お宝は?
「アスカ、お~い起きろ。アスカってば」
ぺちぺち
「う…ん?」
目が覚めた。さっきの出来事はまるで夢のようだ。でも、実際にあったこと。私は覚えておかないと、名をなくした神様とその信徒たちのためにも。
「おっ、起きたか?もうすぐ、16時頃だよ。いい加減起きな」
「あ、はい…。ずっと眠ってました?」
「うわごとを言いながらね。なんか夢でも見たのかい?」
「そうですね。ここに来てよかったと思えた夢でした」
誰にも忘れ去られて、消えていく運命を救えたと思えるなら。
「げっ!この銀の像こんなんだっけか?随分古ぼけて見えるなぁ。顔なんてよくわからないよ」
「そっか…そうですね。これじゃ、売り物になりませんね」
「全くだよ。折角、言い値で売れると思ったのにさ。仕方ないからアスカが持ってな」
「良いんですか?」
「良いも何もこんな像じゃ売れないし、溶かして成形し直すぐらいしかないだろ?」
「そうですね。貰っておきます」
きっと、最後の信仰心の欠片も残さず消えていったんだね。そして、信仰心によって今まで像がきれいに保たれてたんだ。数百年を過ぎて、埃ひとつなかったもんね。
「おやすみなさい」
丁寧に布にくるんで像をマジックバッグにしまい込む。取り出すことももうないだろうな。
「何だい?まだ寝るつもりかい」
「ち、ちがいますよぅ。ほら、外に出ましょう!」
「はいよ」
ジャネットさんとテントの外に出る。外はきれいな夕焼けだ。光の神様って言ってたし、最後の贈り物なのかな?眩しくきれいな光景を目に焼き付けて、みんなのところに行く。
「おっ、ようやく起きたか。この辺はなんか作物があるぐらいだな。ほら見てみろ、これ麦みたいだけどちょっと違うんだぜ。中身は同じように見えるけどな」
「こ…」
「こ?」
「コメ!いや、稲だ~!」
ノヴァが手に持っているのは紛れもなく稲だった。これまでも少量なら入荷はあったけど、どれも高くて中々手が出せなかったんだ。飼料扱いのものもそこそこの値段だったし。
「リゾットも、高いから結構量が少なかったんだよね」
改めて稲を見る。中々、お米が付いているように思う。私たちが食べているのも品種改良を重ねて、元のやつとはかなり違っているって聞いた。野生種にしてはこれはかなりいいのでは?
「こ、これ、もっと生えてた?」
「ああ、あっちにいっぱいな。多分育ててたんじゃないかな。割とそこら中にあるぜ」
「なんてことだ!私が神様だったら降臨してでも助けたよ」
「は?降臨?何言ってんだ」
「と、とにかく案内して!今日の夕飯に使うんだから」
「お、おう」
ノヴァの言う通り、この辺ではかなり生えている様だ。秋に実るものだけど、どうやら季節に関係なくまかれている状態なので、やや早く実っているらしい。急ぎ、エアカッターで刈り取って集める。
「確か昔はすりこ木だっけ。ああいうのを使うんだよね」
近くの木を切ってそれらしきものを作り、稲を引き抜いて米を落とす。後は棒を作って叩いて中のコメを出す。多分こんなやり方だったと思うんだけど…。
「あれは何してるんだい?」
「さあ、新しい食材みたいですね。ほら、たまにリゾットとかで使われてるあれですよ」
「ああ、そういやアスカ好きだったね。熱いのも我慢してほおばってさ」
「でも、火を使うんだろ?大丈夫なのか」
「なら、ノヴァはあの笑顔を前にやめとけって言うの?」
「あ~、まあ、襲われなきゃいいか」
「後で火の始末を念入りにしないとね」
「にしてもよくあんなにすぐ思いつくな」
「迷いがなかったし、故郷にいる時によく使ってたんじゃないの?」
「まあなんにせよ、元気になってよかったよな」
「そうだね」
「ほら、リュート。ティタに水だしてもらったから、炊いて」
「はいはい。じゃあ、火をお願いするよ」
「任せといてよ!」
こうして、楽しい夕食作りが始まったんだけど、すっかりおかずを忘れてしまった。
「後は15分ぐらい蒸らして完成かな?」
「蒸らす?」
「うん、蓋をしてしばらく待つとふっくらするんだよ」
「それじゃあ、何か副食も用意しないとね。他にはまだ何も作ってないし」
「あっ、いっけない。早く用意しないと!」
慌てて、他の食材を切ったりして簡単なスープも用意した。
「それじゃあ、いただきます」
「はい、いただきます」
「でもよ~、ほんとに何もかけなくていいのか?」
「大丈夫だって、そのままでもおいしいんだから」
新米だし、まずはそのまま頂かないとね。
ぱくっ
「うん。おいしい!なんていうかもち米とまではいかないけど、ちょっともっちりしてておいしいね。粘り気のある品種なのかな?おはぎとかにもよさそう」
「本当だね。そのままでも中々おいしいね」
「後はこれを栽培してくれるところを探さないとね」
「栽培?」
「折角こんなにおいしいんだから広めないと。この稲と発芽用にコメを持って行けばいいよね」
「広めるってどこで?」
「とりあえずはエヴァーシ村からかな?確か入り口近くに小川もあったし、水源も結構あるみたいだしね」
育てるのには水が不可欠だ。そういう場所に広めてもらわないと。
「やれやれ、とんだ遺跡巡りだよ。ただの食材探しじゃないか」
「まあ、一番お宝に目を輝かせていた本人が納得してるみたいですし…」
「リュート、冒険者の目的は?」
「利益ですか?」
「そう。今回ろくに稼げてないよね」
「まあ、行きのウルフとかとガーキャットだけですね」
「労力に見合ってないんだよ。まいったね」
「貴重な体験ですけどね」
「それもあたし達じゃなくて、アスカだけだろ?なんかちょっと感じ違うしね」
「ゼロよりましですよ」
「そりゃそうだ」
ピィ
「何だアルナ。慰めてくれるのか?」
ピィ
「エサかよ。ほれ」
炊いてないコメをやる。全くどいつもこいつも飯ばっかりだねぇ。
「さあ、ごはんも食べたしこれからどうしましょう?」
まだ、辺りはやや薄暗い程度だ。探索ならできそうだけど…。
「固まって動くとなると、そんなに動けないからねぇ。一応、簡単に各家を回って気になるところを明日探すかね」
「じゃあ、用意しますね」
パッと杖を用意して、鎧もつけて準備完了だ。早速、村へと繰り出す。
「ん~、こっちはギリギリつぼがあるぐらいだな。そっちは?」
「僕の方もタンスの跡かな?形がほぼ残ってないね」
「アスカ~、そっちはどうだ?」
「2階部分が崩れてダメ。それも風化してて、ほこりが…。けほっ」
「駄目だ。下にもなにもない。次にいこう」
こうして、隣り合った2軒をそれぞれ見ていく。だけど、風化が進んで正直見た目で何もないと思えてしまう。
「これ意味あるか?」
「金属や鉱石なんかだったらね。他は流石に使い物にならないけど」
「探すなら祭壇近くにします?結構貴重品とかってああいうところに置きますし」
「そうしよう。日も落ちる頃だし、手早くいこう」
私の案で、家中探さず祭壇近くに絞る。何件目かを見ていると祭壇下でがこんと音がなった。
「ん?なんだろうこれ?」
開いたところに手を突っ込む。ん~、何か固いなぁ。しかも、そこそこ重たい。
「アスカ、はやくだす」
「えっ?うん」
突然ティタに急かされた。何だろ一体?とりあえず、取り出してみるとなんとも言えない色の石が出てきた。
「変な石。ティタ分かる?」
「たべていい?」
「何か分かってからね」
どうしたんだろ?ティタにしては珍しい反応だな。
「ん?何かあったのかい?」
「あ、はい。何か石が出てきたんですけど…」
「石?何処から?」
「祭壇の下からです」
「ちょっと見せてみな」
ティタの視線をものともせず、ジャネットさんが石を手に取る。
「ん~、この石どっかで見たことあるな。ティタは知らないのか?」
「わかる。だから、ちょうだい」
「いや、くれって言っても価値が分かんないからねぇ…」
「たべたらおしえる」
「まあ、それならこの端のとこちょっとだけな」
ティタが教えてくれると言うので、とりあえず尖った先を落としてあげようとする。
「ん?これ固いねぇ。アスカ、ちょっと下がってな」
「は、はい」
石1つに大袈裟だなぁって思うけど、剣を振り回すのは危ないので、大人しく下がる。
「はあっ!やぁっ!」
何度かジャネットさんが剣を振り下ろし、ようやく角が取れた。
「テントもどる」
「はいはい。ちゃんと教えてくれよ」
「うん」
石を抱えながらティタは私の肩に乗ってテントまで戻る。すごくテンションも高くて、魔法で軽くしてもくれてない。仕方がないので、自分で風魔法を使って重量をなくしている。
「あれ何だったかなぁ?どっかで見たことあるんだけど…」
ジャネットさんも石が気になるようで、ぶつぶつ言いながら進んでいる。
「どうしたんだ?」
「うん、なんか見つけたんだけど、それからジャネットさんもティタもちょっとおかしいんだよね」
「石1つで大騒ぎだな」
「でも、テントまで戻ればティタが教えてくれるんだって」
「ティタは何か知ってるんだ?」
「うん。でも、自分の分を食べるまでは教えないって聞かなくて」
「へ~、アスカの言うことなら何でも聞いてるイメージがあるけど、珍しいね」
「そうでしょ?私もなんだか気になっちゃって」
テントまでは襲撃がなかったけど、気もそぞろでちょっと危なかったかも。
「さあ着いたよ。いい加減教えてくれよ」
「ちょっとまつ」
ティタが丁寧にちょっとずつ口に含む。いつも、お気に入りの魔石でもパクッと一口で、バリボリと食べるのにえらく慎重だなぁ。
ぽり
ぽりぽり
ぽり
ごっくん
ようやくティタが食べ終わった。というか、食べる時もかなり硬そうだったんだけど…。