ギルドへの帰還
「え~と、依頼はゴブリン5匹に、オーク5匹だったな。ゴブリンは9匹でオークは6匹か。こいつらはめぼしいものは持ってないし、後はオークの肉ぐらいだね」
「そうですね。肉は結構取れますから高くは売れませんが、量があるので自分たちで消費してもいいですし、悪い相手ではありません」
「そうなんですね。メモメモっと。あっ、でもオークって大きいですしどうしますか?」
「あたしのマジックバッグがあるから大丈夫だよ。割と容量も大きいから5体ぐらいまでは入るはずさ」
オークが高さ2m前後だから5m四方ぐらいかな?ギルドの奴より一回り大きいものみたい。
「それじゃあ、5体は入るとして、解体の練習するかアスカ?」
解体の練習ってオークの?う~ん流石によく見るとでっぷりしてて、人とは全く違うけど人型だし遠慮したいかな…。
「オークはちょっと…もう少し楽そうなのを」
「ああ、まあ形も形だし無理なやつも多いからねぇ。フィアルどうする?解体してから持ってくかい?」
「それでは鮮度も落ちるでしょうし、アスカの手前やり方だけ見せるために1体だけやりましょう」
そういうとフィアルさんは湖から一番近い木にオークをつるす。
「まずは血抜きからですね」
首は落としてあるものの、血抜きのために臓器のところなども開いていく。うぷっ、これ結構きついかも…。
「アスカ頑張りなよ。一人だとしないで済むところでも、パーティーだと持ち運べる量にも限りがあるから、こういう食料になる奴は必要なところだけ持ってくことも多いんだ」
「はい…」
そして、しばらく待ち時間という事で不要なゴブリンの死骸を埋める。オークの血の部分もきれいにしようとしたらジャネットさんから待ったがかかる。
「ああ、オークのところは適当でいいよ。ゴブリンとかなら集まってくるんだけど、オークはそこまで弱くないから弱い魔物が近寄らなくなるんだ。水辺なんかだと無理にやらなくていい」
ジャネットさんの話によると街道なんかでは必ずやらないといけないが、こういう森の奥などでは下位の魔物を倒すと、狩場が空いたと同じ下位の魔物が寄ってくるが、上位の魔物が死んだ後を見ればさらに上位の魔物が来たと下位の魔物はとらえるため近寄りにくくなるらしい。
「実は高価な魔物よけの粉や液体は上位の魔物の血なんかを素材にしていることも多いのさ。魔物の本能を利用してるんだ」
「なるほど!じゃあ、強い魔物相手だと解体しない方がいいかもしれないってことですね。出会う予定はないですけど…」
「まあそうだね。会いたくないって言っても来る時は来る訳だから覚悟はしときなよ」
「2人ともそろそろ血抜きは終わりそうですよ」
フィアルさんからの合図で解体は次の工程に移る。次は臓器や他の部分も切り取っていく。こうして不要な部分を切り取っていき、胴体部の大きな肉の部分と腕、足、臓器にわかれた。
「普通はここで布にでもくるんでマジックバッグなんかに入れるんだけど、僕の場合は水魔法が使えるからね」
そう言ってフィアルさんは得意げに水魔法で各部分を洗浄していく。
「こうやれば布にくるんでも布もあまり汚れないし、このまま干したりして非常食にもなる。水場がない時は布代とかもかかるから結構大変なんだよ」
「んじゃ、後は私のバッグに仕舞うだけだな。ほいっと」
割と重そうな肉の塊を次々と入れていくジャネットさん。う~ん、力強くて頼りになるなぁ。
「さてと、後は帰るだけだけどアスカは戻りの道分かる?」
「はい、大丈夫です。それとちょっと寄りたいんですけど…」
「何か気になるところでもあったのかい?」
「来る途中にムーン草の群生地があったのでそれを採ろうかと」
「へぇ、あたしは全然気づかなかったけどねえ」
「まあ、僕らは討伐依頼ばかりでしたから、気づきにくいのかもしれませんね。オークが主食の頃もあったぐらいですから」
「じゃあ、そこへ案内してくれ」
「はい!」
依頼も解体作業も終わって私たちは道を戻る。広場まで戻ったところでもう一度魔物の気配を探ったけどもういないみたいだった。ついでに近くの木の根元にあったマファルキノコを10本ほど取る。う~ん、やっぱり森は自然の宝庫だ。さらに戻っていくとムーン草の群生地に着いた。
「ここです!」
「ここかい?普通の草に見えるけどね…ムーン草って光るんじゃなかったっけ?」
「暗いところじゃなくて時間で光るみたいなので、夜にならないと分からないと思います」
「にしても一回通っただけなのによく場所覚えてたね」
「そこの木に目印をつけてたので」
「へぇ~、さっきのキノコといいアスカは採取だけでもやっていけそうだね」
「まあ、魔物にも出会っちゃうわけですけど…」
「そりゃ仕方ないよ」
「じゃあ、取りますね」
ムーン草を一つ一つ丁寧に採っていき、フィアルさんのバッグに入れさせてもらう。4、50本はあったけど残しておきたいので、採るのは30本にとどめておく。
「へぇ~そうやって採るんだね。割と適当に採ってたから正しい採り方なんて考えたこともなかったよ」
「合ってるかはわからないですけど、根っこの近くをスッと採るか今貸してもらってるナイフで一気に切って茎にダメージを与えないようにするかですね。ここのは品質もよさそうですし気合が入ります!」
「ここだけは僕らよりも冒険者かもね」
「まったくだねぇ」
「…はい、これで十分です。群生地をなくすわけにはいかないですから。さあ、帰りましょうか」
「そうだね。帰ったらすぐにエールで乾杯と行きたいね」
「私はちょっと…」
「ははっ、まだまだアスカも子どもだね。エールの1杯や2杯飲めないとね」
「そういうジャネットも昔はすぐに酔ってましたよ」
「そんな昔のことはいいんだよ」
街道まで出た私たちはジャネットさんたちの冒険の始まりのころの話を聞きながらアルバへと戻っていった。
「おう、ジャネット!依頼が終わるのが早いじゃないか?諦めたのか?」
「もう終わったんだよ。そんなヘマするわけないだろ。大体、依頼にかかった時間は半分だよ。それまでは遊んでたんだから」
「相変わらず仕事が早いな。そうそう、商人が護衛の冒険者を探してたぜ。今度話を聞いてみたらどうだ」
「人数に当てがあったらな。ほらよ」
ジャネットさんが門番さんに大銅貨を1枚渡してるけど何だろう?門を通してもらうとジャネットさんが説明してくれた。
「ああやって門番は商人を通す時に得た情報をくれるんだよ。直接依頼を受ければ商人にとってもちょっとは安くなるし、うちらにとっても実入りはいい。ただし、ギルド依頼じゃなくなるからランクは上がらないけどね。そういう時は商人と話をして指名依頼にしてもらうこともできるよ」
「門番はその日の人の出入りに必ず関わっていますからね。その辺の商店一つよりよっぽど多くの情報を持ってますよ」
「じゃあ、さっきのは情報料ってことですか?」
「ああ、でもそんなに多く払うこともないよ。依頼を受けられそうな冒険者には話し回ってるだろうしね」
なるほど…。ジャネットさんからは大銅貨1枚。他の冒険者が5組もいれば大銅貨6枚にはなるんだ。確かにいい儲けかも。
「んじゃあ、ギルドに行くぞ!」
遅れないようにあとをついていく。ジャネットさんもフィアルさんも背が高いからついていくのもちょっと早足だ。でも、いい運動にもなるし我慢我慢。いつか私も弓の似合う女にならないとね。
「カウンター空いてるかい?」
ギルドに入るともう今は16時過ぎ。この時間から混み始めるがカウンターはどうかなとひょこっとジャネットさんの後ろからのぞき込む。どうやらどこも空いてないみたいだ。一番少ないのはやっぱりホルンさんのところだけど、それでも3組はいる。
「割と今日は多めだね」
「ああ、そういえば昨日は王都方面からの馬車が着く日だったからそれでですかね。そのまま帰るにしても数日は仕入れで待つこともありますし、冒険者がちょっと増えてるみたいですね」
「あんた、最近活動してない割には詳しいねぇ」
「パンの噂を聞いて店に来る冒険者もいますから。高いだけではなくて色々な人が来られるのがうちのいいところですしね」
「なんにせよ並ばないといけないねぇ。アスカ頑張ってきな!」
「わ、私ですか?」
「リーダーなんだから当たり前だろ。報酬の受け渡しはリーダー経由なんだから」
そうなんだ。それじゃあ他の人は並べないから仕方ないな。いそいそと私は列に並ぶ。でもこうやって待ってる人たちを見ると多くの人はかなり体つきがいい。ステータスはわからないけど、ジャネットさんの体格だってそんなに大柄にも見えないし、みんな強そうだ。
「やっぱり、もうちょっと鍛えなきゃだめかぁ」
「ん、アスカか?今日の首尾はどうだった?」
「バルドーさん!ばっちりですよ。初めてのパーティーで緊張しましたけど」
「そうかそうか。ちなみに誰と組んだんだ?」
「ジャネットさんとフィアルさんです」
「ジャネットは分かるが、フィアルなんてこの街にいたかな?」
「普段は料理屋の店長さんなんです。ジャネットさんの昔の仲間で弓の使い方も教えてもらいました」
「なるほどな。その調子で頑張ったらアスカもすぐにCランクまで来れるかもな」
「そんなすぐには無理ですよ~。それに色んなところに行きたいだけなのでランクとかも気にしませんし」
「そうだったのか。だが、Cランクぐらいあると便利だぞ。ちょっと危険な地方とかでも問題なく入れるしな」
「それならそこには行かないようにするから大丈夫です。安全安心の旅がしたいので!」
「それじゃ、まるで旅行者だな。まあ、頑張れよ」
バルドーさんもカウンターに並ぶ。だけど、同じ列じゃなくて2つ隣だ。みんな行きつけのところがあるんだろうか?