エヴァーシ村に帰還
朝ごはんも食べたし、今日は村を探索する日だ。昨日は途中から祭壇に絞って調べてたから、今日は色々見ていこう。
「まずは入り口の所からだね。多分、一番危険な立地だしそんなにいいものは無いと思うけど…」
家自体の損傷も一番大きい。柱すらほぼなく、完全に跡地って感じだ。
「リュ~ト~、そっちはどう?」
「がれきか食器ぐらいかな?」
「こっちは木くずばっかり。多分家具だったんだろうね」
耐用年数どころか、手入れの一つもないし仕方ないんだろうけど、これじゃあ、ツタを刈る練習してるみたいだよ。
「ダメだ。がれきどけてもなんもないぜ」
「しょうがない、次に行くとするか」
1軒目の調査を終えて2軒目に移る。
「2軒目がここかぁ」
「どう見てもさっきと一緒だな」
同じことの繰り返しで、成果まで一緒とは…。
「お次はと、おっ!アスカが竜眼石を見つけた家だね。ここなら何かあるかも」
皆の期待も膨らんでいく。そして調査を開始したのだけど…。
「確かにない訳じゃないけどさ、どれもさびてんだよな」
「うん。元は良いものだったんだろうけど、基本錆びてて使い物にならないね。このブレスレットも…ほら」
リュートがちょっと力を入れると、すぐにボロボロとちぎれてしまった。
「まあ、そこに使われてる宝石とかが残ってるかもしれないだろ?あったか?」
「それが、この家にあるのは多分ですけど、細かい細工のものだと思うんです。このブレスレットもどうも宝石を収める台とかがなさそうなんですよね」
「魔石の類は?」
「そっちはティタが見てくれてますけど、ろくに反応がありません。ティタによれば、鉱石が取れる土地柄でもなくて、基本は買ってくるしかないそうです」
「やっぱり外れだったか。まあ、当たりが一個でもあればいいというところだね」
4軒目、5軒目と行くけどやっぱり大したものは無い。宝石というか魔石の欠片程度ならあるんだけど、正直ティタのご飯に出来る程度のものだ。細工もないし、適当にはめ込んだようにしか見えないものもある。
「自然の形を生かすといえば聞こえはいいけど、ようは手抜きだね」
「形も結構バラバラですし、子ども用に作ったとかですかね?」
「どうだろうね。祭りとかに使うのかもしれないし」
「祭りですか?でも、そういうのってきれいなものを使うんじゃ?」
「そうとも限らないさ。結構自然信仰の所なんかはそういうのも使うよ」
家を順番に見ていくものの、そうそういいものは無いということかな?
「こっちは銀だな。そっちは?」
「多分魔石かな?でも、僕は見たことないや」
「へ~、リュートが見たことないものかぁ。どれどれ」
私は興味が出てきたので、そっちに行って魔石を確認する。う~ん、確かに見たことないなぁ。
「ジャネットさ~ん。これ何だか分かりますか?」
「うん?魔石か。これは多分ディリクシルの魔石だね」
「ディリクシル?」
「ユニコーンみたいな感じなんだけど、水じゃなくて光を使う魔物だよ。珍しいけどそこまでの価値はないね」
「どうしてですか?」
「この魔石で使えるのは閃光だ。強い光で目をくらませたり出来るけど、アンデッド相手でもひるませることが出来るぐらいなのさ。浄化までは出来ない」
「じゃあ、役立たずじゃん」
「まあ、強い光で目をくらませれば人相手には十分だけどね。でも、その隙を作るより必殺の一撃を入れる方が楽だというのが大勢だね」
うむむ、こんな所まで聖属性万能説が。ここはひとつフォローしとこう。
「でも、目くらましといっても、夜行性の魔物とか夜なら活躍できますよね?」
「ああ、まあね。味方を巻き込まなければだけど」
「それに明かりにはちょうどじゃないですか?少ない魔力で光らせたり…」
「やけに食いつくけど、あんたの周りに光属性の知り合いは居るかい?」
「そういえばいませんね…」
「この魔石は置いといて、光魔法自体使える奴が珍しくて使い方とかもあんまり研究されていないんだよ。昔は使い手もたくさんいたらしいけど、下位属性だしね」
「下位属性?」
「水と氷の関係っていうのかね。同じ威力や大きさを出そうとしても氷の方が難しい。この時、水が下位属性。もしくは、カテゴライズした時に、より優先される属性があるもののことだ。光属性の上には聖属性があって、そっちのが回復とか多岐にわたる活躍ができるんだよ」
「へ~、珍しくても役に立たないもんなんだな」
「でも、そんな魔石がどうしてここにあるんだろうね?」
「さあね。変わった魔石だから買ったのかもね」
「役に立つと思いますけどね」
「なら、アスカ使って見なよ。あんたならうまく使いこなせるかもね」
「いや、そこまでは…」
「でも、使い道もあんまりない石だし、どうすっかね」
「そこまで言うなら使います。きっと、光が有用だと示して見せましょう」
下位だの役立たずだのそうまで言われては、その認識を改めてもらいましょう。そうと決まれば、魔石を懐に入れる。何に使うか今から考えないとね。こうして、何とか成果を得た家探しも終了し、今日はおしまいだ。明日はいよいよここを出発し、エヴァーシ村に帰る。
「その前に見張りだよね。私は頭かぁ」
昨日は魔物の襲撃がなかったけど、今日は分からない。気合入れてやらないとね。きょろきょろと目を凝らす。昨日は色々やってたけど、ああいうときも魔法は使って探知はしてる。でも、細工とか調査でも魔法を結構使ってるから、今日はお休みだ。
「でも、張り詰めた感覚もないし、大丈夫かな?」
魔物がこう近づくとどうしても反応みたいなのがあるんだよね。それに合わせればある程度の襲撃は防げる。隠すのがうまい魔物もいるけど、そうそういない。群れに1頭いるかどうかだ。でも、狩りともなれば単独で行動することはないから気づかないなんてことはない。
「見張りも残すところあと1時間ぐらいだ。今日も1日お疲れ様。と思ったのに…」
こういうのは思わない方がいいみたいだ。
「みんな!敵!」
「おぅ?」
「了解!」
「やれやれ…」
みんなが私の声で出てくる。でも、音の方向を操作したので魔物には気づかれていないはずだ。
「まだ気づかれてないのかい?」
「音は伝えてません」
「なら、サクッと追い返すか。サイズは分かるかい?」
「4足が3体…人型3体です」
「草原で人型とは珍しいね」
「あれ?」
「どうしたのアスカ?」
「こっちに来ませんね…」
魔法で探知してるけど、一向に対象が近づいてこないな。さっきまでは確かに来てたのに。
「ビビったのか?」
「まさか、昨日までの奴らでそんなのいなかったろ」
「あっ、この2種類で戦闘してるみたいです」
2種類の魔物が戦闘してるのかたまにお互いの反応が交錯している。
「でも、勝った方がこっちに来るよねこれ」
「そうだね。まとめてやっちまおう。その方が気も楽だ」
音を立てないように近づく。念のため風を操って匂いも行きにくくするように手前に風を戻す。ちらりと魔物の方を覗くと、ウォーオーガとローグウルフが戦ってるようだ。そこそこ動きの速いウォーオーガでもローグウルフを捕らえるまでには至らず、対するローグウルフも体重を乗せた一撃でないと致命傷にならないので、戦いが長引いている様だ。
「どっちから行く?」
「う~ん。一撃が怖いウォーオーガですかね。ローグウルフは最近戦いましたし」
「了解。行くよリュート」
「俺は?」
「ローグウルフからアスカを守りな」
「ほい」
リュートは自分の風魔法で、ジャネットさんは私の風魔法を使って、一気に飛び込む。
「貰った!」
ジャネットさんがやや大振りに剣を振るうと、すんでのところでウォーオーガが攻撃をかわす。しかし、その回避した位置にリュートが槍を突き出して頭を貫く。
「まず1匹!」
急な乱入に驚いていた両者も、我に返りそれぞれ襲いかかってくる。ローグウルフはどうやら、体格が小さい私を見つけてこっちに来るようだ。ウォーオーガは戦いに水を差された格好で、ジャネットさんたちと対峙している。
「ウィンドカッター」
集団で襲ってくるローグウルフに3方向から風の刃を放つ。まとまって来てくれてるから、これなら避け切れないだろう。狙い通り、避け切れずに1体に当たり倒れる。残りの2体をノヴァがひきつけてくれているので、チャンスを見てさらに攻撃する。
「ウィンドブレイズ」
今度はノヴァに攻撃し終わって、着地したところに狙いを定める。致命傷とまではいかないけど、数発当たり確実に動きが鈍くなる。
「こっちは任せろ!」
それを見たノヴァが、もう1体の相手をするというので、すぐにとどめに入る。
「エアカッター」
足元を狙って魔法を放つ。相手も必死に飛んで避けるが、そこは予測済みだ。
「アースグレイブ!」
着地点を狙って、さらに追撃をかけとどめを刺した。ノヴァを見るとあちらもとどめを刺していた。
「ジャネットさんそっちは?」
「大丈夫だ!はぁっ!」
ジャネットさんたちの方も終わったようで、襲撃?は終わった。その後は特に何もなく夜明けを迎えた。
「おはよう。ご飯出来たよ」
「は~い」
ちょっと眠たいけど、割と眠れたので疲れはない。リュートの作ってくれたご飯を食べて、テントを片付ける。
「さあ、凱旋と行こうじゃないか!」
「はい!」
この村で手に入れた多くのことを持ち帰らないとね。もうだれもいない村だけど、最後に挨拶をして出発する。
「でもびっくりしたよな。絶対、空振りだと思ってたのによ」
「ええ~、ノヴァそんな風に思ってたの?」
「俺だけじゃねぇって。絶対、アスカ以外全員思ってたぞ」
「そんなことないよ。ねぇ、リュート」
「えっ、いや、実は…」
ええっ!安全にリュートにいったのに。
それからも、今回の旅について色んな話をした。収穫も多かったし来てよかったけど、結構みんな否定的だったんだな。
「もう~、みんなもっとロマンは無いの?」
「ロマンより飯が食いたいねぇ」
「あっ、それには賛成です。たんまり入れた稲もいっぱい蒔かなきゃいけませんしね」
美味しいものは共通財産だ。決して私が食べたいわけじゃないもん。