番外編 死霊大戦 その1
「それは数百年前のお話です。魔王の脅威も過去のものとなり、人が領土を争っていた時代。その魔王は突然現れました」
おおっ!ナレーション始まった。アスカは精霊様からありがたい巫女の話を聞くため、小さな切り株に腰掛けた。他にはティタとアルナが観客だ。
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「皇帝陛下!西からアンデッドの群れです。やはり報告にあった通り、バンデイン王国は滅びた模様です。死霊使いの新たな魔王の勢いはすさまじく止まる気配がありません!」
「そうか…。我が帝国と覇を争った王国のなんとも哀れな最後だな」
「父上、そのようなことを言っている暇はありません。すぐに討伐軍の手配を!」
「うむ。しかし、対アンデッドの装備はそろっておるか?」
「陛下。残念ですが、精鋭100名分の装備がやっとでございます。この大陸には西のダンジョン以外には強いアンデッドがおらず、ろくな装備がなく…」
「前線にはそれだけしか出せんのか?」
「いえ、あくまでこの皇都の守りの分だけでございます。前線などとてもではありませんが…」
「有効な武器や魔法は?」
「火の魔法が効果的かと。他には聖属性と光属性が効くようですが、どちらも使い手となると…」
「教皇猊下は?」
「聖王国の守りが万全になればと…」
「あいつら!寄付だけは奪ったくせに、ろくな援軍も送らない気か!」
「声が大きいぞ!聞かれでもしたらどうするのだ。残念だが、他に頼れるところがないのだぞ」
「失礼しました。では、光の神殿は?」
「引き受けては下さりましたが…」
「が、何だ?」
「民衆のために立ち上がるとのことで、各村々や町を回りながら、来るとのこと。恐らく軍事行動はとれぬかと」
「それでも聖王国よりはましだ。それで、彼らの進軍ルートは?」
「こちらになります」
バサッと部下が地図を広げる。神殿からこの皇都までは10日ほどだが、このルートは…。
「正気か!?弱小の村を回っていくルートではないか!これほど大回りでは皇都に何時着くか…。事態の重さは説明したのだろうな?」
「も、もちろんでございます。しかし、巫女様が各村を回らなければ、そこにいる者たちが守れぬと。また、村が危なくなった時は、大きな街を城塞として活用するように進言されました」
「城塞とな?」
「はい。各村に数名、光の魔法の使い手を置き、防げぬと判断した場合は直ちに付近の大都市に撤退。そこに集まった魔法使いや巫女たちで防衛線を張り、徐々に下がっていくとのことです」
「確かに、対人戦では行われる戦い方だが、最初から避難させればよいだろう」
「たとえ数日であろうと、人の日常を守りたいと」
「…あくまで神殿は国を持たぬ組織だ。これ以上の譲歩は無理だろう」
「陛下!それでは…」
「だが、彼らも聖王国と同様に、アンデッドとの戦いでは無類の強さだ。むしろ、現在無力な帝国軍より戦えるだろう」
「では…」
「うむ。申し出通りに協力を乞い、我らはその間に戦力を整える。冒険者でも鍛冶屋でも捕まえて戦えるようにするのだ」
こうして突如現れたアンデッドの群れに各国が何とか対策を立てていた。その間にも魔王を名乗る死霊使いは世界中にアンデッドの大群を送り込み、数か国が壊滅、もしくはそれに近い打撃を受けていた。しかし、この大陸には2大宗教の聖王国と光の神殿があり、被害はまだ少ない方であった。それから1年後…。
「まだ、あの帝国は落とせぬのか?」
「魔王様、申し訳ございません。戦力は逐次投入しておりますが、頑強に抵抗され前線が伸び悩んでおりまして…」
「その報告を聞いたのが半年前だ。バンデイン王国も滅ぼしたその力は飾りか?」
「申し訳ございません。聖王国の聖女なるものと、光の神殿の巫女の力にやや押され気味で…」
「敵の兵士はどうした?兵士のアンデッドは多少は強いはずだ」
「そ、それが…聖王国ではそれなりにやっているのですが、神殿側では思うように戦果が出ず。何分、籠城されて
手を出しにくいのです」
「街はきちんと落としているのだろうな?」
「そ、それはもう。しかし、街から街への撤退も鮮やかで被害が増えるばかりで…」
「もういい!神殿は後回しだ。聖王国からまずは片付けてくれる!リッチのガゼルスを呼べ!」
「そ、そのぉ。が、ガゼルスさまは…」
「どうした!」
「その光の巫女が次の街への撤退中に深入りして撃退されました」
「なんだと!?四天王の一角であるあやつをか…。忌々しいやつだ」
こうして、人と魔王との戦いは激しさを増し、その2年後には新たな局面を迎える。
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「聖女様ばんざ~い」
「流石は聖女様と勇者様だ!これで3都市目の開放だ」
数年の戦いでアンデッドとの戦い方を身につけ、装備も整えた人の反撃が始まっていた。その頃魔王の居城では…。
「ぬうぅ~、我が魔王軍の四天王ももはや残り1人とは。弱小の人間どもがここまで抵抗するとは…」
「お伝えします!聖王国は国の両端を放棄し、真っ直ぐこの城を目指しております。また、神殿は各地の防衛を強化し、以前手中に収めた村々を解放しております」
「どちらが現在脅威か!」
「現在では軍を率いてこちらに向かっている聖王国が脅威かと。しかし、この城には多くの罠が張られています。あのような者共の戦いではびくとも…」
「だまれ!そう言いつつ、こちらの戦力は削がれているのだ。開戦時の余裕はこちらにはない。このまま城で迎え撃つ!」
「分かりました。各地に散らばった戦力を集めてまいります」
「聖女や勇者などといった世迷言を言う輩に目にもの見せてくれるわ!」
それにしても忌々しいものよ。勇者などと言われておる輩も、元はただの冒険者ではないか。それも、火魔法を操るだけだ。あんな奴らに籠城戦とは…。
その数日後のこと。
「戦力はどうだ?」
「はっ!城に続々と集結しております。若いながらもリッチやシャドウバイターなどアンデッドや闇の魔物を中心に最大規模です」
「うむ。これほどの高位の魔物であれば聖属性にも耐性があろう」
「ただ、1つだけ気になることが…」
「なんだ?」
「光の神殿を統率している巫女が見当たらないのです。くまなく探しているのですが、何分相手は各村まで手を伸ばしており、諜報が難しく」
「構わん。どうせ近くの村にでも出向いているのだろう。それより、罠の方は万全か?」
「はっ!抜かりなしでございます。毒素の霧や呪いの泉など各地より様々なものを集めました。軍勢であればあるほど防げないでしょう」
「そして、その軍はわが手に…。勝てる、奴らさえ倒せばもはや我が元まで迫るものはおらぬ!この戦勝てるぞ!」
「「おお~」」
魔物たちも押されているとはいえ、個々の力では勝っている。その自信を刺激すれば士気は保てる。戦いはこれからだ。必ずこの世界を手中に収めてやる。
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一方、魔王との決戦に備えている勇者たちの陣地では。
「聖女様。いよいよですね」
「そうですね、勇者様。ここまでよく戦って来られました」
「勇者なんて慣れませんけどね。ただの聖属性武器持ちの冒険者だったのに…」
「あなたが西のダンジョンを根城にしていたおかげで、こうして戦いが勝利で終えられているのですよ」
「まあ、それしか能がないとも言いますが。それにしても聖王国も被害が大きい。なんとしてもここで魔王を倒さねば」
「そうですね。光の神殿に負けることがあってはなりません。我らの神は闇を払うもの。彼らにだけは後れを取れません」
「ですが、向こうはこちらよりも被害が少ないようですね。どのような戦法を取っているのか…」
「私も存じてはおりませんが、癒しの力も半数以上が使えぬ中、頑張ってはいるようですね。しかし、所詮は守勢に回った民間の組織です。我らが王国に勝ることはありません」
「こちらには聖剣もありますしね。正直、この剣がなければ先の四天王との戦いにも勝てたかどうか…」
「それこそ、聖なる神が我ら信徒を見守ってくれている証です。存分に振るってくれて構いませんよ」
「ええ。必ずこの戦を勝利で終えて見せましょう。その時は…」
「もちろんです。勇者様」
2人は眼前に迫った魔王城をにらみつけてテントに戻っていった。
その頃、反対方向から少数で動く人影がいた。
「み、巫女様。本当にこのような戦力で大丈夫なのですか?」
「もちろんです。我らは戦うわけではありません。かの者たちが勝利をつかむための礎になるのです」
「それでは彼らのもとにのみ栄光が…」
「何を言っているのです。光の神殿の教義は人々が心穏やかに、正しく生きることです。人類の脅威である魔王を倒すのであれば、この方法が一番良いのです」
「ですが、お体に負担が…」
「彼らも命がけで魔王城に乗り込むのです。リスクは変わりません。それよりも、私が陣を使えば無防備になります。その間の守りは任せましたよ」
「はっ!必ず御身をお守りいたします」
「では、参りましょう。気づかれぬように」
「分かりました」
こうして光の巫女は本隊を離れ、数名の供とテントも張らず野営を行った。すべては時を待つために…。