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レディト到着

いよいよ今日はエヴァーシ村を発つ日だ。昨日から準備は済ませてあるし、早速ご飯を食べないと。


「ふわぁ~。はえぇよ~」


「ほら、ノヴァ。先に行っといてよ。荷物は持ってくから 」


「お~う」


まだ寝起きのノヴァとリュートが話している。どうやらリュートはノヴァが目覚めるより、自分が動いた方が楽だと諦めたらしい。


「はい、今日の朝食よ」


「ありがとうございます。時間まで合わせてもらっちゃって」


「良いのよ。客も少ない宿だからこういうところで気を利かせないとね」


朝早くにご飯を作ってくれたお姉さんに感謝して、食事を終えいざ出発だ。


「アルナ、ティタ。大丈夫?」


ピィ…


「だいじょうぶ」


二人とも返事をするけど、アルナはちょっと眠たいようだ。


「ちゃんと肩に捕まっててね。行くよ」


「アスカちゃん、みんなでまた来てね」


「はいっ!お姉さんもお元気で」


村の入り口まで見送りに来てくれたお姉さんと挨拶をして、再び草原に足を踏み入れた私たち。目指すレディトには今日中に着かないとね。



「ん~」


「さっきからどうしたのノヴァ?」


村を出発してから2時間ほど経ったころから、ノヴァが唸っているのでとうとうリュートが質問した。


「リュート。いやな、結構草原の魔物には出会っただろ。もう大体出会ったかなって思ってな」


「そういうこと」


「あ~、ルート的にあんまり被らないけど一種類出会ってないのがいたね」


「へ~、どんなやつですか?」


「ブリンクベアーっていってね。別名殺人熊さ」


「物騒な名前ですね。どうしてそんな名前なんですか?それに草原で殺人って…」


普通だったら、ガンドンキラーとか猫キラーとかになると思うんだけど…。


「あいつが使う魔法がちょっと特殊でね」


ピィ


アルナも興味があるのだろうか、鳴いてアピールしている。


「属性までは分からないんだけど、姿を隠すのが得意なのさ」


「姿を隠すんですか?」


「ああ、まあ属性については光って言われてるけどね。魔石がその属性らしい。だけど、光ったりするわけじゃないからよくわかってないんだよ」


光というともしかして光学迷彩という奴だろうか?


「それって、見えないけどそこには居るって感じなんでしょうか?」


「まあそうだね。でも、辺りに霧が立ち込めてる訳でもないし、よくわからないんだよね」


「多分それなら光で合ってると思います」


「そうかい?ま、そんな話は置いといて、あいつがなぜ殺人熊って言われてるかというと、さっきも言った通り、その魔法で姿を隠して襲うからなんだよ」


「でもさぁ、姿を隠せるなら魔物だってわかんないんじゃないのか?」


「そこだけどね。魔物は結構鼻が利くのも多い。ウルフやキャット種は特にだね。だから、いくら姿を隠そうが、簡単に見破られるって訳だ。その点、人間が臭いで迫っているのは中々分かんないだろう?」


「言われると、臭いで判別は難しいですね」


「だから、奴らは人間の天敵なんだよ」


「なら、ひょっとして高く売れるのか?」


「残念だけど、皮と牙が売れるぐらいだね。牙はそれなりで皮は安いね」


「なんでだ?」


「皮の内側は脂肪でべったり、牙は堅いけどそりがひどくてあんまり使えないんだよ。皮は質もウルフ以下だね。量が取れること以外はよくないねぇ」


「討伐報酬は?」


「そっちもそんなに高くはないよ」


「でも、冒険者にとって危険なら報酬は高いはずじゃ…」


「じゃあ、あんたたち。もしもオークの肉がまずかったら狩るかい?」


「う~ん。場合によっては見逃しますかね?」


「だろ?でもギルドとして倒して欲しいなら、討伐報酬は高くなる。ところがブリンクベアーの場合はその必要がないんだ」


「なんでだ?姿が見えない奴なんて危険だろ?」


「そうだね。じゃあ、ノヴァがもしそれを発見したらどうする?」


「襲ってくる前に倒すに決まってんだろ!」


「あっ!」


「リュートは分かったみたいだね。そうだ。そんなに危険な奴なら冒険者として見逃さない。つまり討伐報酬がたとえ低くても、パーティーの安全を考えれば絶対に狩るしかないのが原因だね。冒険者が見逃す相手でないなら報酬を上げる必要がないって訳。野営中に襲われたら最悪だからね。それにオークと違って相当しつこいからね」


ピィピィ


さっきからアルナが鳴いてるけどどうしたんだろ?アルナの目線に目をやると何もないのに枝がぽきりと折れた。


「あの~、ジャネットさん。ちなみに姿が見えないってあんな感じですか?」


「ん?そうそう、ああやって不自然に枝が折れたらそこにいるんだよ…枝が折れた!?」


「みんな構えて!」


直ぐにリュートが指示を出す。ジャネットさんとノヴァが剣を構えて枝が折れた方に防御態勢を取る。


「いらないこと言うからだぞ!」


「聞いてきたのはそっちだろ!」


「アスカも、武器を構えて!」


「うん!」


私も弓矢を取り出して構える。とりあえず、姿は見えないけど質量を消してるわけじゃないから、足元を見れば…ってこっちに来てるじゃん!やばい、構えないと。


「アスカ?」


「あ、足元見て!こっちに来てる」


「何だって!」


「きゃあ!」


直ぐに距離をつめられて、攻撃が来る。弓に運よく当たって吹き飛ぶだけで済んだけど、結構大きいのかすごい力だ。


ブシュ


しかし、運よく弓の刃の部分に腕が当たったみたいで、ブリンクベアーはけがをしたようだ。


「よしっ!姿が見えなくても血があれば簡単にサイズも分かる。行くよ!」


「おう!」


すかさず2人が反撃に出る。相手の姿は見えないままだけど、血が飛び散ったおかげで結構動きも分かりやすくなった。


「アスカ、大丈夫?」


「う、うん。何とかね。それより、姿が分かりやすくなってラッキーだったね」


「そうだね。んしょ、さあ反撃だよ」


私も矢をつがえて、ブリンクベアーを狙う。今は右手をケガしているから、狙うは左だ。これで大きさもはっきりするだろう。矢を外さないように肩の近くを狙う。ここを狙えば、大きさも分かりやすいし、体と腕の間を通り抜けることもない。


「はっ!」


グオォォ


私の放った矢が命中してそこから血が流れる。


「サイズも分かったら、ただのデカブツだ!ノヴァは右を」


「任せろ!」


ジャネットさんが左にノヴァが右に回り込んで、一気にとどめを刺した。すると、見る見るうちに魔法が解けていきようやくブリンクベアーの姿が浮かび上がったのだった。


「へぇ~、こんな姿なんですね。灰色のクマですか~」


う~ん。昼間だから脅威だと思ってたけど、たとえ姿が見えたとしても、夜だとほとんどわからなさそうだ。


「さあ、一応売れることだしさっさと解体するか」


「ちなみにお肉は?」


「臭い。そうだアスカ。あっちを風下にしてくれ」


「はい」


言われた通りに、南側に風が流れるようにコントロールする。こっちにもちょっと匂いが来るけど確かに臭い。


「食べられませんよね」


「食べたいならいくらでもやるよ。ただし、ひとりで調理することだね。煮ても焼いても臭いよ。あと、調理器具にも移る」


「さ、最低なやつじゃないですか!」


「だから、倒すのも微妙なんだけど、なんせ戦いにくいからね」


確かに、血が飛び散ってある程度姿が見えてたけど、それでもノヴァとか戦いにくそうだったもんね。


ピィ


アルナも臭いを感じ取っているのか、近くに来ない。いいなぁ、私も飛んで臭いから逃げとこうかな。


「ふぅ~、何とか解体終了だ。にしても、どっかで剣を洗わないとね。こんな臭いで手入れしたくないからね」


確かに、この匂いのする中、部屋での手入れは地獄だろう。


「何他人事みたいな顔してんだい。その弓だって匂い移ってるよ」


「嘘!ほんとだ…」


直ぐに歩き始めた私たちは、ちょっと先の水たまりと土を使って洗う。


「後は最後に風魔法で汚れを飛ばせばっと…。ジャネットさん剣貸してください」


「ほらよ」


ジャネットさんから剣を受け取って、弓と同じように剣を洗う。


「これで良しと!匂いは消えましたよ」


「サンキュー。これで手入れが出来るよ」


「しっかし、あんなのまでいるなんて結構草原って、難易度高いのか?」


「最低でもCランクのパーティー。日常的に入るならBランク位あると安心てところだね。ブリンクベアーは北側に多いから、そっちに行くパーティーは特に大変かもね。見張りが命懸けだから」


結局その後は魔物もあまり近寄らなくなり、スイスイと進めたのだった。流石に臭くてあんまり魔物も近寄らないのではないかということだ。そんなに匂いは感じないんだけどな。


「これって魔除けに使えたりしませんかね」


「今はまだ自覚してないから言うけどね、宿に泊まるときにその言葉は言えなくなるよ」


その意味はレディトに着いた時に分かったのだった。門番さんには渋い顔をされ、街の人には避けられ、とうとう馴染みの宿のお姉さんには…。


「湯を今すぐ沸かしますから、とにかく先に入ってください。連れの男の方は女性が入り終わるまで絶対に部屋から出ないでくださいね!」


と、強く宣言されてしまった。


「もしかして…」


「安全だけど、獣扱いされてもいいのかい?さらに効果が無かったら、悲惨だろうねぇ」


確かに、こんな異臭をまき散らせながら死ぬかと思うと最低だ。ちなみに草原の魔物の匂いなので、オークなんかは気にせず近寄ってくるらしい。あの匂いにもひるまないとのことだ。それにしても、お風呂の件で感謝されてるお姉さんにさえ、さっさと風呂に入れと言われるなんて、慣れって恐ろしいなぁ。


「ああ、それは鼻がマヒしてるんだよ。あまりの悪臭に体が守ろうとするんだろうね。だから、本人たちは大丈夫なんだけど、周りがね」


「ほんとに良いとこないクマですね」


「魔石さえ落としてくれたらねぇ。ちょっとは儲けになるんだけど、それさえもめったにないから、ほんとに収入にならないんだよ。皮の質も悪いって言ったけど、実際には匂いを取るために乾燥させたりするんだけど、周りからの苦情がね…」


「そっちもですか。ほんとに人の敵ですね」


とりあえず、街に付いたら即さっぱりすることが出来て私としてはありがたかったけど、次の日に文句を言ったのはノヴァだった。


「何で、清掃料がかかるんだよ。そんなの今までなかったじゃんか!」


「昨日あなた方がお風呂に入っている間。一時的に荷物を預かったでしょう?その間にお部屋を掃除させてもらって、臭いを取っていたのよ。悪いけど、今回ばかりは仕方ないわ。掃除した子たちへの手当ても兼ねてるの」


そう言われては仕方がなかった。ちなみに私たちはというと、すぐに湯が沸くからと風呂場の間で待機していたので料金は取られなかったのだ。ほんとによかったよ。


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― 新着の感想 ―
特殊清掃料金が発生する程の酷い臭いって相当だね。 シュールストレミングくらいの臭いなんだろうか
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