ほっと一息
アルバには明日帰ることも決まり、お土産も買った私たちは宿で休む。
「ふぅ~、街の人の目線があんなに痛いとはな~」
「今日はほんとに誰にも振り返られなかったし。最初は覚悟してたけど」
「だから言っただろ、街に着きゃわかるって」
「最初に聞いていてもあれは想像できませんでしたね」
皆でご飯を食べながら昨日のことを話す。でも、またあの草原に行くのかぁ~。ちょっと怖いけど何があるのか楽しみかも。
夜が明けて、今日はアルバに帰る日だ。準備は万端だし、しっかりしないとね。帰るまでが遠足だしね。
「で、さっきからアスカはなに読んでるんだ?」
アルバへの帰り道、ちょっとだけ薬草を取りながら帰ることにして今は森の中なんだけど、私はというと昨日ギルドのお姉さんにもらった遺産リストを読んでいた。
「昨日貰った遺産リストだよ。結構いろんなものがあるな~って」
「何々、ほんとだな。冒険者には大事なものもいっぱい揃ってるぜ。こっちはオリハルコンに、ミスリルの鉱脈。おおっ竜眼石だって!すごそうだなこれ。あれ?」
「えっ、竜眼石も載ってるの!」
慌ててリストの下の方を見る。50音順だから見てなかったけど、ほんとに載ってる。
「良かったじゃないか。依頼を受けた後に村に行ったら、ギルドに回収されちまってたね」
「遺産リストに載るぐらい希少だったんですね」
「まあ、魔法職にとっては必需品って言われてるしね。もっとも、手に入らなくて持ってる方が少ないんだけどね」
「必需品なのに持ってないって、矛盾してますよ」
「それぐらい需要と供給があってないってことさ。調査依頼はこれがあるからねぇ。依頼を受けちまうと、場所が分かるけど、本当に珍しいもんは他人の手に渡っちまう。それが無けりゃもっと受けたいところだけどね」
「でも、見たことの無い素材とかが大量に載ってて夢があるリストですよ」
「10か所に1つあればいい方だけどね。買取や道中の素材を含めても準備とかで結局儲けがほとんど出ないんだよ」
「場所だけ聞いて行くのは?」
「それが出来ると思ってるのかい?」
「ですよね~。でも、なんで村とかの探索依頼は誰も受けなかったんですかね?」
「あの辺は名産とかもないからね。エヴァーシ村を見て何を期待するって話だろ?あたしらだって、シャスがいたから行っただけで、じゃなきゃ生涯行かない土地だったと思うよ」
確かに行った後で、あの泉も見つけたけどそうじゃなきゃ近寄ってないもんね。一日野営がほぼ確定してて、魔物にも襲われ放題のところになんて用事がないと行かないかぁ。
「産業だって、ほぼ農業でたまに狩りをしてるだけだろ?田舎の村なんて大抵そんなもんさ。伝承でも残ってりゃ関連のものを探しに行くかもしれないけど、エヴァーシ村の言い伝えを知ってる奴でもいないと、行く気にならないよ。それも数百年前だよ?金属類はまあ残ってないだろうし、そうなりゃ重たい石像ぐらいしか思いつかないもんさ」
「確かに、竜眼石を除くと物としては何もありませんでしたね」
「それに、あの石だってアスカが運よく見つけたんだろ?あれだけ探さないと見つからないなら、何もないってあきらめるよな~」
「そうだね。あると思いながら行ったアスカだから見つけられたようなもんだ。あればいいなくらいの冒険者には見つけられないだろうね。ひょっとしたらあの依頼が出る前に誰かが行ったかもしれないね。村の荒れ果てた様子にギルドに情報だけ売ったとかね」
「じゃあ、そいつ今頃悔しがってるだろうな」
「何十年も前の依頼だから生きててももう老人だろうけどね」
「次の遺跡は山側ですよね。魔物は変わったりしますか?」
「ああ、山側はややブリンクベアーが多い。と言ってもそこまで頻繁には出会わないけどね。後はウルフの種類が変わったはずだね。多分リンネと一緒の種類のが多いはずだ」
「げっ!それってすばしっこい方だろ?俺苦手なんだよなぁ」
「そうだったの?」
「でかいのはまだ力で対抗できるけど、あっちは回り込んでくるから嫌いなんだよな。あと、ジャンプ力がたけぇ」
へぇ、結構ノヴァも色んなとこ見てるんだ。
「ジャネットさん。他には何かいますか?」
「後は…やや小ぶりな魔物が多いかな?ただ、毒とか特殊な力を持ってるのが目立つから、下手に近寄らない方がいい」
ん~、これはおばあさんにお願いして新しい魔物図鑑を買おうかな。この近辺のは前に買ったけど、流石にそんなに種類は載ってないし。道中、薬草を回収しながらそんなことを考えていた。
「ようやくアルバが見えてきたね。なんだか出かけることも多くなってきたけど、街が見えると安心するよね」
「そうだよなぁ。俺なんていっつも考えてるけどな!」
「はぁ、あんたらちゃんと旅に出れるのかねぇ」
「それとこれとは別ですよ。アスカはそういうのないの?」
「う~ん。確かに宿に帰ってきた時は落ち着く~ってなるけど、街を見てもピンとこないかなぁ」
「アスカはあんまり外に出ないからだなきっと!あんまり街並みに思い入れがないんだよ」
そう言われちゃうとちょっと納得かも。実際、色んな店を見てみようと思ってはいるけど、基本的にフィアルさんのお店と、たまに甘味処に行くぐらいで後は串屋のおじさんの店以外に行かないしなぁ。他はと言えばベルネスと細工のおじさんと本屋とドルドと冒険者ショップ…うん、こう考えると結構行ってるじゃない、安心した~。
「何コロコロ表情変えてんだい?」
「それなりに色んなところ行ってるなって思いまして」
そう言いながら思いついたところをみんなに言ってみる。
「はぁ、あんたねぇ。本屋を除けば生活に必要なところばかりじゃないかい。趣味の所なんて1か所だけ。しかもその本屋でさえ、滅多に見ないんだけど…」
そうかなぁ。そうかも。ひょっとして私って本当に街に住んでる感じじゃないのかな?そんな疑問を浮かべているところに変な反応があった。
「木の上?でもちょっと大きい…」
ピィ
するとアルナがウィンドカッターで木を両断した。ええ…そんな問答無用にやっちゃうの?
ズシーン
大きい音とともに木が倒れて現れたのはオークアーチャーだ。
「オークの癖に木に登ってお出迎えとはね。やるよ!」
「おう!」
向こうが弓を構える前に矢をつがえてそちらを見ると気づいた。まだ奥に一体いる!
「させない!」
奥の木に矢を放つ。手前は2人いれば大丈夫だ、隠れたやつをどうにかしないと。
「アスカ!」
「リュートこっちも!」
「オッケー!伏せて!」
リュートの言葉通り、私は伏せる。さっきの矢程度ではオークを倒したと思えないからだ。
「せやっ!」
リュートが魔槍を短くして投げる。ドウッという音とともに心臓を貫かれたオークが落ちてきた。
「あれっ?アーチャーかと思ったらメイジか」
それにしても上位のオークだけの襲撃だなんて珍しいなぁ。前は混成部隊だったし、オークの方が数が多かったのに。まあ、それはそれとしてお肉は貰っとかないとね。メイジの肉はあんまりおいしくないけど。
「解体終わったよ~」
「は~い」
森もあとわずかだったのに、襲撃のお陰で時間を使ってしまった。夕暮れ時になってしまったし、急いで門をくぐらないと。
「ほら、みんな走るよ」
「んじゃ、競争だな」
「ええっ!アスカがかわいそうだよ」
「え~、リュートってば勝つ気なんだ。それじゃ」
私は土魔法を発動させて大地を滑るように進んでいく。別に魔法は禁止されていないからね。
「じゃあ、リュートが今はびりだね。頑張ってね~」
遠ざかりながら、私は声をかけた。ステータス的には素早さが一番無いのは私だけど、魔法を使ってるからその次だとノヴァだ。だけど、ノヴァも体力だと勝ってるだろうから先に動いた分有利だ。果たしてどうなるかな?
「ゴ~ル!はい、びりはリュートでした~」
「だらしねぇな~。魔法まで使ってよ」
「よく言うよ。ノヴァだって魔法で邪魔してきたでしょ!」
「当たり前だろ。移動に使えるんだから、他のことにも使ってもいいじゃんか!」
「でも、アスカの邪魔はしなかったじゃない」
「お前なぁ、アスカに俺の魔法が効くと思ってんのか?相手は魔法使いみたいなもんだぞ。属性も同じだし」
「そう言われれば、仕方ないのかな?」
門の前でリュートがうーんと考え込んだ。ノヴァの言ってることももっともだけど、多分一番攻撃しやすい相手だったんだと思うよ。反撃して来なさそうだしね。ジャネットさん相手だと、即座に反撃されそうだ。安全かつ、確実なところを狙うなんて、ノヴァも成長したなぁ。
「それじゃ、遅くなってもいけないし、すぐに売りに行こう」
私たちはさっき倒したオークたちの肉を売るためにギルドへと向かった。
「肉の方は今回は全部売るでいいのね?」
「はい。お願いします。そういえばホルンさん。オークの変異種とかだけの発見とか結構あるんですか?」
「まだ少ないわよ。でも、確実に前は見なかったわね。マスターに確認したら、環境の変化に適応するために進化しているのではないかって」
「進化ですか?」
「ええ。前は森でオークと言えば多数派で、岩場のサンドリザードとも棲み分けていたけど、今はオーガも増えて来てオークのままじゃ太刀打ちできないからかもって。分布の変化があるところではたまにあるんですって」
確かにゲームとかでも変に弱い魔物が混ざって出てくるなんてあんまりないもんね。適正な強さになろうとしてるってことなのかな?ちょっと気になる情報ではあるけど、どっちにせよそこまで脅威ではないから、大丈夫だろう。おいしい肉分が減ったのはちょっと悲しいけど。ちょっとだけだったけど、収入もみんなで分けたし解散だ。また次に集まるまでに色々準備しないとな。
「ほら、リュート。今日は奢りだぞ」
「なんでだよ」
「俺の方が街に着くの早かっただろ」
「そんな約束してないでしょ」
「今度巻き返せばいいじゃんかよ」
「覚えておいてよね」
「やれやれ、あんな競争程度で飯を賭けるなんてお子様だねぇ」
「ジャネットさん!一緒に帰りましょう」
「ああ、と言いたいとこだけど、土産があるんでまたな」
「はいっ!」
きっとまた、ジェーンさんのところだな。あの二人も仲いいよね。
ピィ
「アルナも久しぶりの里帰りだね。でも、黙って出てきたんだから覚悟してよ」
きっとミネルは心配してると思うからね。出産の時にかなり無理してたから、なんだかんだ言って甘いお母さんだけど、だからこそ今回の外出は心配だっただろう。