旅を終えて
翌日は商会の方へと向かう。エヴァーシ村へ行く日を確認するのと、村で作った細工を渡すためだ。
「いらっしゃい…。アスカさま。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「受付のお姉さん。エヴァーシ村に次に行くときの荷物の受付は何時までですか?」
「エヴァーシ村行きですか?少々お待ちください。…次はちょうど一ヶ月後ですね。その3日後に出発致します」
「ありがとうございます。後、何時もの納品とはちょっと別なんですけど…」
「分かりました。直ぐに店長を呼びますので奥にお願いします」
「はい。行こうアルナ、リュート」
「うん」
ピィ
私はリュートと一緒に奥の部屋に入る。アルナも飛んで付いてきた。ちなみにティタはジャネットさんについて、一緒に武具屋巡りだ。ついでに鉱石とかが見れるので大体一緒に行っている。
「お待たせしました」
お姉さんが持ってきてくれたお茶を飲んでいると店長さんがやって来た。
「すみません、予定は先だったのに…」
「いいえ、こちらとしては何時でも歓迎致します。それでものは?」
「これなんですけど…」
「ほう!?珍しいですね。コメですか」
「はい。エヴァーシ村の人に頼んで、これから栽培してもらうのに合わせて作ってみたんです」
「おや、珍しく台座に地名が入っていますね。『エヴァーシ村での祝福』ですか…」
「そうなんです。何時もは入れないんですが、今後、コメの栽培地として広めたくていれてみたんですけど…」
「ご心配なく。あの村はこの周辺ではまだ知名度がありますし、うちの商会で勤めているものも知っておりますから、フォローしますよ。それでこちらはセットですか?」
「そういうわけではないんですけど、片方だと分かりにくいですよね、やっぱり」
「そうですね。揃っていた方が説得力はありますね。ですが、それぞれ素晴らしい出来ですし問題はありません。しかし、何故シェルレーネさまなのでしょうか?」
「コメの知名度をあげたいのですが、この大陸だと、グリディア様よりシェルレーネ様かなと…」
「たしかにそうですね。コメは大量に水が必要と聞きますし、問題はなさそうです」
「よかった~。ちょっと心配だったんですよね」
「へぇ、アスカ。結構色々考えて作ってるんだね」
「うん。特にコメは広めたいからね」
「私は食べたことがないのですが、それほど?」
「はい。炊いただけでも、色々味をつけても美味しいですよ。ちょうどこの街の喫茶店みたいなところで、リゾットが食べられますよ。それとは別ですけど、ロールキャベツとかメニューも豊富なお店なんです」
場所を教えてあげると店長さんもあの店かとうなづいていました。どうやら街でも人気店とまではいきませんが、知る人ぞ知る店のようでした。
「あの店はちょっとした時に立ち寄れて、雰囲気もいいのでたまに商談でも使っていましたが、今度はそういった普段食べないメニューも頼んでみますよ」
「商談?こんなに立派な応接室があるのにですか?」
「ええ。アスカ様のように常に店に来ていただけない場合や、店に上げるべきか迷うような相手だと、別の店舗でお話しすることもありますよ。ここで話しをするということは、その相手を信頼しているということになってしまいますから、特に初めての方などは外でお会いして、今後の付き合いを考えるのです」
「しっかりしているというか、大変なんですね」
「うちはそれが商売ですからね。いくら店が大きくなっても、新規のお客様と仕入れには気を使いますよ。では、この像はこちらで大切に扱わせていただきます。実のところ、シェルレーネ様の像は神殿とか水辺などと言った題材が多く、こういう農作物と一緒にはなかなか描かれないのです。きっと、売り上げて見せますよ」
「お願いします。コメの宣伝と一緒に」
「分かりました。販売代金の方はいつもの分と一緒にお渡しいたします。今の状態ですと売り切りになってしまいますので、またの納品をお待ちしております」
「はい!あと、受付の方にお聞きしたのですが、エヴァーシ村に行く商人さんの件なんですけど…」
「エヴァーシ村?ああ、定期便ですね。それが何か?」
「今度、作った細工を宿のお姉さんに届けたいのですが、輸送料はいくらかかるのでしょうか?」
便があることの確認は取れたけど、肝心の輸送料が分からなかったので店長さんに聞いてみる。
「何か大きい物でしょうか?」
「サイズは20cm四方といったところでしょうか?」
「でしたら、お代は結構ですよ」
「良いんですか?」
「はい。アスカ様にはいつもお世話になっておりますし、そもそもあの販路は儲けのあるものでもありませんので、かまいません」
「儲けがないんですか?」
「まあ。村人も少ないですし、貨幣の流通もあまりないところですからね。村の方も、買取が主で塩や種など生活に関係するものがほとんどで、そういうものは市場価格の上限が決められているので、過疎地区ではあまりもうからないんですよ。それに、あそこまでの護衛ともなればかなりの出費ですからね」
「じゃあ、何で行ってるんですか?」
儲けにならないのに商人さんが行くなんて不思議だ。
「半分はシャス様がいるから、もう半分は商会のためですね」
「シャスさんと商会のため?」
「ええ。シャスさんには何名か冒険者を紹介しておりますが、まさか取引もない村の方を紹介する訳にはいきませんので。これは我が商会のプライドですね。後は、今商会に勤めているものの中で村出身者がいるためです。従業員の村さえも把握できない商会とは思われたくありませんので」
「でも、中には離れた土地の方とかもいらっしゃるんでは?」
「もちろんそうですが、それなら我が商会が扱える産業などがないか確認できます。身近に情報源があるにもかかわらず、それをものに出来ないなど商人にとっては恥ですから。距離に関わらず、可能であれば年に何度かは必ず、そうやって出身地には商隊を送り込んでいるのですよ。実際にこれを行っているからこそ、シャスさんの情報も得られたわけですしね」
へぇ~、ちょっと変わってるけどすごいんだな。でも、確かに身近にあるのにチャンスを逃したって言うのは商人なら悔しいかもね。その後もちょっと世間話をして、商会を出た。
「ごめんねリュート、時間取っちゃって」
「いいよ。でも、アルナはすっかり受付の人に気に入られてたね」
ピィ
暇そうにしていたアルナは途中から受付のお姉さんにエサをもらったり、庭の方で遊んだりしていた。店長さんに確認をしたら、休憩時間だから大丈夫とのことだ。折角の休憩時間に悪いなぁって思っていたけど、受付のお姉さんもどこかの村の出身で、昔は小鳥とかとよく遊んでいたらしい。レディトに来てからは余り接する機会がなくなったので、久しぶりに楽しめたとのことだった。
「そういえば、最後はちょっと出かけたみたいだけどアルナ。なにしてたの?」
ピィピィ
くるくるっと飛び回ったアルナだったけど、流石に私にはわからなかった。後でティタに確認したところ…。
「おねえさんのため、ばーなんちょうをあつめた」
という返事が返ってきた。どうやらアルナは小鳥と触れ合えて上機嫌のお姉さんのために、街のバーナン鳥に行ってもらえるように話をしに行ったらしい。
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「これはどういうことだ?バティー」
「私にも何が何だか…。でも、アルナちゃんと遊んでからこうしてみんな来てくれるようになったんです!おかげで楽しいですよ」
「そうか…。しかし、抜け毛や巣までできただろう?相手をするのにも休憩時間を増やさないといけない。来月からの給料は期待するなよ」
「そんなぁ~、店長何とかなりませんか?」
「公私混同はよくない」
「売り上げで頑張りますから」
「それならせめて商品の仕入れをしないとな。おっと、お客様だぞ」
カランカラン
「いらっしゃいませ~。あら、シスター様。本日はどのようなご用件で?」
「はい、こちらにバーナン鳥が飛んで行くのを見まして。新しいクロスとシェルレーネ様の像を買いたいのですが…」
「それでしたらこちらに。当店では様々なシェルレーネ様の像を扱っておりますので是非ご覧ください」
「おおっ!これは見事な像ですね。以前は王都へ行ったときに買ったものを飾っていたのですが、こちらの方が素晴らしいです。これもバーナン鳥のお導きでしょう。今後ともよろしくお願いいたします」
「ありがとうございます。クロスはこちらに。シンプルですが、中央には守りの風魔法が込められた魔道具のものもありますよ」
「本当ですか!?見せてもらえませんか。巡礼や他の街への移動にぜひ使わせていただきたいです!」
……。
「ありがとうございました」
あれからもシスター様は他の物もしっかり見られて、中々のお買い上げだった。
「店長、良かったですね。新しいお客様ですよ。それも、常連になってくださりそうですね」
「むぅ。さっきの件はなしだ。休憩時間を増やすから、バーナン鳥の世話をするんだぞ」
「は~い。実質、お給料アップですね」
「そっちは今後の売り上げを見てだ!」
そういうとすたすたと奥に引っ込んでしまった。大好きな小鳥との遊び時間ももらえるし、その分の休憩時間も問題なく確保できたし、いいことづくめだ。
「今度、遊び道具も買ってこないとね」
こっちに来てからあんまりそういうのも買わなくなってたけど、ちゃんと買ってきてお世話しないとね。
「これって経費よね?」
商売に関わることだもの、きっと店長も嫌とは言わないはず。趣味と実益を兼ねられるなんて最高だわ。
「折角だし、アルナちゃんの抜けた羽とかを使って、アクセサリーを作ってみようかしら?」
村にいたときは子どものお遊びみたいなものだったけど、今は手元に色んな材料も揃ってるし、一回作って店長に見せてみようかしら?
こうして、数か月後にはドーマン商会に新たなアクセサリーとして、フェザーシリーズが販売されることになった。特にシェルレーネ教徒にはよく売れ、売り上げの一部は商会に住むバーナン鳥の世話費用にもなるとあって人気のシリーズだ。
「ん?今回は家族全員の羽を使って欲しいの?う~ん、サイズが違うけど頑張ってみるわ。そうだ!留め具には水の魔石を使うわね」
水属性の益鳥と名高いバーナン鳥にはぴったりだろう。
「あら、小鳥夫人の新作かしら?」
「ミル!またそんなこと言って。私はまだ独身なのよ。おかげで浮ついた話も出ないじゃない」
「そう言ってもねぇ。相手もいることだし、嘘は言ってないし」
「誰よ、そんな人がいたらすぐに飛びつくわよ」
「まあ楽しみにしてなさいよ。それより、手が止まってるわよ。折角、店長が気を利かせて制作の時間を作ってくれたんでしょ?」
「まさか商人ギルドへの登録にまでついてくるなんて思ってもみなかったわよ。子ども扱いなんだから」
「…もうしばらくは夫不在の夫人ね」
「だから、変な呼び方はやめてってば!」
ほんとに私を好いてくれる人がいるならさっさと出てきてほしいものだわ。1人暮らしはさみしいのよね。