細工と人気商品
滅びた村の探索を終え、無事にアルバに帰ってきた私たち。その後、竜眼石を使った杖を作るために、フィーナちゃんへの依頼と住居も手配できたし、後は待つだけだ。
「その間に細工を作らないとね。2週間後にはまた出掛けるんだし」
今度の目的地は滅びた村の北側にある山間の遺跡だ。天気の良い日には近くからちらっと見えるけれど、誰も近づかなかったらしい。
「まあ、あの辺にブリンクベアーが居るらしいし、普通は嫌だよね」
だけど、この前の収穫もあるし、行ってみたいと思う。歴史的建造物かもしれないしね。そういうのに触れるだけでもロマンがある。
「何て言ってたらまた怒られちゃうけど」
とりあえず、10日ぐらいはかかるだろうから、来月分の細工を完成させとかないと!
「まずは、作りかけの精霊像だね。下絵と型を作るところまでは終わってるから、後は木とか泉だ」
特に泉は神秘さが出るようにしないと。やっぱりあそこの光景のメインだからね。泉の出来が全体を左右するだろう。
「妖精は中央ちょっと右に置くとして、やっぱり波紋が立ってる方がそれっぽいよね」
私は桶を借りてきて、水を張って波紋を作る。
「う~ん。はっきりわかるぐらいの方がいいかな?それともわずかに立ってる方が雰囲気出るかなぁ?」
そう思っていると、エミールがパタパタと羽ばたきながら水面に降りていく。
「わっ!?そんな感じになるんだね。ありがとうエミール!」
飛び立って私の肩に止まったエミールを撫でてあげる。エミールが、水面に降り立った時は近くが割りと立ってるけど、離れると直ぐに波紋は小さくなっていた。
「割りと均一になると思ってたけど、違うんだね~」
ちょんと水面をつつくのではわからない変化だ。エミールは賢いなぁ。波紋の拡がるところは窪みにしてそこに妖精…もとい精霊さまを突き刺すようにする。飛んでる表現にするにはこればっかりは仕方ないのだ。その日は午前中と午後で型と製品を作った。と言っても細部は未完成なので翌日に持ち越しだ。
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「今日の細工はと…何々、ジオラマセットの追加、出来れば新しいものも欲しい。後は王都やレディト・アルバにおいてお揃いの物を買うのが流行っているとのこと。特にワンポイントで色違いの物が喜ばれる傾向…か」
これはどちらもドーマン商会からの発注書だ。ジオラマかぁ、買う人いるのかなと思ったけど、こうして発注が上がって来てるし、頑張んなきゃな。確か前は暖炉とかだったよね。椅子やテーブルのバリエーションとカーテンとかかな?後はタンスとかいくつか家具も追加しておこう。これは単品買いも出来るように多めに作っとこう。
「それとお揃いの物が人気かぁ。多分これ女の子だよね。懐かしいなぁ~、消しゴムとか色々買ったっけ。アルバでお揃いだと魚シリーズかな?レディトだと何だろ?」
売上表を見てみる。人気なのは…三日月と月光のイヤリングか。これなら片耳で色違いとかもできるし、良さそうだ。早速、2日かけて作る。
「これで合計6個のイヤリングが出来た。後は魚シリーズだね。こっちはアルバ向けだし、簡単に作れるから一日で良さそう。それにしてもアルバの流行についても書いてあるなんて流石はドーマン商会だね。感謝だよ~」
作りはするもののあまり街を出歩かないので、流行とかは分からない。まあ、出歩いたところで若い子たちに声をかけて流行り何?なんて聞けないけどね。翌日はジオラマの在庫を補充した。こっちは組み立てられるように神経を使うんだよね。作ってると完成したものを出したくなるけど、あくまでお客さんが組み立てるものだから、ばらばらにしないと。
「多分、日本で売ってるのとかはパーツごとに作られてたんだろうけど、こっちじゃ完成した奴をつぶしていくからなぁ」
出来上がったのを確認して、ばらばらにしていくからなんだか変な感じがするんだよね。とはいえ、部品数も多いし出来上がりは自由にできるから、実際は私が作った時とは違うものになってると思うけど。
「でも、いくら何でも10セットずつっていうのはなんでだろ?そんなに売れるものでもないと思うんだけどな」
一から作ったり、配置を考えるのは楽しいけど結構時間使っちゃうしね。夜も電気があるわけじゃないし、割とすぐに暗くなるからそんなに時間使えるとも思えないんだけどな。それに追記で精密さよりも生産性を重視してもらって構いませんって書いてあるし。まあ、レンガの色合いとか考えなくて済むのは良いけどね。色塗りも白、茶色で終わるなら楽だし。
「とりあえず、一日に2セットは作れるようにしないとね~」
アスカは知らなかったが、この発注増加は不動産や大工など家を貸したり作ったりするところからだった。客に見せて簡単に説明できるということで、商会の方に依頼が舞い込んだのだ。その為、精密さよりも説明が出来ればよいので、品質は二の次ということになったのだ。今までアスカが作ったものはコレクター向けで、そちらは一応売れる程度の売り上げだった。
「でも、変な話だよね~。簡単に作ってもいいってなってるけど、売価については同じですって。この前のは確かに大変だったけど、どうしてだろ?」
チィ
ミネルもよくわからないという反応を返す。ちなみにアルナたちは今は外に出て行っている。レダが付いててくれるから大丈夫だろう。ミネルは気疲れしたのか、最近はよく私の所にいる。子どもを産んでからはそっちにかかりっきりだったから、実は結構うれしいんだよね。細工しててもついチラチラ見ちゃうんだ。それに目線が合うと首をかしげて何?って反応してくれるから余計に気になっちゃう。
「はぁ~、ミネルは私の癒しだよ。わっ!?」
抱き着こうとしたらミネルに飛んで逃げられちゃった。でも、ティタと違って小鳥だし当然か~。あっ、なにするんだって冷たい目でこっちを見てる。みんなこういう時の反応は一緒なんだよね。子どもが出来てもそこは変わらないんだね。
「子どもと言えば、リンネだ」
チッ
何だいきなりとミネルが鳴く。
「うん。ライズもお嫁さんがいるし、たぶん子どもも来年ぐらいには生まれると思うんだけど、そうするとリンネだけいないんだよね。ラネーも番と一緒にいるし、ティタはまあゴーレムだし。前にティタを通して聞いたら、この辺のウルフは弱すぎて対象にならないって言ってたし。まあ、確かにただのウルフはEランクの魔物だし、しょうがないけどさ」
そうなると草原で相手を見つけてこないといけないんだけど、本人がいないとねぇ。そういえば出会った時はローグウルフに襲われてたけど、相性としてはどうなんだろ?同じ種族限定とかだと大変そうだ。とはいえ連れて来てしまった手前、面倒見てあげないとな。
「バルドーさんに聞いたやり方は難しそうだしね」
バルドーさんがいる時に相談したら、魔物使いが多いところだと、お互いの従魔を番にさせたりすることもあるらしい。その場合は子どもを一方に、番をもう一方が引き取ることが多いんだって。ミネルとレダみたいに違う種類だと、両方の特徴を持った子供が生まれることもあるから成立するんだって。
「でも、生まれた子とすぐに離ればなれっていうのもかわいそうだよね。それにリンネは用心棒だから、街にいてもらわないといけないし、今の状況だとポンと子供を置いていかれても困っちゃうしな~。一番いいのがお嫁さんを連れてくることだけど…」
街暮らしがしたいリンネが気に入った子を探さないといけないのだ。
「そっちも大変だけど、そもそも出歩くのがね」
まずはフィーナちゃんに相談してしばらく外に行けないって言わないといけないし。何はともあれまずはそっちを抑えないとね。まだ、夕方前だしちょっと聞いて来よう。私はミネルを連れてフィーナちゃんに会いに行った。
「おう!アスカ、久しぶり!依頼のやつはまだだぞ」
「うん。そっちはまだ急がないからいいんだけど、別にお願いがあって」
「なんだ?」
「えっとね。多分3週間後ぐらいになると思うんだけど、リンネを10日ぐらい連れ歩きたいんだけど…いいかな?」
「3週間っていうと20日か?えっと…そのぐらいならいいぞ」
「ほんと?でも、依頼受けなくて大丈夫?」
「おう!実はアスカに紹介してもらった家あるだろ?あそこに決めたんだよ。というか他に何件か行ったけど貸してくれそうなところもなかったしな。んで、今住んでるのが誰だっけ?」
「ジェーンさん?」
「そうそう。そいつが新しいところに移るのがそのぐらいなんだよ。あたいも依頼は受けたいけど、荷物の整理とか家具を運んだりしないといけないから、手が離せそうになくってな」
「良かった~。でも、家具ってそれ?」
「うん?まあな。こんなんでも物を入れたりできるから一応持って行こうと思って」
そう言ってフィーナちゃんが指さした先にあるのはサイズも厚みもバラバラのタンスめいたものだ。正直あれだと、床とか傷つくんじゃないかな?新しい住居でいきなり揉めたりしないといいけど…。
「やっぱりあれじゃダメかな?」
「き、傷がつきそうだね。端っことかとがってるし」
「でも、家具となるとな~。割と高いんだろ?」
「た、多分ね」
確か、フィアルさんが高いなんて話をしてたってジャネットさんから聞いたことがあったような気がする。それでなくても、ホームセンターとかに売ってるのも高かったしね。材料費と組み立てや運賃を考えると仕方ないと思うけど。
「じゃあ、どうすっかな~。なしってことも無理だろうし」
「え、えっと、ひとつぐらいなら作ろうか?」
「いいのか?」
「流石に家具なしで生活は無理でしょ。材料としてそれ預かってもいい?」
「おう!もっていってくれ」
私は持っていたマジックバッグに詰めて持ち帰る。こんなことしてたら怒られそうだけど、やっぱり放っておくわけにはいかないしね。早速、家に帰ったらまずはこの木の塊を解体だ。