帰還と滞在
お昼ご飯も食べて、再び歩き始める私たち。
「うう~ん。何か見られてませんか?」
「ああ、あれだけ匂いのするもの食べたからねぇ」
「えっ、そうなのか?」
「まず、人より鼻の利く魔物は見逃さないだろうね。普通はパンとか調理済みで適当に食べるもんなんだけど…」
「それなら言って下さいよ」
「言って我慢するなら言うけどね」
「うっ」
ま、まあ、我慢は体に良くないよね。
「アスカ、よまれてる」
気を取り直して、再び進軍だ。夜まではテンポよく進んでいかないと。再び歩き出した私たちだが、やっぱり道行く魔物がじっと見てくる。といっても小さい魔物がほとんどで、ちょっと大きい魔物も私たちの姿を確認すると諦めて去っていく。ある程度までの実力差は分かるようだ。
「ふぅ、何とかこのまま退けられそうですね」
「まあ、そうそう無駄な争いはしないよ。腹さえそこまで空いてなければね」
「にしても、木にいたトカゲとか旨そうだったな」
「やめておいた方がいいよ。野生のだとどこに毒があるか分からないし」
「リュートが言うと説得力あるね」
「たまに、厨房に入ってる時にライギルさんから旅をしていた時の話を聞くんだ。結構苦労したみたい」
「そうだったんだ。私でもほとんど聞いたことないのに」
「料理に関することだからね。話しやすいんじゃない?」
まあ、食材の話をされても私じゃわかんないし。食べることなら私でも分かるんだけどね。それからもどんどん進んでいく。魔物に見られるのは相変わらずだけど、難なく進んでいける。
「ん~、この辺で野営するか」
「ちょっと早くないですか?」
「まあ、そうなんだけど立地がね」
「立地?この辺は水場とかないぜ?」
「だからだよ。草原の水場なんて危険なことしかないし、こっちはティタかアルナに出してもらえるだろ?まだ、野営するならここの方がいいと思ってね」
「なるほど、それじゃ用意しますね」
納得した私たちはテントを張りだす。この辺は背の高い木はないけど、一応木が背に来るように張っていく。
「ふぅ、ちょっと重たいけど張り終えたよ。そっちは?」
「こっちは大丈夫だぜ。リュートが今、飯の準備してる」
今日のごはんはあまり匂いがないようにと、滅びた村の近くに生えていた葉物野菜だ。少量しかないので、量は我慢して食べないとね。
「野菜の匂いは大丈夫なのか?」
「多分ね。下茹でとかは渋味とかが出るから、そんなに寄って来ないと思うんだ」
確かに苦いと直ぐにペッて吐き出したりするもんね。茹でるのもスープではなく、塩で茹でのみで調味料は冷ました後にかけるだけだ。
「これで寄ってこなくなるといいけど」
「まあ、対策するならこのぐらいが限度だね。流石に茹でないとこれは食えないんだろ?」
「我慢すれば何とか。でも、渋いし苦味が強くて食べづらいですね」
他のメニューも湯通しか、そのままだ。
「いてっ!」
「ノヴァ、どうしたの?」
「おい!リュート。これ、骨ついてるぞ!」
「えっ?ああ、ごめんノヴァ。それ、骨付きのまま焼くやつだ。干し肉はこっちだよ」
「ちょ、生かよ」
「軽く干してるから、ちょっとぐらい大丈夫だよ。それより混ざらないように、こっちにいれて」
「はいはい。じゃ、口直しにこの大きいのを…」
「あっ、私が後で食べようと置いといたのに!」
「わりぃな、アスカ。早いもん勝ちだ」
「なら、こっちの野菜は確保!」
「野菜ならいいぜ。そんなに普段から食べないしな」
「体に悪いよ。栄養偏っちゃうし」
「でもなぁ。下茹でだ何だって面倒なんだよな。買ったやつは食べるけどよ」
「うっ、そう言われると」
私はご飯出来るまで宿でゆっくりしてるだけだしな。
「あれ?ノヴァって、親方さんのところで持ち回りでご飯作ってなかったっけ?」
「ああ、最近人を雇ってな。ほとんどそいつがやってくれるぞ。何せ買い出しって言っても、ほとんど肉だし値段とかもあんま見ないから、この前みんな怒られてさぁ。お払い箱になったって訳」
「まあ、適当に切ってぶちこんであるだけだったしね。いつか、そうなる気がしてたよ」
「前まではそれでもよかったんだけどな。3つ上のやつが、滅茶苦茶脂たっぷりのを買ってきてさ、流石にそれはないだろうって」
「やっぱり安かったの?」
「それがさあ、切り取れば燃料にもなるとか言われて、高かったんだとよ」
「完全に在庫処分に引っ掛かってるじゃないか」
「何度かそういうことがあって、とうとう雇うことにしたんだと」
「でも、そんな直ぐに見つかったの?」
「何かさ、街の会議?そんなやつで仕事を紹介して欲しいってのがあったから、直ぐだって言ってたな。そいつもアスカと同じぐらいだぞ」
「えっ、女の子なの?」
「多分な」
「ずいぶんな言い方だねぇ。はっきり分かんないのかい?」
「そう言うけどさあ、最近まで家もなかったらしくて、髪とかすっごい適当なんだぜ。わかんねぇよ」
「確かにそれじゃあ、判別は難しいかもね」
「だろ?まあ、ちょっと声も高いしそうだとは思うんだけどな」
「何て名前なの?」
「名前?え~と、確か…フィーナだったかな?」
やっぱり、私ぐらいの女の子ってフィーナちゃんだったんだ。
「ノヴァ、それなら名前で分かるだろ」
「いや、うちにもさあケリーって先輩がいるけど、名前じゃわかんないだろ?そういうのよくないぞ」
そう言われるとノヴァの言うことも説得力あるけど、ならちゃんと聞こうよ。ご飯作ってもらってるんだし。
「あいつもちょっと変わってるんだよな」
「へぇ~、どんな風に?」
「ん~、アスカみたいな感じかな?境遇に見合わずスレてないところとかな」
誉められてるよね?確かにフィーナちゃんは裏表もない、いい子だったけどさ。
「さあ、飯も食べたし今日はと…。流石にあたしも休むよ。順番は好きにしな」
そういうとさっさとジャネットさんはテントに入ってしまった。でもよく考えれば常に見張りに入っていたんだし、昨日も直ぐに出てきてくれたし、しょうがないよね。
「んじゃ、どうする?」
「僕は朝の用意があるし、最後でいいよ」
「じゃあ、私が真ん中ね」
「いいのかアスカ?お前も寝たいだろ」
「うん。ノヴァも何だかんだで一杯見張りしてるし、大丈夫だよ」
「わかった。それじゃ、あと頼むぜ!」
こうして思いの外、早く順番も決まったのでテントに入る。最初に寝ておかないと、明日持たないからお休みなさい。
「ふわあ~、疲れた~」
「なんだい朝っぱらから」
「そうは言っても、昨日は2度ですよ!あんなに注意してご飯も食べたのに!」
「向こうはこっちの都合なんざ、お構いなしだからねぇ」
「バウンドフォックスですか?あれは分かりますよ。夜行性の肉食ですから。だけど、ガンドンは余計ですよ!」
「しょうがないじゃんか。あっちの狩りに巻き込まれたんだからよ」
昨日の夜は大変だった。急にガンドンが出てきたと思ったら、いきなり襲われたのだ。しかも、数分後に落ち着いたかなって思ってると、それを追って来たらしいバウンドフォックスに出くわしたのだ。
「でも、思い返してみればバウンドフォックスはぴょんぴょん跳んで面白かったよね」
「襲われなければね。狙いはつけにくいし、こっちまで来るし大変だよ」
バウンドフォックスはその名の通り、高くジャンプすることができる。そして、相手の急所を突くのだ。私みたいな後衛だったり、子どもとかだね。仕留めてもすぐ持ち帰ろうとはせず、戦いが終わるまではほったらかしなのも特徴だ。
「びびって、スパッと首落としてたもんな」
笑い事じゃないよ。ジャネットさんに聞いたら、首まで繋がってると買取一割増しだって言われたし。何でも、そのままフード付きのコートに出来るとのことだ。
「それに、ガンドンの解体中に来るなんて思ってなかったし」
「まあ、こういうとこならそっちの方が危険だね。匂いにつられるしね」
「それですよ!結局、野営地も動かすし大変でしたよ」
「よく言うよ。面倒くさいって杭だけ抜いて、風魔法で運んでただろ?」
「当たり前ですよ。あんな遅くから、一からなんてできません。それに、みんなだってあの後、テントを運ばせたじゃないですか!」
「それこそ当然だろ。仲間は助け合うもんだ。あたしらだって作り直したかないけど、あれ以上の襲撃は嫌だろ?」
「そこは同意しますよ。流石に連続2戦で疲れましたからね」
「代わりにアスカは、飯が出来るまで寝さしてやったじゃん」
「それはその…ありがとう」
「まあ、お互い様ってところだね。それよりそろそろ村に着くよ」
朝から歩き詰めだったけど、ようやく村の近くまで来た。昨日のこともあってみんなにも早く戻りたいという気持ちが強くて、朝出発してからずっと歩いていたのだ。
「ようやくだぜ!風呂入ってさっぱりしたいな」
「ほんとだね」
もう頭の中は村のことでいっぱいだ。周りにも気を配らないといけないんだけど、流石に疲れちゃったよ。
「見えたよ。エヴァーシ村だ」
「やった!今回の冒険はこれで終わりだ」
「何言ってんだか。宿に帰るまでだろ」
そんなジャネットさんのつぶやきもどこへ、私たちは一目散に村に入っていったのだ。
「な、何だ?襲撃か?」
「あっ、いえ。村に帰れるのがうれしくて…」
「なんだ。驚かせるなよ」
門番さんに平謝りして、村に入る。
「あ、師匠帰って来たよ」
「ほんとだ!お~い、こっちだよ~」
「アスカ、がんばれよ」
「ノヴァたちは?」
「ちょっと疲れがたまってるから宿で休んでるよ。シャスさんのところは明日な」
「裏切者…」
宿にそそくさと逃げるリュートたちを一目見て、子どもたちに向き直る。
「ええ~い、こうなったらとことん付き合うよ!」
「「おお~」」
子どもたちを目の前に逃げるわけにはいかない。そう観念した私はお昼まで付き合うのだった。
「師匠~!ご飯食べたらまたな~」
訂正。夕方まで付き合うのだった。ホントに子どもって元気だなぁ。