家探しはアスカの仕事
2人で、家について色々考えるものの、中々良い案が浮かばない。そんな時、横で見知った顔を見つけたのだった。
「…そう。部屋付きの店舗。向かいに…余ってる奴」
「む、向かい?えっと…ここのこと」
「…そこ」
「ちょっと待っててください。家賃とかの情報貰ってきます」
受付の人が引っ込んだので声をかけてみる。
「あれ、ジェーンさんお久しぶりですね。どうしたんですか今日は?」
「アスカ。店出す」
隣に並んでいたのはジェーンさんだった。話を聞くと、かなり薬師としての経験を積んだので、ここで店を出してみることにしたらしい。でも、引っ越しが面倒なので向かいの空き店舗を使いたいとのこと。そんな理由で場所決めちゃって大丈夫かな?確かジェーンさんの家って、西側でギルドともちょっと離れてるところだったような…。
「そこで大丈夫なんですか?」
「多分。ドルドとか店近いし」
そういえば、西側だけど、結構冒険者が寄り付きそうな店も近くにあったな。やっぱり色々考えてたんだ。
「じゃあ、前のお家はどうするんですか?」
「解約」
何と、ここで空き部屋情報が。
「ち、ちなみにお家賃おいくらでした?」
「ん?銀貨3枚半。なんで?」
うう~ん。ちょっと高いなぁ。でも、あの近くが一番安いっていうし、これ以上は難しいのかも。
「実は家を探してる子がいて…」
フィーナちゃんのことをジェーンさんにも聞いてもらう。
「…それはかわいそう」
「でしょ。ジェーンさんもそう思いますよね。だけど、ちょっと家賃が高いんですよね。もう少し安いとこ知りませんか?」
「あの辺だと、あそこが一番安い。他は2部屋しかない」
「そうですか…」
エステルさんのところだと、2部屋しかないしな~。はぁ~。
「ねぇ、ジェーン。あなた本当に店を出すの?」
「うん。来月には出したい」
「そっか。なら、何とかなるかもね」
「えっ!?」
ホルンさんには何か名案が浮かんだみたいだ。
「あんまり情報を言いふらしたくはないんだけど、今困ってるフィーナちゃんってアスカちゃんほどではないけど、結構薬草採ってくるのがうまいのよね」
ピクッ
ん?ジェーンさんが反応した。
「ほ、ほんと?アスカが採取あまりしなくなって、高位ポーションの製造で困ってる」
「そ・こ・で、ジェーンがフィーナちゃんと契約を結んで、毎月一定の量の薬草を指名依頼で取るの。その報酬を家賃に当てるっていうのはどう?」
「で、でも、それだと低いランクのが多くなったりしませんか?」
「指名依頼だと薬草のランクも指定できるのよ。採る方が大変になるから嫌われるけどね。でも、あの子は採るのがうまいから苦にならないはずよ」
「そ、それいい…。私、助かる。品質重視の店にしたいから」
何でもジェーンさんの店はポーションちょっとと、後は気付け薬や中級ポーションなどやや質の高い店にしたいとのこと。店もあまり広くないから、数量を抑えて品質と単価で勝負したいとのことだ。
「それなら、協力する。私、大家さんとは仲いい」
「じゃあ、本人に話が出来て了承が取れたらまた連絡するわ。その間、部屋のことお願いします」
「わかった。絶対空けとく」
ぐっと力強くこぶしを握って返事をするジェーンさん。いい薬草が手に入るということですごい気合いだ。運良く部屋の当てが出来たので、私は一旦部屋に戻って細工を始める。しばらく出かけてたし、また次も長期になりそうだからね。それにしても最近なんだか視線を感じるんだよね。宿だから人は入れ替わってるんだけど、なんでだろ?エレンちゃんに言っても、はぐらかされちゃうしな~。
「まあいいや。細工だ」
いつものように道具を広げて、細工を始める。この前、シェルレーネ様の像を作ったし、アラシェル様たちのも作っておこう。光の神様じゃないけど、信仰がかなりこの世界では重要みたいだし。折角だから、長生き?してもらいたいしね。
「いや、待てよ。この際、3人一緒にすればいいんじゃないかな?」
一応この大陸ナンバーワンの、シェルレーネ様を中央に添えてちょっとだけ教会を考慮すれば、こういうのもありなんじゃないかな?でも、グリディア様って別に豊穣神とかじゃないしなぁ。そんなこと言ったらアラシェル様も特に関係ないんだけど。
「何とか滑り込ませる感じで行けないかな?」
アイデアをひねった私はシェルレーネ様を水を満たす女神として、グリディア様を魔物を気にする見張り役として、アラシェル様を実りを祈願するものとして描くことにした。
「何だかこれだとアラシェル様だけニート見たい…。祈るって言っても神様の出す水だし、水不足も起きないから実質、居るだけなんだよね。いや、そんなこと言ったら巫女自体そんなもんだし、この世界なら大丈夫でしょ!」
この世界にはニートなんて言葉はないし、最悪でも信心深い巫女ぐらいには見てもらえるかな?そうして新たな細工を作るのだった。題名はもちろん『コメを育てる3女神』だ。なんでコメ育ててるの?何て意見は無視。一食ぐらいはコメの出る生活が恋しいのだ。もちろん、これだけじゃなくて涼やかに風を感じるアラシェル様の像と、灼熱の大地に立つグリディア様も作った。
「そうだ!お姉さんから精霊の像を作る依頼受けてたんだった。そっちも作らなきゃ」
とはいえ、3作品も作れば時間も夕刻。簡単なラフを描いてその日は仕事終了だ。明日はエレンちゃんと出かける日だし、もう休まないとね。
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「いい天気だね~」
「おねえちゃん、今日は雨だよ」
「はぁ~」
折角の休みでエレンちゃんとのお出かけの日だというのに、今日はあいにくの雨だ。しかも、そこそこ降っているので今日はほとんどの店が休みだろう。
「折角のお出かけがぁ~」
「あはは、また行けばいいよ」
「エレンちゃんはお出かけ出来なくなったのになんだかうれしそうだね」
「うん。アスカおねえちゃんと話をしてたことを思い出してたから」
「話?この街に来てからすぐに話したと思ったけど…」
「お客さんとしてはね。でも、雨の日に私がお仕事お願いしてから、もっと話すようになったよね」
「そうだったかな?」
いつも話してる印象だから、もう覚えてないかも。
「うん。私みたいな年下の子の言うこともきちんと聞いてくれて、色んな話もしてくれておねえちゃんみたいだなって、その時に思ったもん」
「思い出した!あの時はアスカさんって呼ばれてたなぁ~」
「そうそう。久しぶりに呼んでみよっか?」
「うん」
「アスカさん」
「…なんていうか違和感しかない」
「あはは、わたしもそうだね。でも、間違って一度先におねえちゃんっていったことがあるんだよ」
「そうなの?」
「うん。おねえちゃんは気づかなかったけど、すっごく恥ずかしかったんだから!」
そっか、なんだかんだでもうあれから1年以上経つんだ。私、ちょっとは成長したかなぁ。
「どうしたのおねえちゃん急に黙り込んで?」
「うん。ここに来て1年以上経つけど、成長したかなって思って」
「してるしてる」
「ほんと!?どの辺が?」
「まずはちょっと背が伸びたでしょ。それにちょっとだけ美人さんに近づいたかな。後はあんまり変なこと言わなくなった!」
「それは元からだよね?」
「ん~?前は田舎育ちの非常識とそれ以外の非常識があったけど、今は後者だけだね。街の生活には慣れた感じ」
「街の生活にはって、そんなにおかしなところあるかなぁ~」
「あるある。冒険者なのに部屋にこもって細工してるし、気付いたらリンネとか連れ帰ってるしね」
「さ、細工は将来のためだし、リンネも付いてきちゃったんだもん」
「普通は付いてこないもんだけどね。フィーナさんから聞いたよ。リンネってすごく強いんだって!?」
「ま、まあ、この辺じゃ敵なしかな?」
ガンドンの皮膚を裂くぐらいだし、オーガでもオークでもバッサリだろう。
「この前、魔物使いの人がたまたまうちに来たからびっくりしてたよ。普通はウルフとかコボルトとかもっと弱くて単純な魔物だって」
「その人は何を連れてたの?」
「ウルフのペア。でも、2匹ともビビっちゃって、レダが間に入ってくれたんだよ」
「他の従魔か、見たかったなぁ」
「どうして?おねえちゃんのより弱い魔物だよ」
「それでも、他の魔物使いなんて知らないし、新しい発見とかあるかもしれないじゃない?」
「なるほど、魔物使いの常識を教えてもらいたかったんだね」
「どうしてそうなるの!もうお土産あげないよ」
「お土産あるの!?」
「うん。ほんとはお昼の時とかに渡したかったんだけどね。この天気じゃしょうがないよ」
私はバッグから、小包を取り出してエレンちゃんに渡す。
「なにかな~、わっ!可愛い!」
エレンちゃんへのお土産は翡翠のブレスレットだ。丁寧に加工してあり、石の形もわりかし揃えられているので、見映えも良い。それにバンド付きでサイズ調整も利く一品だ。
「どうしたのこれ?」
「エヴァーシ村で、内職代わりにやってる人がいてね。物々交換したんだ」
「おねえちゃんわざわざ持っていったの?」
「ううん。倒した魔物をね」
大銅貨8枚分を代わりに私が払ってキープしていたのだ。内職といっても、何もやることがないのでしているみたいで、結構手間がかかっている。それに商人もそこまで良い評価をくれないので、交換してもらえたのだ。
「高かったんじゃないの?」
「そんなに高くないよ。材料の革は切れ端で、石はセットで商人さんからちょっとずつ買い付けてるみたいだし」
「こんなにきれいなのにね」
「そうでしょ。私は細工をするから、こういう石の形を生かしたのとか苦手だしね」
なまじ、加工できてしまうので、歪なやつとかは磨いてしまう。だから、天然石をそのまま使うのは苦手だったりするのだ。
「じゃあ、その時のこととか聞かせて!」
「わかった。まずは素材の入手からだね」
「そこからなの?あんまりこわいのはやめてよ」
「分かってるって」
久しぶりのエレンちゃんとの会話は弾んで、お昼過ぎまで話し込んでいた。でも、素材の話をするときはエレンちゃんすごくびくついてたなぁ。いつの間にか私も冒険者ぽくなって、グロテスクなことに耐性が出来ていたみたいだ。他の人に話す時は気を付けよう。