村の周囲
「ん~、気持ちいい~」
午前中、存分に寝た私はん~と伸びをする。いやぁ、昨日も結局村に帰って来てから、フリスビー大会で疲れたし、ほんとにゆっくりできた。
「さて、ご飯だ~」
時間は11時50分ぐらい。30分前に目が覚めたけど、時間を確認するためにちょっと外を見にでただけだ。今日のお昼は楽しみだなぁ~。
「こんにちわ~」
「アスカちゃん、こんにちは。お昼持ってくるわね」
そう言ってお姉さんが出してくれたのは、野菜スープにキノコのパスタと温野菜だ。スープにはリュートの持ってきた干し肉を入れて、味を調えてある。これが初めてではないんだけど、少量入れるだけで味がグッとしまるから何度も作り方を聞かれてたな。あれは面白かった。あの時間にたまたま、下に降りてよかったよ。
-----
「ちょ、ちょっと顔が近いですよ!」
「それより、この配合はどうなってるの?食べなれない味がするから、この辺じゃ見かけないものも入ってるだろうけど、それなりなら何とかなるわよね?」
「いや、まあそうですけど…」
「なら、教えてくれてもいいじゃない。どうせ同じ味にはならないんだし」
「でも、僕が考えたわけじゃありませんし…」
「それじゃあ、その人を連れて来てくれる?」
「いや、一般人ですよ。流石に連れて来れませんよ」
「仕方ないわね…」
「ほっ、良かった」
「それなら、あなたが教えてくれないと」
「どうしてそうなるんですか!?」
「その人がこの村まで来れないなら仕方ないでしょ?」
「でもですね」
なおも食い下がるお姉さんに、リュートもたじたじだ。特に身長が同じぐらいだから、目線のすぐ下に胸があるんだよね。
「は、離れてください!」
「教えてくれたらね。もちろん報酬も用意するわよ。なにが良い?」
「あ、アスカ助けて!」
「ほんとにリュート助けて欲しいの?」
「な、何言ってるんだよ!?」
いやぁ、真面目なリュートはからかいがいがあるなぁ。普段あれこれ言われるし、こういう時に反撃しないとね。こうしてリュートはお姉さんから逃れるために、そこそこの調味液のレシピを渡したのだった。
「教えてくれてありがとう、リュート君」
「言っておきますけど、そのハーブは中々手に入りませんからね」
最大限の抵抗としてリュートが選んだのは、味がいい代わりに配合に入手性の悪いハーブを混ぜたものだった。
「へぇ、これ手に入りにくいんだ」
「そうですよ。アルバでも高くはないですけど、量が取れないらしくて作り置きするのも難しいんです」
「そんなハーブあったんだ」
ハーブの話になったので私もちょっと興味が出て、お姉さんが持っているハーブを見る。
「あれ?これがそのハーブ?」
「そうだけど、アスカどうかしたの?」
「いや、でもこのハーブこの村に自生してるよね?」
「ええっ!?どこで!」
「どこって言われても…シャスさんの工房に行くところに森があるでしょ?あそこの手前側のちょっと背の高い草むらとかに生えてるよね?」
「ああ!あの草がこのハーブなのね。みんな変な香りがするってあまり採らないのよね。臭みけしとかにちょっと使う程度かしら?あの辺はほっといても生えるから、困るのよね」
「嘘だ、僕の最後の抵抗が…」
これはいけないと思って私は足早にその場を去った。いやぁ、いいことした後は颯爽と去らないとね。ヒーローは安易に人前に出るべきではないのだ。
-----
「あ~、スープもおいしいしパスタもキノコの味がして、美味しいです」
「アスカちゃんのお陰で、スープもいつでも食べられるわよ」
「ほんとですか!でも、ここまで来ないといけないんですよね…」
「それについては安心して。あの後、リュート君と話をしてミックスハーブとして調味料を売ることにしたの」
「でも、登録とかどうするんですか?商人ギルドはこの街にはありませんよ」
「ちゃんと代理申請の制度もあるのよ。今必要な書類を作ってるところなの。もう名前も決めたのよ。エヴァンス・オリジンっていうの。これで、少しでもこの村が有名になるといいわね」
そう元気よく語るお姉さんとは対照的に、無心で料理を食べるリュートが奥に見えた。なんだか疲れてるみたいだし、刺激しないようにしよう。私は空気が読める子なのだ。
「さて、食事も済んだしちょっとお外に行こうか」
ピィ
アルナお待ちかねのお出かけタイムだ。とはいっても村から出るのは流石に危険なので、その辺を見て歩くだけになると思うけど。まずは服を着替えて準備を整える。一応、何かあった時のために簡単に防具をつけて出かけた。
「あっ、師匠こんにちわ~」
「こんにちわ、今日もみんな元気だね」
「師匠は何してるんですか?」
「私はアルナと一緒にお散歩中。村を見て回ろうと思って」
「それなら、あっちの方がいいですよ」
「あっち?でも、あっちはほとんど家がないよね」
シャスさんの工房と反対側は畑が多くて、人がほとんど住んでないのに…。
「あの辺、変わったやつとか結構見つかるぜ」
「小鳥さんのエサなら、いいのがあるかも」
「そうだったんだ。人もいないっていうから、私あっちに行ってなくて。貴重な情報をありがとう」
皆にお礼を言って、村の奥へと進む。そこをいつもと逆に曲がると、簡単に伐採されただけの道が現れた。
「ほんとにちょっと通るだけの道みたいだね」
小さい台車ならともかく、馬車なんて通れそうにない道だ。そこを進んでいくと、畑があった。畑といっても田んぼに近いぐらいの面積があり、そこには大小さまざまな野菜が植わっていた。もちろん、柵などもあるがどちらかというと、隣の畑との境目のようだ。十字に作られた道の奥はそれこそ手入れもされていないようなところだ。
「あっ、でも森の方だけはちょっと道があるね」
ピィ
するとアルナがささっと飛んで行ってしまった。
「危ないよ、ティタお願い」
「らじゃ」
アルナの見張りにティタも付いて行ってもらう。数分後帰ってくるとアルナが報告してくれた。
「おくにいずみがあった」
「泉?そっか、あっちの道は水源までの道なんだ」
泉だなんてちょっと気になるし、行って見よっと。がさがさと草をかき分けて、進んでいく。道にはなっているものの、枯れていないかなど用事があるときだけ使われるようで、他の道のように定期的にはきれいにされないようだ。
「うわぁ~、綺麗~」
そして中央には大きな泉があり、こんこんと水が湧き出ていた。周囲には木々が生い茂り、泉には光が差し込んで幻想的な光景が広がっている。
「それにしてもすごい光景だな。みんなで見に来ればいいのに」
観光名所にすれば大人気間違いないぐらいの光景だ。
「ここで、ユニコーンとか精霊が居たら、完璧なのにな~」
その時、急に目の前を何かが横切った。
「な、なにっ!」
思わず身をひるがえしてしまったけど、魔物の反応もないし魔法探知にも引っかからなかったし、何だろう?
「きゃ!?わ、私が見えるの?」
私の正面に小さなものがやって来た。
「ようせい?」
「あら、本当に見えるのね。貴方珍しいわよ。精霊視かしら?でもそんな感じはしないわね。どっちかというともっと神聖な…。おっといけない。自己紹介ね。私はここに住む精霊よ」
「精霊ですか?妖精じゃなくて」
「ええ、あんな気まぐれな存在と違って、私たちは一所に住み、そこで世界を見守っているのよ」
「そ、そんなすごい存在だったんですか。すみません」
「いいわ。でも、精霊視の感じは受けないけど、あなたは何者なの?」
「私ですか?私はアスカ、冒険者をやっています」
とりあえず自己紹介だ。さっきからこの方の言ってる、精霊視が何かは分からないけど、何か特別な力なのだろう。流石に私にはそんな力が無いもんね。
「そう。後ろのは?」
ピィ
「こっちの小鳥がアルナでそっちのゴーレムがティタです」
「ふ~ん。こっちの鳥は分かるけど、使い魔持ちの人間なんてますます珍しいわね」
「使い魔?ティタは従魔ですけど…」
「面白い冗談ね。確かにそういう契約の跡も見られるけど、そういう要素は薄いわよ。貴方が作ったのでしょう?」
「作ったというか…なんというか…」
「まあ、詳しくは聞かないわ。それにしても、あなたからは懐かしい力を感じるわね。光の女神の力ね。もう数百年は見てなかったけど、元気かしら?」
「光の女神さまを知っているのですか?」
「もちろんよ。今じゃ信じられないけど、ちょっと前まではかなりの勢力だったもの。近くに巫女もいてね、たまにこの村に寄ったりしていたのよ」
「ちょっと前ですか?あの村が滅んだのはもう数百年前ですけど…」
「じゃあ、ちょっとじゃない。そっか、あの村から誰も来ないと思ったら滅んでいたのね。誰もそんな話をしないからわからなかったわ。女神さまもかわいそうに。あれだけ神と人に尽くした巫女は他の女神の巫女にはいないわよ」
「そうなんですか?私は一度会ったきりなので、よく知りませんが…」
「あなた時間はある?」
「まあ、それなりには…」
「じゃあ、面白い話をしてあげる。最も、旅の冒険者からの土産話だけどね」
そう言って、精霊様は一番人の世に貢献したであろう1人の巫女の話を始めたのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
感想や誤字脱字、評価等頂けて感謝です。
感想や誤字脱字につきましては、まとまった時間が取れる時に確認するようにしておりますので、 ご理解頂けたらと思います。
今後ともよろしくお願いいたします。