依頼と調査
エヴァーシ村で一夜を明かし、今日はシャスさんに会う日だ。
「こんにちわ~」
「ん?来客なら今予定が…ありゃ、アスカか。揃ってどうした?」
「実は前に頼み忘れたものがあって…」
「アスカにしちゃ珍しいな」
「この牙で弓を作って欲しいんです」
「牙だぁ。悪いけど今は依頼が…って、これは!?」
「ハイロックリザードの牙です。この前すっかり忘れちゃってて」
「何だそれを先に言ってくれよ!いいぜ、すぐに取りかかってやる!」
「いいのかよ。依頼あるんだろ?」
「そんなのちょっとスランプだって言っときゃいいんだよ。鍛冶屋は魅力的な案件から片付けていくもんだ」
「じゃあ、サイズを…」
「いい、いい。前に作った奴があるからあっちを使うから。あの方が将来的に役に立つしな!」
「あれって何、アスカ?」
「し、知らない!」
流石に大人の自分の裸像だなんて言えないよ。
「それじゃ、弦を張る前で止めとくから、出来上がる頃にまた来いよ」
「何日ぐらいですか?」
「ん~、4日か5日だな。加工にもそれなりに時間がかかるからな。依頼料はと…。ん~、金貨4枚だな。よろしくな!」
「分かりました。お金の方は大丈夫なのでよろしくお願いします」
「おう!」
元気よく返事をして、牙を受けとるとすぐさま工房に入ってしまった。人のことはあんまり言えないけど、ちゃんとごはん食べて下さいね。そう思いながらシャスさんの家を出る。
「これからどうしようか?まだ、時間あるし」
「なら、一緒にあれやろうぜ!」
ノヴァが指差した村の中央では子どもたちがフリスビーを投げていた。
「あっ、アスカだ~」
「投げ方教えて~」
私たちを発見して子どもたちが、わっと寄ってくる。それに子どもたちに混じって、大人もいるなぁ。付いてるんだろうけど、楽しそうだ。
「はい。じゃあ、1列に並んで!一人ずつ真横から見せてあげるから、ノヴァは向こうでキャッチ役お願い」
「はいよ」
急遽、始まったフリスビー教室は大盛況で、ほどなくして大人も集まってきた。
「正直、普段触らない私よりみんなの方が上手いと思うけどなぁ」
「ううん。やっぱりおねえちゃんの投げ方は参考になるよ。ほら、隣の子もうまく投げられてる」
「確かに横の子は変なタイミングで放してたからなぁ。でも、その程度なら経験者が教えられそうなものだけど…。誰か先生役はいないの?」
「みんな目的がバラバラだから。あの子は勢いよく投げるだけだし、あっちの子はきれいに投げたいの」
う~ん。最初にきちんとしておけばよかったかな?それから、一応の投げ方なんかを講習して、フォームがきれいな子3人を先生役に任命した。
「それじゃ、これからは君たちが先生だよ。みんなにきちんとした投げ方を教えてあげてね。でも、目的が違う人とかには聞かれたらでいいよ。あくまで楽しむためのものだから」
こういっておかないと、力で投げてる子により力強くなるにはどうしたらいい?って聞かれそうだからね。
「分かりました。絶対に師匠の教えを広めて見せますから!」
「いや、広めるとかは自由に…」
そもそも考えたの私じゃないし、師匠って程みんなよりうまい訳じゃないんだけどなぁ。それから、何投かしたんだけど、先生に選んだ子たちが一回一回、おお~!とか流石!とかいうものだから、恥ずかしくなって宿に帰ってきた。
「普通に投げてるだけなのに…」
「おや、もう帰ってきたのかい?楽しんでくると思ったんだけどね」
「聞いてくださいよ、ジャネットさん!」
思わずジャネットさんに愚痴を聞いてもらった。
「アスカが師匠ねぇ。何とも言い難いかな?やればできそうな気がするし、てんでダメな感じもするし」
「何でそんなに両極端な評価何ですか!」
「そんなことあたしに言われてもね。多分リュートもノヴァも同じこと言うと思うけどねぇ」
「ノヴァはともかくリュートはそんなこと言いません!真面目っ子ですよ」
「そうかね。なら、今日の夕食1品でも賭けるかい?」
「いいですよ。私のみんなの評価を舐めないでくださいね」
その日の夕食はまた、ウルフの肉や素材を売ったので、お礼にとお姉さんが張り切って、仕入れたばかりの良い肉を振舞ってくれた。味?知らないよそんなの!
「リュートの裏切り者め…」
「ええっ、僕なんか言ったっけ?」
「こっちの話さ。アスカはまだまだ自分を含めた時の人物評がなってないって話だよ」
「いいんですよ~。こっちのお野菜もおいしいですし」
「アスカそれ気に入ったのか?俺、こっちの肉で腹いっぱいだからやるよ!」
「ど、どうもありがとう!何さ、みんなして…」
「ほんとにどうしたのアスカ?」
「ほっときな。どうせ明日になったらケロッとしてるさ」
お風呂にも入ったし、今日は気持ちのいい一日だった。さあ、明日からの冒険に向けてもう寝なくちゃね。
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一夜明け、今日はいよいよ冒険に出る日だ。目指すは現在未踏の地、滅びた村だ。
「リュート君、こっちのも持って行って」
「良いんですか?」
「ええ。たくさん村に売ってくれたお礼よ。ウルフの皮は定期的に防寒具として必要になるけど、中々手に入らないのよ。在庫として取っておけば、これで今年の冬の分は確保できたわ」
「では遠慮なく」
「リュート何してるの?」
「宿のお姉さんに、野菜とかをちょっと。これで2日はきちんとした食事ができるよ」
「ほんと?やったぁ!」
ピィ
アルナもおいしい野菜が食べられるとあって、元気いっぱいだ。
「そうだアルナ。今日から行くところは私たちも初めてだから、気を付けてね。飛び回っちゃだめだよ?」
ピィ
元気よく返事をするアルナ。ちゃんと見ておかないとね。
「こっちは準備終わったぞ~」
「今行くよ」
みんなそれぞれ準備が終わり、いよいよ村を出発する。
「いざ、滅びた村へ!」
「アスカは元気だね」
「そりゃ、数か月待ったんだもんな」
「何か見つかるといいねぇ」
それぞれの思惑を胸に進んでいくのだった。
「この辺ですか?」
「地図によると、このあたりでいいね。ここを南下しよう」
村からしばらく進んで、目印となる木を南に。これで、村へ行けるはずなんだけど…。
「道、ありませんね」
「そりゃ、何百年も使ってないんだ。形も残ってないだろうさ」
「道もこんな田舎道ならまっすぐでいいと思うんですけど、えらく曲がりくねってません?」
「エヴァーシ村を見ただろ?あの人数で木を起こして、道を整備するなんて出来ると思うかい?元々、あまり商人たちも通らなかったみたいだし」
「そんな未開の地に何があるんでしょうね~」
「未開の地に何かあればいいね」
「もぉ~、夢がないですよ」
「夢だけで飯が食えればいくらでも見るけどね」
「現地に着いたらびっくりしますよ!」
うきうき気分で進んでいく私とそれを見守るみんな。こうしてさらに進んでいく。
「敵です!」
「げっ!ガーキャットか」
「知ってんのか?」
「ネコ型の魔物で、強い力と俊敏な動きが特徴だ。リンネの体格がちょっと大きい感じか?」
「厄介だな」
「あと、狩りは待ち伏せ型だから、釣られるなよ!」
「了解!焼き払います。この辺、人はいませんから」
「は?」
私の歩みをこの程度で止めようなんて、甘いのよ!
「ファイアウォール!」
ファイアウォールを横に広げて、まっすぐ進ませる。こうすることで前方の広範囲を焼き払える。
グルルル
一足ですぐに木に飛び移るガーキャット達。確かに身軽なようだ。木の上とかバランスで言えば、ウルフたちより一枚上手だろう。
「でも、そのバランスの良さは命とりだね!」
ファイアウォールを再び木の方へと向ける。当然、ガーキャット達は次の木へ飛び移ろうとするのだが…。
「ウィンドブレイズ」
飛び移るところを狙い撃ちだ。ただし、皮が破損しにくいように弾丸状ではなく球体で放つ。まずは2体が気を失ったようだ。残るは1頭かな?
「リュート!」
「任せて!…その前に、えいやっ!」
突然、リュートが近くの草むらに槍を投げる。
グルゥ
そこには身を潜めていた、ガーキャットがいた。結構前から隠れてたんだな。私の探知でも岩か何かだと思ったのに…。
「逃がすかよっ!」
最後の1頭もジャネットさんが追撃を加えて、合計4体のガーキャットをしとめた。
「幸先が良いのかねぇ」
「良くないです。通り道に邪魔してきて」
「まぁまぁ。いいお土産と思って」
ジャネットさんとノヴァのマジックバッグに入れる。リュートのは食料も入ってるから、あんまり空きがないのだ。私?私はほらこれからたくさん入る予定だからね。結局、その後も1度襲撃があったが、無事に切り抜けた。そして、夕方になって、今日の野営地を決める。
「この辺でいいか。後ろの木をテントに当てれば、見やすいだろう。アスカ、バリアの魔石は?」
「バッチリですよ!」
「なら見張りは3交代で。順番はとりあえず、あたしが一番で次がノヴァ、最後にリュートでいいな」
「私は?」
「まあ、制作者だし休んでおきな。明日はやってもらうけどね」
「分かりました」
「何でリュートが最後なんだ?」
「いや、その方がスムーズに朝食が取れると思ってね」
「そっちですか。分かりました。ちょっと早めに用意します」
「じゃあ、まずは夕飯からだね」
「ガーキャット食べるんですか?」
「いや、肉食のやつはあんまりうまくないし、下処理が大変だから貰ったやつにしよう」
「じゃあ、リュートお願いね。火の番は任せて。2口でも3口でも対応してるよ」
「あ、うん。これは暑くなってきたから、サラダにしようとは言えないな…」
「何か言った?」
「ううん。それじゃ、水を持ってくるよ」
「ティタだす」
ティタが魔法を使って、鍋に水を入れてくれる。
「おおっ、こりゃ楽でいいや。水探すの大変なんだよ」
「ありがとう、ティタ。それじゃもうちょっとだけ入れてくれる?」
「わかった」
こうして、水舞い火踊る工程を経て、料理が完成したのだった。こうして、滅びた村を目指した一日目は終わりを告げたのだった。