔法を受けてみな」
「分かりました」
私は剣を持つと、それぞれの魔法をエンチャントする。
「出来ちゃいましたね」
「何でアスカだけ出来るんだよ~」
「はは、やっぱり魔力の差かな?」
「う~ん。ジュールさんに確認した方がいいと思うけど、多分自分の出せないものはエンチャントできないんじゃないかねぇ」
「どういうことですか?」
「アスカは2人の魔法をエンチャントできるけど、逆は無理だっただろ?ノヴァはともかく、リュートの魔力はそこそこだし何度も失敗するとは考えにくい。なら考えられるのは、自分が扱え切れない威力の場合だ。通常エンチャントは自分の出した魔法を付与するだろ。当然、自分が作り出せないものは付与できない。他人の魔法にもそれが適用されるんじゃないかと思ってね」
「なるほど」
「じゃあ、華麗に敵の魔法をエンチャントする俺の計画は?」
「まず、ノヴァの魔力でエンチャントできるなら、そいつはわざわざ魔法を使わないだろうね」
「そんな~」
「まあ、いいじゃないか。アスカなら火と風がエンチャントできるんだから。実質戦力アップだよ」
「火をエンチャントすると弦が切れちゃいますけどね。これも張り直しましたし」
「無事に2人ともCランクになったんだしそれでいいじゃないか」
「ちぇ、絶対次はあっと言わせてやるからな!」
「楽しみにしてるね」
試験結果の発表は新たな知識とともに私の力となったのだった。