出来栄えは?
村でフリスビー大会 (いつも)が行われた翌日、私たちはシャスさんの家に向かっていた。
「昨日は疲れたよ~」
「災難だったね。流石にあそこまで引っ張るとは思わなかったよ」
「ジャネットさんもありがとうございます」
昨日の14時ぐらいに、帰ってこない私を心配してジャネットさんが来てくれたのだ。まあ、引き離すってことは出来ないので一緒に遊ぶことになったけど。負担がかなり減った。小さい子とかあまり言っても分からない子に対して、あれこれ話しかけてくれて負担がかなり減った。
「私じゃどうしても投げ方中心になっちゃうので助かりました」
「本来それだけの話なんだけどね。楽しみ方もみんな違うからね」
「で、頼んでたやつは完成してんのか?」
「日数的には問題ないはずだよ」
「それじゃ、行きますか」
コンコン
シャスさんの家に着いたのでノックする。
「はいよ~。誰だ?」
「アスカです。弓を見に来ました」
「おう、入れ~」
どうやら奥にいるらしくちょっと声がこもる。そのまま、言葉に従って奥へと進む。
「それじゃ、みんなはここで待っててね」
「おう!」
工房の方には私一人で行く。工房は色々見られたくないものなんだよ。職人さんは。
「おお、アスカ!よく戻ったな。で、どうだった?」
「すごかったです。色々と…」
言える分から言えない分までね。
「そうか。こっちは要望通りのものに仕上がったと思う。一度、構えてみろ」
「はい」
「ああ、そうそう。掴むところは上下に作ってあるが、よく切れるから注意しろ!」
「分かりました」
渡された弓は中央上下の握りのところ以外は刃物のように研いであり、ちょっと触れてもスパッと切れそうだ。慎重に持つところに手を触れて構える。
「うう~ん。わずかに大きいですかね?」
「それぐらいはまだ伸びるからな。後1年もすればちょうどになるさ」
「これだけですか…」
シャスさんが示したのは3cm程度だ。ほんとにもう伸びないのかな。
「ま、その反応なら問題ないな。弦を張るからそこにおいてくれ」
「はい、お願いします」
私が弓を置くと、手際よくシャスさんが巻いていく。
「よく見とけよ。旅に出るんなら、自分で巻くこともあるだろうからな」
「は、はい」
そういえば、今までは定期的に武器屋に行って見てもらってたけど、野営とかの時に直さないといけないこともあるのか…。
「ここでこうしてこう。わかったか?」
「こうですか?」
「そうだ。その感覚を忘れるなよ」
「ありがとうございます」
弦も張れるようになったし、万々歳だ。ん~、でもなにか忘れてるような…。
「何だ、まだ用事があるのか?俺からしちゃ、面白い案件なら構わんが」
「案件、素材…。そうだ!これの加工をお願いしたいんですけど」
「これ?何だこの赤い石は…どっかで見たな。師匠の工房にあったやつか。だが、あれは…」
「ティタの見立てでは竜眼石って言うらしいんですけど」
「やっぱりか!いやぁ、アスカの依頼は外れがないな!久しぶりに見たぞ」
興奮気味のシャスさんだ。やっぱり鍛冶屋だけあって素材には詳しいみたい。
「シャスさんでも普段見ないんですか?」
「あたり前だ!貴重で、冒険者も信頼している鍛冶師にしか頼まないからな。師匠が受けているのは見たことあるが、現物を依頼されるのははじめてだ」
「同じ工房にいたんですよね?」
「これぐらい貴重な素材になると、工房でも個人に頼むんだ。これを持ち込んだのが知れ渡ると、その情報だけでも金になるんだぞ!」
情報だけでお金になるなんて凄いな。
「でも、加工するの大丈夫なんですか?」
確か今初めてだって言ってたけど…。
「ああ、加工自体は高温で熱すれば金属とか石の部分と簡単に分離できる。その後の成形も難しくはない。ただ、これを使って何を作るかと、誰が依頼したか。この情報を隠すのが大事なんだ」
鼻息荒いシャスさんの話だと、はぶりがいいか、運のいいそのパーティーに入れないかと、商人たちが商売相手として欲しがるそうだ。
「だから、情報1つでも金になる貴重なものなんだぞ。まさか、あんな小さな村にあるとはなぁ」
「村のことよく知ってたんですか?」
「言わなかったっけ?ほぼ自給自足の特殊な信仰の村だって」
「多分そこまでは聞いてなかったと思うんですけど…」
「まあ、よかったじゃないか。その情報が入ってたら、行かなかったかもしれないだろ?」
「そう言われるとそうかもですね」
「石の加工はどうするんだ?」
「杖に使うつもりなので、球の形でお願いします」
「わかった。炉の温度の問題もあるから、明日の夕方以降に来てくれ」
「早いですね。もっとかかるのかと…」
「加工自体はそこまで難しくないからな。炉が対応してるかはあるけど」
「ちなみに対応してなかったら?」
「この村だと炉を作るところからだね。王都なら信頼できる知り合いの鍛冶師を探すとこからかな」
「よかったです。シャスさんの工房で」
「俺も、折角だからと良い炉にしたが、まさかこんなことになるとはな。じゃ、楽しみに待ってろ」
「はい!」
工房を出るとみんなに再び出迎えてもらった。
「どうだった?」
「はい!明日の夕方には出来るそうです」
「いや、そっちもだけど弓は?」
「はっ!?ちゃんと弦の張り方とかも教えてもらいました」
「そんなん武器屋に頼めば良いじゃん」
「ちっちっちっ、いついかなる場所でも、手入れできるのが、一人前の冒険者だよ」
「それ、シャスの受け売りだろ?」
「ジャネットさん分かります?」
「アスカの口からそんな含蓄に富んだ言葉が出るとね」
「そこですか!?」
「ところでアスカ。試し射ちとかしたの?」
「ううん、まだだよ」
「折角だから使ってみろよ!」
「いいけど、また草原にいくのはちょっと…」
「いや、その辺の木で良いだろ。アスカって見た目より好戦的だよね」
「そんなことないです!」
私は平和主義者だもん。
「平和主義者、平和主義者、平和主義者…」
「弓構えて言う台詞じゃねえな」
「とんだぺてん師だね」
「アスカ、頑張れ…」
自分で張った弦の加減がわずかによくなかったのか、ちょっと最初は的を外したけど、大体当たるようになった。
「でもまだ、ちょっと上にいくなぁ」
張りも直したし、狙いもバッチリなのにちょっとだけ的の中心から上にずれるのだ。
「ちょっと貸してみな」
ジャネットさんに弓を渡すと、構えたり持ち直したりしている。
「これ、アスカには少し大きくないかい?」
「そういえばシャスさんに大人の身長に合わせたって言われました」
「ならその分、今のアスカじゃ上に補正がかかるのかもね。印をつけるなり何か考えた方がいいかも」
「そうします。それにしてもよく分かりましたね。普段弓なんて使わないのに…」
「サブの武器を考えるときに一通りはね。あんまり弓は適性なかったけど」
へぇ~、私は杖と拾った弓って感じで自分で選んだりしなかったけど、普通はそうなのかな?
「ひょっとしてリュートたちも?」
「まあ、一応ね。といっても僕らはジャネットさんとアスカのサブは知ってたから、最初から限定的だったけど。近距離から中距離で手数が稼げるものって感じで」
「そうそう。ジャネットに被りそうだとか相談に行ったりな」
私の知らないところでそんなことがあったなんて知らなかったなぁ。
「でも、どうして私には相談してくれなかったの?そりゃあ、経験なんてほとんどないけどさ」
「アスカに?ないない」
「何でよ」
「ほら、僕らって出会った時からアスカにお世話になってるでしょ?オーガから助けてもらったり、薬草の取り方を教えてもらったりさ」
「じゃあ、別に武器のことも相談してくれていいじゃん」
む~、なんか仲間外れみたいで気に入らないなぁ。
「ほら、アスカ。むくれんなよ」
「むくれてなんてないもん」
「別に隠そうとか思ってないよ。ただ、今まで世話になってばっかりだったでしょ。だから、自分たちで決めて僕らもしっかりできるところを見せたかったんだよ」
「じゃあ、なんでジャネットさんには相談したの?」
「それがさぁ、武器屋のおっさんもあんまり武器を見せてくれないし、向き不向きなんて分かんないから、結局聞きに行こうって話になったんだよ」
「まあ、聞きに来たことは褒めてやるよ。無駄に頑張って無理してもいいことないからねぇ」
むぅ~、まだちょっと納得いかないけど、2人とも頑張ってたのは確かだし、過ぎたことは水に流そう。
「今度そういう機会があったら、絶対に相談してよ!」
「うん、わかったよ」
「そんなに何度も武器を…むぐぐ」
「いらないことは言わないの」
とりあえず、目的の試し射ちは終わったし、宿に戻ろう。昨日もあんまり疲れが取れなかったから、今日はゆっくりしたいしね。
ピィ
宿に帰ってくると、お留守番をしていたアルナが元気よくこっちに来る。そっか、まだ強敵がいたなぁ。
「どうしたのアルナ?」
「むらのなか、たんさくしたい」
「た、探索かぁ~。お昼食べたらね」
今はちょっと休みたいかな?
「アルナ、ひるすぎたら、ゆうがたまであそべる。まつ?」
ピィ!
元気よく返事をするアルナ。良かった、これで午前中はのんびり過ごせるよ。何か、変なこと言ってた気がするけど。とりあえず今はちょっと眠たいからおやすみなさ~い。