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夏の終わりへ

商会を出た私たちは食事をするためにいつものお店に来ていた。


「いらっしゃいませ。ご注文は?」


「リゾットとシチューを」


「僕もそれで」


「かしこまりました。では席はあちらへ」


「はい」


案内されるとそこはちょっと奥まった席で、すでにジャネットさんたちが座っていた。


「そっちも用事が終わったようだね」


「ジャネットさんたちは早いですね」


「まあ、行きにも見たしたったの1週間でそこまで並んでるものも変わらないしね」


「あむ、ぼりぼり」


そうは言うものの、ティタは鉱石をぼりぼり食べているし、全く同じでもなさそうだ。


「あれかい?いやぁ珍しい石が破格で売られてるっていうからね。炎魔石っていうらしいんだけど、刀身に塗ったりすると魔力の通りがよくなるってさ」


「でも、ティタが食べてますけど…」


「ああ、教える代償みたいなもんだね。あれでも、品質の悪いところらしいよ。あたしの分はほら」


そう言ってティタのよりきれいな塊を見せてくれる。確かに比べればこっちの方がいい品質ていうのは分かるけど…。


「ティタったら食いしん坊なんだから」


「おいしい石は珍しいし、魔力が上がることもあるんだって」


「へえ~、それなら仕方ないですね」


ただ、今でさえティタの魔力は200を超えているし、上がりすぎるとそれはそれで困るんだけどな。ミネルも出産後は安定してきていて、今では魔力が徐々に上がっている。元々、そこまで戦闘型の種族ではないみたいだけど、Dランクの魔物ぐらいなら相手が出来るほどにはなってきた。崖の上に住んでいるにしては十分な強さだと思う。


「ただ、魔力供給の関係から結構持って行かれるんだよね」


大体、毎日リンネも合わせて180近くMPを消費している。リンネが15前後だというから、ミネルとティタの消費の激しさがすごい。ハイロックリザードとの戦闘で消費したポーションを予備で置いておきたいところだけど、材料がそろわないんだよね。珍しいのも多いけど、そろそろ欲しいんだよね。


「欲しいと言えば、杖の材料だよね。オーク材でいいかなぁ」


「何言ってんだいアスカは。最近アルバで珍しい素材を集める奴がいるらしいから、そいつに頼んでシェルオークでも貰ってきな」


「へ~、そんな人がいるんですね。知りませんでした」


「俺も聞いたことあるぞ。でも、アスカぐらいのちっちゃいやつらしいんだよな」


「まさか、そんな変わった子が2人もいるわけないじゃない」


「リュートは知らないのかい?宿で見たこともあるらしいんだけど…」


「そんな子見たことは…あっ、でも一度だけ見ましたね。ほら、アスカに会いに来た子がいたでしょ?」


「フィーナちゃんのこと?」


「そうそう。その子ぐらいだしなぁ」


「確かそんな名前だったね。ちっこいからか分かんないけど、結構細かい物とか、薬草とか持って来るらしい。ただ、戦えそうにないのに素材を持って来れるってみんな不思議がってるけどねぇ」


「へ、へぇ~。それは不思議なこともあるもんですね~」


「アスカ、また何か噛んでるの?」


「お食事をお持ちしました」


「ほら、そんなことよりご飯だよ。リュートも冷めないうちにどうぞ」


タイミングよく料理が運ばれてきたので、さりげなく話題をそらしてみる。これで、追及を避けられるといいのだけど…。


「それなら俺も聞いたことあるぜ。孤児院のガキが最近リンネと出かけてるっていうんだ。詳しく聞いたら、誰かと一緒に外に出かけてるらしいんだよ」


「えっ!?リンネって、ミーシャさんかアスカ以外の言うこと聞いてるとこ見たことないけど…」


「まあ、エステルの送り迎えはきちんとやってるみたいだし、気に入った相手にはそれなりに対応するんじゃないの」


ジャネットさんがぽつりとつぶやく。まあ、言う通りリンネがフィーナちゃんを気に入ってるのが大きいみたいだ。私は会話には参加せずにご飯を食べてるだけだけど、その後も色んな話が出た。こうしてみんなの会話を聞いていると、結構街の噂に詳しいんだなって思った。私?ほら、仕事が忙しいからね。


「で、結局知り合いなの?そうじゃないの?」


「ええ~と、良くは知らないというか、話した回数は少ないというか…」


「知ってはいるんだね」


「まあ、声を掛けたのは私ですし。知り合いの娘さんみたいな感じですかね?」


「なんだそりゃ」


「まあ、リンネがいるなら安心か。で、知り合いなら素材を持ってきてもらえばいいよね」


「頼むのは良いですけど、私は相場分かりませんよ?」


「それなら、ホルンさんに聞いてみたら?あの人結構、情報通だしね」


「そっかぁ。ついでだし、指名依頼にしておこうかな」


「そうしてあげな。その方が面倒もないだろ」


杖の材料の話し合いが終わったところで、喫茶店を出る。フィーナちゃんに話すとして、先にギルドかぁ。


「そういえば、まだ素材売ってなかったね。ギルドに行くか」


「昨日はお風呂直行で外歩けませんでしたしね」


という訳で、久しぶりにレディトのギルドへ。エヴァーシ村とかへ行くと来るけど、普通に来ただけだと、不要なものとかオークぐらいしか売るものがないから、そんなに利用しないんだよね。


「いらっしゃいませ。あら、フロートの皆さんですね~。久しぶりです~」


「お姉さんもお元気ですか?」


「もちろんです。今日は買い取りですか?」


「はい。ちょっと大きいので、奥で構いませんか?」


「奥は~、大丈夫ですね。どうぞ~」


お姉さんに案内されて解体所へ行く。


「ああ、あんたたちか。今日は何を持ってきたんだ?」


「これなんですけど…」


「これは…ブリンクベアーか。けがはなかったか」


「はい。たまたま、存在を気付けたので」


「良かった。買取だが、皮が大銅貨8枚と牙がセットで銀貨1枚だ。割と状態が良いな。普通だと銀貨まではいかないんだぞ」


「そうなのか?っていうか皮は安いな」


「猟師や冒険者でも大柄なやつの防寒着に使われるのが主だな。それ以外だとあまり質が良くないからな。触った感じ、ちょっとぶよぶよしてるしな。だが、肉を持ち帰らなかったのは偉いぞ!あんなものを出してみろ、ひんしゅくを買うだけだからな」


「そんなに匂うんですか?」


「ああ、干し肉にする段階で腐臭はするし、焼いても何をしても食えたもんじゃない」


「ちなみに買取価格は?」


「引き取り価格が大銅貨6枚だ」


「引き取り価格って、金がかかるのかよ」


「まあ、処分も大変でな。穴を掘って埋めるか。どこかの牧場に引き取ってもらうかだ。エサにちょっとづつ混ぜて消化してもらうんだ。ちなみに結構うまく皮を取ってるが、これも手を抜くと買取価格が変わるからな」


「強い割に本当に割に合わないんですね」


「ここまで嫌われる奴はそうそういないがな。他には何かあるか?」


「後はガーキャットの毛皮とかですね」


「おおっ!そっちを見せてみろほら」


おじさんは急かすように言ってくる。


「これは見事なもんだ。血もほとんどついてねぇし、傷の場所も後で加工するところだ。1体銀貨3枚だな。こっちはふさふさの毛に滑らかな皮で、人気が高いんだよ。特に、個体ごとに模様が違うから気に入った柄を探すのも人気でな。在庫に関わらず売れるから商人も良い値で買ってくれるんだ」


ほくほく顔のおじさんに素材を売って再びカウンターへ。


「後は討伐報酬ですね。草原向けの討伐依頼はありませんから、基本報酬のみとなります~。え~っと、銀貨6枚ですね。やっぱり草原に行く人の討伐基本報酬は多いですねぇ~。普通はその半分もありませんよ」


「野営のたびに魔物がやってくるからね。勘弁してほしいよ」


「おかげでギルドからも討伐依頼が簡単に出せないんですよね~。出したら、結構な額になっちゃいますし、無理する人も出てくるので」


ちなみに、お姉さんの言う討伐報酬は個人ごとだ。それぐらい大量の敵を狩っていたことになる。エヴァーシ村にギルドがないことも関係してるんだけどね。


「そうだ!皆さんにいい依頼があるんですが、受けますか~」


「いい依頼?どんなのだい」


「探索依頼なんですよ。なんでも~、エヴァーシ村とレディトの境には遺跡みたいなのがあるらしくて、そこの調査です。ひょっとしたらめちゃくちゃ高価なアイテムとか、伝説の武器とかあるかもしれませんよ~」


「へぇ~、山側かい?それとも海側?」


「両方です~。海側は村跡らしいんですけど、最近までだれも行ってくれなくて~。山側は小さい遺跡らしいんですけど、みんな入り口付近で見かけただけで行ってないんですよ~。どうですか?」


村の方って、明らかにこの前行ったところだよね。依頼になるぐらいには知られていたのかな?


「その依頼って、最近になって出したんですか?」


「おおっ、リーダーさんは興味ありですか?実は~、長年依頼を受ける人がいなくて、30年ぶりに倉庫を片付けたら出てきた依頼票なんです」


「ちなみに依頼難度は?」


「どちらもBランク推奨ですね。でも、エヴァーシ村から怪我なく帰られる皆さんならきっと大丈夫ですよ~」


「どうしましょう?」


「まあ、海側の方は無駄だろうからやめておくとして、山側ねぇ~。今度まで依頼があったら受けてみるか!」


「おっ、ジャネットさんもとうとうロマンが分かるようになってきましたね」


「前は悪かったよ。じゃあ、山側の依頼でいいね」


皆と話し合った後で、結局次に来た時に依頼があれば受けることにした。流石に一度アルバに帰りたかったからね。


「では、ご依頼を取っておきますね~」


「えっ!?そういうのってありなんですか?」


「ありも何も~、30年ほったらかしの依頼ですから。今更1月程度何ともありません。それより受けて頂けることが大事なのです。本当は二つとも受けていただきたいのですけど~」


「そんなに人気のない依頼なのか?一攫千金だろ?」


「一攫千金…確かにそうですが、場所もあれなので。襲われたら、襲撃も一度で済む保証はありませんし~」


確かにそうなんだけど、言い方があると思うんだけど…。実際に複数回襲われたし、危険な依頼なんだね。


「それに、何もない可能性もありますしね~」


「えっ、そうなのか?」


「依頼を見てください~。調査依頼ですよ。なにがあるか調べてもらいたいのです」


「ちなみに発見したものは?」


「歴史的遺物以外は冒険者の方の物です。ただし、キチンとした報告書と嘘がないことが保証されないと駄目ですよ~」


「ちなみに遺物の定義は?」


「大変珍しいものですね。この近くで発見されたものだと、オリハルコンとかでしょうか?こちらが一覧です」


はらりとお姉さんがリストをくれた。時間のある時に見ておこう。なんでも、このリストは世界共通のものでどのギルドでも同じ条件らしい。ちなみに買取したかったら、発見者は優先的に買い取れるとのことだ。


「ただし、希望最高価格の1.5倍ですよ」


それって優先権なのかと思ったのは秘密だ。




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