帰還に向けて
滅びた村を後にして、エヴァーシ村へと進み始めた私たち。一旦は森に入り、草原へと抜けていく。こっちに来る時は森で1泊したけど、今回は帰り道なので草原での1泊となる。
「帰りは大丈夫ですかね~」
「何がだい?」
「襲撃ですよ。来る時は大変だったじゃないですか」
「ああ、あんまり期待しない方がいいよ。そもそも、村に居たって遭ったじゃないか。そっちよりはるかに他の魔物のテリトリーに入るからまず無理だよ。見張りするやつは気を付けてくれよ」
「襲われる前提ですか」
「前提というか、遭って当然位の考えだね。その方が心構えもできるし、気が楽だよ」
「そうですか。来ない方がいいですよ」
「もちろんそうだけど、来ても仕方ないって思ってた方が、来なかった時に楽だってこと。それにその考え方じゃ、来た時に必要以上に疲れちまうよ」
「難しいですね」
まぁ、気の持ちようだけどねと会話しながら、私たちは進んでいく。明るくなってからというもの、そこそこ魔物の姿は見るようになったけど、そんなに敵意を感じることはない。やっぱり、夜とか夕方に動く魔物が多いのかな?草も結構背が低いし、よく見える昼間とかの方が動きやすそうなんだけどね。
「とはいえ、見えないところにいるかもしれないから、アルナはここだよ」
ピィ
人間サイズなら、見えてる分で十分だと思うけど、小鳥となるとまた違ってくる。木の枝とかにトカゲとかいるかもしれないし、安心できない。
「う~ん、この辺で休憩だね」
ジャネットさんの合図で、私たちは休憩を取る。といっても、新鮮な食料もないので、事前に各々が買っておいたものになる。
「アスカはドライフルーツと干し肉だっけ?」
「うん。ドライフルーツと干し肉。これは欠かせないね」
「干し肉ならリュートが作ったのがあんじゃん」
「わかってないなぁ、ノヴァは。おやつ感覚で食べる干し肉と、食事として食べる干し肉は別物だよ」
「ちょっともらってもいい?」
「どうぞ」
私の言葉に興味をそそられたのか、リュートに干し肉を渡す。
「どうだ?リュート?」
「う~ん。不味くはないけど、何て言うか塩っ気が多いかな?普段の屋台とか、その辺で食べるものの方が美味しいね」
「どれ、あたしも」
ジャネットさんもひょいっと奥から1枚取る。
「確かにリュートが作る方が断然美味しいね。でも、これはこれでありだね」
「そうですか?僕が持ってるので十分だと思いますけど…」
「何て言うのかねぇ。ちょっとお腹が空いた時とか、適当に食べるのにいいね。すぐに味が分かるし、惜しくもない」
「流石、ジャネットさん!そうなんですよ。リュートのは美味しい反面、出してもらったり、何かと合わせたりで気を使うんですよね。これなら、ただ口に入れたいとかちょっと思い付いた時に、気兼ねなく食べられるんですよ」
「そんなもんかなぁ。食いたきゃ食えばいいじゃん」
「そうだけど、ちゃんとした調味液に浸けて手間かかってるのは、やっぱり気を使うよ。それにこの大味なところがいいんだよ。宿とかだと中々食べられない味だよ」
「言われてみればこういうものは、ライギルさんは作らないかなぁ?思い付いた時は出すだろうけど」
「でしょ?外に出てる時こそ、こういう普段食べられないものに挑戦するんだよ」
「挑戦ったって、最近ずっとそれだけどな」
「そ、それは…この前チャレンジしたのが不味かったんですよ」
「この前のってチーズだっけ?」
「断じてあれはチーズじゃないよ。きちんと混ざってないし、中は穴ぼこだらけで味もまちまちだったもん」
「値段は?」
「大銅貨1枚半でした」
「あ~、それじゃ保存食の延長だね。当たりは悪かっただろうけど。せめて2枚は出さないとねぇ。チーズはただでさえ、量は減るし保管が面倒で割高なんだから、アスカが買うなら奮発しないと」
「次からはそうします。というわけで今は安全なのを選んでるの」
保守的にいっているのではなくて、しょうがなくだ。流石に続けざまに不味いのが続いちゃうと、モチベーションに関わってくるからね。
「そろそろ、休憩切り上げだね」
「結構ゆっくりしましたね」
「まあ、村について何するわけでもないし、ちょっと手前でも、明日の昼までには着くしね」
そういいながら私たちは再び進んでいく。たま~に、獲物を仕留めた魔物の近くを通るが、警戒されるだけで、進める。
「よかったね。あいつがいなきゃ今頃こっちに来てたかもね」
「なら、さっさと抜けましょうよ」
「変に動いて刺激して、襲ってきてもいいならね」
「面倒です」
「戦えば金になるけどね。売るまで日があるけど」
「別に依頼もないし、いいですよ。ギルドで買い取ってもらわないと、自分で探さなきゃですし」
しかも、薬草みたいに絶賛何時でも買取中なやつ以外は、買い叩かれるのだ。商会に持ち込んでも、買ってもらえるかは分からないし、変に行くと、納品ですか?って言われちゃうんだよねぇ。
「ウルフの毛皮も、村も足りてるって言ってたし、次に必要なのは秋口入ってからだから、まだ早いしね」
秋物だと今のこの夏の時期に作られてるし、産地によっては春作成だ。でも、ウルフみたいに種類が多くて、生息域も広い魔物は周辺地域のみの輸出だから、納期も直前までなんだよね。かといって、その時期まで保管する余裕はないし。
「およ?」
「ん?どうしたんだい?」
「あれ、薬草ですかね?」
ちょっと先に薬草らしきものが見える。でもこれって…。
「うわっ!難しいのを見つけたね。採れるのかい?」
「多分。採取用の手袋も一応ありますし」
「でも、気を付けなよ。というか当てはあるのかい?これ毒草だろ」
「あっ、そういえば考えてませんでした。なにかと混ぜると、薬になるのは知ってますが…」
「やれやれ。ジェーンに取り次いでやるよ。その代わり、いい状態で取ること。それと、絶対他のと混ぜるなよ?」
「は~い」
ちょっと立ち止まって、生えている薬草を取る。そのままだと毒だけど、ちゃんとした使い方をすれば薬になるのだ。私は知らないけどね。
「ちゃんと手袋をして。袋はこれでいいかな?ちょっとぼろいからちょうどかも」
多分、染みとかついちゃうから、そうなったらどのみち買い換えないといけないし。どうやったら無毒になるか分からないし、念入りにしないとね。
ピィ
「ほら、アルナは離れててね。少量でも危ないから」
ティタにアルナを預けて、採取をする。
「しっかし、よく気づいたな!こんなの目がいかねぇぞ」
「昔、お母さんに採れる袋があるなら絶対採っときなさいって言われてたの」
「そういえば、アスカのうちは薬屋だったっけ?」
「ちっちゃな村外れの一軒家だけどね。これでよし!」
毒草をたんまりと取った私は大事に袋に仕舞い、さらにマジックバッグに入れる。こうしておけば毒の扱いも楽になる。
「それじゃ、出発ですね」
「はいよ。ん?」
「どうかしましたか?」
「お客さんだね。どうも一所に居過ぎたみたいだ」
ジャネットさんの言葉通り、ちょっと林になっているところに気配を感じる。う~ん、気配からいくとちょっと大きいなぁ。ガーキャットかな?
「4足ですけど、ちょっと大きいです」
「はいよ。ノヴァ行くよ」
「おう!」
まずは、敵がいる方向にジャネットさんとノヴァが構える。そのすぐ後ろにリュートで私は一番後ろだ。反応を見ても後ろにはいないし、これが最適だろう。
ガルルル
こっちに存在を気付かれたというのに、構わず一気に襲ってくる。数は5頭だ。跳びかかって来たのに合わせて、魔法を使う。
「アースグレイブ!」
一気に攻めてくる相手に向かって地中から槍を突き出す。前回と同じで、密集しているため回避しきれずに、1体の胴に突き刺さる。
「よしっ!正面残りは引き受けた、引いたやつと抜けたやつはノヴァとリュートに任せたよ!」
「はいっ!」
「おうっ!」
そのまま抜けた1体はリュートが、とっさに引いたやつをノヴァが追いかける。
「まずはジャネットさんの負担を減らさなきゃ」
その為にさっさとリュートの相手を片付けないと。
「ウィンドカッター」
相手のやや後ろに魔法を放ち、退路を経つ。そこにリュートが槍を突き出す。風の刃が消えないため、魔物も刃物に向かっていく勇気はなく、槍をかわす。しかし、かわしたところにリュートが左手でナイフを突き出す。
「残念。そっちは空いてないよ」
これで残り3体。ジャネットさんの方に向かえる。
「よっ、はっ!っと。しつこいねぇ」
「ジャネットさん下がって!」
「OK」
「「ウィンドブレイズ!」」
2人で風魔法を放つ。広範囲に魔法を受けた2体は頭部近くに傷を負う。
「ほいよ」
そこへジャネットさんが追撃を加え、こっちは終わりだ。ノヴァは?
「せいっ!」
どうやらノヴァも無事に仕留めた様だ。さっさとこの場を去りたいので、すぐさま解体に入る。
「そっちはどうだい?」
「3体目終わりました」
「こっちも2体目完了だよ」
「それじゃ早く行きましょう」
「全くだ」
血の匂いでこれ以上魔物が寄ってこないように、すぐにこの場を離れる。今日はこの後、夜も待っているのだから当然だ。
「さて、昼飯にでもするか」
それから、30分ほど歩いてお昼にする。といってもさっき食べたし、場所が場所なので本当に簡単なものばかりだ。
「やっぱりちょっと味気ないですね」
「まあ、そこまで大々的にやっちゃうと魔物もよって来ちゃうしね。調味料とかも最低限だし」
「でも。この干し肉を戻したスープ旨いよな」
「ああ、これで文句が出るなんてほんとにアスカは贅沢だよ」
「だって、同じようなシチュエーションでも初日はもっと豪華でしたよ」
「流石にここに野菜はないからね。明日までの辛抱だよ」
「そっか、夜もこんな調子か~」
「全く贅沢なやつだよ」