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奇跡の石

「大丈夫?すごい音してたけど」


「うん。これかたいから。でも、すごくおいしい」


「で、何の石なんだい?」


「これはりゅうがんせき」


「り、竜眼石…そうか!王都の鍛冶屋で見たやつだ!ティタ!めちゃくちゃ貴重なんだぞそれ!」


「しってる。いちどだけもらったことある。とっても、おいしい」


「あ、あのなぁ。家一軒どころの話じゃないんだぞ!」


「竜眼石って何ですか?」


「竜眼石は魔導石の一種だ。魔力を込めやすく、硬くて輝きも放つ、上位の魔法剣の魔石代わりによく使われている。これの上位の石が竜眼石だ。魔石と違って、所有者の属性が放てる。しかも、あたしみたいな魔力が低い剣士でも一度なら中級程度までの魔法が扱えるほどだ」


「ちなみに価格はいかほど?」


「このサイズで金貨40枚以上だ。王都の鍛冶屋なんかでもたまに原石を見られるが、実際には客寄せでこぶし大のですらほぼないほどだよ。祭壇の下にあったってことは村の有力者のやつが誰かに細工を依頼する気で手に入れたのかもね」


「ちなみに金貨40枚で即売ったらどうなります」


「リュート、街が壊滅するよ。何が何でも欲しいやつらが集まって、奪い合いになるね。Aランクの冒険者がわらわら集まってくるよ」


「でも、このサイズじゃ、武器一つ分がやっとだと思いますけど…」


「魔力が込めやすいってことはだ、当然魔法使いも狙ってくるんだよ。分かるかい?Aランクの剣士やレンジャーや魔法使いが徒党を組んで迫ってくるんだよ。さっさと売れってね」


「ひぇぇ~」


考えてみれば、ハイロックリザードと戦えるパーティーがいくつも迫ってくるってことだ。怖すぎる。


「どど、どうしましょう?ここに置いときますか?」


「みすみす誰かのものになるのも癪だし、持ってな。だけど、保管の方法は考えないとね。不純物ありで15cmほどか…取り除いたら小さい球ぐらいだね。何かに加工して持ってるしかないね」


「マジックバッグの奥の方にでも仕舞いましょうか?」


「それだと宝の持ち腐れだろ?アスカの装備で使えそうなところか…。防具は新調したばっかだしなぁ。そうだ!杖を新調しな。小さい球になったこいつをはめ込めるデザインなら文句ないだろ。どうせ、旅に出る時に買った安物だろ?」


「安物…うう~ん。どうでしょうか?」


確か魔法が効率よく使えるってアラシェル様の説明にあったから、安物って訳ではなさそうだけどな。


「まあ、アスカもCランクになってるわけだし、武器も新調したいだろ?いい機会じゃないか」


「そう言われると、そうですかね?」


「そんなにすごそうな石には見えねぇけどなぁ」


「確かに。きれいだけど、そこまですごいかと言われるとちょっとね」


「ティタ、まちがってない」


「ご、ごめんティタ。そういう意味じゃないよ。あまりにもすごい話だからさ」


「大体、ティタにやったやつは何もんだよ。そんな石、手に入れるだけでも一苦労だろ?」


「じぶんでみつけたって、いってた。きねんにくれた」


「そいつもまさか食べられるとは思わなかっただろうね」


「びっくりしてた」


そりゃあ、そうだろう。きっと、ペンダントにでもして首にかけてあげる気じゃなかったのかな?でも、竜眼石のお陰かティタの口がいつもにもまして軽い。恐るべし、奇跡の石だ。ティタは元々魔石の類が好きだから、こういう石は好物なんだろうな。でも、お金のかかる好物だなぁ。


「じゃあ、お休みなさ~い」


騒ぎ回ったけど、そろそろ寝る時間なので見張りを決めて寝る。今日の見張りは私とジャネットさんとノヴァだ。ジャネットさんが最初で、ノヴァが2番目で私が最後だ。


「ノヴァ、ちゃんと起こしてよ~。それじゃあね」


「おう!って言っても俺も寝るけどな。じゃな」


短く挨拶をして、それぞれのテントへ。今日はすさまじい一日だった。明日は何があるかなぁ。


-----


「アスカ、おい起きろ」


ぺちぺちと頬を叩かれる。


「ん~?」


「交代だぞ」


「ふわぁ~い」


昼間にも寝たというのに、神様と会っていたからかよく眠れた。今は…午前4時ぐらいかな?むくりと体を起こし、ん~っと伸びをする。


「起きたか?じゃあ、俺はテントに入るからな」


「は~い」


ノヴァと見張りを交代して、外に出る。夏とあって風が暖かく気持ちいい。


「こういう村なら住んでみたかったかもね」


毎日、お米を食べられるし、穏やかな生活だっただろう。


「でも、信仰する神様が違うからちょっと難しいかな?」


みんなあの神様のことが大好きみたいだし、異教徒!とか言われてたかも。なんにせよ、今は竜眼石と稲を持って帰らないとね。


「シャスさんにはお願いばかりだね。今も弓の作成をお願いしてるし」


明日はもう一日、村を見て回ってここに泊まる。そして、次の日は村に帰る予定だ。といっても、一日は野宿だけど。それにしても村を襲った魔物ってどんなのだったんだろうね。爪が食い込んだ跡があるから、やっぱりウルフの一種なのかな?それとも今は住んでいない何かだろうか?


「どっちにしろ、どうしてこんな小さな村を狙ったんだろう」


確かにコメは珍しいかもしれないけど、特産ってほど広まってないし、そうなると狙いが分からない。地理的にも重要度はないし、産業もなく道も整備されてない。跡地も使ってないし、全く意図が分からない。


「まあ、魔物のことだしわかんないよね。虫の居所が悪かったのかもしれないし」


それで殺される方はたまったものではないし、許せないけど分からないことをあれこれ考えても仕方がない。とりあえず、最近出来ていなかった細工でもしておこう。


「そうだ。一応、あの光の神様の像を作っておこう。売ったりしないけど、忘れないうちにね。今日会ったことを忘れないためにも」


あのボロボロになった像の代わりだ。祈りをささげるわけでもないけど、あれを取り出したくなった時に、そうしなくて済むようにだ。


「さあ、そうと決まれば作ってくぞ~」


銀を出して、彫っていく。特に飾りとかもいらないから、シンプルに作っていく。でも、顔を作っていくところで、ちょっと手が止まる。


「あの神様って、笑ってはなかったよね?でも怒ってもないし、どんな表情が良いかな?憮然とした表情じゃ、こっちがまいっちゃうしな」


迷ったけど、あの神様も信徒の前じゃ笑顔だっただろうし、何とか笑顔を思い浮かべて作った。


「なんかちょっと無理に笑ってるみたいになっちゃった。まあ、真面目そうな感じだったし、実際もこんな感じかもね」


私は問題がないことを確認すると像をしまい込んだ。まだ、みんなが起きてくるまで時間がある。ちょっと物陰で巫女服に着替えて踊りの練習をする。


「こういう時にでも踊ってないと、腕がなまっちゃうからね。外にいる時もたまには練習しないと」


そうでないと旅先じゃ宿以外では踊れなくなっちゃうしね。


「ふんふ~ん。ここでくるっと。ん?」


なんか変な視線を感じる。茂みの方を見ると何かがいる。でも、黒っぽいということ以外はよくわからないな。すると、その黒い影がこっちに向かってきた。


「ミ……コ…」


「うわっ!」


とっさに魔法を使う。詠唱もしてないから、なにを使ったかまでは自分でもよくわからない。


ヒュンヒュン


ギャン


どうやら使ったのはウィンドブレイズのようだ。弾丸に撃ち抜かれた謎の物体は動かなくなったかと思うと、黒いしみとなって消えていった。


「な、何だったんだろ?」


「アスカ!なんかあったのかい?って、何だいその恰好は?」


「あっ、ジャネットさん。あったと言えばあったんですけど…。あとこれは巫女服です」


「そうかい。で、魔物が出たのか?」


「多分…」


「多分?えらくあいまいだね」


「あれ見てください。ウィンドブレイズで倒したと思うんですけど、死体がないんですよ。かなりの近距離で当てたので、普通だったらかなりのケガか死んでるはずなんですが…」


「確かに黒いしみがあるだけだね。でも、気になるけどそれだけじゃどうしようもないか…。一応しみを拾っておくか」


「こ、これをですか?」


「仕方ないだろ。他に手掛かりがないんだから」


「そうですけど、たたられたりしませんか?」


「何をいまさら、祭壇から竜眼石を頂いた時点で、それなら呪われてるよ」


そう言われると、そうかな?とりあえず危険も去ったみたいだし、何か調べればわかるかもしれない。小瓶を取り出して、しみを入れる。


「それよりアスカ?」


「何ですか?」


「さっさと着替えないのかい?流石に今日一日その恰好は辛いだろ?」


「嫌ですね。きちんと着替えますよ」


「リュートやノヴァの前でかい?」


「すぐ着替えてきます!」


危ない危ない。外だと着替えるところも探さないと。それから20分後にリュートが、30分後にはノヴァが起きてきた。


「おはよう、アスカ。ジャネットさん」


「ああ、おはよう。よく眠れたかい?」


「はい。昨日は昼もあまり眠れなかったので、ぐっすりでした」


「そりゃよかった。疲れは溜めないに限るからね。んじゃ、朝飯よろしく」


「分かりました」


リュートがご飯を作っているときにノヴァも起きてくる。アルナは…まだ寝てるなぁ。どこでも眠れるって言うのは大事だけど、逆にどこにでもついてきそうだ。


「今度はしっかり中身を見とかないとね」


袋に隠れるのはティタぐらいだと思ってたから、まったく警戒してなかったよ。エミールがまねしないようにしないとね。


「は~い。ご飯できたよ」


少ししてリュートがご飯を作ってくれた。私は最初に火をつけただけで後はやってくれたのだ。


「今日もご飯だ。いただきま~す」


「ほんとにアスカはコメが好きだね」


「これ食べないと一日食べたって気がしないんですよね。もちろん、パンでも代用は効きますけど」


「でもそれ、飼料だろ?」


「こっちじゃね。でも、きちんとおいしくしてあげれば毎日食べられるんだよ。栄養も豊富にあるしね」


「へ~、そうなんだアスカは物知りだね」


「エッヘン」


まあ、栄養がいっぱいなのは玄米とかだけど。






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― 新着の感想 ―
最後に襲って来て返り討ちでシミとなった謎の黒い存在が気になりますね。 数百年前に村を全滅させたアンデッドの残滓なのか、それともまた別の何かなのか
[一言] 古きもの、良かったです。まだ章が終わっていないですが、本編でも番外編でもいいので信徒・信仰が増えていく様子が見たいです。 また前話を朝読んで今話が待ち遠しかったです。ティタがどんどん賢くなっ…
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